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未知との遭遇

「ここはいったいどこなんだ」


 僕が意識を取り戻したときに発した第一声である。


 ーーーーーー


 白い空間に僕は気が付いたら立っていた。

 意識を失っていた、という感覚もなく、本当に唐突だというほどの認識だった。瞬きをして、目を開いたぐらいの感覚だ。

 しかし、恐らく気絶していたのだろうと思う。瞬きをした瞬間に僕の体が得体の知れない白い空間に転移した、等という超現実的な話では無いはずだ。


「それはどうやって証明できるのかな? その証拠や記憶は一切無いと言うのに」


 僕がそんな風に現状を理屈付けをしていると、何処からか甲高い声が聞こえた。いや、何処からか、というよりは頭に直接語りかけているような不思議な感覚がした。

 その声は甲高く、それでいて透き通るような声だ。場所が場所ならば素直に聞き惚れてしまうような声だが、今はそのような状況ではない。


「ここは一体何処なんだ」


 僕は何処にいるか知れない声の主がいないか周囲を確認しながら大声で言った。しかし、周囲には人どころか、先ほどの声の主の声を出力していたスピーカーさえ見つからない。そして、幾ら待っても返事が帰ってこない。


 仕方がないので、最近重くなってきたと感じてきた体に鞭を打って立ち上がった。視点を変えれば声の主が見えるかもしれないという子供が考えそうな考えだったが、やはり声の主は何処にも見当たらなかった。


 面倒くさいと感じながらも、僕は歩みを進める。声の主の返答が来るまで、じっとしていられるほど僕は大人ではない。三十代半ばを過ぎている男が何を言っているのだと思うかもしれないが、大人は誰しも大人ではないのだ。

 特に僕という情けない大人は、子供の行動にも苛ついてしまう器の小さな大人である。それは今回も例外ではないし、そもそも待つという行為それ事態がそれほど好きじゃない。

 はっきり言って嫌いだ。堪え性が無いと自覚はしているけれども、これはどうしようもない。


 僕は白い空間に歩いて行く。地面に凹凸はなく、まるで磨かれたタイルのようにスベスベとした地面だ。異なっている点を述べるのであれば、タイルのようにスベスベとしているはずなのに、光沢を放っていないことだろうか。。


 そのように僕は白い空間について観察をしながら歩き理解できたことといえば、かなり広大な空間であるということだった。

 もう何十分間歩いたと認識しているが、一向に壁らしきものも見えない。この努力はもしかしたら徒労に終わるんじゃないか? なんて思うと精神的に疲労感を感じてしまう。

 精神的に、というのは逆に身体的には全く疲労感を感じていないのだ。甚だ不思議な空間である。


「ここからは私の許可なしでは出られないよ」


 すると、さっきまで返事もなく音沙汰がなかった少女の声が聞こえてきた。何故、今なのかと思ってしまうのだが、大体予想はつく。僕がこの様に疲弊をするのを待っていたのだろう。そして、精神的に疲労させたことで正常な判断が出来ないようにしたのだ。


「どうしたのかな? もうあきらめてしまったのかな」


 煽るようなに言葉に少しだけ苛立ちを覚える。ついつい文句を言いそうになってしまうが、それを言ってしまえば最後、思惑通りに進んでしまうに違いないと考えた僕は黙秘を続けた。

 大分、混乱しているのは自分でも感じること。が、ここが踏ん張り時である。謎の空間に閉じ込められ監禁されているこの状況では、僕が圧倒的に不利だ。

 その上に会話の主導権を声の主に渡してしまえば、目にも当てられぬことになるに違いない。地の利は向こうにある。だが、それで全てが決まったわけではない。


 すると、何やら笑い声が聞こえる。上品だが、何処か人を見下したような如何にも頭に来る笑い方であった。


「ふーん、まだ君は自分に『利』があると思っているんだね。失笑を通り越して大笑いしてしまうほどだよ。君は私を見通した気分でいるようだけど、そんなんじゃ駄目だと、私は言わざる終えないね」



 ――僕は、前を向いた。



 そこには、さっきまで誰も立っていなかった筈だ。いや、回りを見渡しても誰も何も存在していなかった筈だ。僕以外のなにもこの空間には存在していなかったはずなのだ。


 なのに、白い少女がそこに立っていた。


 その白い少女は腕を後ろに組み、ゆらゆらとこちらに歩いてくる。だが、そんな幻想的な光景にも関わらず鳥肌が立ち、動悸が乱れ、足がすくみ、毛が逆立つのを感じる。


 一体なんなんだこれ。

 少女とは思えない威圧感が僕の体を抑圧するようで、少女がただの少女で無いことを実感する。それどころか、まるで、生命の危機がこちらに滲み寄ってくるように感じる


 僕は後ろへ後退ろとするが足がうまく動かない。まるで地面に縫い付けられたかのようだ。白い少女は徐々に僕に近づいていき、遂に僕の正面に立った。

 処女雪のように透き通った肌、宝石かと見間違えるほどの翡翠色の瞳。


 その容姿は芸術作品そのものなのだが、素直に美しいと思えない。その姿はとても儚いのに、存在が太陽のように激しく主張してくる。


「えい!!」


 そんな、白い少女があろうことかそんな掛け声で僕の体に体当たりしてきた。そして、僕の体に触れた瞬間に、幾何学的な模様が空中で展開する。僕はその名前を知っている。その模様の名前を僕は知っている。


 これは『魔方陣』だ。


 模様を魔方陣と認識した瞬間に、その魔方陣から炎が僕に向かって噴出してきた。しかも、魔方陣までゼロ距離での噴出だ。


 避けることも当然できないまま、僕は灼熱の炎に身を曝されてしまう。


「ッッッッ!?」


 自分の見に何が起こったか理解ができない。皮膚が焼かれる痛みが僕の体を支配する。堪らずに、身を転がして炎を消そうとするが炎は消えず、更に呼吸もうまくできずに枯れた音だけを虚しく繰り返す。次第に視界さえも見えなくなった。あっという間のことだった。炎が一瞬で体中にまとわりつき、温度さえも一瞬で奪い去った。

 そこにあるのは痛覚のみ。死んだほうがましなぐらいに痛い。


 だけど、死なない。


 しかし、数分経ったころだろうか。


 僕の身を包んでいた炎はその姿を消した。炎が消えたと同時に、痛みも瞬間的に引いた。どういうことだと思い、自分の体を触って確かめる。服は燃えていないし、皮膚には火傷の痕さえも見当たらない。


 僕は白い少女を見る。


 僕は白い少女を見て、恐怖感の他に他の感情があることに気がついた。なんなんだろうと、思ったが正体はすぐにわかった。


 これは、未知との遭遇に『興奮』しているんだ。


 昔から夢に見ていた『魔法』という存在を、この目で見て、体で実感して、更に知識欲が刺激されて僕はとても興奮しているに違いない。

 すると、少女は僕の反応が以外に予想外だったようで、驚いたような表情をした後に苦笑いをした。どう言う意味を含んだ苦笑いかはわからないのだが、この少女は自分には手に負えない存在だと認識したのでそういう詮索する行為をすることはやらない。


 だが、興味は抑えられない。


「い、今のは魔法なのか?」


 きっと今の僕は気持ちが悪いほど頬が紅潮し鼻息が赤く、落ち着きがないに違いない。しかし、誰しも夢見たものや憧れの人を目にしたときには同じ反応をするだろう。

 つまるところ、僕は正常だ。


「ま、まぁね」


「じゃ、じゃあ君は一体何者なんだ!!異世界から来た魔術師とか、勇者みたいな存在とか!!」


 僕は白い少女の手を両手で包みプロポーズでもしているかのようなポーズをしながら問い詰めた。


「ちょ、ちょっと落ち着こうか」


 白い少女が僕を諫める。


 しまった。


 なんという醜態を見せてしまったのだろうか。僕は深呼吸をして一息つく。しかし、まだこの胸は高揚しており、下手をしたらまた暴走してしまうかもしれない。


「落ち着いたかい?」


 僕は素直に頷く。


「それはよかった」


 思わず見惚れるほどの微笑みをその顔に湛えて、僕を労ってくれるというのは癒されるものがある。

 けれど、よくよく考えればこの少女に殺されかけたのを忘れるところであった。まずはその理由を聞かなければいけないだろう。


「「さっきはなん‥‥‥」であんなことをしたのか聞きたいんでしょ?理由は君が理解できる程度のものだと思うから敢えて言わないでおこう」


 理解できる程度のものって、ということよりも驚いたことがある。白い少女が僕の思っていることを一言一句違わずに、言い切ったことだった。


「‥‥‥どういうことだ?」


 そういえば僕が意識を取り戻したときも、同じ出来事があったなと思い出す。僕がここがどこなのか考えているときに、適当に推理付けたものを白い少女は否定していた。


 声に出してすらいなかったのに。


 あぁ、つまりはそういうことか。


 この白い少女は『心の中を読む』ことができるのか。


 僕がそう結論付けると、白い少女はその通りというような感じで満足げに頷いた。言っておくが、僕は一切言葉を口に出していない。


「君はそこそこ頭が切れるね」


「‥‥‥褒めているのなら、ありがとうって言っておこうかな?」


 『君は意外に』ということは外見からは、何処か恐い雰囲気を持つ頭の固い人物だよ思われていたに違いない。


 しかし、それは仕方がないことだ。

 お世辞にも頭が良いような外見ではないのは自覚している。

 因みにさっき言った子供の行動にイラつくというのは、僕の外見のせいでもあるのも自覚している。

 僕の外見は子供の目には鬼に見えているのかというぐらいに、子供に好かれない。


「まぁ、気にしたら負けだよ。でも、君の外見って男らしくて私的には好みだよ?」


「お世辞でもそう言ってもらえると嬉しいが‥‥‥な」


 だが、正直を言ってしまうといくら美しい少女だからと言っても、年齢的にはストライクゾーンから大きく外れているので、そこまで嬉しくもない。


「君ねぇ、女性は外見だけじゃないんだよ?」


「いや、そうは言われてもあんたぐらいの年の少女と付き合ったら、刑務所送りだぞ?」


「違っているようで、違っていないね」


 そう言って微笑んだ後に、咳払いをして話を区切り直す。


「もうそろそろ私については理解できたかな?」


「‥‥‥理解できたとは到底思えないが」


「君が逆らえない程の力量の差があるということさえ理解していれば十分だよ。」


 それならば問題はない。見に染みる程理解できたつもりだ。


「そうだね。じゃあ、本題に入ろうか」


 僕はさっきとは違い素直に頷いた。


2014 3/28修正

2015/2/08修正

2015/03/09修正

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