会談
今日は学校が休みでしたので、いつもより早めに投稿です
アルジェントヴォルフが部屋を後にし、暫しの沈黙が流れる。
沈黙に耐え切れずにティーカップに入っているお茶を静かに飲む。
‥‥‥美味しい。
鼻を通る爽やかな香りと、程よい甘さの味が飲んだ後にやってくる。
もう一口飲んでみると、先ほどの一口目で舌がこの味に慣れたのだろうか。
表面上の味と甘さだけではなく、それ以外の深い香りと、後味の素晴らしさを盛り上げている。
なんとも、素晴らしいお茶なのだろうか。
見た目は苦そうな黒い液体なのだが、それと相反するように丁度良い甘味だ。
そんなこんなでティーカップの中に入っているお茶を全て飲んでしまった。
恥を忍んでお茶のお代わりと詳細を尋ねようとしたところ、いきなり本題に切り出したのはヒューゼさんであった。
本題というか、核心であった。
「アオイ殿は記憶喪失ではないのであろう?」
「っえ」
思わず素で返事をしてしまった。
僕の顔は今、最高に最低な間抜けだろうと容易に予測ができる。
「ち、違いますよ」
僕は回避を試みようとしたのだが、思いっきり動揺した、信頼性の無い言い方になってしまった。
僕が混乱していることが相手に分かってはいけないとわかるのだが、しかしそれには自分の感性を隠す能力と演技力が異様に少なかったことに起因するだろう。
「いやいや、別にアオイ殿が記憶喪失では無いことは、最初から分かっていた」
「最初からというのは?」
思わず聞き返してしまう。
「あなたが、あの子と目配せをしたときからだな」
と、苦笑しながら言うヒューゼさん。
「人の目線には敏感な方でね。しかも、君は感情が表に出やすい方だから、僕以外にも数人気付いていてもおかしくはないとは思うが。」
どうやら、かなり前から気が付いていたようだ。
最初から気が付いていたとはそういうことなのだろうが、いまいち頭が混乱してしまう。
取り敢えず、頭の中にあるこれまでこの世界で経験してきたことや記憶、情報を整理しよう。
まず、一番最初に出会ったときは人間と勘違いされていた。
しかし、驚異的な回復力によりそのことは否定された。
この世界にも人間という種族は普通に存在する
だが、本などの情報によれば斬られた箇所が即座に回復することや、体がばらばらになっても『自然』に回復することはまずは有り得ない。
この時点で僕が『人間ではない』ことが僕自身の体を攻撃することによって証明された。
ならば、この時点で問題点は『記憶喪失と嘘を付いていた余所者』ということになる。
しかし、こんなことがわかっているのならば、なんでここに騙されているふりをしてここまで連れてきたのだろうか。
僕が危険因子であると、解釈していればそんなものをわざわざこの里に連れてこなかっただろう。
いつ、意表をついて住民に襲い掛かるか、どんなことをするのかわからない人物を連れてくるのだろうか。
それは、――まず有り得ない。
仮にも隊長と呼ばれる高い地位に居座っている人だ。
無責任な行動はする筈がないだろう。
ならば、一体全体どういうことなんだ。
「別にアオイ殿が記憶喪失のふりをしていても何かしらの罰を与えようなんて思っていないさ。それに、君がどんな事情で記憶喪失を装っていたのかも聞きはしないさ。」
この状況に混乱している僕を諭すような言い方をする。
やはり、僕をここに連れてきたことには他の意図があったようだ。
それ以外には考えられない。
「一体どういうことなんですか?」
僕は恐る恐る尋ねる。
ヒューゼさんは妙に笑顔なのだが、それは心から笑っている笑みなのか、それとも裏で何かを考えている微笑なのかは僕には判断できなかった。
「実は君には『この森の救世主』になって欲しいんだ」
僕はヒューゼさんが一瞬、何を言っているか理解が出来なかった。
そんな僕を置いて、ヒューゼさんは事の概要を喋りだした。
ーーーーーー
現在、先ほども言ったとおり『何か』がこの森に蔓延っているんだ。
事が起きたのは数ヶ月前。
たぶん、まだアオイ殿は知らないかもしれないが、この森の木々は、他のと違う少々違う性質を持っている。
それは魔力粒子を吸収して魔力を作り出して、それを栄養源にして生長しているということだ。
土も同じで魔力粒子を吸収して、木々やこの森に生息している植物に栄養を与えている。
メカニズムは人間と同じであるが、何故この森の木々がそんな構造になっているかはまだ解明されていない。
それはともかく。
事の発端は、この森に住んでいて協定を結んでいる『オーク』からの異常を報告したものだった。
ん?
『オーク』とは何だって?
あぁ、知らないのか。
じゃあ、説明しよう。
『オーク』とは、顔が豚、首から下は人間に良く似た容姿を持った『亜人』だ。
まぁ、よく似たと言っても体の大きさは人間の体躯よりも二倍以上あるのだが。
そして、顔と体躯よりも特徴的なのはその性質は異常な性欲ということにある。
この森に住んでいる『オーク』にはそんなことは無いが、他の地に根を張っている『オーク』は人々が住んでいる村や町を襲う。
その際に奪取するのは、金品や食料より何より人の形をした女だ。
これと似たような行動をする同系列の『亜人』で『ゴブリン』というのもいるのだが、彼らが人間の女をさらう理由は自らの種族を繁栄させる媒体として使用する。
だが、『オーク』は先ほど言ったとおりに異常な性欲の持ち主だ。
故に、繁殖云々よりも『オーク』は、性欲を満たすことにその人間の村から攫って来た女を使用する。
無駄な性行為を繰り返すのだ。
それに加えて、先ほども言ったとおりに『オーク』は人間よりも二倍以上の体躯を持っている。
そんな『オーク』に性欲赴くままに蹂躙されてしまえば、すぐに人間は力尽きてしまう。
だから、まぁ、人間、又は人間以外の人の形をしている人型の種族にはとても嫌われている種族だっていうことだ。
でも、この森に住んでいる『オーク』は比較的に性格が温厚でそんなことはしないし、協定を結んでいるからこちらには手を出してこないから安心しても良いだろう。
話を本筋に戻そう。
その『オーク』が言うには『木々が腐食している一体が或る』という報告を受けた。
これは特に珍しいいことではない。
木々が病気に感染して、それが他の木に伝染してしまうことは良くあることなのだ。
私たちは、木々に詳しい『樹博』を連れて五人編成でオークが報告してきた一帯に到着したのだが、それは私たちの予想を遥かに超える惨状であった。
木々はところどころ腐食しているのは報告にあったとおりなのだが、木々でけではなく木々の根元に生えている草花が枯れていた。
樹博は腐食している木々を調べようとして腐食している木々の一帯に足を踏み出すと、異様な異臭に鼻が刺激された。
そして、数時間掛けて樹博は木々を調べたが、木には何も異常がないという結果に終わった。
これには、樹博やその他の3人が驚いていた。
しかし、私はこの異常に勘付いていたのだ。
この一帯には魔力粒子を吸収するメカニズムが軒なし停止していることに、である。
それから、その一帯を観察していくと徐々に当たり一帯を侵食しているのに気が付いた。
侵食している速度はかなり遅いのだが、だが長い年月を生きるわれわれにとってはそれはこの森で暮らすことの障害に成り得ないのである。
ーーーーーー
「と、いうわけで君に頼みごとをしたいんだよ」
「いや、ちょっと待ってください」
僕は頭を掻き毟りながら考える。
「なんで僕なんですか」
「体も丈夫そうだし、性格もいい感じに好青年であるから」
いや、その他にももっとあるだろうに。
「実のところはね、この私が考えた仮説を誰も認めてはくれないんだ。諸説によれば神話の時代から存在していて、文摘にも無い、そんな異常が有り得るはずないって聞かないんだよ。後日改めて調査隊を送るというもに私の調査には協力しないって言ったんだ」
どうやら、頭のお堅い上司を持っているようで苦労しているようであった。
しかし、その上司のお方の思考も少しは理解出来る。
確に、少ない可能性に投資をするよりも多い方に賭ける方が安定的であるのには変わりない。
しかも、多くの人々を率いる立場ならば無駄なことに時間をかけたくないのも納得できる理由だ。
「あ、ちゃんと報酬は出すから安心してくれよ」
僕が悩んでいるのを見て言及してくるヒューゼさん。
しかし、そんなことを心配している訳ではない。
どちらかというと、心配なのは安全性なのだが‥‥‥。
多分、そういう訳ではない無いのだというのはヒューゼさんの微笑みからそういうわけにはいかないんだろうな、と勘づくことができた。
「それに、君がこの問題を解決することにより、人間とエルフの関係が強化出来ると思ってね」
そう告げた。
ん?
どういう事なのだろうか?
なんで、僕がこのことを解決することで人間とエルフの関係が強化できるって――、あぁ、そういうことか。
すっかり人間離れした力を使用していたおかげで、僕が人間であるということを忘れていた。
いや、正確には人間とは呼べないのだろうけれども、僕が人間の容姿をしていることには変わりない。
エルフではまだまだ人間の偏見が続いているというのは大体は予想がつく。
そんな偏見を持たれた人間がエルフの里を救ったと聞けば、人間の偏見はましになるかもしれない。
だが、現状ではそこまで大事として認識されていないこの事態を僕が解決してそこまで効果が見込めるのだろうか。
まだまだ、詳細を把握できていない現状ではまだまだ行動するのには早計だと考えられる。
しかも、エルフのお偉いさん達が『人間が解決できる程度の事変であった』と、思われてしまえばそれまでだ。
そもそもの話、ヒューゼさんがエルフと人間の関係を強化したとしても何か美味しい話があるのだろうか。
しかし、そこはヒューゼさんなりに何かあるのだろう。
それ以前にこの依頼を受けるかどうかを決めなければいけない。
そして、それを決めるのはとても現金な話になるだろう。
「ヒューゼさん」
「なんだい?」
「報酬はとは何ですか?」
すると、少しだけ沈黙して
「アオイ殿は、この森から出るのか?」
真面目な顔をして問い掛けてきた。
僕は、その問にヒューゼさんと同じように沈黙する。
そして、何も言わずに首を縦に振る。
「君がこの森を出る際には、人間の通貨はここには無い。しかし、それなりの換金率がある物を用意しよう。武器もこちらで用意しようじゃないか」
「‥‥‥いや、もう一つだけこちらから要望してもいいですか?」
すると、神妙に眉を顰めて手を顎に掛ける。
どうやら、僕が発している雰囲気で無理難題を言いつけられるとでも思ったのだろうか。
「それほど難しい問題ではありません」
そして、ふと深呼吸をして声に出した。
「アルジェントヴォルフ、彼女が生まれた時の話を聞かせて下さい」
なんか、昔後書きで作者と主人公が話すということをやっている人っていましたよね。
僕の作ったキャラは大体は癖っけのあるので自分では話したいとは思いませんね。
※顔文字があったことに気が付いていませんでした。
なんですかあの顔文字は!?