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騎士団は恋が好き  作者: 葵翠
【鈍感】リュリュ
18/79

後日談.別れは突然に

 楽しんでいただけたらと思います。

 (※2018.10.31 誤字修正しています)

 リュリュ・ケトラ。二十二歳。

 広報部所属、駐在騎士二年目の終わり。

 ――僕は現在、途方に暮れている。


「仕事の評価としちゃいい事だな」


 先輩がそう締めくくり一枚の書類を僕に手渡した。


「僕、先輩みたいにここで一生過ごせるものだと思ってました」


 書類を受け取り、僕はやや呆然と感想を述べる。

 対して先輩は肩を竦めた。


「俺みたいに完全に地方に住み込んで異動なしで働くには色々と条件があるんだよ」


「そうなんですか?」


「定期的に付近の街へ出張に出る事。年に一度は本部へ顔を出す事。あとは厳しい試験に合格する事とか、勤続十年以上とかな」


「どれも、すぐには無理そうですね」


 各街への移動は車椅子の僕では難しいし、試験はどうかわからないけど、勤続年数なんてまだ二年弱だ。それ以前に僕はユリウスの件で騒動を起こしたわけだから、条件をクリアしたところで許可が下りるとは思えなかった。


「急な話で悪いが、荷造りしといてくれ」


「わかりました」


 それは突然の辞令だった。

 先輩に言ったように僕はてっきりずっとこの街で仕事をしていくんだと思っていたんだけど、そうではなかったらしい。

 先輩のいう条件に満たない場合は定期的に勤務地が変わるようで――僕は一週間後にこの街を発って王都へと戻らなければならなかった。


 本当はこういった辞令は一ヶ月前には来るはずなんだけど、手違いで全然違う街へと届けられてしまい残り期間は一週間まで迫っていた。


「それじゃあ、お疲れさまでした」


「おう。カイヤ嬢としっかり話すんだぞ」


「……はい」


 僕の背にかけられた先輩の言葉が重い。

 のろのろと詰所を出て空を仰ぐ。

 どんよりとした雲が空を覆い、なんだか余計に気分が塞がってしまいそうだった。


 カイヤさんにはなんて話せばいいんだろう。

 王都勤務になること。

 僕は地元だからいいけど、じゃあカイヤさんは?

 この街で生まれ育ったカイヤさんは家族は当然、友達もみんなこの街にいる。

 そんなカイヤさんを王都に連れていけるの?


 せっかくの大切な人を失いたくない。

 だけど、その代わりに大切な人から家族や友人を奪うのも辛い。


 そんな堂々巡りが続いて、結局、カイヤさんの意思に従うのがいいんだと無理やりに言い聞かせた。


「ただいま帰りました」


「おかえりなさい……どうしたんですか?」


 家に帰り着いてすぐ、カイヤさんは僕の異変に気付いた。


「えっと、急な辞令がきて……悩んでました」


 笑みを浮かべるものの、どことなく弱々しくなってしまった。


「辞令、ですか」


 とりあえず中に、とカイヤさんは車椅子を押してくれた。

 テーブルに向かうように位置付けて、カイヤさん自身も向かいに腰掛ける。


「誰の辞令だったんですか?そんなになるってことは、仲のいい人が居なくなるとか?」


 問われて首を振る。

 これを言ったら、カイヤさんはどう判断するんだろう。

 僕を選んでくれるとすごく嬉しい。だけど、家族と引き離すのも……。


 考えれば考えるほど暗くなってくる。

 だけど言わないわけにもいかない。


「僕の辞令でした。……王都勤務になるそうです」


 瞬間カイヤさんの目が見開かれた。

 驚くのも無理はない。本当にいきなりだったから。


「いつから、ですか?」


 心なしかその声が震えていた。


「一週間後に街を発ちます」


「そんな急な!」


 ばん、とカイヤさんはテーブルに両手をついて立ち上がった。


「辞令の書類が別の街に届けられてしまって、遅くなったみたいです」


 聞きたくない。けど聞かなきゃいけない。

 泣きそうな気分を堪えて、僕は意を決して口を開いた。


「それで、カイヤさんは……」


「お別れしなきゃ」


 え――?

 僕の言葉を遮って、カイヤさんはそう言った。

 思わず見上げれば瞳を揺らしたカイヤさんがそこにいた。


「リュリュさん、ごめんなさい。私帰りますね」


 あまりにも即決だった。

 思わず口を開けたままでいると、カイヤさんはそんな僕をよそに慌ただしく荷物をまとめて――


「荷造りとかで忙しくなると思うけど、私がいなくてもちゃんと食べるんですよ!」


 まるで嵐のように去っていった。

 家に帰ってきて五分と経たないわずかな間の出来事だった。


「振られた……?」


 後に取り残された僕は、暫く身動きも出来ずに呆然とするのだった。


 + + +


 あまりにもあっさりとした別れだった。

 苦悩したり、別れを惜しんだり。そういった素ぶりが全くない華麗なほどの即決は、なんだか現実味に欠けていてショックすら感じなかった。


 残りの一週間、午前中は各方面への挨拶回りをして、午後は休んで荷造りに没頭した。

 三年前にやってきたばかりだった僕の荷物はそれほど多いわけではなかったけど、自由がきかない足での作業はなかなか思うようには進まなく、結構な缶詰になった。


 そうしてやってきた出発の日。

 運悪くこの一週間物資運搬の手伝いで街を出ていたユリウスとは、ようやく顔を合わせることができた。


「おい、カイヤは?」


 慌てて駆けつけたのがよくわかるほどに息を荒くさせているユリウスは、この場にいないカイヤさんのことを聞いてきた。


「ええっと……」


 それほどショックがなかったのをいいことに、僕はカイヤさんのことをあまり考えないようにしていた。

 考えたら、再起不能になるのがわかってたから。

 問いかけるユリウスに視線を反らせるけど、ユリウスはお構いなしに近くを見て回った。


「どこいったんだよ。俺に挨拶させない気か?」


「あー、いや、その」


「なんだよ歯切れの悪い」


 言い澱む僕にユリウスは少しだけ苛立ったように視線を戻した。


「……別れた、というか……捨てられた、というか……」


「はぁ!?」


 ぼそぼそと言えばユリウスは目をむいた。


「捨てられた!?カイヤに?」


 大声で言われて、物凄く心に刺さった。

 く、苦しい……だめかもコレ。

 ぐっと胸を押さえて顔をしかめると、ユリウスはそんな僕の両肩を掴んで激しく揺すった。


「どういうことだよ!説明しろ!」


 がくがくと揺すられ、視界がぼやける。


「ちょっ……ユリウス、落ち着いて」


「これが落ち着いてられるか!」


 ああ、こんな激怒してるユリウスを見るのは、半年ぶりだ。あの時も僕はカイヤさんに会えなくて、辛くてたまらない時だった。


「一週間前に、辞令の話をして。カイヤさんがどうしたいか、聞こうとしたんだけど」


「だけど?」


 あ、まずい。やっぱり考えると泣きそうだ。


「聞く前に『お別れしなきゃ』『帰ります』って……」


 言い終わると同時、堪えることもできずに涙が溢れた。


「はあぁっ!?それ聞き間違いじゃねぇの?」


「そんな事ないよ。だって、カイヤさんそう言って荷物まとめて出て行ったし。……それから一度も顔を合わせてないし」


「マジかよ」


 ユリウスは額に手を当てて空を仰ぐと、盛大にため息をついた。


「きちんとお別れも言えなかったよ。でも、こんなだから、それでよかったのかなぁ」


 僕はそう言って自嘲気味に笑った。

 せめてカイヤさんが見た最後の僕が泣いていなかったことが救いなのかもしれない。


「お、ユリウス間に合ったのか。よかったな――って何泣いてんだ?」


 そこへ少し離れた荷馬車に僕の荷物を運び入れてくれていた先輩がやってきた。


「ユリウスとの別れがそんなに惜しいのか?」


「じゃなくて、カイヤに捨てられたって」


 聞いてるだろと言わんばかりにユリウスに見上げられて、先輩は虚をつかれたように瞬きをした。


「言って、な……」


 ユリウス以外にはこの話はしていなかった。

 当然先輩も驚いたんだろうと思ってたんだけど、


「何言ってんだ?カイヤ嬢ならもう乗り込んでるぞ?」


 先輩の思いもよらない言葉に、ユリウスと二人目を丸くした。

 ちなみに先輩が指し示したのは荷馬車の隣に控えている僕が乗り込む方の馬車だった。


「え?」


 何とも間の抜けた声がこぼれ落ちる。

 先輩は僕を余所にその馬車に向かって大声で呼びかけた。


「おーい!ユリウスが来たぞー!」


 するとどういうことだろう。


「よかった、間に合ったのね」


 示された馬車が開いて、軽装のカイヤさんが降りてきた。


「挨拶もできずに行くことになるのかと思って、ひやひやしたわよ」


 小走りにやってきたカイヤさんは驚く僕らの前までやってきて、そして僕の顔を見て声を上げた。


「そんなにユリウスと別れるの寂しいんですか!?」


「――え……え?」


 慌ててハンカチを取り出してごしごしと涙を拭われる。


 えっと。王都行きの馬車にカイヤさんが乗ってて。

 ユリウスに挨拶もできずに行くって。


「……カイヤさん?」


「はい?」


「僕とは、別れたんじゃ、ないんですか?」


 拭われてさっぱりした顔で尋ねれば、カイヤさんは絶句していた。


「あ、なるほど。『家族に』お別れしなきゃって奴か」


 沈黙する僕らの横でユリウスがそう手を叩いた。


「ひょっとしてこの一週間いなかったのはあれか?実家で荷物整理してたんだろ」


「そうよ?」


 あまりにも当然とばかりに返すカイヤさん。


「ええぇぇぇぇっ」


 もう言葉にならなかった。


「ひょっとして私がリュリュさんの事捨てたとか思ってたんですか!?」


 そんな僕の様子を見てカイヤさんは何かを悟ったらしい。目を吊り上げて、腰に手を当てて僕を睨みつけた。


「そんなわけないじゃないですか!私はっ、ずっとついて行きますからねっ」


「っはは……そっか。――そっか」


 カイヤさんの言葉をゆっくりと噛み締めて、再び涙が顔を濡らす。


「ありがとうございます、カイヤさん。僕、てっきり」


 言いかけてるところで、またも顔を拭われた。

 きれいになった視界の目と鼻の先に、カイヤさんの顔が見える。


「ずーっとお世話しますから、安心してください」


「っはい」


「結婚して下さいね?」


「もちろんです」


 何度も何度も頷いて見せれば、カイヤさんは満足そうに顔を離した。


「男前だな、カイヤ」


「それ、褒め言葉なの?」


「褒め言葉だろ。どう見たってヘタレのリュリュにはお似合いだ」


「全く」


 喜びにうち震える中、そんな軽口を叩くユリウスがふと気付いた。


「っつーか、リュリュ。カイヤの親に挨拶しなきゃまずいんじゃねぇの?」


「あっ」


 そうだ。大事な大事な娘さんを引き離すんだから。きっちりと挨拶をしに行かなきゃいけない。

 だけど、


「いや、俺当然挨拶してるもんだと思ったし。これ以上出立が遅れると日が暮れるまでに次の街につかないから無理だぞ」


 どうやらカイヤさんの思惑を知っていたらしい先輩からそんな言葉が漏れた。


「そうですよ。時間が結構押してるみたいですし、うちのことは私がちゃんと挨拶してきたからいいですよ」


「えっ、それは違うよ。僕が挨拶しなきゃ」


「時間ないですから、ほら、もう乗りますよ」


「えっ、ちょっと」


 戸惑う僕をカイヤさんが車椅子ごと押していった。


「手紙よこせよー」


 ユリウスはそんな僕に他人事だと思って手を振っている。


「いやいや、カイヤさん?やっぱりこういうのはきちんとね?」


 後ろを振り返って見上げるものの、カイヤさんの足は止まらなかった。

 しかも、


「お前は本っ当に頼りないな。王都行って鍛え直してもらえ」


 馬車までつくと先輩に持ち上げられて馬車に放り込まれた。

 反対側からカイヤさんが馬車に乗り込む。


「お世話になりました」


「リュリュの事頼むな」


「はい。任せてください」


 なんて二人で挨拶を交わしてすぐ、馬車が動き出す。


「本当に!?」


「元気でなー!」


 遠くからユリウスの声が響く。

 いやいやまずいって。カイヤさんの両親になんて顔向けすればいいの!?


「とりあえず王都についたらすぐに婚姻届出して、それから手紙を書いてくれればいいですから」


 そんなぁ。

 弱りきって眉の下がる僕に、カイヤさんはにっこりと微笑むのだった。

 読んでくださりありがとうございます。

 リュリュは最後までヘタレです。

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