彼女の過去話
バトルだけです。バトルですから当然のごとく三人称です。
これは、青井がこの世界『ライアール』に転生する約一ヶ月前の話。
アルジェントヴォルフは朝、森を巡回していた。
これは約100年前から続いている日課でもある。
彼女は『いつも通りの姿』で森を歩いて巡回していた。
この森の空気は常に最適な湿度に保たれており、歩いているだけ爽やかである。
それに加えて朝の爽やかな朝日が体を照らしている。
アルジェントヴォルフはこの朝日の光が好きであった。
何故ならば、この温かみのある光は、まるで母に抱かれているが如く穏やかな気分になるからである。
そして、そんな日の光を浴びながら軽やかな足取りで森を散策している最中のことである。
ふと、鼻に付く『異臭』を感じた。
彼女の嗅覚は人の数十倍以上敏感であり、それは彼女の種族故である。
そんな彼女は半径数百メートルの『森の臭い』を数百年間掛けて覚えている。
それ故に、アルジェントヴォルフはこの通常とは違う臭いに気が付けたのだろう。
アルジェントヴォルフはその『異臭』に近付く。
アルジェントヴォルフが森を巡回しているのは異常を見つけたらその異常をすぐに解決するためである。
しかし、アルジェントヴォルフが森を巡回し始めてからはとくといって事件や異変等は発生しなかった。
いつもの静かな日々を退屈だと感じているアルジェントヴォルフは、こういう日々のアクセントを楽しみいるのだ。
故に彼女はこの『異臭』を当然の如く楽しみにしていた。
先ほどよりも軽やかな足取りでアルジェントヴォルフは『異臭』の発生源へ向かう。
『異臭』の発生源に近付いてきたことをアルジェントヴォルフは感じていた。
そして、いつかしか『異臭』は『腐臭』へと変わる。
思わず、この臭いには鼻を摘んで顔を顰めるアルジェントヴォルフ。
それと同時に違和感を思い出す。
それは彼女がこの森の仕組みを理解していたからだろう。
この森では『腐臭』などはただよらない。
それは樹が病気に掛かったところで腐敗するというひどい症状になることは極まれであるからだ。
しかし、広範囲までただよう強い『腐臭』はアルジェントヴォルフに一抹の不安を過ぎらせた。
この森はどんな植物や岩など全てのものに魔力が通っている。
故に、全てのものが腐る等という事象が起こるわけが無い。
そう、『通常』ならばである。
彼女が生きている間にはそのような事象は起こっていないが、嫌な予感をひしひしと感じながらアルジェントヴォルフは先ほどの快事など何処かへ行ったかのように不安が過ぎっていた。
そして、アルジェントヴォルフの勘は惜しくも当たっていた。
「なんだこれは!?」
それが『異臭』の発生源に到着した際に発した言葉であった。
正に驚愕の一色である。
彼女はまさか自分の考えが当たるとは思ってもいなかったのだ。
全てが腐っていた。
木々は腐敗して途中で折れて酷い惨状と化している。
しかし、それだけでは済んではいなかった。
草草は茶色に変色しており、力なく萎えている。
草花も同じ様に花びらを散らして力なく項垂れている。
土も幾分かいつもよりも柔らかく足を踏み込む度にアルジェントヴォルフの足が沈む。
その光景はやはり惨状以外に表せる言葉は見つからない。
何百年という長い長い時間、この森に過ごしていたアルジェントヴォルフであったがこんな事態は初めての体験であった。
動揺が隠せない。
しかし、これでは駄目だと感じ、彼女の鼻にはきつい環境だが無理やり深呼吸をする。
だが、やはりきつかったようで咽てしまった。
だが、幾分か思考が冷静になったアルジェントヴォルフ。
状況を把握するために腐敗しているこの地域を『ツォバーサーチ』という魔法を筆記術式で使用する。
この『ツォバーサーチ』という魔法は展開した術者を中心とする半径10m~100mのただよている、または蓄積されている魔力粒子を検知する魔法だ。
主に使われる場合は、通常は魔力粒子が一定の空間に必要以上に溜まる事を防ぐために使用されるのだが、戦闘時には姿が見えない敵や土に潜る魔物や海に潜っている魔物が発する魔力を感知するためにも用いられる凡庸性に優れた魔術である。
それを使用し、辺りの魔力粒子を測定する。
そして、その結果に唖然とするアルジェントヴォルフ。
魔力を全く感じなかった。
この森には全てのものに魔力が通っている。
それはそこら中に転がっている小石やぼうぼうと生えている雑草などにも当てはまる。
それなのに、全く感じなかった。小石から流れる微弱な魔力でさえも、空気中に漂っている魔力でさえも、通常よりも柔らかい土の中からも全く魔力を感じなかった。
おかしい、そう思い急いでこの事象を自分の所有する洋館の、母の形見である蔵書保管庫でこの事象について詳しく調べようと思った矢先である。
まだ、『ツォーバサーチ』を発動していたので、察知することができた。
横から魔法を発動させている輩がいることにである。
咄嗟にその場から退くアルジェントヴォルフ。
間一髪、その場が突如抉れた。
「クッ」
アルジェントヴォルフは魔法が放たれた方向を見てみる。
そこには、細く長い黒い人型のようなものがそこに立っていた。
「■■■■■■■■」
何といっているのか理解ができない。
だが、その咆哮から感じる悲壮感に思わず耳を塞ぎそうになる。
そして、次の瞬間にアルジェントヴォルフの体の周辺に4つ展開される魔方陣。
魔方陣の構成としては六芒星という基礎から構成されているので何か自分に攻撃してくるのだろうと予測し『ディーシールド』という魔力を通さない障壁を展開する魔方陣を自分を囲むように発動し、自分の身を守る準備をする。
そして、刹那。
目には見えないが展開した障壁から強い風がアルジェントヴォルフの髪を凪いだ。
この『ディーシールド』は魔法で創造したものは全て無効化する魔法だ。
無効化するといっても初歩の魔法から中級までの比較的に魔力の使用量が少ない魔法だけなのだが、相手の魔方陣を見ることによって大体はこの魔法を使うか区別することができる。
魔方陣は魔方陣の書き込み具合を見ることによってどれだけの魔力使用量かを把握することができ、ある程度相手の実力も把握することができるというものである。
この場合は、そういう理由で黒い人型が使用した魔法が『ディーシールド』で防げるという確信を持った行動であった。
それに、その魔法はそもそも彼女にとって見知ったものであったのだ。
そのことを頭の片隅に置きながら、アルジェントヴォルフはまだ相手方が魔法を発動している間に『グラウディプット』という魔方陣から数メートル長さの岩が突出するという魔法の魔方陣を黒い人型の即頭部左右に展開し、そしてそのまま発現させる。
しかし、魔方陣が展開していることに気が付いていたのだろうか発現させていた風に関連する魔法を中止させその場から跳ぶように後方に退く黒い人型。
それと入れ替わるように先が針のようにとがった岩が黒い人型の頭部があった場所に飛び出す。
だが、既に黒い人型の頭部はそこにはない。
激しい音を立てながらぶつかる『グラウディプット』から発現した岩はぶつかり合い小石を飛ばす。
そして、そのまま『グラウディプット』を使用しながら、『グラウディプット』から発現して突出している岩を驚くべき跳躍力で軽々と飛び、改めて『ツォーバーサーチ』を発現し、それに加え右足に通常の10倍の脚力を出すことのできる『ライティリメント』とそれと同様の力を左足に付与する『レフティリメント』を足に纏い、そのまま『ツォーバーサーチ』で黒い人型の位置を察知し、そこに勢いをつけて踵落としをかます。
ただでさえ、凄まじい脚力であるのに、その数倍の力が土の地面を抉ったが彼女は思わず舌打ちをする。
「ちょこまか動く輩だ!!」
黒い人型は、更に軽やかな動きで側面に入り込み回し蹴りをする。
思わず右手で制したアルジェントヴォルフだが、思いの他軽い打撃を好機と感じそのまま裏拳を顔面に放つ。
今度は不意を突かれたらしくアルジェントヴォルフの裏拳が黒い人型に当たるが、不意を突かれても腕を交差して防御をした。
だが、衝撃は殺しきれず遠く勢い良く吹き飛ぶ黒い人型。
そして、そのまま腐敗して折れた樹の幹にぶつかる。
なお、それでは充分ではないと感じたアルジェントヴォルフは吹き飛んだ方向に『シュテルブラウヘレイアー』という非常に高温の青い炎10mの高さの火柱を噴く魔法で、それを吹き飛んだ方向へと発動させる。
黒い人型の両腕は、アルジェントヴォルフの裏拳という凄まじい衝撃を食らったせいか千切れ飛んでいた。
だが、そんなことはお構いなしに全てを焼き尽くす青い炎が黒い人型に迫り、その黒い身を包んだ。
そして、そのまま溶けて無くなった黒い人型。
当たり一帯に燃え移った炎を沈下させ、そこに残ったものは非常に強い火力で晒したのに関わらずに黒い液体は蒸発もせず煮え滾りもせずにそこに留まっていた。
黒い人型に快勝した後に腐敗した地域を後にして、その一ヵ月後にその腐敗していた地域に戻ったのだが、そこには以前の様に木々や小石などに魔力が流れており、折れた木々からは活力に溢れたなんとも濃い緑色の芽が覆っていた。
アルジェントヴォルフは魔力が戻ったことにほっとしたが
黒い人型であった黒い液体はそこには残っていなかった。
黒い大きな人型とかの考察は次です。
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