愛と旅は道連れ
慣れない描写に手間取りました。
僕はアルジェントヴォルフに手を引かれて彼女の部屋に到着した。
「そ、それでは勉強をする前に、喉が渇いたら集中が出来なくなるかもしれんから、飲み物を持ってきてやるぞ」
まだ頬が若干赤くなっているアルジェントヴォルフは目を逸らしながらも僕にそう言った。そして、そのまま飲み物を取りに部屋を出てしまった。
僕は暇なのでてきとうに部屋を見回す。もともとこの部屋にあった三脚のテーブルにはいつの間にか用意していたのだろうか、分厚い本が三冊ぐらい乗っている。その分厚い三冊の本の題名は『魔法大図鑑』・『魔方陣学・基礎編』と『魔方陣学・応用編』の三種類である。僕がこの先日読んだ『考えるんじゃない、感じるんだ~基礎魔法編~』はきっとこの三冊を要約して書いたものなのだろう。、今更ながらそう思った。確かに、読み進めていても魔方陣のことについてはそこまで詳細には書いていなかった。書いていたことは『筆記魔術を使用する際に魔方陣の暗記が必要』なことと『入力する魔力の大きさで出力である魔方陣から発現する魔法の威力が異なる』ということだ。
今、このまま読んでもいいのだが、折角手取り足取り教えてもらえるチャンスなんだ。アルジェントヴォルフが戻ってきたときに読んで、理解が出来なかった箇所を質問すればいいだろう。彼女の機嫌もそれできっと良くなるだろうし、僕の理解も深まる良い案だ。
そうして、僕はそのままアルジェントヴォルフが部屋に戻ってくるのを待って、かれこれ数分で戻ってきた。おわんに2個のグラスとオレンジ色の液体が入ったビンを危なっかしげに持ってきた。しかし、置く場所が無いといまさら気が付いたのか、僕に「机の上の本を退かしてくれないか?」と頼んできた。別に断る理由もないし分厚い三冊の本をベットの上へと移動させる。そして、アルジェントヴォルフは飲み物が乗っているおわんをテーブルの上に置いた。
そして、場を仕切りなおすかのように一息付きアルジェントヴォルフはベットに腰掛ける。
僕は、グラスにアルジェントヴォルフの分までオレンジ色の液体を入れる。
「お、気が利くの。ありがとう」
素直に礼を言ってくるアルジェントヴォルフ。何回も言うがまだまだ彼女の頬は赤い。
「いや、持って来てくれたんだから僕が注ぐのが当然だろ?」
「それも、そうかの?」
「そうなんだよ」
僕は小首を傾げて可愛らしい仕草をしているアルジェントヴォルフを適当にあしらいつつ『魔方陣学・基礎編』を取り、適当にぱらぱらと捲る。
「分からないことがあったら我に尋ねてくれ。ある程度の質問なら教えてやるぞ?」
「あぁ、ありがとう。その時はあんたに指導をお願いするよ」
そういって僕は本に集中するために口を閉じる。
しかし、いちいち本を読んでいて時間の無駄ということは無いのだろうか。この間、さり気無く実験した『本をぱらぱらと一瞬目に見るだけで暗記する』という行為は暗記が出来ないという結果で終わってしまった。
だが、よくよく考えてみるとあの行為はただそれを見ただけだった。つまりは、覚えようと意識しているのに意味を考えようともせずに、まるで絵を見るような感覚で見てしまったのが問題ではなかったのだろうか。
本を早く読むコツで速読というものがあり、速読を習得するために必ず必要な技術で『視読』というものがある。
これは、人は読んだ文字を無意識的に頭の中で反芻してしまう癖が付いている。それによってその言葉の意味までにたどり着く工程が一つ増えてしまうのだが、この『視読』というものはその工程を排除して見ただけで瞬間的に意味を理解できるという技術である。
つまり、この視読というのをすればかなり短時間で終わらせることが出来るのではないだろうか、という考えが思いついたのだ。都合が良いことに僕は速読術を身につけている。
上司から新聞を読めとありがたいご忠告されて、時間が無かった僕は新聞を読むために速読術を身につけたのである。なんともしょうもない話なのだが。
僕はそれを実行してみる。まずは、『魔方陣学・基礎編』の適当に開いたページを開きそれを約1秒間見つめて本を閉じてみる。これで覚えていれば成功だ。
結果、暗記することに成功した。これで僕の読書ライフはかなり快適になったはずだ。
そうだ、この能力に名前をつけてみるのはどうであろうか。
絶対に暗記できる能力だから『絶対暗記』というのはどうだろうか。しかし、まんまじゃないか。もう少しだけ捻って暗記を記憶に変えて『絶対記憶』というのでいいだろう。良く携帯小説のチートもので見るような能力だが、これが一番安定している名前だろう。
僕はその調子で少しテンションが上がりつつ本を読み進めているとものの数十分で『魔方陣学・基礎編』を読破してしまい、頭の中に内容を詰め込むことが出来た。神様に感謝しなくては。
取り合えず、本の文を丸暗記したところで内容を振り返らなければ何にも意味は無い。ということで、僕は頭の中で『魔方陣の描き方・基礎編』の内容を復習する。
魔法陣というのは、筆記魔法で魔法を発動させるために必ず暗記しなければいけない術式である。
魔法陣の形は六芒星や五芒星があり、六芒星は主に現象を具現化させ五芒星は対象に何かしらの効果を付与させるものである
ここまでが、今までに本を読むことで学んだ事なのだが、やはり短くまとめた部分があったようで見たことのない魔法陣についての詳細な説明が書かれていた。
まずは魔法陣を開発した人物だが、これは不詳である。一部では魔力粒子を発見した『ディレイベル・ロイトス』という魔法研究の第一人者が発明したという説が最も有用なのだが、やはり詳しく分かっていない。
だが、どういうことなのだが理解は出来ないが、その魔法陣を開発した人物の手記というか研究日誌が残っていたらしく、それを元に魔法陣は様々な発展をしていったらしい。
まぁ、発展といってもそれこそ研究日誌には基本的にことしか書いていなかったようで、発展は微々たる進化であったようだ。
しかも、当時の魔方陣研究にはそれなりにコストが掛かったらしかった。それもその筈である。魔法陣というのは書いただけでは発動せず、特定の選ばれたもの‥‥‥つまりは空中に魔力で魔法陣を描くことができる才能ある人物の協力が必要不可欠なのだ。
それに加え、魔法陣を展開するには魔法陣を詳細に暗記しなければいけないこともあり一つの魔方陣を展開するにも中々に時間を取ったらしい。確かに普通に基礎的で初心者に向いていると本に書かれている魔法の魔法陣ですら、緻密で真剣に見つめたら気が遠くなりそうな模様に、無駄に小難い言い回しの呪文を暗記しなければいけないのだから当然だろう。
しかし、そこで魔方陣学の救世主が突如現れる。
それは、とある偉人が魔力で魔法陣を描くことと同様の効果を見い出せる物質を発見し、それにより魔法陣の開発が一気に進んだ。そして、その物質の名前は発見した人物の『レブェリイ』という人物の名前を取って『レブェリイ石』と名付けられた。
この『レブェリイ石』は削って粉状にして、その魔法陣を描き魔力を込めることで魔法を発動するこが出来る。なんでそんなことが出来るのかというと、『レブェリイ石』が魔力粒子を吸収するというなんとも奇妙な特性の所有しているらしく、魔力で直接描くのと同じ効果が見込めるようだ。
それ故に、人件費や時間的な問題からも解放され、人類の魔法陣学は大きく進歩したらしい。
というように、中々に面白い歴史が書かれていた。どうもというか、やはりというか、こういうファンタジーものの裏設定のような歴史は来るモノがある。ファンタジーもののあるあるだ。
そして、次に僕が把握していなかった魔方陣の特徴なのだが、その一つは先ほど言った『レブェリイ石』である。
いや、正確には魔方陣と魔道具の関係性だろうか。
ともかく、このレブェリイ石は研究にも使われているし、現在の家庭に多く普及しているらしい魔道具もこのレブェリイ石を使用している。
何処に使用しているのかと言われれば、考えたら当然分かるだろうが魔方陣を描く材料にである。人間は誰しも多かれ少なかれ魔力を所持しており、才能が無くても音声魔法があれば誰でも魔法を発動させることが出来る。だが、音声魔法はかなり長い文章を覚えなければいけないという手間が掛かるし、一定の威力でしか魔法を発動することが出来ない。
何よりも、魔法の呪文を覚えるための手段はかなり高額な魔法の指南書を購入するか、高等な魔術師に弟子入りするしかまだ手段は無いらしい。
つまりは、かなり高いコストを掛けて魔法を習得するよりも、少々高い魔道具で魔法を使用したほうが早いということだ。
‥‥‥だが確か、この世界には活版印刷という技術がエルフの里に浸透するぐらい普及しているはずである。そうであったら本の価格はある程度下がっているはずであるが‥‥‥実際はどうなのだろうか。
もしかしたら、魔法を取り扱う団体的なものが存在して魔法書の印刷を禁止しているのかも知れない。
‥‥‥妄想が捗るな。しかし、そこらへんは書いていないので、実際に見て確かめるしかなさそうだ。
しかし、魔方陣というのはこの本を見て改めて感心してしまう。魔方陣の進化の過程もそうだが、魔方陣のどの部分がどんな意味を持っているかもかなり興味深い。
例えば、魔方陣の六芒星や五芒星、細かい模様や呪文を囲む円は母なる神『レドリアス』という全ての宗教の始まりと言われている『ケイレ教』の宗教の最高神が、手のひらで大地を包んでいることを表しているらしく、大地に住んでいる全ての人々にご加護を与えているような意味らしい。
僕が読んでいた本には魔法を包み込むという意味であると書いてあったのだが、やはり人々によって価値観が違うらしい。
いや、もしかしたらこれが今の時代で有力な説であるかもしれない。
因みに、魔方陣と宗教の関係しているのは他にもあり、どの宗教は何々の魔法を使ってはいけないだとか、あの宗教は筆記魔法を禁ずるとかそういうのもある。
とある宗教は魔法を使用することすら禁止しているらしい。この本は魔方陣の歴史や魔方陣の特徴。どのような効率的なものがあるのか、というようなものもまとめられていて宗教については詳しく書かれていない。
だが、宗教について書かれているページの中に所々、苦言を呈しているところからこの本の作者は宗教に対して批判的な目を向けていたのかもしれない。
まぁ、これらは魔方陣を語る上で欠かせないような内容らしく冒頭で長々と説明している。が、分かりやすく書くことを優先したようで、硬派な文章ではなく軟派な文章でだれにでも理解できるような内容になっていたりする。
なんとも優しい作者なのだろうか。意味を噛み砕かず理解できる良い本であることに違いない。
しかし、魔方陣のおもしろい話はこれだけではない。
魔方陣は未だに不可解な点が多々あり、解明されていないものが多くあるのだがその一つは『呪文』である。これがなんとも不思議で魔方陣に描かれている呪文は意識をすればどんな文字にでもなるらしい。
簡単に言ってしまえば、魔方陣に書く呪文は『意味が重要』であり、『言葉の形容』は関係ないのだ。
意味が重要だというのならば、架空言語でも発動するのかという問題だが、それは問題なく発動するらしい。なんとも、不思議なものだ。
後は属性のことも中々に面白い内容だった。
『属性』とはご存知の通り、火や水などのものから来るジャンルのようなものであり属性によって展開する魔方陣の色が変わるらしい。
まとめると
赤 → 六芒星の場合『火・炎』 五芒星の場合『攻撃・怒り』
青 → 六芒星の場合『水・氷』 五芒星の場合『防御・治療』
緑 → 六芒星の場合『木・土』 五芒星の場合『成長・腐敗』
白 → 六芒星の場合『光』 五芒星の場合『希望』
黒 → 六芒星の場合『闇』 五芒星の場合『絶望』
である。
既に僕は『マアースクルプ』や『クラインウォーター』を使用したのだが、思い出してみれば確かに緑色や青色だったのかもしれない。
因みに、属性によって色が変わることもまだ詳細はわかっていないらしい。
まだまだ数え切れないぐらいあるけれそ、また別の時に復習でもすればいいだろう。少しだけ疲れた。
僕はそう思いグラスの中に入っているオレンジ色の液体を一気に飲み干す。
これはオレンジジュースみたいだな。
=======
そんなこんなで読み終わり、頭の中で復習し終わったところでふと、顔を上げてみるとアルジェントヴォルフはこちらを頬を赤くしながらじっと見つめていた。
そして、目が合って一瞬。
顔がまたみるみるうちに紅潮していき、また真っ赤な顔になった。
「べ、別にそなたの顔を見つめていたわけではないのだぞ!!」
急に取り繕うアルジェントヴォルフなのだが、僕を見ていなかったのならば何でこちらの方を呆然と見ていたのか。
しかし、からかいがいのある女の子だな思う。可愛い仕草にウブなリアクションは見ているこちらを自然と和ませてくれる。僕はそう思ってアルジェントヴォルフの頭を優しく撫でる。
「‥‥‥うぅ」
すると、恥ずかしげに顔を伏せるアルジェントヴォルフ。なんとも可愛い反応だ。やはり、和ませてくれる。
しかし、いつものように気持ち良く目は細めていなかった。それどころか、何処か浮かない顔だ。もしかしたら、僕が悪い事をしてしまったのかもしれない。
「どうしたんだ? アルジェントヴォルフ。 僕は何か悪い事をしたか?」
いつもより柔らかい声色で話す僕に少し驚いたのか、少しだけ目を見開くアルジェントヴォルフだったが、すぐに顔を伏せてしまう。それほどまでに言えない何かがあるのだろうか。それとも僕に話すのが恥ずかしくて言い出せないのかのどちらかだ。いや、多分後者の方が近いかもしれない。
「なぁ、青井」
いきなりゆっくりと話し、しんみりとした雰囲気を醸し出すいつもどおりではない彼女に驚くが、僕は取り乱したりはしなかった。
「なんだ」
「その‥‥‥ここの使用人のむすめについては‥‥‥その‥‥‥どう思っているのだ?」
‥‥‥どうやら、朝のあの一件がアルジェントヴォルフを動揺させていたようだ。それはこの質問をしているアルジェントヴォルフの姿を見れば分かる。
「僕がジェアさんをどう思っているか‥‥‥ね」
僕は考える。
彼女の事は正直に言ってしまえば良い女性であるとは思う。僕は彼女の意志に応えるつもりだ。だが、それをアルジェントヴォルフに言ってしまえば、彼女は僕のことをどう思うのだろうか。
それこそ、レイさんが言ったように不純な男として僕を嫌ってしまうのだろうか。
‥‥‥それは損得勘定を抜きにして嫌だ。
それならば、嘘をつけばいいのか。それはそれで違うだろう。嘘は否応なく人を傷付ける。
「青井‥‥‥別に正直に言ってよいのだぞ? 我はな、そなたの心を知りたいのだ」
そうか。嫌われてしまったら、それはそれとして割り切るしかないな。嫌われるのは嫌だけど、嘘で信頼を受けるよりも遥かにましだ。
「僕は彼女の気持ちに応えるつもりだ」
そういった瞬間に俯いてしまったアルジェントヴォルフ。着ていた白いワンピースのスカートの端を幼い手が掴んでいた。
「‥‥‥そうか。 いや、勘違いしないで欲しい。我はそなたを止めるような野暮なことはせん。‥‥‥その‥‥‥我はな!!」
すると、突然立ち上がったと思ったら、僕の下へ歩いてきた。そして、いきなり抱き着いてきた。
「そなたが大好きだ!!」
僕はいきなりの告白に思わずたじろいでしまう。
予想だにしなかった言葉、ではなかった。僕はある程度人生経験が豊富であると自覚している。だからこそ、ある程度彼女の余所余所しい仕草を見て、予想はできていた。
しかし、いざ言われるとなると、驚いてしまう。
僕はアルジェントヴォルフの背中に優しく手を回す。そして、手を回して初めて彼女の背中が震えているが分かった。
僕は何も言うことが出来なかった。
「我は‥‥‥こんなに高ぶる気持ちを感じるのは初めてなのだ。――初めはこの気持ちを理解することが出来なかった。でも、あの娘の告白から不安が消えないのだ。こんなの初めてでどうしていいのか分からなく、でも、でも‥‥‥誰かに虐げられないように強くあるべきだと、そう思って‥‥‥」
アルジェントヴォルフはそこまで言って、言葉を詰まらせた。僕はアルジェントヴォルフの背中をさすって落ち着かせる。
暫くさすっていて落ち着いてきたのだろうか、再度彼女はゆっくりと語り出した。
「‥‥‥でも、誰にも心を許せないそんな中で青井‥‥‥そなたが現れたのだ。初めて見た時は聖域に入った野蛮な人間だと思った。そして、『あの神』の名前が出たときはそれ以上にそなたに悪感情を持った。しかし、そなたはそんな意地悪な我に対しても気にした素振りも見せずに‥‥‥優しくしてくれた。誰にも優しくしてくれなかった我を‥‥‥そなたは優しく、優しくしてくれて我は――うれしかった」
そういう彼女の体はまだ震えている。きっと僕には想像し得ない孤独を感じていたのだろう。そして、僕のような甲斐性なし男に惚れてしまうほどに優しさに飢えていたのだろうか。
「だから好きだ。大好きだ。我はそなたを愛している」
そして、そのまま黙った。僕の返事を待っているのだろう。
きっと、アルジェントヴォルフは正直にいってくれているのだろう。だったら僕も本心を語らなければいけないのかもしれない。
「アルジェントヴォルフ。‥‥‥君の心に答えることはまだ出来ない」
そう返事した瞬間に震えが止まった。
だが、震えが止まったと思ったら微かに嗚咽が聞こえる。声を押し殺して泣いているのだ。アルジェントヴォルフはこの短い期間で初めての恋と初めての失恋を体験したのだ。仕方がない。
だけど、声を押し殺して泣くことなど無いのだ。
「これまで子供のようなことは許されなかったんだろ? じゃあ、声を詰まらせる押し殺して泣くことなんて無いさ。思いっきり泣くといい。僕が今までお前のことを拒絶していた大人の代わりにさ。泣いているお前を抱きしめて慰めてやる」
すると、僕の服を強く握り締めるアルジェントヴォルフ。僕も強くアルジェントヴォルフを抱きしめる。
そして堪えきれなくなったのだろうか、大声をあげて泣き出した。きっとこれまで堪えてきたものが溢れてきているのだろう。
そのままアルジェントヴォルフは30分間泣き続けた。
========
「す、すまない」
そう言っているアルジェントヴォルフは本当に恥ずかしそうにしていた。だが、僕はそんな彼女の事を笑うことはない。
「別にいいさ。堪え切れないもんは吐き出しちまえ。いつでも胸を貸してやるからさ」
僕は笑いながらそう言うと、照れくさそうにするアルジェントヴォルフ。僕だってこんなに大人のような行動をするのは恥ずかしいというのに‥‥‥。まぁ、いいさ。
「なぁ、アルジェントヴォルフ。お前ってさ、僕と旅する気はないか? 」
「え?」
アルジェントヴォルフは僕の問い掛けに素の返事を返した。それほど驚いているのだろうか。無理もない。告白を断った直後に旅に誘われるのだから当然の反応だろう。しかし、僕個人としては彼女の告白を全て否定したわけではないのだ。
「いや、そのな、先程の告白を断ったような感じになっていたけど、僕は断ったわけじゃないんだ」
「‥‥‥どういうことだ? 」
「僕は確かに今はアルジェントヴォルフ、君のことを好きになれない。でも、それはまだお互いに顔を合わせてから数日しか経っていないじゃないか。君は僕に初恋をしたんだろ? 」
僕は自分の言っていることがかなり恥ずかしい言動であることを自覚しながら、そうアルジェントヴォルフに尋ねた。
そして、それに顔を赤くして肯定の返事を返すアルジェントヴォルフ。
「そうだろ ? だから、お互いに絆を深めていこう。そして、本当に僕と旅をして好きだと言うのならば、旅が終わった後に付き合おう」
初恋というのは、目の前が見えなくなるほどその対象の人に夢中になってしまう。それがどんな人であろうとも、である。
それに加えてアルジェントヴォルフは、彼女の中に存在する感情を『恋』であると履き違えているのかもしれない。彼女の言葉通りに推測するのであれば、アルジェントヴォルフはただ長く生きただけだ。人間関係の構築をしたことがなく、だからそれを構築する際に発生する感情を判別出来ていなかも知れない。
つまりは僕との旅をして、自分の感情と僕自身を見つめ直してほしい。
そして、ぶっちゃけ一人で旅をするのは、寂しい。
すると呆然とした顔だったアルジェントヴォルフが、何処かはっとした顔つきになる。
「じゃ、じゃあ、旅の間に我にそなたを惚れさせればいいのだろう?我にまだチャンスがあるということだろう!?」
そう言っているアルジェントヴォルフは気分が高揚しているのだろうか、所々の声が裏返っている。そこまで嬉しいものなのだろうか。僕はそう思いながら首を縦に振った。
「それで‥‥‥どうするんだ?」
すると満面の笑みを浮かべて彼女は返事をする。
「我も旅に付いて行かせてもらおう!! そして、この我に惚れさせてみせようぞ!!」
と、意気揚々に返事をするのであった。
初の8000文字です。なんか最初は説明回と分けようと考えていたんですが、文字数が中地半端だったんでそうこうしているうちに9000文字近くになっていました。
いつも読んでいただきありがとうございます。ご感想とご意見をお待ちしています。