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騎士団は恋が好き  作者: 葵翠
【鈍感】リュリュ
19/79

三年後の二人

 楽しんでいただけたらと思います。

 (※2018.10.31 誤字修正しています)

「ただいま」


「おかえりなさい」


 僕が仕事を終えて帰ると、すでにカイヤは帰ってきていた。


「ちょうどご飯ができたわよ」


「嬉しいな」


 笑顔で迎えてくれるカイヤを軽く抱きしめると、僕は家の中へと入っていった。

 手を洗ってうがいもして、それから居間へと向かう。

 イスに座って松葉杖を傍に立て掛けると、すっかり住み慣れた家に安堵の息をつく。


「ユリウスから手紙が届いてたわよ」


 料理の盛り付けられた皿を並べながら、カイヤが言った。


「えっ、ほんと?」


 水の都から王都へ戻ってきて三年。

 ユリウスとは手紙のやり取りを続けていた。


「ええ、後で渡すわね」


 お茶を注いで二人で食事をする。

 いつもながらカイヤの作るご飯は美味しい。野菜中心でたまにユリウスの作るがっつり肉料理も食べたくなるけど、そういう時はお願いすれば「仕方ないわね」といいながらも作ってくれる。


「ごちそうさま」


 いつものようにお腹いっぱいに平らげると、カイヤは「お粗末様でした」と言って席を立った。

 チェストの上に置いていたらしい手紙を手渡される。

 なになに。


「へぇ。ユリウス、劇団一の役者になったって」


「あら、早かったのね」


 災害の爪痕はまだ残っているけど、それなりに復興の進んできた昨今、ユリウスは再結成された劇団に入団していた。そろそろ一年になるはずだけど、この短期間でトップに躍り出るというのはすごい偉業だと思う。


「でもユリウスって、見た目的に人気になるとはあんまり思えないんだけど」


 というカイヤに僕は読み進めていた手紙から目を離した。

 確かに男性なら背が高くて精悍な低い声の人が好まれるのに対して、ユリウスのそれは正反対だった。

 だけど人気なのはなぜか。


「それがね、女優としてらしいよ?」


「それなら納得だわ!」


 二人顔をあわせて笑い合う。

 ユリウスの背はその後もあまり伸びることがなく、声も変わらずだったらしい。おまけに顔立ちも中性的なものだから僕らも最初はすっかり女性だと思ったわけだけど、どうやら同じ理由で劇団では人数の少ない女性に混じって女装させられたらしい。


「時計台の歌姫って有名だったしね。またあの歌声が聴けるとなると、お客さんが詰めかけるのも頷けるわ」


「そうだね」


 先輩の家に保護されてからユリウスは歌を歌うことはなくなった。

 生き抜くためにやっていたそれは、保護されることで必要なくなったからだ。

 それはユリウスにとってはいいことなのかもしれないけど、反面、歌を楽しみにしていた人々は密かに落胆していたのだ。


「他にはなんて?」


 そう聞きながらカイヤは僕の後ろから手紙を覗き込んだ。


「人気が出たのは嬉しいけど、いろんな人に追いかけ回されてるって」


 言いながら手紙の一部を指差すとカイヤがそれを目で追った。

 そこにはユリウスが男性だと公開されているにも関わらず一部男性に求婚され追いかけ回されたり、女装を解いたら解いたで一回り以上年上の女性に取り囲まれたりとウンザリしているとある。


「大変ね」


 とカイヤがまたも笑った。

 男性はともかく、女性は年下で粗野なもの言いの男の子に保護欲を掻き立てられたのだと思われる。


「あの子結婚出来るのかしら」


「どうだろ。でもユリウスって性格が格好いいから普通の女の子にも好かれてるんじゃないかな?」


 僕なんかよりもずっと潔くはっきりしているユリウスは、きっと好きな子ができたら迷いなく突き進むんだろう。


「だといいんだけど」


「それにしても三年か。なんだかあっという間だったね」


 手紙を読み終えると、僕はこれまでのことを思い出して懐かしんだ。


 僕に王都勤務の辞令が出たのは三年前。

 それはカイヤさんと想いが通じあった半年後のことだった。

 ユリウスも無事成人を果たして復興支援に携わり全てが順調に進んでいたのだけど、本部で人が足りないから手伝ってくれ、という内容で僕は王都に呼び戻されたのだ。

 思うように動けない僕はそれまで事務処理を一手に引き受けていたんだけど、かなり好評だったらしい。

 王都に戻った僕はしばらく広報部として活動した後に情報部の事務室長と管理部の騎士長とに取り合いをされた末、今は管理部所属として勤めている。


 そしてそんな三年の間に、僕の体は一つの変化を起こしていた。

 残っていた片足が動くようになったのだ。

 初めはほんの少しだったそれは、徐々に力が入るようになって、今では松葉杖をつけば歩けるほどになっていた。

 先日お医者さんに診てもらったところ、そろそろ義足をつけてもいいかもしれないとの事。


「そうだ。今年は騎士になって五年目でね、来月まとまった休みをもらえるんだけど」


 ふと今日騎士長から聞いた話を思い出して、僕は顔を上げた。


「里帰りしない?」


「うちに?」


「うん、そう」


 王都から離れた水の都にはあれから一度も戻ったことがなくて、僕はどうしてもこの休みで成し遂げたいことがあった。


「挨拶もなしにカイヤを連れてきてしまったから、お義父さんとお義母さんに謝らないと」


 不甲斐ないことにカイヤを連れてくることの挨拶も出来ずに王都まできてしまったのだ。

 すぐに手紙で謝罪を送ったんだけど、やっぱりそれじゃあ済ませられない。


「うちはいいのよ。もとより私から話はしてたんだし」


「でも」


「それに、大変じゃない?」


 と、カイヤは僕の足をちらりと見やった。


「車椅子より楽だと思うよ。この休みを逃すとまた五年後とかになるだろうし、義足をつけるのを待ってもいられないよ」


 三年前の移動は結構大変だった。

 あの時はまだ車椅子で、馬車の乗り降りだけでも人の手を借りないといけなかった。

 そう考えれば今は自力で移動できる分かなり楽なはずだ。


「ね?いいでしょ?」


 そう頼んでみるけど、カイヤの気はあまり進まなさそうだった。

 だったら違う理由ならどうかな?


「それにほら、女装したユリウスの劇、見たくない?」


「……見たいわね」


 返事がややあったのはきっと想像したからだろう。


「でしょう?」


 じゃあ決まりね、と言って僕は早速手紙を書き始めた。


「お義父さんと先輩に連絡しなきゃね」


 先輩にはユリウスの劇団のチケットを用意してもらおう。


「ユリウスには?」


 ふとカイヤが尋ねてきて、ちょっとだけ人の悪そうな笑みを浮かべる。


「もちろん、内緒で押し掛けるつもりだよ」


 きっと驚いて、それから喜んでくれるに違いない。


「楽しみね」


「そうだね」


 そうして僕達は寄り添い、今後の未来に想いを馳せるのだった。

 読んでいただきありがとうございます。

 次回よりルーカスの話になります。

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