クルトと義母〜晩酌〜
加筆連絡です。
トゥーレ編の後日談『アマリアの苦悶』のタイトルを『幕間.幼馴染みの憂鬱』へ変更し全て幼馴染み視点へ、また大幅な加筆を行いました。
スティーナと結婚して、ルーカスさんも山の都へ旅立って半年。
ミエト家にも慣れてきて平穏な日々を過ごしていた、そんなある夜。
僕はふと喉に渇きを覚えて目を覚ました。
規則正しい寝息に横を見れば、起きている時よりも幾分も幼く見えるスティーナがいてつい顔が綻ぶ。
強がりで意地っ張りで、それでもって恥ずかしがりやな奥さんの本性が垣間見える気がして、そっとその頭を撫でた。
「ん……」
そんな僕の手に反応して、スティーナが自分から頭を押しつけてきて、内心悶える。本っ当に可愛いよね!?
「……くると?」
あ、まずい。
おもわず頭を撫ですぎてスティーナの意識が覚醒しかけたことに気づいて手を引っ込める。
「うん。おやすみ」
優しく囁くとスティーナは小さく笑いながらまた夢の中へと戻っていった。
また健やかな寝息をたて始めたのを確認して、そっとベッドを下りる。
音を立てないように静かに部屋を出て台所へと向かうと、ふと手前の居間から明かりがもれていた。
明かり、消し忘れかな?
消した気もするけど、と首を傾げながら居間を覗くとそこにはお義母さんの姿があった。
お酒を飲んでいるようだけどいつもの陽気な雰囲気はどこにもなく、すごく静かでしんみりしているような――
「おんや、どしたのクルト君」
と、お義母さんが僕に気づいて振り返った。口調こそいつもの様子だけど、その鳶色の目には僅かに翳りがあった。
「目が覚めてしまって、水を飲みに」
そう言って居間へと足を踏み入れて気づいた。
お義母の席にお酒の瓶とグラスがあるのはわかる。だけど、その向かいにも。
誰もいない向かいの席にもお酒の注がれたグラスが置かれていた。誰かが来ていた気配はなく、グラスに口がつけられた後もない。
となれば自然と故人ということになる。
「誰と飲んでいたんですか?」
結婚してすぐなら聞いていいものかと逡巡したかもしれない。だけど半年経った今では何でもストレートに聞かなければ大切なものを聞く機会を失ってしまうということを学んでいた。
スティーナはもちろんだけど、話に聞くルーカスさんも、そしておそらくお義母さんも、心の奥底にある本当に大事な悩みを人に打ち明けようとはしないのだ。遠慮がちにしていてはいつもの口調ではぐらかして煙に巻いてしまうから、こっちから切り込まないとダメなのだ。
「旦那だよ。今日が旦那の命日でね」
グラスを片手にお酒に口をつけるお義母さんにはのらりくらりとした口調だけど、その向かいに向ける視線は寂しげだった。
旦那――すなわちスティーナのお父さんである。
「ルーカスは騎士になって、スティーナもクルト君と結婚して。二人ともちゃんと育ったって、話してたところだよ」
ふふ、と笑うお義母さんにはどこか達成感のようなものを感じた。
「まだルーカスは結婚してないけど好きな女の元に向かったんだ、必ず結婚するだろうさ。となればようやくアタシの肩の荷が降りたってもんさ」
女手一つで二人の子供を養い続けたお義母さんは、本当にすごいと思う。
「周りからは散々再婚しろって言われてねえ。けどどうしても嫌で、全部突っぱねてやったら実家とは絶縁さ。意地になって昼も夜もがむしゃらに働いたけど――いつのまに二人とも立派になってねえ」
翳りの中に優しい光が灯って、胸が締め付けられる。
物心ついた時からばあちゃんに育ててもらっていたから、これまで母親という存在がいまいちわからなかったけど、お義母さんのそんな姿に偉大なものを感じた。
そしてそこまで深く想う気持ちに、僕は自然と足が動いた。
台所からグラスをひとつ手にとって、そしてお義母さんの斜め向かいに腰を下ろす。
「僕も混ぜてください。スティーナの夫として、お義父さんと話がしたいです」
そう言ってグラスに酒を注げば、お義母さんは一瞬目を丸くして、そうして目元を和らげた。
「ほーんと、クルト君はいい子だね。うちに来てくれてありがと」
「僕の方こそ温かく迎え入れてくださって、ありがとうございます」
そうしてグラスを合わせて口に付ける。
それは少しだけほろ苦く、だけど優しいぬくもりの一夜だった。
それがまさか、一ヶ月後にスティーナよりも若い男の子を連れ込んで「アタシの彼氏だから。ヨロシク」なんて言い出すことになるなんて、この時は露ほども思わないのだった。
読んでいただきありがとうございます。
少しだけ宣伝です。
同シリーズの騎士以外の人々を主役にした話を今月投稿始めました。初回はオスク妻のレニタの兄の話になります。
よければそちらもお読みくださればと思います。




