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騎士団は恋が好き  作者: 葵翠
【猛進】フェリクス
57/79

異変と衝撃と

フェリクス視点になります。

楽しんでいただけると嬉しいです。

(※2018.12.3誤字修正しています)

 カティと出会ってから、俺は自分の異変が続いていた。

 よく分からないあの衝撃からはじまって、カティと居るとなんでかお尻のあたりがぞわぞわしたり、不意に胸が痛くなったりする。

 感情の振れ幅も大きくなった気がするし、本当に、よくわからない。

 ただわかることは、カティが笑うと嬉しくて幸せな気分になるのと、もの凄く、ものすっっっごくカティがいい匂いがするってこと。


 そんなカティの苦手なものは、戦いに身をおく人だった。


 え、それって俺もじゃん!?

 大慌てに慌てた俺はとっさにカティの肩を掴もうとして、余計怖がらせるかもと勢いよく手を引っ込めた。

 ひょっとして、ひったくりを捕まえてくれたからお返ししなきゃとかって無理させてたのかな。


 心配で木賊色の目を覗き込むと、カティはしっかりと目を合わせて否定してくれた。

 むしろ優しいしすごいって言われて心底安心する。

 でも安心してる場合でもなかった。

 なんせ今向かってるのは戦う人しかいない自警団の訓練所。カティが足を踏み入れるのはかなり怖いことなんじゃ。

 だからここから先は一人で行くって言ったけど、それでも付き合ってくれようとするカティに、俺は考え抜いてその手を握った。


 一人じゃないって思えば少しは怖くなくなるからね。

 よく孤児院の年少の子には手を繋いだものだったし、俺もそうやって勇気をもらって色んなことを経験した。

 そう昔を思い出したところでカティがふと足を止めた。

 あ、子供扱いされたって思っちゃったかな。


 慌てて聞いてみて――俺はカティの返事にぶわっとなった。

 はにかんで笑うカティが壮絶に可愛くて、なんかよくわかんないけど、ぶわっと。鳥肌みたいな感じ。

 俺、顔赤くなってないよね?

 挙動不審になりそうな自分にぐっと奥歯を噛み締めるも、内心は大騒ぎしている。

 だって、本当にもう、可愛すぎでしょう!?


 込み上げてくるこの気持ちを隠して、俺はなんとか訓練所へと足を踏み入れるのだった。


「どうしたのカティ……って、あなたフェリクスじゃない!」


 やって来たマリカは俺をみて目を丸くした。

 そこから事情を説明して、呆れられたり、剣の手合わせをしたり。

 本当は怖がらせたくなくてカティの目の前で手合わせなんかしたくなかったけど、よく分かんないけどカティもしてくれって言うしでね。

 気迫はかなり抑えたし、マリカに合わせてだいぶ手加減もしながらカティの様子を窺うと、大丈夫そうな感じだった。

 よかった。本気は……たぶんまずいだろうから絶対見せないどこう。


 で、そこからは何だか急な話だったけど騎士団の手伝いをすることになった。

 マリカが犯罪も多いし忙しい時期だって言ってたから、自警団も騎士団も、多分軍もいろいろと忙しいんだろうね。その為に俺らみたいなひよっこも手伝いに駆り出されるっぽい。

 まぁ、大事なことなら力になるだけ。


 なんて思ってたらカティが怒り出した。

 俺は自分の荷物を探さなきゃいけないのに、人の手伝いなんかしてって感じで。

 あんまりにも心配してくれるからちょっとだけ困ってると、カティはそんな俺に声を荒げた。


「フェリクス君が自分の心配をしないから、私が心配するの!フェリクス君だから心配なのっ」


 今まで一度も大きい声を出したことのないカティのそれに、ちょっと驚いた。

 けど、その内容を理解した俺は途端に身体中が熱くなってくのがわかった。


 俺だからって、俺だからって。

 それって、それってさ……!?

 じわじわと喜びが沸き起こる。嬉しい。嬉しくて、もうカティ大好きって言いたい。

 放任主義な孤児院で誰にも心配されることなく、むしろ勢いよく背中を突き飛ばされるような環境にいた俺の事を心配してくれるだけでも嬉しいのに、それなのに俺だからだなんて。


 どうしよう、叫びたい。

 叫びたい、けどそんなのカティ怖がるよね。

 がまん、我慢だ俺……!


 体を震わせて感動しつつ衝動を抑えるのに必死な中、自警団員さんが間を取り持ってくれて気を取り直した。

 最終的には自分のためになるんだって伝えたら、カティも頷いてくれた。


「フェリクス君がそれでいいなら」


 またその言い方が途方もなく可愛かった。やや不服そうなカティは口を尖らせてて、ぷっくりした厚みのある唇に引き寄せられる。


 可愛い、美味しそう。


 そこにばかり意識が向いて気が付いた時には唇が触れそうなほど近づいていた。


「ありがとう、カティ」


 心底慌てて、だけど悟られないようにと咄嗟におでことおでこをくっつけて離れた。


 やば……やばかった……!

 勢いよく離れて深呼吸する。

 キスしようとしてたとか、バレてないよね!?


「キスするのかと思って焦ったわ」


 ひぃっ。


「っそ、そんなわけ、ないよ。今のでさえちょっと、恥ずかしかったのに」


 鋭い感想に慄きながら何とか否定すると、マリカは呆れ顔をよこした。


「確かに今のでそんななるんならキスなんて無理よね。っていうか照れるなら何でやるのよ」


「いやー、その、つい勢いで?仲間内で、結構やってて」


 実際やってるのは小競り合いの頭突き合いだけど。


「ふぅん?」


 マリカは眉を上げたけど、それ以上は追求しなかった。

 危ない、危ない。


「盛り上がってるとこ悪いんだが、話がまとまったところで動いていいか?」


 あ、そうだった。

 俺ははっとして、自警団員さんに謝るのだった。


 + + +


 自警団員さんに連れられて来たのは、王都のはずれにある地域だった。

 だけどそこに集まるのは厳つい人ばかりで、ただ事では無いことがうかがえる。


「急な要請に応えていただきありがとうございます。今回お願いしますのは――」


 やって来たのはふわふわした髪のリュリュという騎士さんだった。

 話によると騎士団の入団許可証を盗んで売り捌いているらしい盗賊団のアジトを叩くんだけど、騎士さんの人数も殆どいない中での捕り物とあって取り逃がしの可能性も視野に入れているらしい。

 アジトに踏み込んで切り込むのは騎士さんだけでやるけど、逃亡を防ぐ為の出入り口の封鎖と制圧後の捕縛をお願いしたい、というものだった。


「ね、フェリクスの荷物もあるんじゃないの?」


 自警団員ですらない俺とマリカは下っ端の下っ端として一番隅っこで大人しくしてたんだけど、こそっとマリカが耳打ちした。


「許可証は盗まれなかったけど、狙われてても無理はないと思うわよ」


 その言葉に俺も頷いた。

 だってあのおじちゃんには荷物から許可証を取り出して見せたんだしね。

 その後獣人さんに言われてポケットにしまい込んだから無事だったのは、本当に不幸中の幸いだったと思う。


「全部終わったら聞いてみるよ」


 もしそのアジトに俺の荷物があったら、それこそ自警団の手伝いをして正解だったってことだよね。

 荷物、あるといいなぁ。

 そんなことを思っていると、リュリュさんと自警団の上の人達との話し合いで班分けが始まっていた。

 指示を待つようにじっと見ていると、そんなリュリュさんと目があった。


「――君、ひょっとしてうちに入団予定のフェリクス・ハルマ君かな?」


 話の途中でいきなり名前を言い当てられて、びっくりする。


「そうですけど」


 騎士団本部に初めて行った時は門番の騎士さんにも管理部の準騎士さんにも名前を聞かれたんだけど、リュリュさんはどうしてわかったんだろう。

 俺が疑問を浮かべていると、マリカが「リュリュ騎士は普段は内部を取りまとめる管理部なのよ」と教えてくれた。

 そう言えば、駆け出す直前にぶつかった騎士さんに似ているような気もする。


「昨日君を見かけてね。あの後事情を聞いて焦ったよ」


「すみません、俺、飛び出しちゃったので」


 昨日はショックのあまり勝手に駆け出しちゃったけど、話は途中のままだったかのしれない。反省しなきゃ。


「ううん、それは仕方がないよ。昨日の件で君には謝罪を含めた説明があるんだけど、ごめんね。時間がないから、今はひとつだけ」


 謝罪を含めた説明?

 思いがけない言葉に俺は瞬きをした。


「君のお兄さんは間違いなく騎士だよ」


「え――」


 準騎士さんに否定された筈の兄ちゃんの存在。

 それがまさかあっさりと覆されるとは思ってもなくて、うまく反応できない。


「こっちの不手際とかお兄さんの認識違いとかが重なったようで、ごめんね」


 苦笑いを浮かべるリュリュさんを、口を開けたまま見つめることしばし。


「じゃあフェリクスのお兄さんは本物の騎士で間違いないんですね?」


 俺の代わりにマリカが確認してくれた。


「うん。お姉さんにも連絡が取れて、遅くても今日の夜にはどちらかに会わせられると思う」


 というしっかりとした返事にマリカが肘でつついてきた。


「よかったじゃない!」


「う、うん」


 一度は絶望近くまで行っていた俺としては実感がなくて、ぎこちなく頷く。


「大丈夫。間違いはないから。――詳しいことはまた後でね」


 言われて思い出す。今は騎士団の手伝いだ。

 気持ちを入れ替えて班分けの続きを、と残る俺とマリカを見たリュリュさんだったけど、今度はマリカに尋ねた。


「君も入団予定だったよね。マリカさん、だったっけ」


「はい。マリカ・ブランデルと申します」


 流石は管理部の騎士。リュリュさんはマリカのことも知っていうようだった。

 リュリュさんは一つ頷くと俺とマリカをそれぞれに見て、何かを考え出した。


「いける、かな」


 小さく呟いて、それから顔を上げた。


「二人には僕の補佐に回ってもらおうかな」


「いいんですか!?」


 ものすごく食いついたのはマリカだ。その目が輝いているように見える。


「うん。さっきも言ったように騎士の数が少なくてね。突入までに応援が間に合わなかったら僕一人で切り込むことになる。もちろん一人も取り逃がさないようにするつもりではあるけど、やり過ぎると壊れる可能性も否定できないから、念には念を入れてね」


 と、リュリュさんは自分の腿を叩いた。

 何が壊れるんだろう、と首を傾げる中でマリカもリュリュさんの腿に視線を下ろした。


「義足ですもね」


「うん。前に無茶しすぎて壊しちゃって、結局いろんな人に迷惑かけちゃったこともあるから、気をつけないとね」


 明るく笑うリュリュさんに、思わずその足を見つめる。

 義足をつけている人は見たことがなかったけど、生身の足とは勝手が違って大変だって話は前に孤児院に来た行商の人が言っていた。

 そんな義足で一人で突入するかもしれないなんて。

 そう思った時には自然と一歩踏み出していた。


「俺、がんばります。やらせてください」


 一人で突入できるくらいには動けるってことなんだろうけど、それでも何か手伝えるならやりたい。

 真っ直ぐにリュリュさんを見ると、リュリュさんは微笑んでくれた。


「うん。よろしくね」


 そうして班分けが終わって、それぞれにロープの確認やなんかをして、マリカには木剣が支給された。

 俺はもともと持っていた剣があるからそれを使うと伝えるとリュリュさんは真剣な表情で言った。


「いいかい、切るのは僕だけでいい。やむを得ない状況なら仕方がないけど、簡単に鞘から抜かないようにね」


 騎士団の手伝いで正式な自警団員でもなく、予定とはいえまだ入団前の若者に人を切らせることはできない、らしい。

 俺としては故郷で幾度となく盗賊の討伐をしていたから今更という感じはするけど。


「飾り紐で縛っておきます」


「そうしてね」


 そんなこんなで準備が終わった頃、ふと窓の外に大きな鳥が飛んできた。

 リュリュさんはいち早く気づいて窓を開け、入ってきた鳥に餌をやりながらその足についている筒状の容器に何かを入れた。


「伝令用の鳥よ。騎士団でも数羽しかいないって聞くわ」


 と、マリカが教えてくれて感心する。鳥が連絡役を出来るっていうのは知らなかった。

 やがて餌を食べきった鳥が再び飛び立ったのを確認したリュリュさんは、俺たちを振り返ると大きな声を上げた。


「同胞からの合図がありました。ここから一気にアジトへと突入します。みなさん、よろしくお願いします!」


 おう、という野太い声が重なって、リュリュさんを先頭に駆け出す。

 アジトは結構すぐ近くにあって自警団員さん達が班ごとに分かれてぐるりとアジトを取り囲む中で、リュリュさんは入り口に立っていた見張りらしき二人をあっという間に昏倒させた。


 おおー、さすが騎士。手際が全然違うね。っていうか義足だなんて思えない。


 あまりにも自然な動きに感心しつつ共感を求めてマリカを見ると、その表情は強張っていた。


「マリカ、大丈夫?」


「問題ないわ。騎士団の手伝いができるなんて光栄なことよ」


 さっきは喜んでたけど、いざその時になって緊張でガチガチになってるっぽい。

 最初は誰だって緊張するよね。俺もそうだったなぁ。すぐに自警団長と一緒に先陣切って突撃するようになったけど。

 リュリュさんのすぐ後ろについて建物に入る寸前で、俺はマリカに笑った。


「ところでその服で大丈夫?パンツ見えたら俺としてはラッキーだけど」


「っなに馬鹿なこと言ってんのよ!」


 マリカは瞬間的にいつものような強気の表情に戻った。


「その調子。一足早い現場体験だと思えばいいよ」


「……フェリクスの癖にっ」


 むくれるマリカの緊張が和らいで、視線を合わせて合図する。

 ここからは真剣に。


「窃盗容疑で捕縛をします!手を頭の上にあげて、膝を落として下さい!」


 突然やってきたリュリュさんの言葉に盗賊達は驚きつつも当然言うことを聞くわけもなく。


「抵抗する人は全員、叩き伏せます」


 すぐに剣を抜き放つ盗賊達にリュリュさんも抜剣した。

 マリカも俺も、リュリュさんの後ろで背中を合わせるように剣を構える。

 ざっと見たところ盗賊は十人くらい。ここは広い玄関ホールみたいだから、他の部屋からも出てくるのかな。


「切らなきゃ容赦なくやっていいんですよね?」


「あくまで補佐だから、相手は僕がするよ。どうしてもの時だけで」


 というリュリュさんの苦笑を耳に、俺は簡単に鞘が抜けないように飾り紐で縛られた剣を再度確認した。

 襲ってくる盗賊はほぼほぼリュリュさんが弾き、斬り伏せていて、なんだか今のところ出番はなさそう。本当にリュリュさん義足なの?ってくらい強い。多分俺も負けるかも。

 周囲の警戒を怠らずにそんなことを考えていると、ふといい匂いが鼻に届いた。

 いくらでも嗅いでいたいようないい匂い。ごく最近嗅いだことのある……


「カティ!?えっ、なんでこんなところにいるの!?」


 間違いない。このいい匂いはカティだ。だけどどうして。

 俺が突然声を上げると、それに同調してか盗賊の数人がはっとして戦線から離脱して行った。


「待て!」


「ちょっとフェリクス!?」


 マリカの声を背に、俺は逃げる盗賊達を追い掛けた。

 どう考えても嫌な予感しかしない。


 まさかカティが捕まってる――?


 マリカとリュリュさんの制止の声を聞かずに、俺はただ後を追った。

 二階に上がっていけば、どんどんカティの匂いが強くなる。

 それは盗賊達が逃げた方で、その先から何故か剣戟の音もしている。

 そう気づく中で、逃げた盗賊はみんなある一部屋に駆けこんでいた。

 というか、その部屋から音が聞こえるんだけど。


 追い掛ける勢いをそのままに部屋に踏み入ると、どう見ても盗賊ではない人が剣を手に戦ってた。

 盗賊ではない人っていうか。


「おや、フェリクス君じゃないか。ちょうどいい、加勢しておくれ」


 それは孤児院にも何回か来たことのある兄ちゃんの友達だった。

 いつも見るのと変わらない優雅な笑みを浮かべたまま、だけど容赦なく襲いかかる盗賊全てを阻んでいる。


「ひょっとして君も騎士団から借り出されたかな?」


「そう、です、けど」


 そう言われて思い出す。カティ。

 はっとして部屋を見渡せば、ライノさんの後ろに座りこんで震えてる子がいた。枯茶の髪が白いレースのリボンで括られてるその子は。


「っカティ!!」


 大きく鼓動が跳ねた時、視線の先で女の子が蒼白な顔を上げた。


「フェリクス、くん……っ」


 木賊色の目から大粒の涙が零れた瞬間、自分の中で何かがキレた。


「こんの野郎!」


 全身に力がこもり、ぶっ飛んで盗賊を鞘のままぶん殴る。

 真っ白になった頭は、だけどこれまでの孤児院での訓練の賜物か、ありとあらゆる急所を的確に打ちつけて、最短で盗賊達を叩き伏せた。


「これはレーヴィもかくや、と言った手際だね」


 全てが終わった後、ライノさんがそう苦笑を洩らす中で俺はカティに駆け寄った。


「カティ!」


 怪我は?何もされてない?

 目の前で膝をついて手を伸ばすと、カティはそんな俺を溢れんばかりに目を開けて見ながら固まっていた。


「カティ……?」


 どことなく瞳孔が揺れているように見えて、カティに触れる寸前で手を止める。


「――あ……」


 カティもそれを自覚したのかもしれない。

 ただ、それでもその目の中は揺れていて、俺と目があっては視線が泳いでいく。

 それを見て俺はそっと手を下ろした。


 ……うん、そうだよね。

 俺のことは怖くないって言ってくれたけど、流石にブチ切れて本気だしたら怖いよね。今回は鞘のままとはいえ実戦だったし。

 そう頭では理解してても、心の奥底は鉛のように重く、悲痛を訴えてくる。


「マリカもいるから、呼んでくるね」


 きっとマリカなら大丈夫だから。俺がいても、カティは休まらないから。

 なんとかそう自分に言い聞かせて踵を返した、その時。


「ま、待って!」


「ふぎゃっ」


 何かを突然引っ張られて、尻のあたりが総毛立つ感じがした。

 ……なにを引っ張られた?

 ズボンのベルトでもないし、服に紐みたいなものは付いてなかったはずだし。

 というかちょっと痛かったというか、なんか尻のあたりがむずむずする。


「ごめんなさいっ。服をつかもうとしたんだけど」


「ううん、それはいいんだけど」


 俺の奇妙な声にカティは掴んでいた何かを放した。

 それによってなんとなく安心感を覚えて息をつく。

 ついでにカティが掴んだものを確認しようと首を捻って尻のあたりへと視線を落とす。


「っえええぇぇぇぇ!?」


 そこに見えたのは金と茶の斑模様のふさふさ尻尾だった。

 俺の驚きに反応してかピンと立ったそれを思わず掴んで引っ張る。


「あっ、痛い」


 力を緩めて、加減をしつつ何度も引っ張ってみるも抜けない。むしろちょっと痛い。

 手を放しておもむろにズボンに手を突っ込んで触ってみて唖然とする。……うん、紛れもなく生えてる。


「え……なにこれ。ええ?どういうこと」


 少なくともさっき着替えた時にはなかった。というか今までの人生の中で尻尾が生えたことなんか一度もない。

 突如として生えたその尻尾を凝視するも、尻尾は驚きの為かピンと立ったまま動かない。


「おや、気づいてなかったのかい?この部屋に乗り込んですぐから生えていたよ」


 と、盗賊を縛りつけてたライノさんが何でもないことのように言った。

 呆然とする中でカティも小さく何度も頷いている。その目が尻尾と俺の顔とを行き来してて、泳いでいるようにも見える。


「なんで?俺なんで尻尾生えてんの?え、病気!?まさかの病気!?」


 動揺した俺は頭を抱えて座り込んだ。

 病気らしい病気なんてしたことなかったけど、こんな突拍子もない病気にかかるなんて。


「お、落ち着いて、フェリクス君」


 混乱する俺にそっと手を差し伸べたのは、カティだった。

 優しく肩に手を置かれて、顔を覗きこまれる。


「あの、フェリクス君。それ病気じゃなくって、獣化……半獣化じゃないかな?」


「はんじゅうか?」


 聞き覚えのない言葉を反芻すると、カティは尻尾を見つめた。


「フェリクス君って獣人との混血だったりしない?ヒト型に獣の耳や尻尾がついてる状態を半獣化っていうんだけど」


「そうだね。獣人や半獣人は感情が高ぶると獣化しやすくなる。フェリクス君はカティちゃんを見て相当怒り狂っていたからね」


 カティの言葉をついでライノさんもそう頷いた。

 獣人。混血。

 その言葉を頭の中で繰り返してみるけど、どうにもしっくりこない。


「そんな話、聞いたことないよ」


 親父にもおっちゃんにもない。

 記憶はほとんどなくて、父ちゃんと母ちゃんの姿なんてうっすらとしか覚えてないけど、少なくとも尻尾はなかったと思う。

 そもそもそんな大事な話、あったら絶対に話されてるよね。


「けど、その尻尾は獣人の血が混ざっている証拠に他ならないよ」


 ライノさんにそう言われて改めて尻尾を見つめる。

 ぱたり、ぱたりと俺の感情を表すかのように振られる尻尾を。


「……かわいい」


 静かになった部屋に、ぽつりとカティの一言が響いた。

 ちょっとわくわくした声に、思わず本音が漏れる。


「俺、かわいいよりかっこいいって言われたいんだけど」


「あ、ごめんなさい。でもその……触っても、いい?」


 なんて上目遣いに見られて、反射的に頷く。

 嬉しそうに手を伸ばすカティを見て気づく。


「っていうか怖くないの、カティ」


「え?獣人はあんまり見たことないけど、人と同じ知性があるんだし、怖くないよ?」


 きょとんとして首を傾げるカティ。

 そうじゃなくて。


「俺のこと。ほら……本気、出しちゃったし」


 うん、カティが巻き込まれてるとしった瞬間にブチ切れたしさ。

 ちょっと気まずくなったけど、とちらりと見るとカティもまた視線を落とした。


「本当は、少し怖かったんだけど……私の為に怒ってくれて、助けに入ってくれてるのは分かるし。それにその、尻尾、が」


いい辛そうに告げられたカティの言葉に尻尾共々しゅんとする。


「落ち込んだ尻尾を見て、やっぱりフェリクス君だ、って思ったの」


「え?」


「怖かったけど、でもフェリクス君はフェリクス君なんだよ。優しくて思いやりが深い、格好いい人なの」


そうして微笑むとカティは尻尾に伸ばしかけていた手を持ち上げて、そっと俺の手を握った。


「怖がってごめんなさい。でももう怖くないわ。フェリクス君だもの――守ってくれて、ありがとう」


 その、あったかくて優しい目に俺は心の中がぎゅっとなった。


「カティ!」


 声と同時にカティを抱きしめる。


「好き、大好き。もう本当に、カティ大好き」


 ずっとそばにいてほしい。ずっとずっと離れたくない。

 驚くカティをよそに、俺はその細い肩を掴んで少しだけ身体を離した。


「俺頑張って騎士になる。だから俺と結婚して」


 真っ直ぐにカティをみて直感的に言った。

 カティが俺のことどう思ってるかなんて分からなかったけど、とにかく俺は自分の気持ちを伝えたかった。知ってほしかった。


「フェリクス君……」


 カティは驚きに目を見開いていたけど、やがて頬を赤くして、すごくすごく小さく頷いた。

 頷いた。頷いたよね!?


「わ、私も……好き、です」


 ほんのか細い声だけど、ちゃんと耳に届いた。

 瞬間、またカティを腕の中に囲い込む。

 カティのいい匂いが胸いっぱいに広がって満たされる。


「ぜったい、ぜーったい大事にするから!カティのこと幸せにするからね!」


 大きく誓う俺の背後、急に生えた尻尾は俺の心をそのままに千切れんばかりに振り続けるのだった。

読んでいただきありがとうございます。


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