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騎士団は恋が好き  作者: 葵翠
【疑惑】ユスカ
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後日談.騎士の疑惑

ユスカ視点の後日談になります。

楽しんでいただけると嬉しいです。

 豊かな緑に囲まれ、遠くなだらかな稜線が見えるその町に辿りつくと、俺は馬を下りた。

 門を潜ると記憶と変わらない町の様子に自然と口元が緩む。


「おっ?おい、ユスカか?」


 早速とばかりに久々に聞く声にふり返ると、そこには学校で共につるんだ友人の姿があった。


「久しぶりだな」


「マジかよ!」


 片手を上げれば友人が足早に駆けつけて、上から下まで俺の姿を確認した。


「っはー、本物の騎士だ。聞いちゃいたがすげぇもんだなおい」


 見習い入団の為に故郷を離れて五年、騎士服を身に纏う俺に友人は感嘆の息を漏らした。


「親父さん達に連絡してんのか?」


「いや、急だったから何もしていない」


「顔見せってわけじゃなさそうだな」


 言われて突然の指令を思い出す。

 大捕物に地方の駐在騎士が一部集結する為、一時人数の少なくなる地方へ王都の駐在騎士を派遣することになったらしい。

 俺は準騎士時代も王都勤務であり正直王都以外の駐在騎士の在り方は知らない訳であり、いい勉強になるだろうからと指名されたとのことだが、派遣先が故郷ともなれば身内に顔を見せに行けと言われているようでもあった。


「――仕事だな」


 無論顔を見せに行けとは言われなかったわけで、仕事の為であるのは変わらない。

 仕事であることだけを伝えると、それでも友人は嬉しそうに肩を叩いてきた。


「ま、仕事でも少しは家に帰れるんだろ?親父さん達が喜ぶぞ」


 それから一週間程度いることを告げて友人と別れる。

 まずは駐在所に向かい挨拶をして、それから今後一週間の予定を確認する。そうして空いた時間で実家なり友人なりに顔を出すとして。


「お疲れさまです。王都から派遣されましたユスカです」


「ああ、おつかれさま」


 駐在所にいたのは、この町で長年駐在を勤めている古参騎士だった。

 古参騎士は立ち上がると柔和な笑みを浮かべた。


「遅くなってしまったが、叙任おめでとう。よく頑張ったね」


 この町で騎士を目指す者は必ず世話になるこの古参騎士に握手を求められて、手を握り返す。


「ありがとうございます」


 故郷を離れてこれまでのことを思い返し、思わず感慨深くなる。

 そんな様子の俺の肩を古参騎士は軽く叩いた。


「これから一週間だがよろしく頼むよ」


「畏まりました」


 気を引き締め、今後の打ち合わせに入る。


「町の地理には詳しいからそのあたりは省くとして、君の勤務時間と内容は見ての通りだ」


 差し出された紙に目を通す。

 人手不足での派遣ということもあり過密なものになるのではと密かに予想していたものの、王都勤務の時とそう変わらない職務時間がそこには記されていた。


「あまり忙しくはないんですか?」


「この町は穏やかだからね。知っての通り大きな事件なんてかなり珍しいし、君に来てもらったのはどちらかというと近隣の町や村に突発的に問題があった時の緊急時に備えたものだから、そういったことが起こらない限りは、というところだね」


 言われて納得する。

 確かにこの長閑な町ではたいした事件は起こらない。大らかな性格の者が多く、基本的に小さなことには拘らないのだ。


「だから今日も特に仕事は入れていないよ。せっかくだから実家へ顔を出しておいで」


 片目をつぶってみせる古参騎士に甘えて、一週間の勤務時間を頭に入れるだけにしておく。


「では明日からよろしくお願いします」


「ああ。ゆっくり休むんだよ」


 まさかこんなに時間に余裕があるとは思っていなかった。これなら実家に寝泊まりもできるし、友人達と飲みに出かけることも一度はできそうである。

 そう思いながら駐在所を出て実家へと向かう。

 慣れ親しんだ町の大通りを進んでいけば、その通り沿いにある実家の店に目が入った。

 友人に伝えた通り急な要請だった為に親兄弟には知らせてはいなかったが、どんな反応をするか。

 楽しみだと気分を高揚させたその瞬間――


「待ちわびたぞユスカ!」


 聞きなれた声に思わず目を見張った。


「ヴィー!?」


 まさかこの町にいるはずがない。

 そう耳を疑ったのも束の間、濃紺の髪を揺らした小さな姿が俺に飛びついてきた。

 腰に軽い衝撃が走って、とりあえず習慣化している流れて軽く抱きしめる。

 間違いない、ヴィーだ。


「私の方が早く着くとは思ってもみなかったぞ」


 嬉しそうに目元を和らげるヴィーの頬を撫でつつ、この状況に疑問で埋め尽くされる。


「なんでここに」


 集約すればその一言に尽きるわけだが、その答えは腰に手を当てたヴィーによってもたらされた。


「じじ様から聞いてな。大慌てで飛んできた」


「飛んでって……」


「師匠が一度使っていたのを見たからな。これくらい造作もない」


「…………」


 胸を張るヴィーには言葉も出ない。

 が、いつまでもそのままでいるわけにもいかない。


「セス団長には許可をもらってきたのか?」


 この町へ来ることは急であったから直接ヴィーには伝えられずセス団長に伝言を頼んでいたが、容易にここへ来ることを許すとは思えない。

 ヴィーは学校もあり、この町へは往復だけで一週間かかるのだ。その道中はヴィーのような子供や女性は護衛がいなければ危険極まりないし――まさか魔法を使うとは思ってもみなかったが――魔法を使うところを見られればそれよりも危険なことになるのだ。


「ふん。じじ様なんか知らん。たった二週間の事だから耐えろと言われて腹が立って勝手に来た」


「それは駄目だろう」


 思わず声を上げるが不服そうなヴィーは頬を膨らませて訴えてきた。


「ユスカが仕事なのは分かる。私だって邪魔立てはしない。だが私からこれ以上離れるなどもっての外だ。であるならば私がユスカの元へ行くのが妥当だろう?」


「二週間で戻るって聞いたんだろ?」


 かわいい我儘に諭すように告げると、ヴィーは更に不満を訴えてきた。


「三日でも耐えがたいというのに二週間など私を狂わせる気か?!一刻も早く結婚したいというのに、婚約で我慢しているのはユスカだって知っているだろう。それとも何か、ユスカは私とは会えなくとも平気だと言いたいのか?」


「そうは言ってないが」


「――ユスカ?」


 と、ヴィーに説得を試みる俺の言葉を、有無を言わさぬ姉の声が遮った。

 顔を上げると顔を盛大に引きつらせた姉が俺を見ていた。

 ヴィーとの会話の一部始終を見られていたのかと思うとこちらもややぎこちない表情になる。


「ただいま」


 とりあえず挨拶をすれば「おかえりなさい」と反射的に返ってきたが、すぐさま視線がヴィーへと降りた。


「その子がユスカの婚約者だって言ってて、まさかと思ったんだけど……」


「あー……ああ」


 婚約したことは伝えたが、ヴィーの詳細は省いていた。態々波風を立てずとも成人した時に伝えればと。

 それがまさかこんなに早くに明るみに出るとは。

 気まずさに咳払いをひとつしてから息を吸う。ヴィーの身をそっと反転させて姉の方へと向かせると、その肩に手を置いた。


「紹介する。俺の婚約者で、ヴィーヴィだ」


 すると見る間に姉は手を振りかざした。


「こっ――んの変態!」


 手が早いのはいつもの事。難なく躱すと俺の前でヴィーが満足げに告げた。


「だから言っただろう?私は正真正銘ユスカの婚約者だ」


 だが姉はそれどころではない。


「まだ子供じゃない!弟が幼女趣味の変態だなんて!なんで騎士団に入って変態に目覚めるのよっ」


「落ち着けって。別に俺は幼女趣味じゃない。ヴィーだから婚約したんだ」


「そうだぞ。私とユスカは魂の伴侶なんだ」


「なによそれ。あり得ないわ!」


 などと姉が大声を出すものだから、気づけば周囲の視線が集まっていた。

 そう、ここは大通り。当然人は多くいるわけであり。


「……とりあえず、落ち着け。説明は中でするから」


 これ以上注目されたくはないと宥めようとするが、半狂乱に近くなった姉は勢いが止まらなかった。


「待ちなさいよ!あんたこんな小さな子に手を出すとか頭おかしいんじゃない!?」


「まだ手は出してない――」


 あまりの言い様に声を抑えながら否定しようとするが、姉の糾弾にヴィーが強く反応してしまった。


「私とユスカは純粋な愛で結ばれているんだ!私はユスカを愛しているし、ユスカも私を愛している。年齢など大したものではない!」


 声高な宣言に、周囲のざわめきが大きくなる。

 これは……


「だから二人とも落ち着けって。ちゃんと話せばわかるから」


 不味いと内心冷や汗を流しつつ二人の間に割って入ったものの――


「あいつユスカだろ。帰ってきたのか」


「つーか、幼女趣味だったのか?」


「熱愛宣言してるけど、絶対騙してるよな」


「騎士なのに犯罪者――」


 時すでに遅し。

 周囲から冷ややかな視線が送られ始めた。


「あー……」


 店の中に入ってからヴィーを紹介するんだったと遠い目になる。

 今現在王都でも幼女趣味と囁かれてはいるが、故郷で誤解されるのはまた違った居た堪れなさがある。


 だが、まぁ――


「ヴィー」


 姉に対して抗議するヴィーをそっと抱き寄せると、その耳元に言葉を落とす。


「まわりの言うことは気にするな。俺が愛してるのはヴィーなんだから、それでいいだろ?」


 途端に嬉しそうに満面の笑みになるヴィーのなんと愛らしいことか。頬を紅潮させるヴィーに自然と顔が綻ぶ。

 俺とヴィーの想いが通じ合っていれば、最終的には周囲のことなどどうでもいいのだ。

 それがたとえ翌日に俺が幼女趣味だとこの町で浸透したとしても。


「ああ!私もだ。絶対にユスカに見合う淑女になってやるからな!」


「楽しみにしてるからな」


 そうして俺達は微笑みあうのだった。

読んでいただきありがとうございます。

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