フェリクスとカティ〜誕生~
いま書いている新騎士が思うように進まず、現実逃避の小話です。
楽しんでいただけると嬉しいです。
※2019.2.7サブタイトル修正しました。
「どうしよ……落ち着かない」
遠くの部屋から聞こえる呻き声に、俺は渋面になって呟いた。
すごく辛そうだけど大丈夫かな。
「貴方、ずっとうろうろして熊みたいよ?少しはじっとしてたら?」
ゆったりとソファに座って呆れ顔をしているのはマリカだ。
そんなマリカに俺は訴えるように目を向けた。
「だってずっと呻いてるんだよ?落ち着けるわけないだろ」
マリカには聞こえてないのかもしれないけど、獣人の血が流れている俺の耳にはカティの苦しげな声が聞こえているのだ。
いつも穏やかでにこにこしているカティがあんなに辛そうに声を上げてるなんて、代われるものなら代わりたい……!
身が震えるほどに悶えていると、「あと少しよ」という言葉を拾った。
「あっ、あと少しって!産まれる!産まれるかも!俺行ってく――」
「待ちなさい!」
「ふぎゃっ」
駆け出そうとした瞬間に尻尾を思い切り掴まれた。
身の毛が逆立つ中で憤然とマリカが立ち上がる。
「まだでしょ?途中で乱入なんか許さないわよ」
「っでももうすぐ」
「近くで騒がれたら産まれるものも産まれないわよ!」
一喝されて少ししょんぼりする。
こういう時、女の人は強いなと思う。俺なんか落ち着かなくて、もうどうしていいか。
マリカに睨みつけられて肩を落としていると、カティの悲鳴のような声が上がる。
そして――
「産まれた!」
新しい命の産声に今度こそ駆け出……せなかった。
「マリカ!」
首根っこを掴まれて俺は非難の目を向けた。
だけどマリカはこちらを睨み返してくる。
「まだよ。まだ準備ってもんがあるんだから」
「なんだよ準備って!産まれたんだからいいじゃないか!」
「あのね、血や羊水だらけの状態をカティが見られたいと思う?ちゃんと呼ばれるまで待ってなさい!」
反論を許さない凄味にぐうの音もでない。
でもそうこうしている間に遠くの部屋は慌ただしくなっているのが聞こえる。
いろいろな物音とか水音がして、その中でも「まぁ!」「かわいい」なんて声も聞こえてきて、「フェリクス君そっくり」なんてカティの声まで届いて、もう、もう――
「っ無理!」
「あっ」
マリカの手から離れた俺は一目散にカティのいる部屋へと駆け出した。
早く、早くカティと子供に会いたい――
「カティっ」
勢いよくドアを開けて、勢いよくベッドに駆け寄る。
「フェリクス君」
ベッドにはカティが横になっていて、そのはだけた胸元に小さな何かが張り付いていた。
いや、赤ちゃんだって分かる。
分かるんだけど、このまだら模様って……!
「まだ整ってませんのに」
という産婆さんの非難も構わず近寄ると、カティが赤ちゃんを抱っこして見せてくれた。
「男の子だよ。まだ、準備が終わってなくて裸ん坊なんだけど……」
「尻尾、尻尾がついてる」
「うん。フェリクス君とおんなじ尻尾だね」
「え、待って。耳、耳も……」
「うん。三角で金色と茶色だね」
愛おしそうにカティが赤ちゃんを見つめる。
と、そこで産婆さんがゆっくりと赤ちゃんを取り上げて優しく体を拭いていく。
「小さいのに動いてる」
尻尾と耳に気を取られていたけど、よく見らば手も足も、指だってうにゃうにゃと動いてて。
「不思議だよね。あんなに小さいのにちゃんと動いて、大きな声で泣くんだよ」
「すごい。どうしよ。俺……俺……っありがとう、カティ!」
カティの空いた手を握りしめて、涙が出そうになる。
そんな俺にカティも目が赤くなって、すごく幸せそうに頷いた。
そうしてゆっくりとカティを抱きしめて幸せを噛みしめる。
大好きな奥さんがいて、可愛い子供が生まれて。
もうこれ以上の幸せはないだろうってくらいに心が満たされる。
「お待たせしました」
と、産婆さんから声を掛けられて振り向くと、赤ちゃんは産着を着せられ、身綺麗に整えられていた。
「どうぞ」
そう言って赤ちゃんを渡されて、腕の中に抱える。軽すぎる赤ちゃんに驚きながら顔を覗き込んで――
「っ!」
その瞳にカティの色を見つけた瞬間、全身の血が駆け巡る気がした。
ぞわぞわとした感覚が全身に広がり、目を見開く。
「……フェリクス、貴方」
いつの間に来ていたらしいマリカが呆然とした声をだした。
「え、なに?」
どうしたんだろうと振り向くと、マリカは固まったまま視線を俺の頭の上に向けていた。
困惑してカティの方を向くと、カティも目を丸くさせていた。やっぱり目線は俺の頭の上で。
「え?え?」
わけがわからなくて辺りを見回すと、やがてカティが笑い出した。
「フェリクス君、もっとそっくりになったね」
くすくすと楽しそうなカティに、マリカもまた一人取り残された俺と赤ちゃんを見て声を上げて笑った。
「本当、正真正銘の親子ね」
そう言ってマリカは壁際に置かれた鏡台の布を取り払った。
何をするんだろう、と思っていた俺の目に映ったのは大きな三角耳で。
「ぅえ!?生えてる!」
思わず赤ちゃんを抱っこしたまま鏡台に駆け寄ってまじまじと自分を見つめる。
見慣れた顔、金と茶のまだら模様の髪。その上に。
「……うん、生えてる」
赤ちゃんと同じ色と形のふさふさな三角耳があった。
よく見ればどこがどうなったのか、もともと耳のあった場所には何もない。
さっきのあの総毛立つ感覚。きっとあの時生えたんだろう。
でもって生えるきっかけになったのは……
「へへっ。ほんと、そっくり」
腕の中の赤ちゃんと鏡に映る俺とを見比べてこそばゆい感じになる。
「俺が父ちゃんだぞ」
にこにこしているカティの見守る中で、俺はこの小さな宝物をちょっとだけ力を込めて抱きしめるのだった。
読んでいただきありがとうございます。
新騎士投稿までに暫く現実逃避するかもしれません…




