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騎士団は恋が好き  作者: 葵翠
【小話】
66/79

ヒルダとスティーナ~初対面~

 楽しんでいただけると嬉しいです。

 割り込み連絡ではありませんが小話更新です。

 山の都の駐在期間が過ぎたルーカスと共に王都にやってきたのは結婚三年目のこと。

 旅慣れないどころか初めて山の都を降りるわたしを気遣って一ヶ月の道のりを一ヶ月半かけてくれたルーカスはとにかく顔が広く、騎士の中でも非常に優秀な人なんだと知った。

 街で会う人々に相談を持ちかけられ、騎士達には請われて指示を出すことも多く、その精悍な姿にまぁ……惚れ直したりもした。

 そうして辿りついた王都で――まず最初に大切なことが待っていた。


「初めまして、ヒルダです」


「スティーナです」


 そう、ルーカスの家族への挨拶である。ここはきちんとしなければ。

 だけどやってきたルーカスの実家にはお義母様はいなくて、妹さんも淡々とした反応だった。


「母さんはしばらく遊びに出て帰ってこないので、そのうち紹介します」


「は、はい」


 歓迎はされないかもしれないとは思っていた。だって三年間もルーカスを引き離したんだもの。だけどお義母さんはいなくて妹さんも素っ気なくてとなると、自然と畏まってしまう。


「そんな硬くなんなくていいぞ。うちの家は自由だから」


 ルーカスは大丈夫だとばかりに肩を叩いてくれるけど、妹さんにこの三年間のことを謝ろうと姿勢を正しんだけど――


「兄ちゃん仕事は?」


 わたしが口を開くより先に妹さんがルーカスにそう言った。


「あん?」


 言われたルーカスがソファに全身を預けてもたれたまま聞き返すと、妹さんは遠慮のかけらもないほどにはっきりと言った。


「仕事。帰還報告あるでしょ」


「明日でいいだろ」


 妹さんの質問に欠伸を噛み殺しながらルーカスが答える。

 仕事。帰還報告。

 それはすぐに行かないといけないもの、ってこと、よね?


「ダメ。クルトから言われてるから行ってきて」


「つったってオレいま広報部だし、クルトは関係ないだろ」


 クルトというのは妹さんの旦那さんで、話によるとルーカスにとっては情報部の後輩騎士らしい。

 今は所属が違うと言うルーカスに、妹さんは腰に手を当てた。


「広報部の騎士長もセス団長からも当日中に帰還報告にくるようにって言われたみたいよ」


「えー……けど久々の我が家だぜ?ゆっくりしたいだろ」


「どうせ明日からしばらく休みでしょ」


 あくまで淡々とした妹さんは、ひょっとしたらわたしを嫌ってるのではなくこういう性格なんだろうか。あまりルーカスに似てないけど……。


「んなこと言ったって、帰還報告なんか行ったら日付が変わるまで帰ってこれねえだろ。せっかくのヒルダの飯を食いっぱぐれるなんて絶対にしたくねえぞ」


 と、いきなりわたしの名前が出てきて目を丸くする。


「ずっと食ってねえんだぞ?」


 なんていわれてこれまでを思い出す。

 来る日も来る日も移動ばかりで寝るのも当然宿な訳で、ご飯なんて作れるような状況はなかった。


「まさか旅慣れない女の人に一日の休憩もないままご飯作らせようっての?」


 求めてくれることに喜びを感じていると、反面妹さんは呆れた表情になった。

 その言葉にはっとしたルーカスは途端にわたしを振り返った。


「ダメか?」


 その目があんまりにも縋るように訴えてくるもので、思わず小さく吹き出す。

 ちょっと可愛いなんて思ってしまうのは、頼りない弟達がいる姉のなせる技だろうか。


「ご飯なんていつでもつくるわよ」


 言えば途端に満面の笑みになるルーカスだったけど、わたしは人差し指を立てた。


「でも仕事はしないと」


 今まで仕事を放棄する姿なんて一度も見たことがないから、よっぽど家に帰ってきたことが嬉しいんだろうと思うと忍びないけど、仕事は仕事だものね。

 そういうと、ルーカスは見る間に悲壮感を漂わせた。


「いや、ちょっと兄ちゃん落ち込みすぎ」


 あまりの豹変ぶりに妹さんがやや引いている。

 わたしもここまでとは思ってなくてびっくりしているんだけど。


「仕方ない。夕飯の差し入れ持ってくから仕事行くってのは?」


 妹さんは一つ息をつくとそう提案した。

 夕飯の差し入れ?


「どうせクルトも一緒になって帰ってこないんだろうし、二人で弁当作ってあとで持ってく」


「全部ヒルダのがいい」


 力強く即答されて、つい反射的に頷く。


「ルーカスが食べたいなら、もちろんいいわよ」


 それでルーカスが仕事をして、喜んでご飯を食べられるならいくらでも作る。


「わかった。行ってくる」


 と、途端にキリッとした表情でルーカスは立ち上がった。


「ヒルダの飯があればいくらでも頑張れるぜ」


 なんて言って、妹さんが更に呆れているのがわかった。


「んじゃ行ってらっしゃい。クルトにも弁当のこと伝えておいて」


「おう」


 そうしてルーカスはあっという間に騎士団本部へと向かった。

 そんなルーカスを玄関まで見送って、そこではたと気付く。

 話の流れでついここまで来てしまったけど、名前を名乗っただけで挨拶をこなしていない。

 これじゃあいけないと隣に並ぶヒルダさんに向き直ったその時、


「ヒルダさん」


 またしても先に口を開いたのは妹さんだった。


「はい」


 どことなくルーカスの鋭い視線を彷彿とさせて身構えている中で、妹さんはゆっくりと頭を下げた。


「――兄ちゃんのこと、よろしくお願いします」


「え……?」


 思いもよらない言葉と行動に思わず口が開いたままになってしまって、ただ妹さんを見つめる。


「兄ちゃんはずっと、わたしと母さんを支えてくれました。騎士になったのもわたし達の為です。すごく辛いこともたくさんあって、それでも兄ちゃんはずっと平気なふりして過ごしてきました」


 ゆっくりと顔を上げる妹さんは、更に続けた。


「ずっとわたし達の為だけに頑張ってくれていました。そんな兄ちゃんがようやく、好きな人を見つけて、安らげる場所を手に入れました」


「そんな。むしろわたしの方が守ってもらっていて」


 ルーカスと一緒にいる時はいつだって力が抜けて、寄りかかってしまっているのだ。

 否定するわたしに妹さんは首を振った。


「あんな兄ちゃんの顔初めて見ました。兄ちゃんは間違いなくヒルダさんに寄り添っています。だから――兄ちゃんのこと、これからよろしくお願いします」


 その目にあるのは安心と、切実な願い。

 ルーカスは簡単そうに全てをやってのける。時には心配することもあるけど、そんな心配は不要だとばかりに笑い飛ばして、辛い姿なんかまるで見せないのはこの三年近くでわたしもよく分かっている。

 だからこそ、妹さんの思いはすごく伝わってきた。


「はい。お願いされました。わたしがルーカスの安らげる場所であるかはわからないけど、そうであるようにがんばります。――三年もの間、引き離してしまってすみません」


「いえ、私にはクルトがいるので。兄ちゃんが幸せなら、どこにいたっていいんです」


 そう言って妹さんはわたしの手を握った。


「兄ちゃんの手を取ってくれて、ありがとうございます」


 嬉し泣きのような表情に、ルーカスと同じ家族思いな子なんだと心が温かくなる。

 自然と妹さんの手を握り返して微笑んだ。


「ルーカスがわたしを見つけてくれたの。お礼を言いたいのはわたしの方だわ。三年間、ありがとう」


「ヒルダさん……」


 ルーカスのおかげで、わたしは力を抜いて頼ることを知った。

 ルーカスのおかげで弟達は立派になった。

 弟達はみんな上手くやっている。三人で力を合わせて、遠くない未来のお嫁さんにも支えてもらって。

 三人で飲んだくれた時には叱りつけて、そのあと泣いて、そして笑ってしまったけど。

 そうやって、みんな新しい家族を作っていくんだ。

 わたしも。


「これからよろしくね――スティーナ」


 家族思いの優しい義妹をそっと抱き寄せると、スティーナは抵抗することなくそこに収まった。それどころか、


「こちらこそ、兄ちゃん共々よろしくお願いします――義姉さん」


 そう言ってはにかんで抱きしめ返してくれて、その表情がなんとも言えずに可愛らしくて、思わずぎゅっと腕に力が入るのだった。

 読んでいただきありがとうございます。

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