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騎士団は恋が好き  作者: 葵翠
【一途】ルーカス
23/79

恋の行方

 楽しんでいただければと思います。

(※2018.3.30誤字修正済み)

 オレはあまりのことに呆然としながら王都へ帰り、騎士団本部で帰還報告をして、そして自宅で叫んだ。


「うおおおぉぉぉ、マジで!まじで相手にされなかったのか?」


 半年以上も顔を合わせていなかった母ちゃんと妹へ挨拶する事もなく、頭を抱えて悶絶する。

 ヒルダが、告白をまともに受け取る事なくあしらった。


「兄ちゃん、近所迷惑」


「アンタは父さんに似て、いつまで経っても落ち着かないわねぇ」


 妹と母ちゃんが冷たい目で見てきたが、それどころじゃねえ。


「いやいや、惚れた女に歯牙にもかけてもらえねえとかヤバすぎだろ」


 一通り叫んだ後にぶつぶつと呟けば、様子を見ていた妹が聞いてきた。


「なに、好きな人できたの?」


 驚きつつも興味を引いたようだ。


「おう。すっげえ可愛い女だ。あれは間違いなく運命の女だ。なのにっ」


「相手にされなかったと」


「……言うな」


 床に膝をついて遠い目をするオレの背を母ちゃんが叩いた。


「足しげく通い詰めなさい。父さんもそうだったんだから」


「父さんが?」


「そうよ。毎日毎日、店に通ってきてねぇ。そりゃあもうしつこくって、根負けしちゃったのよ」


「ふうん」


 という二人の会話を聞き流し、今後について考えを巡らせる。


 通うって、王都から一ヶ月の道のりのあの街にか?

 いやいや無理だろそれ。

 けど諦めるのかと聞かれれば諦めたくないわけで。

 あの街への定期的な連絡係はヨーナスとの打ち合わせ段階では情報部で担うような形になっていた。ってことはその連絡係になれるようにうまいこと騎士長たちをそそのかせばいいのか?

 もし誘導できなかったら定期連絡の期間に山の都付近の街に待機しようか。そうしたら連絡係として指令がまわってくるはずだ。

 もし回ってきそうもなければ今まで溜まりに溜まった他の奴らへの貸しを返してもらうって方向で話をつけて、貸しのないやつは脅して……


「やるしかねえな」


 床についた手に力を入れて、顔を上げる。


「あら、いい顔つきじゃない。父さんそっくり」


 父ちゃんが死んで早十五年。女手ひとつでオレと妹を育て上げた母ちゃんはそう言って口の端を上げた。

 覚悟を決めたオレは外見は父ちゃん似だが、中身は間違いなく母ちゃん似だった。


「男なら何としてでも仕留めてみせなさい」


「おう!」


 腕を組んで発破をかける母ちゃんに、オレはしっかりと勢いづくのだった。


 + + +


 それからしばらくは臨時の形で情報部事務室に詰めていた。

 今後の連絡体制についての話し合いに参加するためという名目で残ったのだ。おかげで定期連絡の期間の把握ができるだけでなく、連絡係の選出方法についてもいい具合に口を出して操作した。

 結果――大っ嫌いな書類仕事を請け負った甲斐もあって半年に一度の連絡にはオレが行くことがほぼ確定になった。


 っつーわけで、オレは意気揚々と半年後に山の都へと向かった。


「おつかれー」


「ルーカスが連絡係ですか?」


 一回目の定期連絡に駐在所に顔を出すと、トゥーレがいた。


「おう。連絡係に任命された」


 にっと親指を立てて笑って見せれば、トゥーレは胡乱げに見つめてきた。


「ルーカスがそうし向けたのでは?」


「なんだ、よくわかったな」


「そうでなくては準騎士や私のような若手がやっているはずですからね。ルーカスならその辺りの交渉もお手の物でしょうし」


 トゥーレは肩をすくめ、そしてオレの目を覗きこんだ。


「ですが、なぜわざわざこんな役目を?」


 オレがし向けたことは分かっても、どうやらその意図までは分からなかったらしい。

 純粋な疑問を向けられて、オレは正直に答えた。


「ヒルダに会いたくて」


「はい?」


「この前帰り際に求婚したらあっさり断られてよ。けどやっぱ諦められねえんだわ。だからなんとかこの街に通える口実をと思ってな。で、連絡係になった」


 するとトゥーレは何度か瞬きを繰り返し、やがて短く反芻した。


「パーシオ先生に求婚」


「おう」


「パーシオ先生に?」


「ヒルダに」


 なんでそこで確認されるかわからないが力強く肯定すれば、トゥーレは訝しげに尋ねてきた。


「……フライパンで殴られたのにですか?」


「だからだよ」


 怖くてたまらなかったくせに、自分を奮い立たせたヒルダ。その健気さと、本当は弱くて脆いその姿がたまらない。

 だがトゥーレはしばらく悩むそぶりを見せた。


「理解はできませんが。ルーカスがそう言うのならそうなんでしょう」


 釈然としないままにトゥーレはそう結論付けた。

 理解はされなかったらしいが、ヒルダの可愛さはオレだけが知ってればいいしな。


「っつーわけで、あと二日滞在してから帰るわ」


 連絡係としての仕事を全うしたらあとはヒルダの家でごろごろして、街でも見て帰ろう。

 そう思って言えば、トゥーレは首を傾げた。


「連絡係の滞在期間は特に何の問題もなければ一日なのでは?ただでさえここは遠い地なわけですし、本部が無駄に時間を許すとは思えませんが」


 どうやら気づいたらしい。

 オレはにっと口の端を上げると、胸を張った。


「この前の事件で使った救出ルートあるだろ。あれの一部を使って山道の短縮に成功した」


 このことについては本部には報告していない。


「つまり、その浮いた時間をここでの滞在に使う、と」


「そういうこった」


 一日の滞在期間なんて街についてトゥーレやヨーナスと話して、一日寝泊りしたらすぐ出立だ。そんなの短すぎてヒルダとの交流がもてねえからな。

 ちなみに山道の短縮も成功しているが、山の麓までのルートもざっくり短縮している。今回は二泊が限界だが改良の余地があり次は三泊はできそうだ。


「っつーわけで、やることやったら好きにさしてもらうわ」


 このことは黙っとけよ?と視線を送ればトゥーレは嘆息していた。

 そうして巡回から戻った騎士と昼出勤だったらしいヨーナスと四人顔を突き合わせて打ち合わせを始める。


「報告書のとりまとめだ。持ってってくれ」


 打ち合わせを終わらせると、今までは定期的にやってくる商隊に任せていた定例報告書――今度から連絡係が運ぶことになった――を受け取りオレは懐に仕舞った。


「んじゃ、また半年後にな」


 手を振って駐在所を後にすれば、残りはオレの自由時間である。

 ふんふんと鼻歌交じりにヒルダの家の鍵を放っては握ってを繰り返しながら市場を歩く。

 鍵はもらったまま返してはいなかった。返せとも言われなかったしな。


「情報屋の兄ちゃんじゃねえか!」


「おう、久しぶりだな」


 子供救出の時にいた自警団のおっちゃんに声をかけられ、手を上げて応える。


「どうした、なんかの仕事か?」


 あれ以来事件らしい事件の起きていないこの街は平和で、おっちゃんも陽気そうだった。


「まあな。つってももう終わったから、何日かのんびりして帰るわ」


「なら夜一緒に飲まねぇか?兄ちゃんだったらいつでも歓迎だぜ?」


 トゥーレが触れまわったおかげでオレはこの街では英雄扱いされていた。――とはいっても、顔まで知られてるのはごく一部なんだが――だからかオレを知ってる奴はみんな好意的だった。


「お、いいなあ。けど悪い、予定があんだわ」


 笑顔で言えばちょっと残念そうにしながらもおっちゃんは引いてくれた。

 やっぱまずはヒルダに会いたいしな。

 今度は鍵の輪に人差し指を入れてくるくるとまわし、オレは勝手知ったるヒルダの家へと向かうのだった。


「おかえりー」


 ヒルダが返ってきたのは日が傾き始める少し前のことだった。

 市場で買い物をしてたらしく、その手には鞄の他にも二つの紙袋が抱えられていた。


「ただいま……っていうかなんでいるのよ」


 前にも聞いたことのあるセリフを聞きながら、オレはヒルダの手から紙袋をとりあげた。


「仕事できたからよ。ほら、言ってたろ?街に来た時は寄れって」


 居間のテーブルに紙袋を置いて中を開ければ、一つは野菜が、一つはパンが入っていた。

 台所で出したほうがよさそうだともう一度紙袋を持ち上げればヒルダはため息をついた。


「言ったわ。けどなんで勝手に家に入ってるのよ」


「それはほら。鍵貰ったから」


 言いながら台所へ向かえば、ヒルダはもうひとつため息をついて二階へと上がっていった。

 台所で再び紙袋を開けて野菜を取り出す。

 今日の夕飯に使うのか、それとも明日の朝食か。それほど量はないから買い置きってわけではなさそうだが。

 そんなことを考えているとすぐにヒルダが降りてきた。


「夕飯食べてくでしょ?」


「おう。っつーか泊めて」


 直球で言えばヒルダは取り出してあったカボチャをまな板の上に乗せた。


「はいはい」


 嫌そうな素振りはなく、むしろごく当然のように受け入れてくれているヒルダは少なくともオレに好意はあるんだろう。

 なら会う回数をこなしさえすればきっとオレに傾いてくれるに違いない。


 + + +


「なんで断られるんだ?」


 四年後、オレは騎士団本部の食堂で遠い目をしていた。

 今なおヒルダはオレの求婚を受け入れてはくれなかった。

 会う度に求婚するが最初の時と何ら変わりないヒルダ。いや、むしろ呆れが強くなっているかもしれない。

 テーブルに頬杖をつくオレに、ヒルダ同様の呆れ顔を寄こすのは向かいに座るトゥーレだ。


「性格のせいでは?」


 さらりと言われた言葉はまったくもって好青年のそれではなかったが、トゥーレはこの三年の王都勤務で広報部のエースとまで言われるほど有名で将来有望な騎士となっていた。

 ちなみにこの毒はオレの前でしか吐かれない。今は食堂にいちゃあいるが、近くの席には誰もいないから聞かれることもない。なかなか完璧な猫を被っている。


「いやいや、嫌われてはいねえって。じゃないと毎度毎度飯作って泊めてくれねえだろ」


「確かにそれはそうですが」


「それによ、オレだって情報部のエースだぜ?」


 一応これでも騎士長が絶対に他へは行かせないとがっちり囲っている騎士の一人である。自分で言うのもなんだが、調査に関しては他の同僚には負ける気がしなかった。


「それはパーシオ先生は知らない情報ですよね?」


 なんて的確な突っ込みが入る。


「まあなー。けどよ、騎士だぜ?憧れの職一位にして、結婚したい相手職一位だぜ?騎士ってだけでも引く手数多なはずなのに」


 未だに山の都ではただの情報屋という身分ではあるが、ヒルダだけは騎士であることを知っている。

 だからオレは一般的にみれば結婚相手としては魅力的なはずだった。にも拘らずヒルダは靡いてくれない。

 面白くなくてむくれていると、トゥーレは茶を飲み干してやや考える素振りを見せた。


「――やっぱり性格ですよ」


 再度トゥーレが言った。だがその表情はただの感想ではなく、なにやら確信をしているようだと窺えた。


「先ほど話したパーシオ先生の弟君のことですが」


「ああ」


 さっきまでトゥーレはヒルダの情報をオレに話してくれていた。

 というのも、今までも散々ヒルダについてを教えてくれと言っていたのに、トゥーレは広報部のあり方に背くとこの四年間ずっと突っぱねてきやがったんだが、さっきオレがトゥーレの意中の相手――アマリア嬢の重大な情報を手渡すことで口を開けてくれたのだ。


「なんというか、やや独特な方達のようですよ」


「独特?」


 弟が三人いるらしいことは知っていた。だが会ったこともないし、街で噂を聞きつけるようなこともなかったんだが。


「ええ。言い方は悪いですが、姉離れできない頼りない弟といいますか」


「姉離れ、ねえ」


 その割には家で出くわしたことはない。

 まあオレが半年に二回、合計で五、六泊しかしてないからかもしれねえが。


「なんでもかわるがわる、時には同時にパーシオ先生のもとへ駆けこんでは助けを求めて泊まり込んでるようですよ?」


「へー」


 たまにヒルダの口から弟の話が出るが、そんな話は聞いたことがなかった。

 それがどうかしたのか、と割とどうでもいい返事をするとトゥーレが切れ長の目を細めた。


「当たり前のように泊まり込んでいるんですよ」


 ヒルダのところは居心地いいしな。その気持ちはよくわかる。オレだって――ん?

 まて、ちょっと反芻してみよう。


 当たり前のように(・・・・・・・・)泊まり込んでいる(・・・・・・・・)


「それか!」


 思わず手を叩けば、トゥーレはゆっくりと、だが確実に頷いた。


「それです」


「っつーことは何か?オレは弟として見られてたってことか?」


「今ある情報だけでは何とも言えませんが、おそらくルーカスの言動と弟君の言動がなにかしら一致しているのではと」


 なるほど。

 弟だったら、求婚されても呆れるだけで取り合うわけねえよな。

 でもって弟にはそりゃあ無条件で家にも泊まらせるし飯も作るわな。


「てことはまず弟との差を見せつけて、違うってところを意識づけなきゃいけねえのか」


 けど年に数回しか会わないってのにどうやればいいのか。

 しかもヒルダの家に泊まらない、飯も作ってもらわないとか、全然顔を合わせる時間がなくなるじゃねえか。


「さて、そろそろ時間ですね」


 悩んでいるとトゥーレが薄い本を手に立ち上がった。


「貴重な情報をありがとうございます。最大限に有効活用させて頂きますね」


 にっこりと笑うトゥーレの腹黒いこと。

 オレ自身の為とはいえ、この男の犠牲になるアマリア嬢には同情を禁じ得ない。

 ま、トゥーレはきっと溺愛するだろうから幸せにはなるんだろうが。


「おう。こっちもありがとな。いろいろ作戦練ってみるわ」


「ええ、お互い頑張りましょう」


 そうしてトゥーレは颯爽と去っていった。

 残されたオレは今後の対策に思い更けるのだった。


 + + +


 ヒルダの家に泊まらずに、弟とは違うという印象づける方法。

 あれこれ考えたが、結局のところ一番問題なのはヒルダと交流を持てる時間があまりにも少ないということだろう。

 だが情報部にいれば現状が一番ヒルダとの時間が多いはずだ。これ以上は少なくなれど長くはならない。

 ヒルダと長く居られるようになるにはやっぱり広報部に異動して山の都勤務になることだろう。


「転属するしかねえか」


「――また転属する気か?」


 ため息交じりのオレの呟きに、背後から声がかかった。

 やや堅く真面目な声は、オレが昔世話になった先輩のものだった。


「おつかれさまっす、オスク先輩」


 振りむけばそこには声以上に堅い雰囲気のオスク先輩が佇んでいた。

 真っ直ぐにのびた背筋に、大柄な体躯。護衛部の次期騎士長と噂されているオスク先輩はオレの恩人でもあった。


「ああ。それで、転属とはどういうことだ?まさか情報部も肌に合わなかったわけではないだろう」


 オスク先輩はしかめっ面にも見える真面目顔でオレの向かいに腰を下ろした。

 手にしていたトレイふたつをテーブルに置く。今日も大盛り、三人前なのは身体が資本の護衛部では割と普通なことだ。ちなみにオレもそんくらい食うときゃ食うが毎日じゃない。

 まあ、それはともかく。


「いえ、オレにとって情報部は天職です。オスク先輩に諭してもらって、本当に良かったですよ」


 オレはそう言って首を振った。

 息もできないような詰まった空気の中で藻搔いた護衛部時代。それでも母ちゃんと妹を王都に残していくことができずに護衛部にしがみつこうとするオレを諭したのは他の誰でもない、オスク先輩だった。

 オレの苦悩を丸ごと理解した上で情報部に行けと示してくれたおかげで、オレは楽しく過ごすことができるようになった。


「なら何故?」


 食事を口に運びながらチラリとオスク先輩がオレを見る。


「好きな女ができました。なかなか会えず進展がないままもう四年も過ぎてるんです。これ以上は広報部にでもなって駐在派遣されないと先は望めません」


「……女の為か」


 クソがつくほど真面目なオスク先輩だが、色恋沙汰については絶対に人の事は笑わなかった。――笑えない、という方が正しいのかもしれねえが。

 オスク先輩は騎士長を目指す為に一度は情報部へ所属したんだが、その時に婚約者のいる女に惚れ込み強奪した。真面目一徹、堅物のオスク先輩が、まさかの略奪愛である。騎士としてはあまりに外聞が悪く、ペナルティをつけられたオスク先輩は未だに騎士長にはなれていなかった。

 ちなみに本人はそれでも手に入れたかったと熱愛を語っているわけで、後悔はしていないようだが。


「そういやオスク先輩、そろそろ謹慎解けるんじゃないすか?」


 護衛部に戻ってから数年は転属禁止を命じられてたはずだが、そろそろ解禁になる頃だ。謹慎処分が解ければ転属願いを出して別部署で三年経験を積めば騎士長になる資格を得ることができる。

 護衛部は代替わりの時期を迎えているが、ぶっちゃけオスク先輩以外に適任はいないから、謹慎が解けるのを待っている状態だった。


「ああ。春から教育部に異動することが決定している」


 オレの質問にオスク先輩は頷いた。

 教育部とはまた、厳正な部署だ。オスク先輩にはちょうどいいだろう。


「いいなー。オレも異動してえ。けどこれ以降ずっと広報部とかもキツそうなんだよな……」


 正直、ヒルダとの婚姻を結べば情報部に戻りたい。

 だがそんな事を管理部が許してくれるかどうか。いや、それ以前にうちの騎士長が情報部から出してくれねえよな。

 うーん、と腕を組んで首を捻ると、オスク先輩が意外だとでもいうような顔をした。


「簡単なことだろう」


「え、なんすか?」


 いまいち分からずに聞き返せば、オスク先輩が確認するように口を開いた。


「ルーカスは護衛部で三年、精神状態はともかく評価は優秀だったな」


「ですね」


 ぶっちゃけあの堅っ苦しい空気は苦痛でしかなかったが、それでもやるべきことはこなしていた。


「情報部はもう五年以上になるか。今の評価は最高のものだろう」


「まあ、そうっすね」


 オレに任せれば欲しい情報は確実に入ると言われているし、確実に手にいれる自信もある。

 が、オスク先輩は何が言いたいんだ?


「情報部もそろそろ代替わりだろうが、候補はいないんだったな」


「ですね」


 自由を好む、癖のある奴らばっかりの情報部で上に立ちたいという特異な人間はそうそういない。

 騎士長が密かに頭を悩ませているのは知っているが、オレにとっては割とどうでもいい事だったんだが。


「まさか」


 オスク先輩の言いたいことが分かっちまった。

 そんなオレの反応に気付いたオスク先輩がゆっくりと頷いた。


「三年、広報部で好成績を残して情報部の騎士長になると宣言すればいい」


 そうすれば一時的に情報部を離れても騎士長は了承してくれるし、オレも情報部に帰ってこれる。

 三年間あればヒルダを口説くのに十分である。それで落とせなかったらもう諦めるしかない。

 いや、だが。


「騎士長……騎士長か」


 ただの調査騎士なら好き勝手しても多少怒られるだけで済むが、騎士長となるとそうもいかない。

 それに、一箇所にとどまるよりも自由に動き回れるところがオレには合っている。騎士長は基本的には本部に詰めているものだから、それが耐えられるかどうか。まあ護衛部よりはましなんだろうけど。

 思い悩むオレに更にオスク先輩は言った。


「せっかく結婚しても、共に過ごす時間がほとんどない状態で満足できるのか?」


「――無理っすね」


 情報部は各地を飛び回るのが仕事だから、新婚なのにといろいろと嘆いている奴らがいるのをよく目にしていた。

 騎士長や細かい指示を取りまとめる事務室もある程度は譲歩してくれたりしているが、それだってほんの僅かなもんだ。

 ヒルダとの蜜月と自由に飛び回ること。天秤にかけてどちらをとるかと言われれば、前者である。現金なもんだがヒルダとは比べるべくもない。


「なら取るべき道は決まったようなものだろう」


「騎士長かー」


 頬づえをついて未来に思いを馳せる。

 オスク先輩が護衛部の騎士長になるとして、情報部はオレ。管理部と教育部は代替わりの時期はまだまだだからこのままとして、団長はあと少しで引退。エンシオ副団長がそのまま繰り上がって団長になって、副団長はもう少しかかるがクラウスがなるだろ。

 次々と上層部の面々を思い浮かべる。オスク先輩とクラウスがいれば取りまとめは楽かもしれない。エンシオ副団長はおっかない人だが、多忙で仕事のほとんどはクラウス任せになってそこまで接点はない筈だろうから問題ないとして、となると楽は楽でも面白みがない。


「よしっ、トゥーレを誘うか」


 代替わりには早いかもしれねえが、広報部の騎士長としてトゥーレを引っ張り上げれば肘肩張っただけでなく面白みも十分に出てくるだろう。


「騎士長を目指すのに連れを作るのか?」


「なるからには楽しくねえと」


 オスク先輩からまともな突っ込みが入るが、オレにとっては重要なことだ。

 居心地のいい場所をつくらねえとあとあとキツくなるからな。


「まぁ、いい。トゥーレ騎士なら上層部からの信頼も厚いし、有能だと聞くからな」


 そうそう。トゥーレなら他の部署も難なくこなすだろう。

 ということで。


「オスク先輩、ありがとうございます。方針が決まりました」


「ああ」


 そっけない返事を聞きながら、これからオレがやるべきことを確認する。

 まずは今の広報部の騎士長の弱みを握る。で、山の都勤務にしてもらえるように強請る。

 で、そこからうちの騎士長に次代になると宣言して転属の了承をもらう。

 トゥーレには上手いこと言って騎士長試験を受けさせて、それに合格すればそれだけで外堀は埋まるはずだ。

 あとは意気揚々と駐在騎士としてヒルダのもとへ行けばいい。


「待ってろよヒルダ。絶対に、落としてやるからな」


 これからの三年間が勝負である。

 確固たる意志を胸に、オレはぐっと握り拳を作るのだった。

 読んでいただきありがとうございます。

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