後日談.入団後のとある日
後日談になります。
楽しんでいただけると嬉しいです。
(※2018.12.3誤字修正済み)
「急だが本日は以上で講義が終わりとなる。各々、見習いという立場を忘れずに行動すること」
「――はい」
「ではお疲れ様」
そう言って教官騎士は教室を後にした。
急に休みになることもあるとは聞いてたんだけど、入団して半年、今日が初めてのことだった。
「休みだーっ」
座学で窮屈だった身体を大きく伸ばすと、俺は大きく息をついた。
見習いとして入団して座学に実技に寮生活と俺は忙しく日々を過ごしていた。
実技は馬術や戦闘術とかばっかりで孤児院ですでに教えてもらってはいたものの、反面座学は何を言ってるのかさっぱり分からないことが多い。
兄ちゃんこんなのよく一年で昇格できたよね、って感じ。
「これからどうする?」
まわりの見習い仲間はそれぞれが顔を見合わせている。
急に降ってわいた半日近い休みに困惑していたり、喜んだりしているのがよくわかる。
話の輪に加わっていると、やがていくつかのグループに分かれたみたいだった。
「僕は寮に帰るよ。洗濯が溜まってるし」
「あー、オレもだ……」
料理以外の家事は全て自分でこなさなきゃいけない寮生活に慣れていない人達はため息交じりに寮へと帰っていき、
「鍛錬だ!」
「付き合うぜ」
寮生活に馴染んできた人達は元気に駆け出した。
ちなみにマリカ達女の子も鍛錬組だね。やっぱり女の子はこれまで家の手伝いもしてきたから家事はお手の物とばかりに余裕がある。
後に残るのは座学復習組である。
「昼までもう少しあるし、頑張るか」
そう言ってそれぞれが教本を開く中で、俺は開きっぱなしだった教本を一人片付け始めた。
「フェリクスは復習しないのか?」
意外だとばかりに顔を上げた一人に、ちょっとうきうきしながら答える。
「うん。ちょっと出かけてくるよ」
「まさかレーヴィ騎士のところか!?」
一人が勢いよく立ち上がって期待の眼差しを向ける。
すでに俺が兄ちゃん達と親しい間柄なのは知られてて、その場にいた殆どが俺に注目するけど残念ながらそうじゃない。
「違うよ」
否定すればみんなが肩を落とした。
騎士団最強に会えるかも、って思ったのかもしれないけど兄ちゃんも姉ちゃんも仕事だしね。
「じゃあどこ行くんだ?」
もう一回聞かれて教本をしまい込んだ鞄を手に答える。
「図書館だよ」
「図書館?なんでまた」
この見習い棟にも図書室はあって、勉強に必要な本は取り揃えられている。
だけど俺にとって重要なのは本じゃなかった。
「内緒」
へへ、と笑って手を振るとみんなが顔を見合わせた。
今から準備して向かえば昼休憩には間に合うよね。そしたら少しは一緒に過ごせるかな。
そう考えて足取り軽く教室を後にする。
食堂で肉多めのご飯を包んでもらって、のんびりと騎士団を出る。
天気が良くて風が気持ちよくて、自然と尻尾が揺れ動く。
やがて見えてきた古くて大きな建物。それがカティの職場だった。
司書とまではいかないけどその見習いのようなものらしい。
穏やかなカティにはすごく似合うその建物に入って、少しだけ大きく匂いを嗅ぐ。
紙とインクの匂いのする建物の中でほんの少しだけど香る匂いを辿って、走らないように、だけど大股で先を急ぐ。
入り口から右側へ進んだ、ちょっと奥まったところ。
カートの中の本を手に、高い位置の棚へと戻そうと背伸びする姿を見つけて自然と笑みが浮かぶ。
なかなか届かなくてうんと伸ばした手をとって本を収めると、カティはびっくりしたように固まった。
「ハシゴなかったの?」
そう言って後ろからぎゅーっと抱きしめれば、いつものいい匂いが広がって心が落ち着く。
「フェリクス君?」
ちょっと驚きと疑問が浮かんだ声に腕を緩めると、カティが静かに振り返った。
その動きで首元に付いているリボンチョーカーの先が揺れる。
俺の色を付けた、可愛い可愛い彼女。
「来ちゃった」
今度は真正面から軽く抱きしめると、カティは軽く目を閉じて受けいれてくれた。
「こんな時間にどうしたの?今日はお休みじゃなかったよね?」
「うん。急に休みになったんだ。この時間だったらお昼ご飯一緒に食べれるかなって」
腕を下ろして顔を見つめるとカティは嬉しそうに笑ってくれた。
「休憩時間まで待ってるね」
「うん。ありがとう」
「がんばってね」
仕事を手伝いたいけど、まだまだ仕事を覚えてる途中だというカティには手出ししてはいけない。
だから俺は俺で本を読んで待つことにした。
ここで勉強してれば時折カティの姿が目に入るし、休憩時間はすぐに一緒に居られるしで一石二鳥なのだ。
俺は鼻歌交じりに本を取り出して近くの椅子に腰掛けた。
+ + +
「お待たせ」
カティが持参のお弁当を手にやって来たのは、俺が手にした本の四分の一ほどを読み終えたくらいの時だった。
すぐに本を閉じて立ち上がると、手を握る。
「カティとお昼なんて久しぶり」
「そうね。来てくれてありがとう」
手を握り返して、それからカティはいつものお気に入りの場所だというところへ案内してくれた。
図書館の裏手の、人は少ないけど小さな噴水のある、ちょっとした憩いのスペース。そこのベンチに並んで座る。
「今の時期は噴水の音が涼しげで気持ちいいの」
「たしかに。空気も澄んでて綺麗だし、言うことないね」
そうしてそれぞれが弁当を広げる。
カティは色とりどりで小さな弁当。
俺のはがっつり肉ばっかりが挟まったサンドイッチ。およそカティの三人分。
「すごいね」
どんと積み重なったそれをみてカティが目を丸くした。
「騎士団のご飯ってさ、力つけないといけないから肉多いんだよね。俺、小さい頃から肉大好きだったから嬉しいのなんのってさ」
言うが早いか大きく口をあけてかぶりつく。
野菜も挟まってるには挟まってるけど、肉の存在感が半端なくて食が進む。
どんどん減ってくサンドイッチに、カティも自分の弁当に手をつけた。
「今思えば、犬系の獣人だったから肉好きだったのかな」
「どうかな。肉食っていうと猫系なイメージが強いけど」
「犬って雑食だっけ、そういえば」
なんて話をしながら食べていると、ふとカティがフォークにおかずを刺して俺の口元に差し出してきた。
「これも食べる?」
「食べるっ」
迷わずかぶりつけば、ベーコンの旨味が口に広がって幸せな気分が強まる。
「美味しいね、これ」
素直な感想を伝えると、カティが嬉しそうに笑った。
どうやらそれはカティが作ったものらしい。
「これは?」
なんていくつかのおかずをもらって、お返しにとサンドイッチを食べさせる。
カティと二人で和やかにご飯を分け合うことしばし、幸せな時間はどういうわけかすぐに終わってしまう。
「そろそろ戻らないと」
「そうだね」
昼食の時間が終わりに近づいて、手早く空っぽになった弁当をしまいこむ。
図書館のロビーまで戻ってくればカティとの別れの挨拶になる。
「この後はどうするの?」
「もうちょっと図書館にいるよ。その後は帰って自主鍛錬かな」
本当はカティの仕事が終わるまで待って、家まで送りたいんだけど、午前中の授業が座学だけだったから全然体を動かせてないんだよね。帰って少しでも動かしておかないと。
「そっか。来てくれてありがとう、フェリクス君」
「うん。俺も会いたかったしね。それじゃ、午後もがんばって」
言うが早いか、カティに詰め寄ってその額に唇を寄せる。小さくちゅっという音がして身を離すと手を振った。
カティは少し照れくさそうにして、それから荷物を置きにバックヤードへと向かっていった。
その背が見えなくなるまで見送って一つ息をつく。
とりあえずさっき読みかけだった本を読んで、それから経済の本でも読んでみようかな。
そう考えて踵を返そうとした途端――
「みーたーぞー」
恨めしい声とともにがしっと肩を掴まれた。
「怪しいと思ってつけてみれば、あんな可愛い子とデートか?」
首を巡らせると、そこに居たのは見習い仲間の数人だった。
「ユハナ騎士夫婦と親しい上に、恋人がいるだと?」
「ハグに食べさせあいっこに、でこちゅーだと?」
「くっそ、充実しすぎだろ!」
と、弁明する間もなく寄ってたかって揉みくちゃにされる。
「ちょっと、ここ図書館っ、静かにしなって」
他の図書館の職員さんからも顔覚えられてるから、こんなとこで騒いだらカティの迷惑になっちゃう。
そう思って仲間を振りほどいて離れると、それでもみんなの目は据わってた。
「帰るぞ、フェリクス」
「え、俺まだ勉強したいんだけど」
「ただの口実だろそんなもん。帰ってみんなで総合戦闘の稽古しようぜ」
なんて今度は俺を掴んでぐいぐいと図書館の外まで引き摺られる。
「確かに後で鍛錬もって思ってたけどさ」
「ならちょうどいいだろ?」
もうちょっと仕事するカティを見てたかったのに、と思って尻尾が垂れる。面白くない。
けど――予定になかったカティとのご飯も食べれたし、しょうがないか。
「仕方ないなぁ。わかったよ、もう」
今度は俺が恨みがましい目をして、騎士団本部に帰っていくのだった。
……ちなみにその後、大勢の見習い仲間による集団強襲でぼろっぼろになるまで体を酷使することになったんだけど、みんな酷くない?
読んでいただきありがとうございます。




