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騎士団は恋が好き  作者: 葵翠
【疑惑】ユスカ
74/79

仮初の恋人

楽しんでいただければと思います。

前半ユスカ視点、後半ヴィー視点となります。

 で、結局どうなったかというと、俺はロヴィーサさんの申し出を必死に固辞した。

 偽装は良くないし、それに何よりロヴィーサさんの負担は相当なものになると考えたからである。確かに関係は良好、というか既に友人関係のようなものになってはいるものの、流石にな。

 それからの二、三日ロヴィーサさんは不服そうにしていたものの、今はそれもなくなっている。

 本当は協力を申し出てもらっている身でありながら断るのも心苦しくはあったんだが、仕方がない。


「ではお先に失礼します」


「おつかれさまでした。さて、私は本部に出るとしましょう」


 そうして今日も一日仕事を終えた俺はこれから本部での勤務予定のトゥーレさんと共に詰所を出る。

 途端に冷たい風が頬を打って苦笑する。


「そろそろ肌寒い季節になって来ましたね」


「そうですね。山の都を担当していた時に支給されていたマントが懐かしいですね」


「地域によってはマントの支給があったんですか」


 と感心していると、背後から声がかかった。


「ユスカ、終わったか?」


 それは最近すっかり髪艶の良くなったロヴィーサさんだった。


「どうしたんですか?こんな時間に珍しい」


 夕刻、このくらいの時間は一番調合に集中できると家に籠ることが多いんだが。


「近くに買い物に出ていてな。そろそろ仕事上がりだろうからと待っていたのだ」


 そう言われてよく見れば、ロヴィーサさんの頬や鼻が少しだけ赤味を帯びていた。


「待ってたんですか?寒いじゃないですか」


「なに、たいしたことはない。それよりも――」


 と、ロヴィーサさんが足早にやって来た、と思ったらそのまま俺の腕を取りしなだれかかった。


「せっかく恋人になったというのに、いつまで他人行儀に呼ぶんだ」


「な――」


 目を見開く俺にロヴィーサさんは拗ねたように口を尖らせ上目遣いで見てきた。


「私のことはヴィーと呼べと言っているだろう?」


 何ともいじらしく可愛い。こんな態度で甘えてくる恋人がいたら堪らないだろう。

 が、これは断じて違う。

 まだ諦めていなかったどころか、まさか強硬手段に出るとは。


「ちょっ、ロヴィーサさん――」


 狼狽えつつもロヴィーサさんの言動を諌めようとした俺だったが、そっと唇に添えられた人差し指に思わず言葉が止まる。


「ヴィーだ。言ってみろ」


 煌めく金の瞳に今まで見た事もない艶を感じ取って鼓動が跳ねる。

 いつもの無邪気な言動の子供っぽさはかけらも無く、その雰囲気に飲み込まれそうになる。


「貴女はひょっとしてアークラさんですか」


 ロヴィーサさんに惹きつけられていた俺を救ったのは、トゥーレさんだった。

 ひょっとしてもなにも、定期的にロヴィーサさんの周辺を警戒調査しているわけだから知っていて当然だが、ロヴィーサさんには内密に行われているから仕方がないだろう。


「ああ。ユスカの先輩か。騎士団には世話になっている」


 ロヴィーサさんの視線がトゥーレさんへと向いて、会話も変わった事で静かに深呼吸する。

 危なかった。ロヴィーサさんの思惑に嵌るところだった。


「私達は何もしておりません。ユスカが頑張っているだけで」


「そうだな!ユスカは本当にいい奴だ。こんな奴は見たことがない」


 そんな会話に安堵を通り越し、面映ゆくなる。そこまで真正面と言ってくれるのは嬉しくも恥ずかしものである。


「まだ出会って一ヶ月ほどしか経っていないというのに、最早私にとっては無くてはならない存在になりつつあるくらいだ。……いや、既に無くてはならない存在、だな」


 と言いなおすロヴィーサさんに、ふとトゥーレさんの目が悪戯に輝いた。


「先程言っていた恋人、ということですか?」


 まさかトゥーレさんから蒸し返されるとは。

 全く予想外の事に恐れ慄き、内心で声にならない悲鳴をあげる。

 ……それが、口を挟むタイミングを遅らせた。


「ああ。先日ようやくユスカが認めてくれてな!晴れて私達は恋人となったのだ!」


 俺やトゥーレさんどころか周囲に響き渡るほどの大きな声で、ロヴィーサさんが断言した。断言してしまった。


「っ違います」


 慌てて否定するものの、既にペースはロヴィーサさんのもの。

 ロヴィーサさんは俺の腕を再度抱き込んだ。


「恥ずかしがる事はないぞ、ユスカ」


 否定したい、が周囲から集まる視線に真っ向から否定もし難い雰囲気を感じ取る。

 せめてもと鵜呑みにしていない様子が感じ取れるトゥーレさんを見ると、面白そうな目が隠しきれていない。明らかに楽しんでいるだろう。

 これはもう、あれだ。どんなに否定しても修正の効かない奴だ。


「そうでしたか。ではそんな二人に水を差すのは野暮というものですね。私は退散いたしましょう」


 完璧すぎるほどの綺麗な笑みを浮かべたトゥーレさんがそう言って背を見せた。

 ……そうなるよな。

 若干遠い目でその背を見送ると、くっつかれていた腕を引かれた。


「さぁ、一緒に帰ろう」


 そう言うロヴィーサさんを見下ろすと、一瞬金の瞳と目があった。そこに一瞬混じった不安を感じて、抗議の言葉が見る間に萎んだ。

 強硬手段をとったことに罪悪感があったとわかってしまうと、どうしようもない。むしろそこまでしても俺の為に行動してくれた事に心を打たれる。


「……本当にいいんですか?」


 嘆息して言葉を落とせば、俺の腕にかけた腕に力が入るのがわかった。


「当たり前だろう。私は、ユスカのためになりたいんだ」


 その声にすらも不安が滲んで、そんな様子にどこか愛おしさを感じる。

 俺の負けだ。

 俺はもう一度息をつくとロヴィーサさんの腕を外し、自らそれを掛け直した。


「では徹底的に好意に甘える事にします。……ありがとうございます」


 途端に弾けたように顔を上げたロヴィーサさんは驚き、そして安堵の表情を浮かべた。


「ああ!任せてくれ」


 まるで捨てられる子犬のような表情が霧散し、大輪の笑顔を咲かせるのをみて、自然と俺も口元に笑みを象るのだった。


 + + +


 それからは何かと二人で外出することが増えた。勿論恋人と周知させる為である。

 当然口調も改め、呼び方も愛称で呼ぶようになった。初めて会った時から愛称呼びでいいと言っていただけあってか、これにはヴィーは相当喜んでいた。


 そうして肝心の同性愛疑惑だが、周囲はかなり動揺している様が見て取れた。

 ヴィーと仲睦まじく腕を組み歩けば女性達は驚愕の眼差しを向け、その後の反応は様々であったが、中にはヴィーを悔しそうに見ている人すら出てきた。

 というか、そこまで俺が同性愛だと信じて疑わなかったことが非常に疑問で複雑だ。俺自身は何もしてない筈なのに何故ほぼ断定で同性愛者だと浸透していたのか。……いや、考えないでおくのが利口か。

 ともかく、少しずつ俺の疑惑が晴れているのは肌で感じるところであり、ヴィーには本当に感謝している。


 そんな、ある日。


「応援してるって言ったじゃないですか」


 デートに見せかけた、ただの薬草の仕入れの道中で、俺とヴィーの目の前に一人の女の子が立ちはだかった。

 緩く巻かれた髪にピンクとレースのふわふわな服装の女の子は以前見たことがある。……俺の同性愛を疑わないどころか応援していると言っていたうちの一人だ。

 その人は責めるような目で俺を見上げていた。


「確かにユスカ騎士の恋愛成就は難しいと思います。でも、だからと言って簡単に諦めるなんて許せません」


 勝手に思い込んで応援していると言っているのは彼女であって、俺が責められる筋合いはないだろう。とは思うものの、騎士として印象を悪くしてしまうのもよろしくなく、どうしたものかと内心遠い目で思案する。


「ユスカ、こいつは何なんだ?」


 と、そんな俺の袖を引いたのはヴィーだ。ヴィーは眉を顰めて女性を見ている。


「あー……俺のことを応援してるって以前に声をかけてきてくれた女性だ」


 何と答えていいものか考えあぐねて、同性愛については伏せて説明をする。

 そうして困ったような表情を浮かべて女の子に向き直る。


「以前は応援してくださっていると声をかけていただきありがとうございました。私は騎士として応援をしてくださっているものと思っておりましたが、何か誤解があったでしょうか?」


 当たり障りなく言葉を選んで尋ねる。

 確かこの女の子ははっきりと同性愛を応援していると言っていたわけではないから、これで躱すことができるだろうか。


「えっ、えっと、わたしは、その」


 女の子は虚をつかれたように動揺し、目を泳がせた。

 その隙を見逃さず、文句のつけようがないほどの笑顔で告げる。


「いつもありがとうございます。騎士の名に恥じぬよう、これからも精進して参りますので応援よろしくお願い致します」


 そうして状況が飲み込めていないヴィーの肩を抱き寄せる。


「では本日は休日の為、これで失礼いたします。――これ以上彼女を待たせると機嫌を損ねてしまいますので」


 そう言って優しい眼差しをヴィーに向け、歩きだす。


「いいのか?」


 女の子の横を通り過ぎて数歩、大人しく従っていたヴィーが困惑しつつ俺に問いかけてきた。

 まだ距離が近いことから声を落として返答する。


「ああ。彼女は同性愛の信奉者というか、そんな感じの人だから関わらない方がいい」


「っ、ユスカを苦しめる元凶か!」


 途端にヴィーは振り返って女の子を睨みつけた。


「ちょっ、ヴィー、落ち着けって」


 無理矢理に前を向き直させるが、ヴィーの敵意をありありと感じる。

 もう少し離れてからの方がよかったようだ。


「大丈夫だ。今の俺にはヴィーがいるんだから。ヴィーが恋人として横に立ってくれてるんだから、放っておけばいい」


「だが、嫌な思いをされたのに仕返しもなしだなんて腹の虫が治まらない」


「過激なことを言うな。やったらやり返すのは子供のすることだ」


 これがトゥーレさんであればそうと悟らせずに裏で徹底的に叩きのめすんだろうが、俺はそういうタイプではない。裏でも表でも、やり返すのは性に合わない。どうしてもというのであれば正面から堂々と諫めるだけだ。


「っくそ、どうしてユスカはそう優しいんだ」


 それでも怒りを鎮めることのないヴィーに逆に愛おしさのようなものが生まれて、その頭を撫でる。


「ヴィーが怒ってくれるなら、俺はそれで満足だ」


 ありがとう、と零せば途端にヴィーは大人しくなった。


「……それはなんというか、ずるくないか?」


 拗ねたような、照れたような、そんな表情で上目遣いに見られて鼓動が跳ねる。

 ヴィーと一緒にいると時折あるそれは、だいたいが薬の調合をしている時ではあったが、それ以外での回数が徐々に増している。

 そんな自分自身から目を逸らすように、怒りを継続させるヴィーにある店を指し示した。


「ずるくないだろ。そういやヴィーはうさぎが好きだっただろ。あそこの店は愛玩用のうさぎと鳥の店だが、帰りに寄るか?」


「そんなものがあるのか!?」


 と、ヴィーはすぐに女の子から店へと意識がすり変わったようだ。


「ああ、兎は美味いが毛が柔らかくて気持ちいいのだ。王都に来てからというもの、触っていないからな。絶対に行くぞ」


 満面の笑みで手をわきわきとさせるヴィーに俺も思わず癒される。

 ヴィーと一緒にいるとすぐに幸福な気分になれるのだから、俺も案外単純なのかもしれない。


 無防備で素直で表情豊かな同居人。

 真剣な表情で調合にあたる神秘的な魔女。

 少し色っぽくもあり、可愛くもある仕草の恋人。


 どの姿のヴィーにも惹かれ、同時にその隣にいることが嬉しい。

 先程の女の子の事などすっかり押しやって上機嫌なヴィーを見て、一人密かに自問する。


 ――この感情は、親友としてか?それとも恋人として?

 既に護衛対象の枠を飛び抜けているのは分かっているが、この感情は……?


 * * *


 ユスカは大変にいい人である。

 騎士として、私の守り役としてやってきたユスカだが、状況伺いだけではなく私の足りていない生活面でも大いに手を差し伸べてくれたのだ。

 これまで師匠と二人で暮らし、家事やら何やらはその多くを師匠がしてくれていた私はほとんどの家事について何も知らず、一人で生活するにはいろいろと知識が足りていなかった。

 そんな私が思い悩むような問題点から、さほど重要ではないが気になる点まで一つ一つ丁寧に教えてくれるのは、騎士だからではないだろう。

 なんといって料理で生活基盤すらも吹っ飛ばしてしまった私を自宅に招き入れてくれるあたり、完全に仕事の範囲外だ。

 きっとユスカは優しくて、困っている者を見て見ぬ振りはできないのだ。


 そんなユスカの傍は大変に居心地がよかった。

 驚き、戸惑い、絶句することもあったが、それでもユスカは私が何かをできるようになると褒めてくれて、上手くいかなければ助言し応援してくれて、そうして頭を撫でてくれる。それがまたくすぐったくて、でも嬉しくて、幸せな気分に満ち足りた。

 ユスカが笑うと嬉しくて、もっといろんなことをしてやりたいと思うし、もっといろんなことができるようになりたいとも思った。

 早く金を稼いで再び一人立ちをしてユスカの為に何かをしたいと、そう思っていた矢先のことだった。


 ――ユスカは男色なのか?


 ――……違います。


 ユスカは自分に掛けられた男色の噂について非常に不愉快で嫌悪感を催しており、けれども払拭することもできずにいたのだ。

 それを聞いた時のユスカのあの表情は、胸を切られるほどの思いだった。

 あんな表情はしてほしくない。ユスカには笑ってほしいという気持ちがすぐさま駆け巡り、噂を収める協力を申し出た。

 その時のユスカが少しだけ泣きそうで、こんな噂を流している奴を許さないと、なんとしてでも噂を払ってやるのだと心に誓った。

 ユスカが断った偽恋人役を強引に推し進めて演じる時も、ひょっとしたらユスカに嫌われるかもしれないと不安に思ったが、それでもこなした。

 ユスカに役に立ちたかったから。

 私と同じように、ユスカに幸せでいてほしかったから。


 だから。


「あなた、ヴィーさんだっけ?ちょっと話があるんだけど」


 険悪に私を睨みつける数人の女に取り囲まれても、私は動じなかった。


「ユスカ騎士を振りまわすのは止めてちょうだい」


「そうよ。ユスカ騎士は崇高な心を持っているのよ。女のあんたなんか出る幕じゃないのよ」


「ユスカ騎士が優しいのをいいことに強引に迫って、迷惑してるのよ」


 口々に言う女達に、ふつふつと怒りが沸いてくる。

 こいつらがユスカを悲しませる元凶か。


「ほう、ユスカが私を迷惑に思っているというのか?」


 腕を組み、ゆっくりと全員をねめつける。

 数など大した差ではない。私は怒っているのだ。


「冗談にしては笑えないな?」


 本当に笑えない。

 こいつらはなにをもってしてユスカが男色だと言っているんだ?

 ユスカがそれにどんな思いを抱えているか知ってるのか?


「冗談なわけないでしょう。この前のあなた、どう見たってユスカ騎士を振り回してたじゃない。わたし、ずっと見てたのよ。わたしを睨むあなたを宥めすかしてるユスカ騎士のこと!」


 確かに宥められてはいた。だがその内容はコイツらにある。コイツらに一泡吹かせてやりたい私を被害者であるユスカが押し留めていたのだ。

 それをまさかそんな風に捉えるとは。

 呆れていると、女どもは再び勢いを増した。


「だいたい、ユスカ騎士はトゥーレ様の事が好きだったのよ!あんたなんかお呼びじゃないのよ!」


「そうよ、恋敵に敗れてしまったけど、ユスカ騎士は新たな男性との恋をするべきなのよ」


 新たな男と恋をするべき。

 その言葉に私の怒りは弾け飛んだ。


「っ黙れ馬鹿者ども!」


 次々と責め立てる女達を一喝する。

 腹から出た声は怜悧な刃物となって広がり、女達はびくりと身体を震わせた。


「お前達はなにをもってしてユスカが男色だと断定している?ユスカがそう言ったのか?ユスカが男に迫っているところでも見たのか!?」


 そんなこと、あるわけがない。

 身の内に籠る怒りがうねりとなって全身に力を送る。


「ユスカは断じて男色などではない!ユスカはっ、ユスカはっ、周りから男色と言われて苦しんでるんだぞ!?」


 その叫びにも似た訴えに女達は目を見開き、私は女達に睨みを利かせ怒涛のように告げる。


「ユスカは根も葉もない噂に不快になりながらも耐えている。それなのにどうしてお前達は男色だなんだと断定する?どうやったらそんな目で見れるんだ。ユスカにはあんなにも辛そうなのに!」


 本当はもっともっと抗議して痛め付けてやりたい。だがユスカは望まないらしい。だからこそ、これ以上は駄目だと呼吸を整え我慢する。

 ぎゅと手を握りしめて見回すと女達はそれぞれに顔を見合わせたり、動揺しているようだった。


「これ以上ユスカを苦しめるのは、許さないからな」


 捨て台詞を吐いて、歩き出す。

 どうしてあんな女達がいるんだ、と憤りも露わに乱暴な足取りで鼻息荒く進むと、ふと物陰からに口の端をあげた子供を見つけた。


「やるじゃんヴィー。格好良かったぜ?」


「――カーポか」


 子供は足早に近づくと私に並んで歩調を合わせた。


「順調かと思ったけど、あんな変な文句つけてくる勘違いな奴もいるんだな」


「ああ。そのようだ」


 カーポは先月私が薬を調合し飲ませた子供だ。

 巷で不治の病を患っていると聞いて居ても立ってもいられなくなったのだ。

 だって十歳だぞ?そんなの、救わないわけにはいかないだろう。

 容態が快方に向かった後も私はこっそりと様子を見てはいたんだが、両親はともかくカーポ自身には見つかってしまい、それ以後はなにかと会って話をするような友達の関係にある。


「めんどくせーなぁ。女と付き合いました。男色じゃありませんでした、でいーだろ」


「なぜ男色に固執するんだろうな」


 ちなみに私がユスカの恋人役になる事を断られ、他にいい案が思いつかずに唸っているところを強引にやっちまえと知恵を貸してくれたのもカーポだ。

 他にも色気がないからその辺りも勉強しろと言われて、指導してくれたりもした。


「さぁ?けど世の中には男色にときめく女ってのも案外多いらしーからな」


「男色にときめく?意味がわからん」


 男同士が睦み合って何がいいんだ?

 まぁそれを言うと男女間でもいまいち分かってなかったりもするが、少なくとも子が生まれるあたり生産性はあるだろう。


「けど一回出てきたってことは、まだまだああいう奴らは出てくるぞ」


「なんだと?まだいると言うのか」


 信じられない気持ちでカーポを見下ろす。

 あんな訳のわからない妄想で迷惑をかける奴らが他にもいるのか。


「ネズミみたいなもんだろ?一人いたら何十人もいると思ったほうがいい。ほっといたらそいつらのせいで男色が再燃しちまうかもだぜ」


「そんな!どうしたらいい!?」


 そんな事になっては恋人役の意味がない。

 愕然としてカーポを見下ろせば、カーポは鼻の下を擦っていた。


「そうだなぁ」


「恋人役としてはもう現状維持ってくらいだろう?別の手立てを打たなければいけないんじゃないか?」


 大半の人はおそらく男色に対して修正がかかっただろう。

 だが先ほどのような輩は、このままでは修正もできずにいるだろう。

 焦りながらもう一度カーポを見る。


「んー……ネズミの駆除っていや、集まりそうなとこに罠を仕掛けて一網打尽とかか?」


「それは具体的にどうするんだ?」


 尋ねればカーポは指折り教えてくれた。


「ネズミの通り道にすっげー強い接着剤ぶちまけてくっつけて動けなくする。天敵の猫を放つ」


 接着剤は嫌がらせにしかならないだろう。

 天敵というのは、一体なんなのかわからん。

 腕を組んで首をかしげると、カーポは更に告げた。


「あとあれだな。餌場に毒餌を混ぜて食わせて殺す」


「……人を殺してはいけないだろう」


「まーな」


 思わずツッコミを入れるとカーポは頭の後ろで腕を組んだ。


「ま、殺すのはともかくとして、集めて叩くのはいけんじゃね?さっきのやつらも集団だっただろ?」


「ふむ。確かに。奴らの集まりそうなところへ乗り込んで、迷惑だとぶち撒ければいいのか」


「そ。ユスカは男色に傷ついてる。お前らは加害者だって暴れてやれば?」


「そうだな」


 一人ずつなら草臥れるが、集まったところに突撃をかければ手間が省けるだろう。

 問題は奴らが何処に巣を作っているかということか。


「男色好きの女のいそうな場所か」


 正直当てはない。どう探したものかと呟くと、カーポが口の端を上げた。


「オレが探してやるよ」


「本当か?」


「任せとけって。病気で寝込む前は色んなことしてたんだぜ?鈍っちまった分取り戻すにゃちょうどいいぜ」


 そう言ってカーポは片腕をぐるぐると回した。


「大丈夫なのか?」


 念の為に尋ねればカーポは鼻で笑った。


「危険なことはなんもねぇんだし、伊達にガキ大将やってねぇぜ」


 時折思うが、カーポは本当に十歳なんだろうか。なんとも頼りになる男である。

 感心の息を漏らし、それから私は申し出る。


「この件が落ち着いたら礼をさせてくれ。私にできることはあまりないが、それでも――」


「よせよヴィー。命の恩人だろ?」


「あれは私がやりたかったからで」


「だったらオレもだ。ダチの手助けするのは当然だろ?」


 得意げに胸を張るカーポに胸を打たれる。


「カーポはいい男だな。将来モテるに違いない」


「なっ、ばっ、バカ言え」


 本気で言ったが、カーポは咄嗟に反対を向いた。どうやらお気に召さなかったらしい。

 やや肩を落とすと、気を取り直したらしいカーポが荒い口調で言い放った。


「とにかく、数日待ってろ。腐女子の住処を洗いざらい特定してやる」


「ありがとう、助かる」


「おう」


 そうして駆け出すカーポを見送る。

 大人とは似ても似つかない小さな背丈の子供だが、しっかりとしている姿に私も見習わなければ、と身を振り返る。

 早く一人前になり、自らの足で立たなければ。

 せめてユスカに支えられずとも生活できるようにならなければ。


「よしっ、頑張るぞ」


 小さく気合いを入れた私は、数日後カーポがもたらした情報を元にいくつかの場所へと乗り込むのだった。

読んでいただきありがとうございます。

偽恋人……クルトとかぶってるなぁと思いつつ、です。

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