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騎士団は恋が好き  作者: 葵翠
【小話】
61/79

リュリュとカイヤ~ココア~

 割り込み更新連絡です。

 ルーカス編の4話目のタイトルを変更し末尾を削除、5話目に割り込み更新を行いました。

「ただいま」


 疲弊の感じる声を耳に玄関へと向かうと、声同様にくたくたになったカイヤが鞄を下ろすところだった。


「おかえり」


 声をかけて上着を脱ぐのを手伝おうとすると、カイヤがそれを手で制した。


「大丈夫。自分でやるわ」


「そう?」


「ええ。鞄もそのままにしておいて」


 疲れていながらもやるべき事は怠らないカイヤは洋服ブラシを手に取るともう一度外へ出て行ってしまった。

 ――この冬、ここ王都ではちょっとタチの悪い風邪が大流行していた。いつかの水の都の流行病ほど命に関わるものではないけど、なにせ感染力が強くお医者さん達はその対応に追われに追われ、居ても立ってもいられなくなったカイヤはボランティアで看護師としての手伝いに出ていた。

 今日はそんな、数日の泊まり込みの末の帰宅である。

 ドアの向こうのコートを払う音を聞いてそれなら――と、僕はあらかじめ考えていたものを用意しに台所へと向かった。

 すでに水の入ったやかんを火にかけて沸騰を待つ間に、茶色の粉を取り出してカップへと入れる。

 カイヤはコートを払った後、うがい手洗いをして、鞄も軽く拭いてからやってくる。

 それまでの間に、と僕は暖炉の前のソファにブランケットをかけてあれこれと動く。

 多くの人の為にと一生懸命働く素敵な奥さんには、ゆっくりしてもらわないとね。


「数日ほっといてごめんなさい」


 やがて台所に顔を出したカイヤをソファに座らせて、その膝にあっためておいたブランケットをかけてあげる。


「ううん、僕は一人でもなんとかなるから。それよりも大変だったでしょう」


 そう言って触れたカイヤの指先は予想以上に冷たい。思わずぎゅっと手を包むように握って、それから台所に目を向けた。

 そろそろお湯が沸いたかな。


「そのままゆっくりしてて」


 言わないと働き者のカイヤは絶対に台所に立ってご飯の準備をするからね。

 念を押すように肩を叩いてから台所へと向かう。

 そこでは予想通りにお湯が沸いていて、火を止めてカップへと注ぐ。

 注いだ瞬間に甘い香りが充満する。僕は飲まないけど、カイヤが大好きな飲み物。

 粉をよく混ぜとかして、最後にマシュマロを浮かべて出来上がり。


「はい」


 できたそれをカイヤへと手渡すと、疲れ切って完全にソファに身を任せていたカイヤがほんの少しだけ体勢を起こした。


「これ」


「本当におつかれさま」


 料理のできない僕でも作れるそれは、カイヤの大好きなココアだった。

 カイヤは両手でそれを受け取るとふうふうと息を吹きかけてから一口、ココアを含んだ。


「美味しい」


 カイヤには珍しい、へにゃりと力のない笑みが浮かんでこっちの心まであったかくなる。

 カイヤは昔からこれを飲むと全身の力を抜いて安らぐのだ。現にさっきまでちょっと眉間にシワがよってたんだけど、今はすっかり消えている。


「ありがとうリュリュ」


「どういたしまして」


 微笑みを返すと、そのままちまちまとココアをのむカイヤを眺める。

 猫舌なカイヤはそれでも好物のココアを飲みたくてこうやって少しずつ飲んでいくんだよね。

 いつもしっかりしてて頼りになるカイヤの、ちょっと可愛いところだ。

 水の都でも看護師としての激務の合間に飲んでは休息を入れて仕事に挑んでいたっけ。

 そんなことを思い出して、ふと気づく。

 ひょっとして僕って。


「カイヤ、ココア好きだよね」


「ええ」


「僕さ、ココアは甘くて苦手なんだけど」


「まぁ男の人はそうでしょうね」


 甘いものなんて普通食べないし、当然とばかりに頷くカイヤに言葉を続ける。


「でもココア好きかも」


「どういう意味?」


 ちらりと僕を見るカイヤはやっぱりいつもより表情がやわらかくて、それがまた僕の心を擽る。


「秘密」


 にこっと笑うとカイヤは少し面白くなさそうにしながらココアを飲んだ。

 鈍い僕は一体いつカイヤのことを好きになったんだろうって思ってた。けどここに来てようやくわかった気がした。

 いつもしっかりしてて、身体のために必要なとこであれば患者さんやお医者さんすらも叱っていたカイヤ。だけどその反面、病院の裏でココアを飲んで表情を緩ませている姿を見るのが好きだった。

 たぶん、それがきっかけだったのかもしれない。


「ね、それ一口ちょうだい?」


「別にいいけど」


 差し出されたカップに口を付けると匂い以上に甘ったるい味が広がって、少しだけ顔をしかめる。


「甘いね」


「当たり前じゃない」


 何を言ってるんだかと呆れ顔のカイヤにココアを返す。

 でも、やっぱりココアは好きかも。可愛いカイヤが見れるしね。


「コーヒー淹れてくる。ついでにご飯も買ってきてるから、用意するよ」


 休んでて、というとカイヤはふわりと微笑んだ。


「ありがとう」


「どういたしまして」


 こうして、僕は新たな発見をしつつ穏やかな夜を過ごすのだった。

 読んでいただきありがとうございます。

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