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騎士団は恋が好き  作者: 葵翠
【腹黒】トゥーレ
12/79

十年後の二人

 菖蒲が終わったので舞い戻って来ました。

 楽しんでいただければと思います。

 アマリアさんとの結婚から十年が経った。


「ただいま戻りました」


 時間は午後のティータイムを過ぎたあたり、私は仕事を終えて家に帰ってきた。


「おかえりなさい。早かったのね」


 出迎えてくれたのはもちろんアマリアさんである。

 家の中に立ちこめる匂いに夕飯を作っていたことが分かる。


「ええ。会議がかなり早く終わったもので」


 今日は午後から騎士長会議が行われた。

 エンシオ団長とクラウス副団長。そして私を含めた各部の騎士長で行われたそれは、重要な案件の為に午後いっぱいは掛かるだろうと思われていたのだけど、満場一致であっという間に片が付いてしまった。

 そうして空いた残り時間をどうしたものかと考えることもなく――示し合わせたかのように全員が帰宅した。

 理由は簡単。せっかく空いた時間に愛しの家族と過ごさないなどもったいない、という考えがあったからだ。

 未だに奥方を見たことのないクラウス副団長はともかく、それ以外の全員が真っ直ぐに帰路に着き、当然私もそれに倣った。


「二人はまだ学校ですか?」


「ええ。今日は二人とも友達と遊んで帰るって言ってたから」


「そうでしたか」


 私達には今、七歳の息子と五歳の娘がいた。

 二人ともアマリアさんによく似た純粋な性格で愛らしい。


「何かいいことでもありました?」


 鼻歌交じりに台所に立つアマリアさんを眺めて尋ねれば、アマリアさんはくるりと振り向いてとびきりの笑顔を浮かべた。


「ええ!今日は軍の公開演習を見に行ったのよ」


 ――軍の公開演習。

 騎士団に負けず劣らず男ばかりの組織の名前が出たことにあらかたの予想がつく。


「騎士団の公開訓練とは全然違っててね。あっちは上半身裸で訓練する人がいるのよ!」


 目を輝かせて手を組むアマリアさんは、十年前から何ら変わりがなかった。

 さすがに同僚達で妄想されるのはと騎士は対象にしないことを約束してもらったものの、あの趣味自体をやめてもらおうとも思わず今に至っている。


「もうすごい迫力で、素敵だったわ……!中でも葡萄色の髪をした男の子がね、もう格好よくって」


 興奮を露わにするアマリアさんに私は笑みを浮かべたまますっと立ち上がった。

 ゆっくりとアマリアさんの隣までやってきて、そっと鍋の火を止める。


「若いのに精悍な眼差しでね、体つきもしっかりしてて」


 なおも語るアマリアさんに向き合い、小さく首を傾げる。


「その彼と私と、どっちが好きですか?」


 極上の笑みを浮かべる私を至近距離にして、ようやくアマリアさんがその動きを止めた。

 目を大きく見開いて固まり、明らかに「しまった」という表情が浮かぶ。


「そんなに男性の裸が見たいのでしたら、いつでも脱いであげますよ?」


「あ、ううん。これはその……」


 しどろもどろになりながらじりじりと後退するアマリアさん。

 もちろん一歩下がるごとにこちらは一歩踏み込むわけで、程なくしてアマリアさんが壁に背をつけた。


「あの、お、落ち着いて?」


 私を見上げるアマリアさんのなんと可愛いこと。


「十分落ち着いていますよ?ですがね」


 ゆっくりと壁に両手をついて完全に逃げ場を塞ぐと私は身を屈めた。


「そんなに興奮するなんて、妬けてしまいますね」


「――っ」


 耳元で囁けばアマリアさんは見る間に顔を赤くさせた。

 もちろん本気で嫉妬しているわけではない。アマリアさんの心は既に私にしかないのは重々承知している。

 けれどもつい苛めたくなってしまうのは仕方のないことである。


「アマリアが好きなのは、誰?」


「あ……ぅ……」


 口調を変えて目を覗きこめば、恥ずかしさからアマリアさんの目が逸らされた。

 そこへ更に甘い毒を孕ませ迫る。


「言って?」


「だ……だんな、さま」


 それはいつもの呼ばれ方だった。どういうわけか騎士様呼ばわりの次は旦那様呼ばわりで、名前を呼ばれることは十年経った今なお数えるほどしかない。

 迫られたり押し倒されたりするよりも、名前を呼ぶことが恥ずかしいらしい。


「名前で言わないとわからないな」


「それは、その……っ」


 徐々にアマリアさんの目が涙ぐんでくる。

 何度か口を開けては閉じ、唇を震わせている。


「誰?」


 もう一度首を傾げれば、アマリアさんはスカートを握りしめて顔を上げた。


「――っトゥーレ!」


 大きな眼から涙がこぼれて、私は満足して抱きしめた。

 安心させるように優しく背中をなで、口調を戻して囁く。


「愛していますよ、アマリアさん」


「いっ、いじわる……っ」


 十年経てばさすがに私の本性を理解するもので、アマリアさんは悔しそうに私の胸を叩いた。

 こんな私の本性を知っても傍にいてくれるこの可愛い人を腕の中に、私はただ幸せをかみしめるのだった。

 読んでくださりありがとうございます。

 トゥーレはまだ少しネタがあるのですが、書くと長くなりそうなのでひとまず終了させることにしました。書きたくなったらこことは切り離して1本立ち上げるかと思います。

 こちらは次回より別の騎士の話になりますが、引き続きお付き合いいただけると嬉しいです。

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