森の道中
新キャラ登場
ガサガサと歩く度に落ちた葉を踏む音が聞こえる。
日差しは木の葉に遮られていてそこまで驚異的ではないのだが、だからと言ってこの蒸し暑い鬱蒼とした森の中を歩くのは相当きつい。
自然と頬から汗の雫が首に伝わったのを感じる。
「あ~、暑い」
熱帯雨林が如き暑さに思わず唸ってしまう。
いや、熱帯雨林なんか行ったことはないのだけれども。
「そんなこと言わずにハキハキとしたらどうですか?」
そんなだらけきっていり僕の横を、相対した様子でハキハキと歩くのは、先程のエルフの里からの道中で僕に話しかけてくれているには監視役の『レイ』さんである。
僕がこのエルフの里から出る際にヒューゼさんから監視役を付けると言われ、屈強な男の美男なエルフがついて来るんだろうなとうんざりしていたが、この子がついてくると言われて驚いた。
まぁ、美人がついてきてくれることは僕に少しだけ、いや、ものすごく嬉しい。
容姿は、金髪のストレートで艶やかな髪にぷっくりと膨らんだピンク色の薄い唇。
目付きは鋭いが、しかし狐のような感じではなく、それもまた美人のパーツであることには変わりない。
身長は平均的な感じだが、腰のラインや姿勢の良さ等素晴らしい。
胸の大きさは控えめだけれども、それを加えても女性的で素晴らしい体だと言える。
モデルにしたら世界トップランカーになるぐらいだ。
まぁ、エルフ自体モデルになってしまえば、人間の姿が見劣りしてしまいそうなのだけれど。
しかし、僕としてはエルフが付いてくることには少しだけ不服があった。
なぜならば、僕としてはエルフは人間に嫌な偏見があって良い態度はされないだろうということを想定していたからだ。
話し掛けてくれないとか、嫌味なことを嫌味ったらしくかなりの頻度で呟くとか、襲われるとかそんな悪い感じだ。
だが、レイさんの態度を見ているとそうではないらしい。
まぁ、公私のけじめが付いているという可能性はあるが。
というか、そちらの可能性の方が高い。
そして、門を出る前にルイさんが見送りに来ていた。
もしかしたら、僕を見送ってくれているのかもしれないとわくわくしていたが、手を振っているルイさんに僕も手を振り返そうと思ったのだがルイさんの視線は明らかにレイさんの方へ向いていた。
そのときは、レイさんとルイさんの雰囲気がどことなく似ているところを見ていると姉妹なのかなと思っていたが、後々話を聞いてみると、『親子』の関係であるらしかった。
そのときの僕の様子を驚くことを超えて、逆に一周回って何も反応できなかったほどである。
まさかのまさかであった。
それにしても、まぁ、ルイさんがあの容姿で人妻だとは流石に予想はできなかった。
聞いた時には驚きを隠せなかった。
他の同年代のエルフよりも若干若く見えたことも驚きを増大させた要因の一つだろう。
だが、娘と母親が同じ年代に見える奇妙さは、やはり言葉に言い表せない。
「私を変な目で見ていませんか?」
因みにレイさんは基本的にというか、ほとんど無表情である。
僕の目の前で自己紹介をした時も、ルイさんに見送られる時も眉一つ動かさない無表情であった。
取り敢えず、取り繕っても怪しまれるだけなので、素直に告げる。
「いや、まさかリアルでこんな奇妙な体験ができるとは考えてはいなかったからな」
色んな意味を含ませてそう言うと、不思議そうに首を傾けるが考えても時間の無駄と思ったのだろうか、すぐに首を元に戻す。
「お母さんから聞いていた印象とは違いますね」
ルイさんから聞いていた印象?
それは少しだけ気になる話であった。
美人の評価が気にならない男はいない。
それが人妻であったとしてもだ。
「ちなみに、ルイさんの印象はどんな感じだったんだ?」
なんでもないような感じで腰に手を当てながらそう尋ねた。
しかし、自分でも少しだけ浮き足立っているかもしれない。
「中々に鼻を伸ばしただらしない人だって」
‥‥‥まぁ、最初っから期待はしていなかったが、まさかそんな評価が下っているだろうとは思っていなかった。
腰に当てていた手をだらんと力無く重力に従うようにぶら下げた。
そして、あの時のことを思い出してみるとアルジェントヴォルフに思いっきり指摘されていたことを思い出す。
なんとも正直な本能なのだろうか。
これだから、男って言う奴は‥‥‥。
まぁ、僕も男だしそれに加えて当事者は僕なのだけれども。
「しかし、私はあなたが私を見る目にそんな不純な視線を感じません」
どうやら先程から視線には気が付いていたようだ。
邪な気持ちにはならないが、目の保養になるのは確かである。
そういう気持ちは邪ではないのであろうか。
もしかしたら、そういう視線はまるで芸術品を見ている時の視線と同じなのかもしれない。
しかし、不純な視線を感じないか。
「うーん、なんていうんだろうかなぁ」
この感覚は言葉にしにくいかもしれない。
何ていうんだろうか。
「ほら、顔を合わせた程度の知り合いでも、その子供にいやらしい目線を送るなんて無理があるんじゃなか?」
それはどこか親戚の子供に色目を使ってみているみたいなタブーを冒している気がするのだ。
そのタブーがたまらないという上級者が前世ではたくさんいたのだが、生憎僕はそこまでアブノーマルな思考を持ち合わせてはいない。
しかし、人妻は除外するものとする。
「そういうものなのでしょうか」
「そういうものなんだよ」
「そうですか」
どうやら納得していただけたらしい。
合理的に考える事は素晴らしいけれども、合理的ではないのも呑み込む度胸は大切だ。
この会話にはそんな大事ではないのだけれども、彼女の器の大きさが分かる会話であった。
「しかし、レイさんはなんで敬語で喋るんだ?もっと砕けた会話でも構わないだろ?」
「いえ、流石にお客様には敬意を持って接せねばいけないと自分では思っているので」
「お客様って‥‥‥、そういえばレイさんって年齢はいくつなんだい?」
どうせ数百年あたりだと思っていたのだが、予想とは大きく外れる返答が返ってきた。
「16です。というか、昨日あたりで16になりました」
「‥‥‥マジですか」
どうやら、エルフには数百年生きているのが当たり前だと思っていたのだが、そうでもないらしい。
しかし、数百年生きているエルフと数十年生きているエルフが見分けが付かないと言うのも驚くべきことだ。
お互いの年齢とか口から言わなければ察することもできないではないか。
いや、会話の切り出しにもなるから案外いいかもしれない。
「しかし、アオイさんは私よりも年下なのに結構な知識をお持ちですね。尊敬します」
「ありがとう‥‥‥って、ちょっと待て」
レイさんの一言で静止せざる終えなかった。
僕がレイさんよりも若く見えるって――
日本人は童顔をしていて実年齢よりもかなり若く見られるとは良く聞くけれども、流石に三十代後半の僕が十代に見られるとはおかしいだろう。
そして一時停止した僕に合わせるように、レイさんも停止する。
「レイさん。僕って実際はどのぐらいの歳に見えんだ?」
もしかしたらその可能性があるのかもしれないと考えてレイさんに質問する。
その可能性とは、『僕が外面的に若返っている可能性』である。
「なるべく合理的に詳細を説明してくれない?」
何故、詳細に説明してくれと頼んでいるのかと言うと、簡単に言ってしまえば根拠を聞きたいからだ。
おしsて、何も言わずに首肯したレイさんは何でこんなことを質問するか分からないような感じであった。
「そうですね。私はそこまで人体には詳しくはないのですが、それでも敢えて言うのならば髭も生えていないですし、喉仏も出ていませんし、顔も肌も健康体そのものですし。ズボンから垣間見える足にはそこまで毛が生えていませんですしね。知識の分野的広さも加えれば、私から見れば私よりも年下の15か同年齢の16と考えますね。いや、しかし、人間ではないということも考慮すれば見た目では判断できませんね」
「あ、そこまで考えてくれたらもういい。ありがとな。ふーむ、なるほど、なるほど」
これは確信する以外には無かった。
確か、と生前の僕の容姿を思う出してみる。
まずは髭だ。
これは僕の場合はまばらに不潔に見えない程度に生やしていた。
所謂、ハリウッドスターとか俳優がやっているような感じでワイルドな髭である。
似合っているかどうかはともかくとして、僕はそういう髭をしていた。
次に喉仏だ。
喉仏が突出していないことは流石にありえない。
成人男性ならば少なくとも喉仏は出てくるものだ。
だがしかし、喉仏ならば理由はつけられないのだが、色々と理屈を考えることが出来るかもしれない。
例えばだが、僕が髭の場合は死んだ際に再生する体には毛が生えない云々とか‥‥‥いや、これじゃ矛盾が生じる。
体が再生する際に、毛が生えていないと仮定してしまうと再生した頭部には髪の毛や眉毛などの生えないからだ。
実際に僕は頭を粉々にされているが、そんなことは一度たりともなかった。
それに、ズボンの裾からちらりと見える少しのすね毛というレイさんの供述にも矛盾が生じてしまう。
髭だけ再生しないというのも、なんとも否定しきれないのだが、さすがにそこまで都合よくは出来ていないだろうと判断する。
そう色々と考えていると、ふと妙案が思いついた。
いや、妙案とかそういう問題じゃないのだが。
「レイさん。鏡とか持ってるか?」
簡単に言ってしまえば、自分の姿を確認すればいいだけの話なのである。
百聞は一見にしかずとも言うし(意味は少し違うかもしれないが)日ごろの自分なんて出勤する前の洗面所で見飽きたぐらいに見ている。
自分の顔に違和感があった場合はすぐに分かるだろう。
しかも、女の子は自分を綺麗にするための道具は欠かさず持っていると、よく聞くし美人ならば尚更持っているかもしれない。
「すみません。今は持っていません」
あら。
どうやらあてが外れてしまったようだ。
だが、まぁ、調査が終わりエルフの里に帰ったら、誰かに鏡でも貸してもらえればいいかもしれない。
「ごめん。足止めしちゃって」
「いいえ。逆に私は気分を害されてしまったと思い心配していました。ご無事でよかったです」
「‥‥‥心配かけてごめんな」
「いえいえ。どうやらこの森の気候にも中々慣れていないようなので。アオイさんはお客様です。そのお客様が倒れてしまえば立つ瀬もありません」
「いや、でもなぁ」
立つ瀬が無いとか言っておいて、仕事をさせているのはなにかしらの矛盾があるんじゃないだろうか。
僕が承諾した仕事だからそれとこれとは話が別なのかもしれないが。
「因みに、僕は37歳の40間近だからな」
「そうですか」
思いの外、あっさり受け流されてしまった。
ーーーーーー
随分と長い時間を歩いた気がするが体感時間にはそこまで自信は無い。
何もすることが無いときなどの退屈な時間がゆっくりと感じるのと同じで、さすがに景色の変わらない鬱蒼とした森の中を淡々と歩くのは少しだけつらいものがある。
ちなみに、エルフには時計という概念が無い。
時間の単位は『朝』『昼』『夕方』『夜』『明け方』の簡単な五種類だ。
現代人の僕には、詳細な二十四時間の時間が分からないと少しだけ不安になってしまう使用だが、どうやら人間は二十四時間制のほうを採用しているらしい。
「もうそろそろお昼にしましょうか」
レイさんは上を見て太陽の位置を確認しながらそう告げた。
僕に異論は無いので、首肯する。
しかし、一体どうやって昼になったかなんてわかるのだろうか。
太陽が動いているというのは分かるのだが、それで朝とか昼とかそういう区別がまったく付かない。
やはり、そういう環境に身を置く事によってそれなりに勘が身につくのかもしれない。
今までは都会人な僕にとってはまったく縁も所縁もない話だったが、どうやらそれも人事ではなくなってきたようだ。
そして、しばらく木が密接していない空間に出る。
「このあたりで食べましょう」
僕たちはそのまま木陰に入って食事を摂ることにした。
銀色のあの子は次回でどこにいるか適当に紹介します。
後、明日休みなので小説が捗りますね!!