彼女の記憶の断片 4
今回は結構大雑把かもしれません。
あと、プライベートが忙しくなってきたので、なかなか更新が出来ませんでした。
一週間に最低一回のペースで更新しようと改めて思いました。
次回からは一週間に最低一回のペースで更新します。
夜が明け、朝日が窓を指して私の寝室に差してくる。
寝呆けた頭は、暫くの間、眠気のおかげで脳がうまく回転しないがハンモックの横に置いてある水を飲み眠気を覚ます。
今日は、遂に我が種族の『救世主』であるフウリックがこのエルフの里から魔王を討伐する旅に出る日である。
勇者を泊めたあの晩から、様々な事態が起こり、里中が混乱したが、それは良くも悪くも良い結果を招いた。
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その混乱の事態というものは、『グランデール条約』の事件を見逃せなかったわたし達を信用出来なくなったのか、神樹の前を占拠する輩が現れたのだ。
その神樹を占拠した輩の要求はただ一つであった。
簡単なことだ。
責任者の首を差し出せ、という内容だ。
人数は同士を獲られなかったのだろうか数十人という少人数なのだが、『神樹』を占拠されてしまえば我々は手の出しようがないのだ。
最悪の場合はそのことを考えたのだが、しかし、一度でも反乱に従ってしまえば、反乱分子を活発にせざる負えない状況になってしまう。
何故ならば、『神樹』はわたし達エルフの象徴でもあり、この森を象徴するものでもあるのだ。
それを人質にされては、鎮圧しようにも、もしも神樹を傷付けられてしまえば、この森での私達エルフの立場が危うくなる。
それを理解しているか否かはわからないのだが、つまりは手の出し用が無いというわけだ。
だが、勇者たちはそんな硬直した状況を、紐解いてくれた。
圧倒的な武力によって、である。
まさに圧巻の一言であった。
一人の獣人である『ルイド族』である小さな幼女は、その非力そうな見た目に反し、大きな約130cmの体躯の三倍の大きさの大剣を振り回し、風圧だけで、敵を吹き飛ばすという荒業を繰り出していた。
『ルイド族』というのは、獣人の中でも珍しく体格が小さな種族である。
獣人の世界では、体格が大きい種族というのが多く、それは何故かというと、体格の大きさは直接的な強さに直結するからである。
故に、『ルイド族』のように小さな体格の獣人は少なく、しかも垂れ耳
そして、その風圧に吹き飛ばされ無いように手を地面に手をつけている人間の少女。
しかし、ただ地面に伏せているのではなく、掛けた相手を最低でも約数時間の間、ある程度の衝撃にも目を覚まさない深い眠りに誘う状態異常系の魔法である『イディリアン』を駆使しながら闘っている。
しかし、『イディリアン』等の深く相手を混乱させるような魔法は魔力の使用量が多く、そんな魔法を連続で展開していることから、かなりの魔力保有量を有しているのだな、と想像することができる。
そして、もうひとり、『ルイド族』の少女の風圧にビクともしない褐色の肌を持つ、巨漢が一人、両手に細かい装飾をしてあり見るからに高そうな双剣を振り回している。
だが、斬ってわいるのだが、一切血は出ていない。
何かの魔法を双剣に付与しているということは想像ができた。
そして、肝心の勇者だが、異彩を放っている三人とは違い、魔法と剣術をうまく使いこなし闘っている。
だが、異彩を放っている三人とも、引けをとらないほどの巧妙に魔法を使い、そしてそこらへんに落ちていた少しだけ太い枝で、対抗していた。
いや、対抗している、というにはあまりにも圧倒的である。
圧倒されていると表現したほうが良さそうな戦況であった
そうして、一分でも経ったのだろうか。
あれほどまでに首を差し出せと騒いでいた連中は、地に伏せ目を回している。
たかが、数人ごときで数十人といたエルフを死者すら出さずに鎮圧したのだ。
我が種族は、人間を圧倒する量の魔力を保有しており、身体能力も高い非常に優れた種族であると自負してはいるのだが、この光景を見てしまうと、それすらも疑わしくなってしまう。
だが、これで実力が実証された。
彼らは正真正銘の勇者であり、同時にかなりの実力者だ。
これならば、フウリックをまかせてもきっと大丈夫であろう。
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そして、時間軸はフウリック出発の日に戻る。
どうやら、フウリックと勇者は話が合うらしく、いつの間にか学んだのかは知らないのだが私が知らない言語で話している。
長年生きてきた私には、その雰囲気がまるで故郷の者とあったかのような雰囲気に似ているのを私は感じていた。
しかし、彼女がこの森から出たことがないのは、この私自身がよく知っているので、それは気のせいだと無理矢理自分を納得させる。
有り得ないことを考えるほど、無利益な行動はないというのは昔の行動からよく知っている。
暫く、そんな彼女たちを見ていたのだが、どうやら話が付いたようでこちらに小走りで走ってきた。
「どうやら、随分と話が合うじゃないですか?」
「えっ‥‥‥。そ、そうだね!!」
少しだけ挙動不審になりながらも、勢いよく首を縦に振るフウリックを不思議に思いながらも私は彼女の旅に必要なものがはいった小袋を渡した。
「私、ちゃんと自分で旅の用意したよ」
そう言って、彼女が裁縫した両肩に掛ける少々形が不細工な『リュックサック』というものを背を向けることによって見せる。
所々に、『ラビッド』という外見がピンク色の耳が長く毛が柔らかそうな、一見可愛らしい外見をした『魔獣』であるが、その性質は凶暴極まりない。
まぁ、弱そうな外見に則した実力なのであるが。
その『ラビッド』の模様を二頭身にデフォルメした模様をつけているのだ。
私にはとても理解できないが、当人が気に入っているのであれば、私がとやかくいうことはないだろう。
「違いますよ。これは意外と便利なものが入っている私が選別したものです。大きさも小さいので、これならば旅のお供としてもいいでしょう」
私が入れたのは、水を清浄し、更に冷たくするという水筒。
それに、私が手書きで記した旅に役立ちそうな魔法である。
しかも、私が特別に作ったものであるからにして、フウリック知る術もない魔術である。
彼女は物珍しそうにその小袋を受け取り、その中身を見ると、嬉しそうに微笑んだ。
「この魔術私知らないよ!!まさか、ヒューゼが作ったの!?」
魔術のことに感謝を言われた私は、思わず頬が緩む勢いだったが、水筒のことに何も触れないのでそれについても言っておくことにした。
「そうですよ。私が特別に構成した魔術です。それと、その水筒はどんな汚い水でもきれいにして、さらに冷たい冷水にする優れものです」
取り敢えず、一言を付け加える。
魔法に対しては少し印象が薄れてしまうかもしれないのだが、この魔法を作成するよりも、水筒を作った時の方が時間がかかったのだ。
流石に何もリアクションが無いというのは忍びない。
そういうと、再び笑顔で私に礼を言ったフウリック。
そんな彼女を見ていると、私自身も頬が緩る。
そういえば、勇者に一言釘を刺していかなければならないと、ふと感じた。
フウリックの頭に手を乗せて、少しだけ撫で、そのまんまフウリックの横を通り過ぎ勇者のもとに行く。
勇者は相変わらず、目つきが厳しい。
そんな勇者は、近づいてくる私に気が付いたらしく、目を向ける。
「どうした。エルフのおっさん」
声色は低く、言葉が粗いが性格は認められる好青年だということは確認できている。
「まぁ、少しだけ釘を刺しておこうと思ってね」
すると飄々とした感じで、手をひらひらさせている。
その態度に少しだけイラつく。
「フウリックは良い女の子だが、手は出さないぜ?俺は相思相愛がベストだからな」
そもそもストライクゾーンじゃないしな、となんとも気取った態度でそう付け加える勇者。
しかし、私が言いたかったことはこんなことではない。
「いや、別に彼女の恋事情に何か口を出すようなことはしないよ。私も相思相愛だったら文句はないよ。私が言いたいのは――」
すると、私が言い終わる前に顔の前に手を翳し私を静止させる。
「ジョークだってわかんないかなぁ?大丈夫だよ。誰も死なせるつもりはねぇから、あんたは自分の娘のことは、って、あんたの娘じゃないか。まぁ、娘と同じようなもんか。あんたは娘の帰る場所を守っとけばいいんだよ。」
そして、そのまま勇者はキザったらしい態度をしたまま仲間を置いて里の出口の方に歩き出した。
その歩いていく勇者に気付き呆れながらも、勇者の仲間がその後を歩き、フウリックも置いていかれないように小走りで彼らに駆け寄る。
しかし、数メートル歩いたところで、こちらに振り返り私に向かって手を振っている。
「行ってきまーす!!」
その言葉を言い終え、彼女は私に背を向けて彼らに付いていった。
「行ってらっしゃい」
きっと、彼女の耳には届いていはいないのだろうが、彼女の心には届いたろうと私は自分勝手に思うことにした。
ふと、彼女はまだ幼いが、それを踏まえても大人になったと実感し、少しだけ涙腺が緩む。
私はどうも、あの大きな出来事があってから泣きやすくなってしまったようだ。
これでは、皆に格好がつかないと自分に言い聞かせ、我が家に帰ろうとするが、ふと、私は振り返った。
既に、勇者たちの姿もなく、当然そこにフウリックがいるはずもない。
「ご武運を」
私はそう言って、帰路についた。
これから、私室に篭って職務に全うしよう。
少しの間だけ、私らしくなくなってしまうかもしれないが、きっと時間が経てばいつもどおりの私に戻るだろう。
それまで、騒がしい彼女がいなくなり、少しだけ静かになった里の雰囲気に慣れていかないなといけないと考えると、少しだけうんざりする。
次回から主人公です。
あと、クーデターがなんでこんなに大雑把なのかは、想像通りで物語の関係上何にも関係せずに、勇者たちの力をどうやってヒューぜというキャラに認めさせようと考えた末の苦肉の策です。
クーデター起こした連中は、牢屋に約二百年間閉じ込められましたとさ。