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騎士団は恋が好き  作者: 葵翠
【一途】ルーカス
26/79

後日談.三兄弟の事件

 楽しんでいただければと思います。

 大事な姉ちゃんが二年と半年前に結婚した。

 相手はこの街の英雄で、駐在騎士のルーカスさんだ。

 すごく頼りにになるし強くて面白いルーカスさんはどういうわけか姉ちゃんにぞっこんで、姉ちゃんもまんざらではない様子で寄り添っていた。

 そんな姉ちゃんは結婚してからはなんだかすごく柔らかくなって、自分たちがいかに姉ちゃんに頼りきって負担にさせていたのかが窺い知れるようだった。

 今は兄弟みんな姉ちゃんに頼らないように独立しているけど、頼る頼らないは別としても定期的に姉ちゃんの顔は見たかった。

 だから三ヶ月に一度はみんなで集まってご飯を食べていたんだけど。


 ある日姉ちゃんがその席で問題発言をした。


「あと一ヶ月で王都に引っ越すと思うと、なんだか寂しくなるわね」


 王都に引っ越す。

 ――姉ちゃんが!?

 ずっとこの街にいるものだと思っていた姉ちゃんが、移動に一ヶ月はかかるはずの王都に引っ越し!?


 全く考えたことのないこの状況に、食事の席は驚くほどに凍りついたのだった。



<アラン視点>


「どうしよう、アラン兄ちゃん!?」


 姉ちゃんが衝撃的な発言をした翌朝、レオンが俺に縋りついてきた。


「姉ちゃんが王都に行っちゃうよ!離れ離れになっちゃうよ~!」


 一番甘えていた末っ子のレオンは涙で顔をぐちゃぐちゃにしていた。


「驚いたよな。俺もびっくりした」


 そんなレオンを宥め、ため息をつく。

 正直なところ、まさか姉ちゃんがこの街を出て行くなんて露ほども考えたことはなかった。

 ルーカスさんとここで一生生きて行くんだと当然のように思っていたけど、どうやら違ったらしい。

 姉ちゃんの話を聞いたところによるとルーカスさんは姉ちゃんと結婚する為だけに一時的にこの街の駐在騎士をしていたようで、三年の任期を過ぎると王都へ戻って再び調査騎士になるという。それも、騎士長という昇進を果たした上で、だ。


「ボク、姉ちゃんと会えないなんて耐えられないよっ」


 言ってレオンが鼻を拭く。

 えぐえぐと床に座り込むレオンにため息のように言葉を吐き出す。


「そんなこと言ったって、それが姉ちゃんの望みだろ」


 俺だって姉ちゃんと別れるのは辛い。

 いつだって苦しい時、悲しい時に支えてくれたのは姉ちゃんだった。

 呆れながらも温かく迎えてくれたのは、他の誰でもない姉ちゃんだった。


「でも〜っ」


「レオン」


 なおも言い募るレオンに、思わず低い声が出る。

 びくりとレオンが震え、静かに俺を見上げた。


「姉ちゃんが倒れた時に話し合っただろ」


 レオンの気持ちは痛いほどにわかる。

 けどそれじゃあまた俺達は姉ちゃんを縛りつけることになる。

 そんなことはあってはいけない事だった。


「アラン兄ちゃんの人でなしっ」


 再びじんわりと涙を浮かべたレオンはそう言い捨てて駆け出した。


「誰が人でなしだ……っ」


 近くにあった棚を殴りつけ、怒りをやり過ごす。

 人の気も知らないで好きなこと言いやがって。

 俺だって、できるならこの街にいてほしいさ……!



<カイン視点>


「カイン兄ちゃんっ」


「うん?どうしたのさレオン」


 仕事を終えて商人ギルドの支部を出た僕は、どうやら待ち構えていたらしいレオンに捕まった。


「えらいな、ちゃんと待てたんだね」


 前なら建物に押し入って呼び出されていたけど、ちゃんと仕事中はダメなんだと待てるようになったらしい。

 よしよしと頭を撫でてあげればレオンは少しだけ笑み、そしてすぐに首を振った。


「そんなことより、姉ちゃんだよ」


「姉ちゃんがどうかしたのかい?」


 言われて思い出すのは昨日の食事会。

 何となく姉ちゃんはこの街を出るんだろうって思ってたけど、どうやらその時が来たようだった。


「どうしてそんな平気な顔してるの!?いなくなっちゃうんだよ!?」


 どうやらレオンはそれが不服らしい。

 レオンは一番甘えん坊だからなぁ。


「そりゃあそうでしょ。ルーカスさんは騎士なんだから。今までこの街にいた騎士だってみんな何年かしたら別の街に移っていったじゃないか」


「それは、そうだけど」


 しょうがない、ちょっと付き合うか。

 俯くレオンの肩を抱いて歩き出した。


「姉ちゃんはさ、ずっと僕らのこと守ってくれてたよね」


 それこそ小さい頃から面倒を見てくれて、特にレオンにとっては母親ような存在だった。


「うん」


「何をするでも僕ら弟のことを最優先にして、自分のことは後回し」


 そうだったよね、と目で問えばレオンは何度も小さく頷いた。


「でもそうしたら、姉ちゃんはやりたい事、できないよね?」


 姉ちゃんが風邪で倒れた時、自分達がどれほど姉ちゃんに頼りきっていたのか思い知った。

 姉ちゃんはしっかり者で、嫌な顔一つしなかったからまるで気がつかなかったけど、本当はいろいろなことを諦めてきたのかもしれない。

 僕がそう言うと、レオンはぐっと押し黙った。

 レオンだって本当は分かっているはずだ。


「僕だって姉ちゃんとの別れは寂しいよ?でも、姉ちゃんに幸せになってもらいたいって気持ちも大きい」


 そう言えば、レオンは手の甲で涙を拭った。


「っアラン兄ちゃんが」


「うん?」


「王都に行くのが姉ちゃんの望みだって」


 昨夜レオンは兄ちゃんのところに泊まったんだっけ。きっとレオンは駄々をこねて怒られたんだろうなぁ。

 兄ちゃんも姉ちゃんのこと好きだから、余計にイライラしたかもしれない。

 とりあえず――今日は飲んで帰らせよう。


 そう思って立ち寄った酒場で、酔ってぐでんぐでんになってる兄ちゃんに出くわすとは、まさか思いもしなかった。



<レオン視点>


「俺だって、姉ちゃんには近くにいてほしいよ……!」


 アラン兄ちゃんが荒々しく麦酒のジョッキをテーブルに置いた。


「そんなこと、当たり前だろ!?」


 その顔はすでに赤くなっていて、相当酔っているのが分かった。


「けど、姉ちゃんは……幸せになんなきゃダメなんだ!」


 くぅっと男泣きするアラン兄ちゃんは、今まで見たことのない荒れっぷりだった。


「レオン、ひょっとして朝、兄ちゃんになんか言った?」


 ボクと並んでアラン兄ちゃんを見るカイン兄ちゃんは、やや口を引きつらせてボクを見下ろした。

 なんか言ったっけ。感情のままに口走ったから。あ。


「人でなし、って言った」


 捨て台詞のように言って家を出て言ったんだった。

 するとカイン兄ちゃんはがっくりと額当に手をついて俯いた。


「レオン、兄ちゃんだって姉ちゃんが出てくの、辛くないわけないだろう?」


 うおー、と涙を流して麦酒を流し込むアラン兄ちゃんに、カイン兄ちゃんの言葉が嫌という程理解できる。


「……うん、ごめん」


「とりあえず、兄ちゃん回収して帰ろうか」


「そうだね」


 カイン兄ちゃんが飲み代を支払うと、ボクらはアラン兄ちゃんを挟むようにして家に連れ帰るのだった。


 家に着いてからは無法地帯よろしく、混沌とした飲み会になった。


「アラン兄ちゃん、ごめんね、人でなしなんて言って!」


「俺だってなぁ、俺だって寂しいんだちくしょー」


「うん、僕も寂しいよ」


「ボクもっ」


「けど俺は姉ちゃんだけでない、カインもレオンもいる!二人のことも大事だ!」


「っアラン兄ちゃん……!大好き!」


「これからは姉ちゃんの分まで俺が頑張るからなっ」


「あ、それいいな。僕の面倒も見てくれる?」


「あったりまえだ!これからはにいちゃんをたよれ!」


「これからはさんにんでがんばろうねえ!」


 そんなこんなで、夜は更けて行くのだった。



<ヒルダ視点>


 家族揃っての食事会から二日目の昼。休日だったわたしはなんだか不安でたまらなかった。

 ルーカスが一ヶ月前まで黙っておけって言うから従ったものの、言った途端にその場が凍りついたのがわかった。


「大丈夫だって。あいつらバランス取れてるんだよ。三人いりゃあうまいこと補い合えるって」


 とは今朝の出仕前のルーカスの弁である。

 確かに真面目で思い詰める所のあるアランと、適当な所はあるけど柔軟なカイン、ふわふわしてるけど一度決めたことはやり通すレオンはバランスが取れてるのかもしれない。

 それにわたしが結婚してからは弟達の顔つきも徐々にしっかりとしてきた。まだ少し頼りないけど、それでも泣きつくことのなくなった弟達は立派に独り立ちしたと言える。


「そう、よね」


 ルーカスに言われた言葉を反芻して、気持ちを切り替える。

 弟達のことが心配だし寂しいけど、今生の別れとまではいかない。

 と、そんな事を考えていると、不意に玄関のドアが叩かれた。


「ミエトさん、いらっしゃいますか?」


 一体何だろうかとドアを開ければ、困惑した様子の女性が三人立っていた。

 一人はアランのいる工房の一人娘さんで、一人はカインの所の受付嬢、もう一人は見たこともない裕福そうなお嬢さんだった。

 ドアが開いたことに三人はほっとしたようだった。


「なにか?」


 奇妙な取り合わせの三人に尋ねれば、ギルドの受付嬢が代表して口を開いた。


「その、カインさん達が、今日、誰も出勤していないんです」


「――え?」


 全く予想だにしない言葉だった。

 カイン達が誰も。


「昨日、アランさんがすごく思いつめてて心配してたんです。あんな怖い顔、今まで見たことがなかったし」


 というのは工房の一人娘さんで、


「カインさんは女性には不誠実な人でしたけど、仕事は真面目でした。休んだことなんて一度もないんです」


 ギルドの受付嬢は心配を露わにしていた。そして残るお嬢さんはといえば、


「れ、レオンは一昨日の夜から帰ってきてないんですの!食事会に行くとは聞いてたけど、それっきりなんの連絡もなくって……今までおやつだけはちゃんと食べに帰ってきてましたのに!」


 ……ん?

 なんか妙なのが混じったわね。

 一瞬眉をしかめたものの、とりあえず今は置いておこうと深呼吸する。


「三人とも、仕事に出てないんですね?」


 もう一度確認に聞けば、それぞれに頷いた。


「家に行っても物音もしなくって、それでお姉さんが住んでた家に行ったら、皆さんが」


 なるほど。そうして話し合った結果、ここにきたらしい。


「何か知りませんか?」


 問われて食事会のことが思い出される。

 ――ひょっとして、思いつめてて何かした!?


「一度家に行きます!」


 血相をかえてわたしは鍵を引っ掴むと、三人を連れてアランへ譲り渡した実家へと急いだ。


「アラン!いる!?」


 物音はしなかったと聞いたけど、家の中に何か残っているかもしれない。

 鍵を開けて真っ直ぐに居間に入り――


「ね、ちゃ……」


「大きい声ださないで」


「あったま、いたーい」


 そこで目にした光景に唖然とした。

 乱立する酒瓶。

 アルコールや汗や、なんかとにかく気持ちの悪いものが充満する空気。

 一様に頭を抱えて突っ伏する三人の、弟達。


「うわ……これはちょっと……」


「不潔です」


 と心底引く二人の女性を置いて、お嬢様が真っ先にレオンに駆け寄った!


「レオン!レオン!!」


「うあー……大きい声ださないで……」


「心配しましたわよ!今日はわたくしの絵を描いてくれると仰っていたじゃありませんか!」


「あ、だ……ぅえ……」


 二日酔いの頭に大声と揺さぶりという攻撃を仕掛けられたレオンはそれだけで息も絶え絶えになっていた。


 なんというか。


「あんた達ねぇ……!」


 立派になったと思ったのに、なんて有様だろう。

 呆れを通り越して怒りしか湧かない。


「何やってんのよ!!」


 お腹の底から怒声を響かせると、わたしは三人に大説教を食らわせるのだった。


 + + +


「ごめんなさい」


 二日酔いがやや治った三人は床に座って小さくなっていた。


「全くだわ」


 腰に両手を当てて見下ろすわたしは怒りの表情のままである。

 ちなみに居間の掃除は三人の女性が手伝ってくれた。

 窓は開け放たれ、瓶はまとめられ、食べこぼしや飲みこぼしの散乱していた床は――お嬢様が連れてきた使用人によって――きれいに磨かれた。

 無断欠勤した上に掃除までしてもらうとは、申し訳なさすぎる。


「なんだってこんな事になったのよ」


 一通りの怒気が落ち着いたわたしに、床に並ぶ弟達はお互いの顔を見やった。


「だって」


「姉ちゃんが……」


「街を出てくっていうからー」


「だからって人様に迷惑かけないの!」


 わたしだけならともかく、職場の人にまで迷惑をかけるとはなんたること。


「寂しかったんだよ、みんな。姉ちゃんがいなくなるって」


 最初にそう零したのは意外にもカインだった。

 いつもならレオンが真っ先に泣きつくのに。


「それでみんなで励ましあったんだ。これから三人でがんばろうって」


「ボク、姉ちゃんがいなくなるのは寂しいけど、ちゃんと笑顔で見送るよ」


 そう言ったのは、涙の浮かんでいない、強い決意を秘めたレオンだった。


「……あんた達……」


 そんな健気な弟達に嬉しくなると同時に、立派になった姿に少しだけ寂しさを感じた。


「わたしがいなくなっても、もう大丈夫になったのね」


 思わず涙が滲む。

 これならもう心配いらない。

 ちょっと人騒がせだったけど、きっと弟達は支えあえる。


「もしそうじゃなかったとしても、安心してください」


 と、それまで様子を見ていた女性達がソファから立ち上がった。

 なんだろう、と思っているとそれぞれに弟の元へと向かう。


 まじまじと見ていると、アランが首根っこを掴まれた。


「いずれ工房を継いでもらうので、婿として立派に教育させていただきます」


「婿?そ、そんな話聞いてない!」


「工房を継ぐということはそういうことですよ」


 アランが悲鳴をあげているけど、にっこり笑顔の娘さんに黙らされた。


「このヒトのことは、私がきっちり見ておきます」


 カインの耳を引っ張り立たせたのは受付嬢。その目はどこか冷たいものが混じっている。


「それはちょっと、どうかな〜」


「私、初めては結婚相手じゃないと嫌だって言いましたよね?」


「あー…」


「まさか騙したんですか?」


「そういう訳ではないけど」

 

 そして残るレオンはといえば、ぎゅーっとお嬢様に抱きつかれている。


「レオンはお父様がかかえている画家ですの!ゆくゆくはわたくしをお嫁さんにしてもらうんですのよ」


「うん、よろしくね」


 レオンは自分を抱きしめる小さな手を握ってにこにことしていた。

 前に三食昼寝におやつ付きとか言っていたのは、冗談ではなかったらしい。


 いや、それよりも。


 改めて三人、いや、三組の姿を見て、わたしは目を細めた。

 突然のことにびっくりしたけど、どうやら弟達はそれぞれに伴侶を見つけていたらしい。


「お義姉さまに安心してもらえるように、しっかりと支えてみせます」


「このヒトの管理はお任せください」


「レオンはわたくしが守ってみせますわ」


 これならもう、わたしは前を向いて王都へ行ける。


「弟のこと、よろしくお願いします」


「お任せください」


 三人の女性に頭を下げると、それぞれに女性達は頷くのであった。


 + + +


 姉ちゃんが去った家の中。


「え、ちょっと、本当に?」


「よろしくお願いしますね、お婿さん?」


「俺、長男……」


「カインさんがいらっしゃるでしょう?」


「わたしは嫁入りで問題ありませんので、心配はいりませんよ、お義兄さん」


「お、おに……いやいや、僕まだ結婚する気は」


「そうやって逃げるつもりですか?本当にあなたは誠実さの欠片もありませんね」


「だったらなんで僕のこと選んだのっ?君の意思もあったよね!?」


「兄ちゃん達もちゃっかりいい人見つけてたんだねー」


「そのようですわね。さっ、帰りますわよレオン」


「うん、今日は約束破ってごめんね?」


「わたくしをお嫁さんにしてくださるという約束さえ守っていただければ結構ですわ」


「もちろんだよ、大好き」


「レオン、待て、見捨てるな」


「抜け駆けはダメだよレオン」


「――観念してください!」


「ひぃっ」


 残された三兄弟は混沌とするのだった。

 読んでいただきありがとうございます。

 ゆっくりと思いましたが明日も投稿予定です。

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