歌姫を招き入れました
楽しんでいただけると嬉しいです。
(※2018.10.30 誤字修正しました)
リュリュ・ケトラ。二十二歳。
広報部所属、駐在騎士二年目。復職して二ヵ月。
――僕は現在、困っている。
同居が始まって三ヶ月。最近カイヤさんの機嫌が悪い。
決して気のせいじゃない。言動に棘があるのは間違いない。
ほとんどの家事を任せてしまっている事が原因だろうか。
カイヤさんも看護師として日々仕事をしているわけで、それなのに二人分の家事をこなすというのはやっぱりかなりの負担になっているのかもしれない。
少なくとも入浴や着替えを覗き見したというような内容ではないはずだ。だってしていない。
あ、でもこの前寝顔見ちゃったのがダメだった?だってくしゃみしてたんだもん。風邪ひかないように布団掛けてあげなきゃって、恐る恐る覗いたんだけど、寝ている女性に近寄っていいものか悩みに悩んだ末に起きちゃったんだよね、カイヤさん。
やっぱりそれがまずかったのかなぁ……。
天気のいい休日。
そんなことを考えながら買い物へ出かけていたら、ふと煤けた金髪に菫色の瞳の女性が立ちはだかってきたのだ。
この女性に見覚えはある。
時計台の歌姫と呼ばれている彼女は災害で家を失ったと思われ、毎日時計台の前で歌を歌ってはパンや小銭を恵んでもらっている女性だった。
だけど。
そんな女性に睨み下される覚えはない。断じてない。
言葉を交わした事はないけど、彼女の歌声はとても澄んでいて何時までも聴いていたいとすら思うほどの美しさがあった。
けれどもそんな彼女が、どうしてこんなに荒んだ雰囲気を醸し出しているのか。
「あの、僕になにか?」
いつまで経っても何も話そうとしないままの彼女に困惑しながら尋ねると、やがて女性は押し殺したような低い声で聞いてきた。
「……アンタがリュリュか?」
なんだろう。
よく分かんないけど怒っている気がする。
「そうですけど」
やや及び腰で認めると、さらに女性は僕を睨んだ。
だから何でそんなに怒ってるの?
「ライノ。知ってるな?」
「うん?ライノ?」
それはついこの間街へやってきた見習い騎士時代からの友達だった。
そういえば、ライノは紫の瞳の女性を探していて彼女のことを教えたんだった。
「知ってますよ。彼がなにか?」
確か探し人ではなかったみたいだけど、ライノは彼女と会話をしたと言っていた。
見知った人物の名前にやや安堵していると、彼女は一度唇を噛んだ。
「ライノに言われた。困ったら駐在騎士リュリュのところへ行けと」
その表情は心底辛そうだった。
「……助けれくれ」
絞り出された声にハッとする。
これは怒っているんじゃない。体調が悪いんだ。
「君、ひょっとして熱がある?」
よく見れば顔が赤く、か細く息を繰り返している。
「病院へ――」
「っダメだ!」
僕の伸ばした手に縋り付くように、彼女は悲痛な声を上げた。
「お願いだ、病院はダメだ。絶対……ダメなんだ」
これはどうした事だろう。
どうして病院がダメなのかはわからない。けれども縋る彼女から伝わる熱は高くて、放っておくことはできない。
僕は逡巡の後、頷いた。
「僕の家に行こう。それなら大丈夫だね?」
「……頼む」
ホッとした彼女はそのまま、意識を失った。
+ + +
近くにいた人に手伝ってもらって、僕は何とか女性を家へと運び入れた。
「ありがとうございます。少し様子を見てから病院に連絡しますね」
手伝ってくれた人にお礼をいって、たらいに水を汲んでタオルを浸す。
ベッドに寝かせた女性の顔を拭ってその額にのせる。
と、そこで違和感を感じてじっと女性を見つめた。
けれども違和感の正体がわからずにうーんと首を捻って腕組みをしてしばし、女性が小さく呻いて身動ぎした。
途端、煤けた金髪がズレた。
「えっ!?」
そう、ズレた。
恐る恐る手を伸ばして触れると金髪が外れて、茶色の髪が現れた。
か、カツラ?
起こさないようにゆっくりとそれを取り外してみれば、短い髪のやせ細った少年のように見えた。
「ひょっとして」
そういえば、さっきの口調は男性のそれだ。
髪が長くて線が細かったから女性だと思っていたけど、男の子かもしれない。
手早く喉元を寛げると、そこには男性にしかない喉仏があった。
ずっと歌姫だと思っていた彼女は、彼だったのだ。
もしかすると病院に行きたくないのも性別を偽っているから?
カツラを手にしたまま考え込んでいると、また彼女――彼が苦しそうに呻いた。
とりあえず、今はゆっくり休ませないと。
僕は落ちかけたタオルを彼の額に乗せ直すのだった。
+ + +
「病院じゃない」
目を覚ました彼が開口一番に言ったのはそんな言葉だった。
瞬きをして目を疑うように部屋を見回して、最後に僕で視線が止まった。
「約束したからね」
僕が苦笑して言うと彼はややうつむいてお礼の言葉を口にした。
凄く小さな声だったけど、気持ちは伝わった。僕は笑みを浮かべることでそれに答えた。
「流行病だろうね」
ひと月ほど前から、高熱で倒れる人が出ていたのだけど、ここ数日は特に多いらしい。
ちなみにカイヤさんはその対応に追われて昨日から帰ってきていない。数日は帰られないという伝言も受け取っている。
僕はベッドまで移動すると用意しておいた小瓶の蓋を開けた。
「はい、飲んで」
という言葉と同時に彼の口に液体を流し込む。
もしも僕が感染したらすぐに飲むようにとカイヤさんが渡してくれた特効薬だ。
かなり高価なもので、使わないかもしれない僕に持ってきた時は激しく首を振って拒否したんだけど「足の怪我が原因で抵抗力が低くなっているかもしれないし、感染したらひどくなる場合だってあるんです」と叱られた。
僕、生まれてこのかた一度も風邪をひいたことのない超がつくほどの健康優良児だったんだけどなぁ。
「まっず」
突然の僕の行動に無条件で薬を飲み干した彼は力いっぱい顔をしかめていた。
すっごく不味いって話は聞いてたから、無理にでも飲んでもらうには不意打ちしかないよね。
僕は苦笑しながら水を手渡した。
「ライノのビスケットよりひでぇ……」
一気に水を飲み干した彼は呻くようにそう感想を漏らした。
友達の名前が出たことに僕は改めて彼を見た。少し話す元気がありそうなら、いろいろと聞かないといけない事がある。
「ちょっとごめんね」
一度断って体温を測ると、運び込んだ時よりはだいぶ下がっているようだった。
この病は高温とそうでない時との波があるらしいけど、今なら大丈夫かな。
「お腹は減ってない?」
「口の中がくそ不味くて食べる気がしない」
え、そんなに不味いの?
ちょっと興味が……じゃなくて。ええと。
「じゃあ少し話を聞いてもいいかな」
こほん、と小さく咳払いをして、僕は車椅子の向きを変えて彼を見た。
「ライノに言われたって言ってたけど、一体どんな経緯で僕の名前が?」
歌姫と話をしたとは聞いたものの、ライノからはそれ以外の事は何も聞いていなかった。
尋ねてみると彼は何とも言えないような表情をした。
「直接聞いたわけじゃないんだ。そもそもあいつは名前も言わなかったし、俺も名乗ってなかった」
「じゃあなんで名前を?」
一体ライノはなにをしたんだろう。
首を傾げていると彼はポケットから一枚の紙を取り出した。
「気がついたらライノのビスケットが俺の籠の中にあって、そこに一緒に入ってたんだ」
小さく折りたたまれたそれを開いて手渡される。
中を見てみるとそこには困ったら僕の所に行くようにというとこ、「借りはこれで」と言うこと、そしてライノの名前しか書かれていなかった。
「大雑把過ぎやしないか、ライノ」
思わず天井を仰ぎ見る。ため息が漏れてしまったのは仕方がないだろう。
「本当は頼る気なんかなかったんだ。歌姫をやってりゃ食いつなぐことはできたしな。けど……」
「――流行病にかかってしまったから」
「ああ」
彼はうなだれながら肯定した。
おそらく彼は本気で僕の所に来る気はなかったようだ。だけど命にかかわるものなら仕方がない。そういったところのようだった。
「あんたのおかげで助かった。ありがとう」
彼はそう頭を下げた。
「今は何もできないかもしれねぇけど、いつか絶対恩は返す」
「いいよ。困ってる人を見過ごすことはできないからね」
僕は両手を振ってそう返したけど、彼はそのままベッドから足を下ろした。
「ちょっと、なにしてるの?」
意識が戻ったばかりの、未だ熱のある身だというのに。
慌てる僕の前で彼はよろけて顔をしかめた。
「これ以上世話にはなれない。あとは自分で何とかする」
「出来るわけないでしょう!ほら、ふらふらしてるんだから戻って」
立ち上がった身体を押せばいとも簡単にベッドへとへたりこんだ。
「そんなんで外に出たってまた倒れるだけだよ。体調が戻るまでは絶対にここにいないとダメ」
「っけど」
「だいたい君、未成年でしょう?」
彼が意識を取り戻すまでの間に可能性は考えた。
どうして女装しているのか。
今この街では身分に関係なく復興支援の人材を受け付けている。共同にはなるけれども居住空間も食事も用意されるし、男性なら多少なりとも手当がもらえる。
だから家を失った多くの人々、特に男性がそこにいる。にも関わらず彼が支援に参加していないのには理由があるはずだった。
支援に参加できないのは、病に冒されている場合や大きな怪我を負っている場合、犯罪者、そして――未成年。
「両親や親戚はいないのかい?」
「――っ」
彼は悔しそうに唇をかんだ。ぐっとシーツを握り締める姿はなんだかとても痛々しい。
それだけで彼が孤児であることが窺えた。
「お願いだ、誰にも言わないでくれ」
しばらくして少年が顔を上げた。縋るような目と視線が合う。
「あと二ヶ月なんだ。あと二ヶ月で成人するんだ。そしたら俺はここの復興支援に参加できる」
「けど保護者のいない未成年は保護しないと」
「いやだ。孤児院ったって別の街に行かされるんだろ?この街を離れたくないんだ!」
街を離れたくない。
それがこの少年が性別を偽り、年齢を偽っていた最大の原因なんだろう。
今この街の孤児院は機能していない。両親を失った子供達は近隣の街の孤児院へと保護することになっていた。そして孤児院へ行った子供達のほとんどはその街で住み込みの仕事に就くことが義務付けられている。
「戻ってこれなくなるくらいだったら、一年くらい耐えてやるって。ここまで頑張ってきたんだ!あと二ヶ月だぞ!?それなのに……!」
一年。僕はその月日に言葉を失った。
この少年は一年もの間一人で生きてきたというのか。
時計台の歌姫がいつ頃から現れるようになったかは覚えていないけど、少なくとも災害直後からではなかったはずだ。歌姫としての収入を得る前はどうやって食いつないでいたというのか、想像に絶する。
「頼む!見逃してくれ。この街が好きなんだ。離れたくないんだ……っ」
それは少年の悲痛な叫びだった。
「……よく、がんばったね」
僕は目の前の少年に熱いものがこみ上げてきた。
両親を失ったことは大きなショックだったはすだ。それなのに、過酷な状況の中で街を離れたくないからと一人生き抜いてきた少年。
よく耐えてきたと思うのと同時に、そんな子供がいたことにやりきれなさを感じる。
「辛かったね」
言いながらも自分の目から涙が湧き出るのがわかった。
「見逃して、くれるか?」
しんみりしている僕の様子に、少年の勢いも弱くなっていた。
「君を放置することはできないよ。だけど、この街にいたいのはよくわかった。君がこの街にいられるように考えるよ」
「見逃してくれるだけでいいんだ。これ以上迷惑はかけられない」
「それはできない。たとえあと二ヶ月でも、君はまだ子供で保護者が必要なことには変わりないからね」
きっとライノも彼の事情を知って僕の所へ行くことを勧めたんだろう。
ライノは各地を転々とする仕事故に手を貸すことはできなかったけど、僕は違う。僕はこの街に住んでいる駐在騎士なのだ。なんとしてもこの少年を守らなければ。
「約束するよ。君をこの街から出させない。だからかわりに僕の言うことは聞くこと」
「……いいのか?」
「もちろん。騎士に二言はないよ」
しっかりを頷いて見せると、少年はふっと力が抜けたのだろう。そのままベッドに倒れ込んだ。
「ああ、もう。まだ熱だってあるんだから大人しくしてないと。当分はここで療養すること。いいね?」
「……わかった」
「もし勝手に出て行ったら容赦なく孤児院送りにするからね」
「あんたが約束してくれるんだったら、しない」
念を押して言えば、右腕で顔を覆って少年はそう返してきた。
そこでふと気づく。
「名前聞いてなかったね。なんていうの?」
顔を隠したままの少年に問い掛けると、小さく返答がなされた。
「とりあえずはきちんと身体を治そう。お休み、ユリウス」
倒れている身体に布団をかけて、僕はその上からユリウスの肩を叩くのだった。
+ + +
特効薬のおかげでユリウスの熱は酷くはならなかった。
通常なら一週間以上続くけれども、翌日には恐ろしいほどの高熱もなく、二日後には微熱と頭痛だけになっていた。
本当によかった、と安心する。
けれどもその半面、数日経った今でもユリウスの今後についての方針を固めることができずにいた。
ユリウスの条件は未成年だとばれずにこの街にいること。成人するまでの二ヶ月さえ乗り切ってしまえば、その後未成年で街をさ迷っていたことがばれても後の祭りである。
僕の条件は温かい寝床と食事、そして保護者の同居。
本来ならば僕が一緒に住んでユリウスが歌姫として正体を隠すことで叶えられるんだけど、カイヤさんがいる。他の信頼のできる人にユリウスを託すかと言えば、それも難しい話だった。騎士としては規定通りにユリウスを孤児院へと送らなければいけない。それを無視して隠そうとしているのだから、そんな僕の肩棒をカイヤさんにも他の誰かにも担がせるわけにはいかなかった。
「なんとかならないかなぁ」
仕事帰り、一人ぼんやりと呟いてみる。
こんな時ライノだったらどんな案を思いつくだろう。
剣の腕はからっきしなのに知識量と頭の回転はとにかく早いやり手の友人を思い浮かべ、僕はため息をついた。ライノがいれば真っ先に相談しに行くのに。
とはいえ、いない人を思ってもしょうがない。
あれこれと考えていたらあっという間に家へと着いてしまった。
しまった、夕飯を買って帰らなきゃいけなかったのに。
「ただいま」
買いものを忘れたとはいえ、目の前は家。とりあえず声をかけて中に入れば、立ちあがっているユリウスの姿があった。
「おかえり」
「起きてて大丈夫なの?」
足取りはしっかりしているようだけど、高熱が出てからまだ三日しか経っていない。
心配する僕をよそに、ユリウスは腰に手を当てた。
「もうほとんどよくなった。疲れやすいから長くは動けねぇけど、これくらい平気だ」
そうしてふと、家の中が美味しそうなにおいに包まれていることに気づく。
台所を見れば朝にはなかった鍋が置かれている。
「飯、作っといた。あと洗濯溜めすぎだろ。洗っといたぞ」
「えっ、洗ったの!?」
言われて驚く。
日々カイヤさんに(下着を覗く)洗濯をしてもらってはいたものの、ここ数日カイヤさんは居らず。けれども僕も仕事とユリウスの看病に追われて出来るはずもなく。
溜めこんだ洗濯物は次の休日に自分で根性を入れて洗おうと思っていたのに。
「全部じゃないけどな。残りは明日やる予定だ」
「うわぁ……そんなことしなくてもよかったのに」
病み上がりなのにと心の底から申し訳なく思う。
眉が下がる僕にユリウスは当然のことだと言い張った。
「正体を隠して、ここに居させてもらったんだ。当たり前だろ」
この少年は義理堅い性格で、意思も強くてはっきりしていた。
「病人は休むのが仕事だよ。――でも、よかった」
ふ、と僕は息をついてもう一度鍋を見た。
「実は考え事をしながら帰って来たものだから、夕飯買ってくるの忘れちゃったんだ」
実にタイミングがよかった。
もしユリウスが作ってくれていなければまた買いに出なければいけないところだった。
「すごく美味しそうなにおい。準備してもらってもいい?」
「ちょっと待ってろ」
車椅子では台所の作業は思うようにはいかない。
素直にお願いすればユリウスは慣れた手つきで二人分の夕飯を用意してくれた。
余分に買っておいた朝のパンの残りと豆のスープと焼いた薫製肉。
目の前に並んだそれに思わずごくりと唾を飲む。
「ありがとう。――いただきます」
「いただきます」
スープも肉も僕が作った「料理じゃない料理」とはまるで違っていた。
久しぶりに出される家での料理に心まであったまる。
「上手だね、料理」
男の子にしてはかなり珍しい。出来ないのが当たり前なのに。
洗濯だってよく気づいたものだと向かいに座るユリウスを見れば、なんてことないと言わんばかりに肩を竦められた。
「お袋の身体が弱くて、家の事はだいたい俺がやってたからな」
何とも家族想いな少年である。
動けないお母さんの代わりに掃除洗濯、料理の全てをこなしていたなんて。
ん?あれ?
口をつけていたスープを改めて見つめる。
それからソファの上に積まれた、きれいに畳まれた洗濯物。
――どうやってご飯を作って、お洗濯やお掃除をするんですか!
「……………………」
かつて僕が同居を拒否した時に言っていたカイヤさんのセリフを反芻させる。
「どうした?なんか変なもんでも入ってたか?」
唐突に食事の手を止めた僕を訝しむユリウスを真っ直ぐに見つめる中で、僕はある提案を口にした。
「成人するまで、僕の家でお手伝いさんやらない?」
しんと静まり返る屋内。
僕の提案にたっぷり十秒は沈黙したユリウスは、ようやく口を開けた。
「は?」
「ずっと同居人がいるから君をここに置いておけないって思ってたんだけどさ、ユリウスが家事を出来るなら、その人とも同居する必要がなくなるってことに気付いてね」
ユリウスには正体を隠す為に女装してもらって、お手伝いさんとしてここにいてもらえばいい。
そうしたらユリウスは成人までここにいられるし、カイヤさんにもユリウスのことを打ち明けずに済む。
「同居人って恋人じゃなかったのか?」
「ん?恋人?」
思いがけない言葉に目を丸くすると、ユリウスは言った。
「同居人なんて言い方してるけど、女だろ」
「なんでわかるの?」
「そこの鞄は明らかに女物だし、洗面所には化粧品も置いてあるだろ」
なるほど。よく見てるなぁ。
ぽんと手を叩いて感心する。女性物があって一緒に住んでるから恋人、という考えにいきついたのだろう。
それなら問題ない。
「確かに一緒に住んでいるけど、恋人じゃないよ。僕のお世話してくれてるだけで」
カイヤさんは僕のことを心配してくれていただけだしね。
「女が、泊まり込みで?」
一つ一つの言葉を区切って尋ねるユリウス。
何かを意図しているのだろうけど、理解できない。
「うん。ここ数日は仕事が忙しくて帰ってこれてないんだけどね」
「……へー。ちなみに歳は?」
いくつだったかな。確か僕の二個下、だったはず。
「二十歳だったと思うけど」
「いつから住んでんの?」
「三ヶ月になるかな」
なんでそこまで聞くんだろう、と思いながらも答えていく。
するとどんどんユリウスの顔があきれ顔になってきた。
「もっかい聞くけど、若い女が三ヶ月も一緒に住んでて、恋人じゃないと。本気でいってんのか?」
「本気も何も、本当の事だから」
どうしてそんな顔をするんだろう。
ちょっと困惑する僕にユリウスは盛大にため息をついた。
「というか、そうしてくれると僕もすごくありがたいかも」
「なんで」
「二つ理由があってね。一つは家族でもない年頃の女性との同居が落ち着かなくて、すごく気まずいから」
「三ヶ月も経ってまだ気まずいのか?」
「そりゃそうだよ。嫁入り前の娘さんだよ?入浴後なんか目も合わせられないし、洗濯物の中に下着を見つけてしまった時なんか、ほんと、どうしていいか」
「ガキでもあるまいし」
と、ぼそりと呟かれた。
未成年のユリウスに言われるとは思わなかった。
少しだけ悲しくなっていると、ユリウスは続きを促した。
「もう一つは?」
「もう一つは、同居している女性がたぶん、疲れてきてるんだと思う。最近機嫌がよくなくてね。看護師さんなんだけど、日中は仕事して朝夕は僕の家で二人分の家事でしょう?休まる時間がなくて今、まいってるんじゃないかなって」
色々考えてたけど、やっぱりカイヤさんの不機嫌の理由はそれくらいのものだと思う。
ユリウスに家事をしてもらうことで彼の身を守ってあげられる上に、僕も平穏が得られてカイヤさんも実家でのんびり休めるなら、これ以上のことはない。
そんなことを考えているとユリウスが何かを呟いた、
「え?なんか言った?」
「なんでもねぇ」
聞き返したけど、ユリウスは答えてはくれなかった。かわりに腕を組んで天井を見やる。
「まぁ少なくとも俺とリュリュの利害は一致してるわけか」
「うん。どうかな?」
フォークを握り締めて尋ねることしばし。
「……リュリュがそれでいいんならいいけどよ」
最終的にユリウスは渋りながらも了承してくれた。
「助かるよ。ありがとうユリウス」
ほっとする僕にユリウスは笑った。
「助かるのは俺の方なんだけどな。まぁ、世話になる分きっちり家事はこなすからな」
「うん、よろしく」
「ああ」
これであとはカイヤさんにお手伝いさんが見つかったと伝えるだけだ。
僕は一つ息をつくと残りのご飯に手をつけるのだった。
読んでいただいたきありがとうございます。




