表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
騎士団は恋が好き  作者: 葵翠
【一途】ルーカス
22/79

事件の結末

 楽しんでいただければと思います。

 ルーカス視点になります。

(※2018.3.30誤字修正済み)

 ヒルダに焼き菓子を作ってもらって家を出ると、オレはそのままトゥーレの家へと向かった。

 今頃はトゥーレも休憩をとり終わって準備を始めている頃だろう。

 あいつは心底有能だ。やることなすこと全部卒なくこなす。さすが新人にしてこの街に派遣されるだけのことはある。

 これでオレが調査の事を教えたらますます完璧になりそうだ。


「おつかれさまです」


 家へと入れば、すでにトゥーレは準備万端の様だった。暗い色の丈夫な服に、腰には短剣を釣っている。長剣のほうがいいんだろうが、邪魔になるからな。


「これ入れといてくれ」


「わかりました」


 ヒルダの作った焼き菓子をトゥーレに渡すと、奥の部屋でオレも着替えを始める。

 上下共に黒い服で、腿には複数のバンドがついている。そこにナイフや小道具を差し込めば完成だ。

 内密に証拠品を押収する際に貴族や豪商の家に侵入する時の服装である。


「剣は持たないので?」


 やがて着替え終わったオレにトゥーレが尋ねた。


「犯人と遭遇してもそれほど激しい戦闘にはならねえだろ」


 だったらナイフと体術で十分だ。

 なにせ犯人達は戦闘を生業とした人種じゃねえからな。いたとしても数人だろう。


「んじゃ、行くぞ」


「はい」


 ちょうど外は日が落ち始め、人気のない道を選んで街を進む。

 外門を飛び越え、予め決めていたポイントへと移動して、丈夫な木へロープを括りつける。


「手順は話したとおりな。歩けそうなポイントまで降りて周辺を探す。慣れるまではゆっくりでいい。気をつけろよ」


「了解です」


 そうしてゆっくりと崖を下る。

 崖と崖の間の孤島のようになった部分。そこに子供達は隠されていると予想していた。


 + + +


 ヒルダの家に泊まった翌日、駐在所に顔を出せばそこにはヨーナスとトゥーレが待っていた。

 夜番を終えてすっかり家に帰ったかと思っていたトゥーレだったが、夜にオレが戻らないことを気にかけて残っていたらしい。

 そこで事件の詳細を聞いた。


 どうやら応援要請を出した後も子供が失踪していたらしい。

 前日に学校に乗りこんで調べた子供の情報と、新たに失踪した子供の情報。この二つでオレはひとつの可能性に行きついた。


「黒色の女神」


「なんだ、そりゃ」


 オレの呟きにヨーナスは怪訝そうな顔をし、トゥーレは険しい表情をした。


「一年と少し前に前に殺人事件を起こした邪教ですね」


 ヨーナスは数年この街にいたから知らないとしても、トゥーレは一年ちょっと前までは王都にいたから聞いたことがあったらしい。


「ああ。虹色に揃えた七人を新月の夜に生贄として捧げると、黒色の女神が蘇るってな」


 もともと小さいながらも善良な宗教だったはずなんだが、ここ数年不穏な動きがあり、一年前に立て続いて事件を起こしたのだ。

 完遂未遂合わせて五件の事件となって国は騒然とした。事件の起きた地域の領主たちは躍起になって信者達を叩き潰したはずだが、どうやら生き残りがいたらしい。


「ですが髪の色にしても瞳の色にしてもいずれも色は重複しています」


「誕生月だよ」


 最初の事件は全員子供で髪色を七色集めていた。次もやはり子供で揃えられたのは目の色だった。だから三件目の事件は標的が予想できた為に未然に防ぐことができたんだが、四件目は完遂されちまった。

 髪色でも目の色でもない七色に揃えられるものとして、誕生月に目をつけられたのだ。しかも子供だけでなく大人も狙われた。攫いやすいという理由で子供ばかりが狙われていたが、どうやら子供でなくとも良かったらしい。

 オレが学校で目にした資料では先に消えた四人は橙、黄、碧、紫月。その後の二人に関してはトゥーレのよこした資料に載っていたが紅と藍月だった。


「――六色揃っていますね。黒色の女神は一度は頭をよぎりましたが、まさか誕生月とは思いつきませんでした」


 資料を今一度確認したトゥーレは、なんとも渋い顔だった。

 確か四件目は最初の事件から半年経っていたから、その時すでにこの街にいたトゥーレが四件目の事件の詳細を知らなくても無理はなかった。


「残るは翠月ですね」


 ここまでくればほぼ黒色の女神関連で間違ってはいないだろう。

 子供の失踪前に学校が荒らされたのは標的を絞る為に他ならない。


「あの学校にいる翠月の子供の守りをそれとなく固めろ」


「ああ」


「それから内密に一年半前からこの街に移住して来た人間を調べて、そいつらの周辺を洗ってくれ。外部の街と定期的に連絡を取り合ってる人間の素行と動向もな」


「了解」


「新月まであと五日だ。それまでに攫われた子供を見つけねえと、最悪は犯人の一人が犠牲になる形で強行するかもしれねえ。急がねえと拙いぞ」


 これだけの子供が攫われているのだから、複数犯なのは間違いなかった。

 でもって一番怪しい集団といえば。


「オレはサーカス団を調べてみる」


 子供が失踪する数日前から、この街には旅のサーカス団が入っているという。さすがに怪しい限りだ。

 報告には集客に差し支えるからとサーカス団の座長が進んで自らの拠点の調査依頼を出し、自警団もヨーナス達も何もないことを確認しているらしいが。


「頼む。何度か不意打ちで調査に入って何も出てこなかったんだが……やっぱり一番怪しいのはそこだ」


 証拠は見つからないが、ヨーナスも疑っているのだろう。

 互いに頷き合うと、オレは最後に取りまとめとして注意事項を口にした。


「これらの調査は最低限度の人数で行ってくれ。こっちが慌ただしく動けば犯人を刺激する。あくまで難航しているふうを装ってほしい」


「わかった。自警団にも応援は出すが人選はした方がよさそうだな」


「ああ」


「それとルーカスにはトゥーレをつける。こいつは優秀だ。連れて行ってくれ」


「了解。こき使わしてもらうぜ」


 こうしてオレはトゥーレを連れて子供たちの居場所の特定に励んだ。


「尾行されていますね」


「だな。二手に分かれて追われなかった方が逆尾行な」


「術中百九ルーカスさんだとは思いますが」


「だよなあ。んじゃ娼館で遊び呆けるから、尾行よろしく」


 目立つ騎士服の美青年が歓楽街で尾行とか絶対無理ありそうだが、ノリで手を振ればトゥーレは一瞬動きを止めた。


「……了解です」


 渋い顔をしながらもトゥーレは承諾した。

 てっきり弱音を吐くかと思ったが、本当に大丈夫か?ま、無理だったとしてもオレが適当に巻いた揚句に後をつければいいか。

 そう判断したが、トゥーレは二手に分かれた後速攻で服屋で着替えて目深に帽子をかぶって完璧に尾行犯の本拠地を割り出しやがった。


「今日もつけられてんな」


「そのようですね」


 どうやらあちらさんもこの時期にやってきた騎士団から依頼を受けた情報屋というのが気になるらしい。

 ここはひとつ、もうちょっと使えない情報屋を演じたほうが後々楽そうだ。っつーわけで。


「よし、今日はトゥーレも楽しむか」


「やめてください」


 何を、と言ってもいねえのにトゥーレは即座に拒否した。


「というかルーカスさん、娼館の裏から抜け出して昨夜私が尾行してる間にあちこちに忍び込んでましたよね」


「あ、バレてた?」


 一人の方が動きやすいからと尾行という口実をトゥーレに与えて分かれたんだが、気づいてたらしい。

 ちなみに明け方は尾行していた犯人――サーカス団の敷地にも入っている。


「勿論です。それで、今日はどうしましょうか?」


「相手はわかったし、尾行の必要はねえから諦めさしてすぐ調査に当たりてえな」


「では撒いてからどこかで落ち合いましょうか」


「いんや時間が惜しい。来い」


 トゥーレの腕をがっちりと掴んで歓楽街へと向かう。


「ルーカスさん、ちょっ――」


「いいからいいから。オレがちゃーんと解決してやるから、今日のとこは楽しもうぜ?」


 わざとらしく大声で言えば、トゥーレは一瞬諦めと覚悟を含んた目でオレを見返した後、負けじと大声を張った。


「職務中です!そうでなくとも歓楽街には行きませんって。聞いてますっ!?ルーカスさん!」


 抵抗しているようでオレに引っ張られるようにするトゥーレだったが、実際には抵抗していなかった。

 昨日の尾行といい、随分と頭の回転が早くて優秀な男だ。

 無茶振りにもついてこれるトゥーレを、オレは遠慮なく振り回して徹底的に調査にあたった。


 結果――犯人はサーカス団であることがほぼ確定、その拠点に接する街の外門の向こうの崖から下に子供達がいるのではと予想を立てたのだった。


 + + +


「なんだ、割とすぐ降りれる場所があんじゃねえか」


 崖を降り始めてしばらく、予想よりも早くに一度めの崖が終わった。

 するすると降りて着地すると目に届く範囲に不審なものがないかを確認してから崖を見上げる。

 慣れない動きにゆっくりしてはいるが、トゥーレは危なげなく降りてきていた。


「これは結構堪えますね」


 しばらく見守っているとトゥーレが降りてきて苦笑した。


「慣れないとそりゃキツイだろうな。だが初めてにしちゃ上出来だろ」


 オレはそう言ってトゥーレの肩を叩いた。

 それからしゃがみこんで地面に注目する。


「当たりだな」


「そのようですね」


 地面には複数の足跡が見え隠れしていた。

 その足跡は突然始まって一方向に向かっている。


「行くぞ」


 気を引き締め、足跡を辿る。

 切り立った崖の上は初めは草木もまばらだったが、そのうち緑に覆われた。

 極力物音を立てない様に進んで行くと、不自然な光を見つけて足を止めた。

 やや開けた場所で小さな炎が揺らめいている。

 チラリと振り返ればトゥーレは目だけで返事をよこし、オレは一層慎重に足を進めた。


「だりぃなぁ」


「しょうがないだろ。これも後数日で終わるんだから我慢だ」


 二人の男の奥には天幕があった。子供六人は余裕で入るような大きさだ。


「しかしよくやるよな。ガキを殺して女神の復活だとか。正気じゃねぇよ」


「俺らには関係のないことだ。仕事が終わったら巻き込まれないように逃げるぞ」


「あたりめぇよ」


 話を聞く限りではこの二人は依頼を受けた傭兵かなんかだろう。

 できれば天幕の中にも見張りがいるのか確認したいところだが、残念な事に中は見えない。

 オレはトゥーレに手で合図を送った。

 それに対してトゥーレは静かに短剣を抜く。子供が見つかった時の手順は打ち合わせ済みである。


「――いくぞ」


 低く唸るように言い放ち、オレは一足飛びに突っ込んだ。

 邪魔な位置にいる大男を蹴り飛ばして見向きもせずに天幕に飛び込めば、周囲を確認した。


「な――」


 どうやらもう一人見張りがいたらしい。

 驚愕に揺れる男が反応しきる前にナイフを投げ込みながら突進する。ナイフはすぐに肩に突き刺さり、苦痛に歪む顔を力一杯殴りつけ、鳩尾に膝蹴りを入れる。

 あとに残るは――柱に括り付けられた六人の子供だった。突然の出来事に声すら失っている子供の生存を確認し、気を失った男を引きずりすぐさま天幕の外へと出る。


「見つけたぞ!」


 外ではトゥーレが天幕を背に二人の男を阻んでいた。


「では、遠慮なく」


 オレの声にトゥーレは静かに告げると涼しげな表情のまま一気に二人の男を切り伏した。

 その手並みは護衛部と言ってもいいほどに鮮やかだった。

 更にトゥーレはのたうち回る男の切りつけた部分を踏みつける。容赦ねえな。


「貴方には質問があります」


 お?なんだ?

 どうやらオレのいないところで何かが起こっていたらしい。


「音のない笛を吹きましたね。あれは何です?」


 トゥーレのその言葉に一つ思い当たる節があり、オレは飛び出す前に放り投げた荷物を引き上げた。


「知らねぇ……っ」


 するとトゥーレは表情一つ変えずに踏む力を強めた。


「っ……本当だ!なんかあった時にっ吹けと……」


「嘘は言ってねえな、そいつ」


 荷物を開けて目的のものを探りながらそう判断すれば、トゥーレは一度足を上げた。

 男は明らかにほっとした様子だったが、直後、


「っぐあぁっ」


 再びトゥーレが踏みにじり、やがて男は激痛に意識を失った。


「おお。意外とゲスい」


 素直な感想を述べるとトゥーレが冷たく言い放った。


「無関係な子供の命を奪う事に加担する者には、これくらいじゃ到底足りませんがね」


 この数日見てきたトゥーレは紛れも無い紳士だったが、どうやらただの紳士ではないらしい。

 そんな黒い紳士は気絶した男に興味を無くしたかの様に足を下ろすと、まだ意識のあったらしい残りの男に視線を送った。


「さて、貴方はどうしましょうか?」


「ひっ」


「おーい、爽やかな好青年はどこ行ったー?」


 とりあえず声をかけながらオレは紙筒を取り出し地面へと置いた。

 ささっと紙筒に火を付けて少し離れる。


「なんです?それは」


 そんなオレの動きを気にしたトゥーレの質問の直後、紙筒から大きな音を立てて火の玉が空に飛んでった。

 自然と火の玉を見上げると、やがてそれは大輪の花を咲かせた。


「花火。さっき笛吹かれたんだろ?多分それ、鳥使い用のだわ。おそらく鳥にしか聞こえない音で合図が送られてるはずだ。何かがあったらこいつら見捨てて逃げる気だったんだろ」


「なんだとっ」


「だからこっちも合図をな。今頃サーカス団にヨーナス達が踏み込んでるんじゃねえかな」


 念の為にとヨーナスには話をつけておいてあったんだが、あの時はたしかトゥーレは別件を頼んでていなかったんだっけか。


「そんなわけで、オレらはオレらの仕事をまっとうしようぜ」


 言いながらオレは天幕を指差した。


「六人、とりあえず生きているのは確認したが、多分今ものすげえ怯えてるだろ。安心さしてやって」


 顔も知らないおっさんのオレが行くより、誰もが知ってる騎士様の方が子供も安心するだろうよ。


「わかりました」


 オレが示すとトゥーレはいつもの穏やかな顔で天幕へと入って行った。変わり身早いのな。

 それを見送るとオレは残りの男と気絶している男達をロープで縛り上げた。

 ついでにそれぞれの怪我の具合を確認してみるが、死ぬほど痛いかもしれねえが死にゃしねえだろ、という感じだったからほっとく。


「これでひと段落だな」


 このあと救出ルートを確認して街に応援を呼んで子供を救出。ヨーナス達を確認すればそこでオレの仕事は終わりだ。その後の取り調べは駐在騎士と自警団の仕事である。

 うーん、と伸びをして空を見上げれば星が瞬いていた。

 ふと天幕から子供達の泣き声が上がった。きっと安心したんだろう。

 どれ、もういっちょ安心するものをあげようかね。

 オレはヒルダの焼き菓子の包みを取り出し、天幕へと入って行った。


 + + +


 子供の崖からの救出が終わったのは一夜明けた昼過ぎのことだった。

 子供のいた地点は崖と崖に挟まれた孤島のような場所で、子供を連れて崖を登るか降りるかしないといけないという困難を極めた。

 おかげでその手伝いにオレは崖と街を三往復した。


「やべえ、疲れた」


 さすがに全員というわけではないが、二人の子供を崖から降ろすのは結構大変だった。


「おじちゃん、大丈夫?」


 抱えてる子供が心配そうに見上げてきて、オレは子供に視線を落とした。


「おう。帰ったら寝るから大丈夫だ」


「そっか」


「おめえさんも街に着いたら母ちゃん達に抱っこしてもらってゆっくり寝ろよ」


「うん!」


 そう言うと、ようやく家に帰れる喜びに子供は笑顔を浮かべた。


「ほら、見えてきたぞ」


 街の門が見えてきて、その入り口に複数人待っているのがわかる。

 おそらくは子供達の家族だろう。


「ディー!」


 家族の数人は門から出て駆け出してきた。


「おとーさんっ」


 そのうちの一人に抱えていた子供が目を輝かせて身をよじった。


「ほれ、行け」


 子供を地面に下ろせば一目散に両手を広げて駆けていく。

 それを皮切りに起きていた子供達は次々に親の元へ走り出した。


「街?着いたの?」


 トゥーレの抱っこしてた女の子も周りの音に目を覚まし、きょろきょろと辺りを見回した。


「すぐそこですよ。ほら、お父さんお母さんが待ってますよ」


 トゥーレが示せば、女の子もまた喜びに声を上げた。

 そうして子供全員が家族との再会に喜び、大泣きを始めた。

 家族以外の門で待っていた人々から歓声が上がり、救助に駆けつけた自警団もその顔を緩める。


「外傷は見当たりませんが、落ち着いたら一度お医者様に見てもらってください」


 トゥーレは笑顔を見せながら家族達にそう声をかけると家族達は泣きながら何度も何度も頭を下げていた。

 それらを遠巻きに見ていると、ふとその輪から外れた所で静かに涙を流している存在に気がついた。


「焼き菓子ありがとな」


 そう肩を叩けば驚いたようにヒルダは顔を上げた。


「本当に見つけてくれたのね」


「それがオレの仕事だったからな」


「っありがとう。本当に、ありがとう」


「おう。これで一件落着だ」


 にやりとして見せれば、ヒルダは涙を流しながらもふにゃっとした笑みを浮かべた。

 おお、可愛いなおい。


「あー、疲れた。腹も減ったし眠たいし、一日ごろごろ過ごしてえな」


 本心でそうぼやけば、ヒルダは呆れながらも優しい様子で言った。


「はいはい。がんばってくれたお礼にうちに泊まってきなさい。ご飯も作るし、ゆっくり寝ていいから」


「ヒルダのとこは居心地がいいしなあ。遠慮なく休ましてもらうわ」


 居心地のいい家で、好きな女の作った飯が食える。それはこれ以上ないくらいのご褒美だった。


「あんたが見つけてくれたんだってな!」


 と、二人で話していると背後から声がかかった。振り返れば数人の家族がそこには立っていた。


「トゥーレ騎士から教えてもらいました。本当にありがとうございます」


「あー……」


 家族の向こうからトゥーレがこっちを見ていた。にこにことした笑顔を浮かべているが、その目は逃げるなと言っている様にも見えた。

 極力目立って欲しくないオレとしてはトゥーレに表に立ってもらい、オレは役立たずな情報屋のままでよかったんだが。


「無事、生きててよかったよ」


 運が良かったな、と思う。黒色の女神関連でなければすでに殺されていた可能性は十分にあった。


「なんてお礼を言っていいものか」


「そんなもんいいって。オレは依頼された仕事を全うしただけだ」


 手を振って気にすんなと笑えば、家族達はもう一度頭を下げるとそれぞれに家路に着いた。

 それを見送りうーんと伸びをしていると、トゥーレがやってきた。


「あとは取り調べですね」


「だな。一回駐在所に戻って様子見るか」


「はい」


 一度街に戻ってきた時にヨーナス達がサーカス団を捕縛済みなのは確認していたが、それ以降は何の連絡もとっていなかった。

 こっちの救出が終わった報告もあるし、顔を出しとかねえとな。


「っつーわけで、後で寄るわ」


 手を上げて言えば、ヒルダは涙を拭いた顔で短く返事をした。

 それを確認してトゥーレと二人歩み始める。


「ところでなんでオレのこと話した?」


「全てルーカスさんの手柄だからですよ」


 歩きながら問いかけると、さらりとトゥーレが言った。


「真面目だなあ。オレは裏の存在なんだから、表のことは引き受けてくれよ」


「補佐にまわっただけなのに、あのように何度も頭を下げられるのはいい気がしません。あくまで情報屋としてなら表に出ても問題はありませんよね?」


「まあ、この街でならいいか」


 情報の出入りが少ない街だし、ヒルダにいいとこ見せれたんならいいかと考える。

 無事、事件解決である。


 + + +


 その後オレは結局成り行きでサーカス団の取り調べの手伝いをしたり、この街の外部からの情報量の少なさへの対策としての今後の連絡体制の打ち合わせをしたりとそれなりに忙しく過ごした。

 中でもトゥーレは事あるごとに仕事についての教えを請うてきた。剣術然り、調査然り。


「手合わせしていただいても?」


「素人のフライパンで殴られるぐらいだぜ?オレじゃ相手になんねえよ」


 軽くはぐらかしても、トゥーレはにっこりとした笑顔で逃さないぞというオーラを出してくる。


「叙任当時は護衛部期待の新人と呼ばれていたと聞き及んでいます」


「護衛部に耐えられなくなった身だぜ?」


「肌に合わなかっただけでしたよね?強さとしては護衛部と比べて何ら遜色ないかと」


 のらりくらりと躱せば躱すほど笑顔で食らいついてくるトゥーレは、どういうわけか子供捜索の時に黒い気配を出してからというものオレに対してだけはその気配を隠そうとしなかった。


「ルーカスさんに外面をよくしてもはぐらかされるだけですしね。それに、私のこんな一面を見ても騒ぎ立てたりしないでしょう?」


 というのが本人談だ。捜索時に突っ込みを入れこそすれ、本性について引くこともなければ怖がることもないオレの様子にそういう判断を下したらしい。

 それに対してオレは確かに取り繕われるよりもいいし、こっちの方が相手にし甲斐もあって楽しいと感じたわけで、結局のところどうやら馬が合うらしい。

 最終的にはさん付も取っ払えと言って、時間さえあればよくつるむようになっていた。


 ってなわけであれやこれやしているうちに二週間が経過した。

 そろそろ王都に帰らねえといけない。

 王都に帰って、いろんな報告を上げて、この街への連絡体制への意見を出して。

 仕事は尽きる事がない。この街での仕事を終えたオレはこれ以上のんびりしているわけにはいかなかった。

 ――この街でやり残しているのは、あとひとつ。


 早朝、オレはヒルダの家の戸を叩いた。


「こんな朝早くにどうしたのよ」


 まだ外は人もまばらな時間、ガウンを羽織ったヒルダは怪訝そうにオレを見上げた。


「今日街を発つことになった」


 突然の申し出にヒルダは瞬きした。


「そっ……か。ルーカスは仕事できてたんだものね」


 少しだけ寂しげに言って、ヒルダは静かに頭を下げた。


「子供たちを救ってくれて、ありがとう。ルーカスはこの街の英雄だわ」


「んな大袈裟な。気にすんなって」


 オレはそんなヒルダに顔を上げてもらうと、がりがりと頭をかいた。


「それよりな、伝えたい事があるんだ」


「なに?」


 初めてヒルダと会った時の衝撃は事件解決後の今でも褪せる事なくオレを震わせていた。

 いつもはしっかりして気丈なヒルダ。だが実は弱かったり、優しくて脆かったり。それがどうにもオレの心をくすぐって離さなかった。

 だから。


「――なあ、結婚してくれねえ?」


 これ以上の女なんかいるわけがなかった。

 子供たちは全員無事に帰り、迅速に事件解決をさせたオレにとっては、評価の高い今が一番の狙い目だった。

 真っ直ぐに見つめて言えば、ヒルダは目を丸くして、ついでに口も開けて固まった。

 突然だったから驚いてるんだろう。そう思ってしばらく返事を待っていると、やがてヒルダは額に手を当ててかぶりを振った。


「寝言は寝てから言いなさい」


「ちょっ」


「事件をあっという間に解決してくれて、見直したと思ったのに全く。どうして突拍子もない冗談いうのかしらね」


 深々とため息までつかれた。


「いやいや本気だぜ?オレ、ヒルダのこと」


「はいはい、ありがと。わたしも好きよ。でもその冗談はないわ」


 慌てるものの、オレの言葉を遮るヒルダは取り合ってくれることはなかった。


「ご飯たべた?食べてないなら今から作るけど」


「食べた。っつーかこれから街を出るんだけど」


 オレの予定としては鮮やかに事件を解決させたオレに惚れてくれたヒルダが了承して、オレは一度王都に帰ったらまた迎えに来るはずだったんだけどよ。


「ああ、そうだったわね。この街には用事なんてないかもしれないけど、また来たらお茶でも出すから寄りなさい」


 あっさり。

 あっさりと別れを告げられてねえ!?


「待ってくれ、ヒルダ」


「なによ。そろそろ遅刻しちゃうからいろいろ準備したいんだけど」


「いや、だからな?結婚――」


「バカみたいなこと言わないの。ほら行った行った。気をつけて帰りなさいよ」


 グイグイと背を押され、唖然とするオレの目の前でドアが閉められた。


「え……まじで?」


 というオレのつぶやきは風に流され消えた。

 読んでいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ