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騎士団は恋が好き  作者: 葵翠
【小話】
63/79

オスクとレニタ〜記念日〜

 割り込み更新連絡です。

 トゥーレ編の『幕間.幼馴染みの憂鬱』後に『駆け引き』の割り込み更新を行いました。

「お母様、その花好きだよね」


 鼻歌交じりに花を活けるわたしに、娘がなんとなしに言った。

 じっとわたしの手元にあるラナンキュラスを見る娘に思わず微笑む。


「ええ。大好きよ」


 すると同じ部屋にいたオスクが喜ぶ気配がして、更に笑みを深くする。

 今日のこの日。毎年オスクはラナンキュラスを贈ってくれる。毎年色味だけ変えてくれるそれは今年は懐かしくもピンク色を主にしたものだった。

 花瓶に挿して形を整え、それから一輪だけ手にとって髪に編み込む。


「似合う?」


「わぁ、可愛い!わたしも、わたしもっ」


 娘は大はしゃぎで、声どころか椅子に座って下ろしている足も弾ませた。

 オスクと同じ赤銅色の髪をした娘には白を選んであげて、まだそれほど長くはないその髪に落ちないように挿しこむ。


「どう、どう!?可愛い!?」


 頰を紅潮させて娘がオスクに振り向いて、オスクは仕事には全く考えられないような優しい表情で頷いた。


「よく似合っている」


 その言葉に娘は更に嬉しくなって嬌声をあげるのを夫婦二人で温かく見つめる。


 オスクと結婚して、この子が生まれて五年。

 あっという間に過ぎた年月は、だけどいつも穏やかで優しげで、常にわたしの心を満たしてくれていた。

 きっとオスクも仕事は大変な時期があったかもしれないけど、少なくとも家庭においてはわたしと娘をゆったりと見守ってくれていた。


「ねぇ、なんでこの花が好きなの?」


 これまでのことを思い出していると、娘がそう聞いてきた。

 そんな娘の目線の高さに屈むとわたしはそっと編み込んだラナンキュラスに触れた。


「この花はね、お父様が一番最初にわたしにくれた花なのよ」


 ものすごく落ち込んでいた私の髪に挿してくれたことは、絶対に忘れられない。

 あの時のさりげないオスクの行動と、そのあと鏡に映ったびっくりしながらも嬉しそうに笑う自分の姿は一番大切な記憶だった。


「そっか!だから大好きなんだねっ」


「ええ」


 懐かしいわね、とオスクに視線を向けると、その先で驚いた表情に行きあたった。


「……どうかしたの?」


 小さく首をかしげるとオスクは少しだけ視線をそらせた。


「いや、レニタがこの花を好んでいるのは知っていたが、それが理由だったとは思いもしなかった」


 それだけならきっと視線をそらすことはないのはなんとなく察していて、ちょっとだけオスクを見つめてから推測させてみる。


「ひょっとして最初に贈ってくれたのがこの花だって、覚えてなかった、とか?」


 するとオスクの眉間にシワがよって、それから深くため息をついて白状した。


「――ああ」


 その様子に思わず吐息で笑った。


「そうだと思ったわ」


 第一にオスクは綺麗に咲いている花を選んでくれただけで、ほとんど花の名前なんて知らなかったものね。


「すまない」


 居心地悪くいうオスクにもう一度笑みを向けると、わたしはそっと台所へと向かった。

 作っていたイチゴタルトがいい感じに冷えたのを確認して、三人分切り分けて戻る。


「今日は自信作よ」


 するとオスクは娘の隣に腰を下ろした。その目はこれ以上ないほどに嬉しそうにしている。


「これ、お父様の大こうぶつ!」


「そうだな」


 しっかりと頷くオスクだけど、そんなオスクに実はここ数年疑問があった。

 外ではにかを食べる時のほとんどがチョコに関係するものばかりで見向きもしないイチゴタルト。なのにどうしてか家では一番好きで。


「ねぇ、なんでこのお菓子が好きなの?」


 と、わたしに聞いたように今度はオスクへと娘が尋ねた。

 カトラリーとお茶を用意しながら、わたしも興味津々でその答えを待った。


「母様が初めて父様の為に作ってくれた菓子だからだ」


 言われてつい手を止めて瞬きする。

 ……そうだったかしら。

 お義姉さんのところで教えてもらって作ったのがクッキーだっていうのは覚えてるけど、その後王都に来てから初めて作ったものが何だったか思い出せない。

 なんとか記憶を手繰るものの出てこないわたしに今度はオスクが意外そうに尋ねた。


「覚えてなかったか?」


「――ええ。全然」


 素直に肯定しながら、さっきのオスクの居心地の悪さを体験してしまう。

 だけど、


「ふたりとも似たような理由で仲良しだね!」


 間に挟まれた娘の満面の笑みに、二人同時に笑ってしまった。

 お互いに初めて何かをしてもらった時のものを大好きになって。

 それでもってやった方はまるっきり忘れていて。


「そうね」


「ああ」


 そうして三人身を寄せて笑いあう。

 それは大切な大切な、結婚記念日のことだった。

 読んでいただきありがとうございます。

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