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騎士団は恋が好き  作者: 葵翠
【強引】クラウス
53/79

半年後の二人

 前半ロッタ視点、後半クラウス視点となります。

 楽しんでいただければと思います。

 今日の叙任式は厳かなものだった。

 本来なら春先にするらしいが、あたし達三人は目立たせる為にと時期を早めての叙任となった。

 とはいえ式自体は本来のものと全く同じらしく、騎士団本部内で国王とクラウスを壇上に、できうる限り集まった騎士の前で行われた。

 初めて袖を通す騎士服はこれを機にデザインが変更されたようだ。詰襟だったそれは開襟となり中のシャツが覗くようになり、堅物のイメージが弱まった分華やかさが増えた気がする。

 ちなみに女に限ってボトムスが二種類ある。一つは男と同じスラックス。もう一つは何を血迷ったか膝上丈のキュロットだった。キュロットにはタイツにロングブーツという合わせであたしとダリアは大いに顔を顰めた。

 男女平等を目指すなら男と同じスラックスだけでいいだろう。


「ご意見はもっともなんですが、女の子の入団志望者を増やすのに可愛さの演出も必要だとのことで」


 てっきり女騎士担当リュリュの発案かと思ったが、言いにくそうにしている様子に別の奴が発案者なのだと悟った。

 更にリュリュは申し訳なさそうに両手を合わせて懇願してきたあたり、あたしと同意見なんだろう。


「せめて一人だけでも。たまにでも良いので着てください」


 なんて言われては仕方がない。

 あたしとダリアは迷わずアヤメの肩を叩いた。


「任せたアヤメ」


「お願いしますアヤメ」


「う、うん。私は良いんだけど」


 今更女みたいな格好しても、というあたしと女らしさは不要とでも考えていそうなダリアでは必然的にそうなるだろう?

 アヤメは一番若いし一番女らしくて可愛い。そういう服にも抵抗がないし、問題ない。


 まぁそんなこんなで叙任式を終えた今、あたしには自由時間が与えられていた。

 式は午前中で終わり夕方からは騎士団で宴会がはじまるわけだが、その間の時間というわけだ。

 大抵叙任式を終えた新人騎士は家族の元に騎士服を披露しに行ったり同期と遊びに出かけたりするらしく、アヤメはレーヴィと共に養子先のリスティラ伯のもとへ向かい、ダリアは早々に家を借りて暮らすのだとその準備に取り掛かりに行った。


 で。


 あたしはというと、クラウスに連れられてある屋敷に来ていた。

 ある、っていうかクラウスのな。

 婿入りの形でシーカヴィルタとは離れたクラウスだったが流石は騎士団副団長なだけあって、その大きさはでかかった。

 入口には門番がいて、中には当然のように使用人がいる。


「流石だな」


 思わずもれた感想にクラウスは当然だと言わんばかりに鼻を鳴らした。

 そこから使用人を集めて紹介をされて、ちょっとだけ小っ恥ずかしくて頬をかきながら「よろしく」と告げるとみんなにこやかな笑顔を見せた。


 クラウスと結婚していることがわかって約半年、あたしは当初説明を受けていたようにアヤメ達との同居生活を続けていたわけで、ここに来るのは初めてだった。

 ――今日からクラウスと正真正銘の夫婦として暮らす。

 そう思うと胸が騒ぎたててしまうのはどうしようもないことだった。


 それなのに。


「ここがロッティリアの私室だ。俺の部屋はこの二つ先になる」


 屋敷の最後に案内されたそこで意外な言葉を耳にした。

 目の前にあるのが、あたしの部屋で。

 二つ先が、クラウスの部屋で。


 ……なんで夫婦の間に別の部屋があるんだよ。


 そもそも別室っておかしくないか?

 いや貴族とか金持ちにはよくある話だったか。

 けど、だけど、普通それでも隣じゃないのか!?


 あたしはクラウスに壁を作られた感じがして、不満をそのまま口に乗せるのだった。


 * * *


「っつーか」


 屋敷の中、私室へと案内するとそのドアの前でロッティリアが口を開けた。


「一応確認するけど、クラウスは本当にあたしのことが好きなのか?」


 どことなく不満そうな口調である。


「俺が好きでもない相手と結婚すると思うか?」


 すると口調に見合った不機嫌そうな表情が浮かんだ。


「……なんかの画策があってとかだったらあり得そうだ」


 目的のための手段として結婚を選んだという可能性か。

 確かに目的の為に手段を選ばないことは多々あるが、だが騎士を舐めてはいけない。


 ――騎士はこと恋愛において妥協はないのだ。


 トゥーレは意中の相手を手に入れる為に自らの評判を犠牲に罠を張り、ルーカスは曲者揃いで候補のいなかった情報部騎士長になることを条件に一時的に広報部へと転属し、オスクは処分を覚悟の上で婚約者のいる女を強奪した。

 上層部として地位が上がれば上がるほどにその意識は強く、副団長ともなれば言わずもがなである。


「なら教えてやろう。俺がロッティリアに対して抱く感情は好きな女に対して抱くものと同じだ」


「本当に?」


 即座に疑ってかかるロッティリアに、一体何がそうさせているのか思考する。

 ロッティリアの私室前に来るまでは嬉しそうに、やや恥ずかしそうにしていた筈だが。


「疑ってかかるなら誓ってもいいぞ」


 身体ごと向き直って言えば、「けど」と小さく呟いたロッティリアが一瞬私室から二つ先のドアへと視線を向けた。

 ――成程。随分と可愛いことを考えたものだ。


 俺はロッティリアの意図に気付き思わず口の端を上げた。


「隣の部屋が何だかわかるか?」


 ロッティリアは自分の部屋と俺の部屋が隣り合っていないことを不服に思っていたのだろう。

 だがそんなものはお門違いというものだ。

 今だ不機嫌なロッティリアのその耳元で意地悪く囁く。


「寝室だ。ここから俺の部屋まで全て内側で繋がっている。いつでもそこを通ってきて構わないぞ?」


「っべ、別にそんなこと気にしてない!」


 意図を悟られロッティリアが目を吊り上げて否定するも、図星なのは一目瞭然である。

 喉の奥を振わせて笑うと俺はロッティリアの私室のドアノブに手をかけた。


「ひとつ言っておくが」


「なんだよ」


「俺はロッティリアをただの恋愛対象と思っているわけではない」


「……どういう意味だ?」


 訝しげに俺を見上げるロッティリアにはっきりと告げる。


「ロッティリアのことはどのような状況下においても隣に並び立つパートナーだと思っている」


 恋愛感情だけを抱いているわけではない。

 家庭内でも、仕事上でも、その他人間関係としても、全てにおいて隣に並び立つ存在。それが俺にとってのロッティリアなのだ。

 最愛の妻であり、信頼できる同胞であり、他愛のないことでつるみ笑いあえる悪友。どのような場面においても絶対的な信頼を寄せる、それがロッティリアという存在である。


「俺にとっては掛け替えのない大切なパートナーだ。それを忘れるな」


 女によってはそれは嫌だと言うのだろうが、ロッティリアからしてみればおそらくそれはこれ以上ない喜びなのではないかと思う。


「相棒か。いいな、それ」


 案の定――言葉の意味を理解したロッティリアは照れくさそうに笑った。

 対して俺は不敵な笑みを浮かべた。


「これからも容赦なく振りま回すから覚悟しろ」


「ふん、逆にこっちが振り回してやるさ」


 なんてロッティリアが言い放ったところで、ドアを開け放つ。


「何でも好きに使え。欲しいものがあったら遠慮なく言うといい」


「んなもん自分で用意してやるさ」


「そういうとは思ったがな」


 ちなみに部屋はロッティリアの好みとはやや異なった仕様となっている。

 実用性を重視し装飾などは好まない性格なのは理解していたが、ほんの僅かに花柄やレースを遇っているのは、ある物に違和感を持たせないためである。


「叙任祝いの打ち上げまでまだ時間がある。それまで好きにしていろ」


「あ……ああ」


 俺の言葉にロッティリアはやや呆然としながら頷いた。

 その視線は部屋の中に釘づけになっていて、密かに笑いをかみ殺す。


「俺は自分の部屋にいるから、用があれば来い」


「……わかった」


 心ここにあらず、といったところか。

 俺はそんなロッティリアを部屋に押し込めるとドアを閉めた。


「――っ」


 途端に慌ただしく駆け出す気配に部屋の中で何が起こっているのか容易に想像ができて思わず噴き出す。


「マジで?」


 聞こえてないとでも思っているのか興奮気味な声だ。


「やばい、可愛い」


 ――部屋中央に設えられたソファの上。そこには大人がひと抱えするほどの大きなクマの人形を置いていた。

 ロッティリアはそれに見入り、そして容赦なく抱きしめていることだろう。


「ふわふわだ。くま、くま。あー、幸せ」


 表向き、部屋にあったから仕方なくおいてるのだと言い訳するのだろうが、おそらくロッティリアはそれを大切にするだろう。


 そんな未来が窺えて、俺は笑いながら自らの私室へと向かうのだった。

 読んでいただきありがとうございます。

 これにてクラウス&ロッタ編完全終了です。

 次回は今回ほど期間を空けずに更新したいなと思います。よろしくお願いします。

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