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騎士団は恋が好き  作者: 葵翠
【堅物】オスク
40/79

三ヶ月後の二人

楽しんでいただければと思います。

オスク編最終話になります。


※※お知らせ※※

2017.11.11各話紹介を割り込みにて投稿しました。11.13より新騎士投稿開始です。

 オスクと王都へと引っ越して、結婚をして早三ヶ月。

 わたしはさっき来ていた準騎士さんの伝言を頭に思い悩んでいた。


 ――あと二日は帰られないとのことです。


 どうやら今、繁忙期らしい。

 もともと二日前にオスク本人が二日ほど本部で寝泊まりをすると言って出て行ったけど、それでも時間が足りないみたい。


 家に帰ってこないことへの不安は、それほどなかった。

 ディックのように浮気をするはずもないし、三ヶ月も経てばわたしも王都への暮らしになれてきて友人だっている。

 だけど――


「大丈夫かな」


 悩んでいるのはオスク自身のことだった。

 もともと護衛部という陛下をお守りする為の部署にいたオスクは、いまはまだ情報部にいる。残り期間を事務室勤務として過ごすと聞いていたけど、なんていうか、王都に着いてからのオスクは日々眉間のしわが深まるばかりだった。


 ――正直頭を使うのは性に合わない。最初の頃は頭を使いすぎて頭痛を覚えたもんだ。


 花の都でオスクはそう言っていて、そして事務室の仕事は身体を動かすこともなくほぼ座りっぱなしで頭を働かせるものだった。

 二日おきくらいに甘いものを補給しているオスクはそれはそれでちょっと可愛い気もしたんだけど、数日間泊まり込みになると笑っている場合でもなくなる。

 たぶん甘いものが欲しくてたまらないんじゃないかなって思って、心配だった。


 騎士団に差し入れをもって行く?

 確か身分証をもって行けば荷物の受け渡しもできるし、呼んでもくれるって言ってたよね。

 でも、オスクがお菓子好きなの隠していたら、受け渡しされると恥ずかしいのかな。

 かといって忙しいのにオスクを呼んでもらうのもきっと余計な時間をとらせちゃうよね。

 それはなんだか嫌だなぁ。でも、ちょっとは顔を見たいかも。


 うーん、と腕を組んで一人悶々として、そしてとりあえず持っていくことに決めた。

 家に常備しているオスクの蜂蜜やチョコレートを使ってタルトやクッキーを作って、できた頃にはすっかり夕方になっていた。

 慌てて蓋付きのバスケットにいれて身分証も忘れずに用意して騎士団へと駆けこむ。

 騎士団本部の入口には二人の男性が見張りとして立っていた。

 一人は騎士様で、一人は準騎士さんのようだった。


「あのっ、すみません」


 初めて訪れる騎士団にドキドキしながら声をかけると、二人の視線がこっちに向いて人のよさそうな笑みが浮かんだことにちょっとだけほっとする。

 ええと、用件を伝えなければ。


「レニタ・ニュカネンと申します。あの……っ、主人が、いつもお世話になっています」


 主人とか、恥ずかしいけど言わないことには始まらない。ちょっともじもじしつつも頭を下げる。


「噂の、略奪された奥さんですね!」


 すぱん、という音がして頭を上げると準騎士さんが頭をさすってどことなく拗ねた顔をしていた。

 殴られた、のかな。騎士さんは涼しい顔してるけど。


「失礼しました。身分証をお持ちですか?」


「はい、これです」


 にこやかな騎士さんに騎士の家族ということを示す身分証を渡す。

 基本的にはこれがないとオスクを呼んでもらったり荷物を渡してもらったりすることはできないらしい。


「ありがとうございます、確認いたしました」


 騎士さんは身分証の表裏を両方確認してわたしに返してくれた。

 そして頭をさすっていた準騎士さんにいくつかの指示を出した。


「くれぐれも失礼のないように」


 最後に念を押すようにそう言われると準騎士さんもきりっとした表情でそれに応えて「こちらへどうぞ」とわたしを中へと案内してくれた。

 通されたのは応接室のような場所で、そこで「少々お待ち下さい」と言って準騎士さんが去っていった。

 ソファに座って待っていると程なくして焦った様子のオスクがやってきた。


「何かあったのか?」


 余りにも急いだ様子は忙しいから、というよりもなんだか焦っているように見えて瞬きをしてオスクを見上げた。


「えっと、これを渡しに来たの」


 膝の上に置いていたバスケットを両手で持ち上げると、オスクは一瞬驚いたような顔をしてそれから力を抜くように息をはいた。


「何か問題が起きたわけではないんだな?」


「う、うん」


 焦ったような感じだったのは、ひょっとして何か心配させちゃったから?

 そう思って小さく謝るとオスクは隣に腰をおろした。


「そうか。大事ないならいい」


 心底安心したというように息を吐かれて気づく。

 そっか、もう暗くなる頃だもんね。こんな時間にと思えば何かあったと思うのも無理もないか。

 ちょっと反省していると、オスクがバスケットを手に取り蓋を開けた。

 ふんわりと甘い匂いがあたりに広がる。


「菓子か」


「うん。頭、痛くなってないかなって思って差し入れに」


「わざわざ作ってくれたのか」


「ちょっと時間がかかっちゃったけど、それなりにできた方だと思う」


 お兄ちゃんのお嫁さんからお菓子づくりを教わって家でよく作るようになったけど、有り合わせでぱっと作ったにしてはいい出来栄えだと思う。


「そうか」


 あ、オスクの眉間のしわが少し和らいだ。

 オスクはわたしの見てる前でクッキーをつまむと口に運んだ。

 更に眉間のしわが浅くなって、つい微笑む。


「美味い。ありがとう」


 クッキーを飲み込んだオスクはそう言ってわたしを抱き寄せた。

 喜んでくれたことが嬉しくって、あったかい温もりに身を任せて少しだけ頬を緩める。


「ううん、お仕事いつもがんばってくれてありがとう」


 すると腕の力が少し強くなって、それがまた嬉しくってオスクの胸に顔をすり寄せる。


「足りないものとか、ない?持ってくるよ」


 何日も泊まり込みになると、必要になってくるものとかあるよね。

 着替えとかは持って行ってはいたけど、足りなくなったりしてないかな。

 そう思って尋ねるとオスクははっきりと首を横に振った。


「明日の夜までには必ず帰る。晩飯の用意を頼む」


「あれ、あと二日は帰られないんじゃなかったの?」


 確か言伝に来た準騎士さんがそう言っていた。


「レニタが菓子を持って来てくれたからな。――気合いで終わらせる」


 オスクはそう言って意気込んだ。

 でもそれって無理やり根を詰めるってことだよね?


「無理しないでね?」


 心配になったわたしはそっとしわの刻まれた眉間に触れた。


「問題ない。それよりも早くレニタとゆっくり過ごしたい」


 オスクはそんなわたしの手を握りこんだ。


「わかった。じゃあお肉いっぱい用意してるね」


 結婚して一番びっくりしたのは、オスクがすっごくよく食べることだった。

 わたしの三倍、ううん四倍くらいは軽く食べてしまうから最初はよく足りなくなって焦った。だけど慣れてしまえば作り甲斐があって、料理を作ることが楽しかった。


「ああ。さて、この残りは仕事をしながら食べることにする」


 ふたつ、みっつクッキーをつまんだオスクはそう言ってわたしを解放した。


「たくさん作ったから、よかったら他の人にも分けてね」


 結構時間がかかったのは、そのせいもあった。

 だけどオスクは首を横に振った。


「全部俺が食べる」


「一人で?」


「レニタの手作りだろう。分けるはずがない」


 なんて断言されると、つい顔が赤くなってしまう。

 俯くわたしにオスクは微笑んで――そして何かに気づいて立ち上がった。

 どうしたんだろうと見ているとオスクはおもむろに応接室のドアを開け放った。


「おっと」


 そこに立っていたのはさっきの準騎士さんだった。勢いよく開いたドアになぜか体勢を崩しかけている。


「何をしているルーカス」


 ちょっと渋面になっているオスクに準騎士……ルーカスさんはにかっと笑顔を浮かべた。


「オレ、もう仕事上がりで明日休みだから実家帰るんですけど、よかったら奥さん送ってった方がいいかなと思って」


 みればルーカスさんはその手にさっきはなかった鞄を下げていた。


「もう日も落ちてますし、一人で帰すのはと」


 するとオスクは腕を組んでじっとルーカスさんを見つめていたけど、やがて一つ息をついた。


「そうだな。そうしてもらえると助かる。レニタ、送ってやりたいところだが時間がない」


「あ、うん。忙しいのにごめんね、お仕事がんばってね」


 慌てて立ち上がるとオスクから制止の声がかけられた。


「そろそろ寒くなる時期だからな。着ていけ」


 ふわりと肩から掛けられたのは、オスクが来ていた騎士服の上着だった。

 オスクのは大きすぎて肩がずり落ちてしまうけど、なんだかあったかくてくすぐったい。


「身体に障るといけない」


「大丈夫だよ?つわりも全然来ないし」


「とにかく気をつけてくれ」


 そういってお腹を撫でられて、はーいと返事をする。

 わたしとオスクの中ではそれで話も終わったんだけど、ルーカスさんはまじまじとオスクを見つめた。


「早すぎじゃないですか、オスクさん」


「知らん」


 なんてやり取りにちょっと恥ずかしくなって、誤魔化すように笑う。


「すみません、よろしくお願いします」


「はい。――それじゃあちゃんと送り届けますんで」


 そうしてもう一度最後にオスクを見上げた瞬間――

 後ろでルーカスさんが口笛を吹いたのがわかった。


「気をつけて帰ってくれ」


 軽いキスを落とされて、いよいよ顔が赤くなってくる。


「も、もうっ」


 流石にへたりこむことはなくなったけど、不意打ちはまだ慣れない。

 満足そうに微笑むオスクにわたしは怒ったように背を向けるのだった。


 それからの帰り道。

 ルーカスさんから根掘り葉掘り花の都でのことを聞かれてしまったわたしは、全てを正直に答えてしまうことになった。

 それがまさか、堅物ほど以外という言葉を騎士団内に流行らせることになるとは、この時は露ほども思わなかったのだった。

何度も何度も書き直したら二ヶ月も間が開いてしまったオスク編ですがようやく終了になります。

しばらくは書き直しだったり全く別世界の話を書いたりしたいので、更新が止まるかもしれませんが戻ってきますので、その際にはまたお付き合いいただければと思います。


読んでいただきありがとうございました。

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