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神様会議 中編

これは『神様会議 前編』を見てからにしてください

白髪の男が名乗った瞬間にざわつく神々。だが、そのなかで1名だけ落ち着いている神がいた。白い女神である。


「あなたが青井翔というのは‥‥‥どういうこと?」


誰が言ったかは把握できなかったが、誰もが思っていることだろう。なんで、こんなところに渦中の人物である、というよりも転生させたはずの人間がここにいるのだろう、ということだ。


だが、白い女神は他の神々が考えていることとは違うことを考えていた。それは、主に彼の外見のことである。


白い女神の記憶が確かならば彼の年齢は30代後半であり、まだまだ白髪も少ない年齢だったはずだ。それに加えて、転生後の彼の体の年齢は16歳だ。つまり、年齢的に考えてあの老人が青井翔ではないということは分かる。‥‥‥だが、しかし、この空間に侵入できた希有な人物には違いない。そんな希有な人物が軽々しく嘘をつく可能性は低いが、目の前の老人が魔法を見せただけではしゃいでいた中年男性に見えないのだ。それこそ、外見的な問題ではなく彼の纏っている雰囲気の問題だろうか。


そして、質問を投げ掛けられた『青井翔』と名乗る人物は困ったような顔をしていた。


「どういうことも、『青井翔』だから『青井翔』と言うしかないしな」


と、困ったように答える。その様子は嘘偽りなく本心から悩んでいるように見えた。白い女神は『感情』を司っている。そのおかげで感情を操ることも出来る。操ることが出来れば把握できないことはなく、白い女神はおおよそだが相手の感情をつかむことができる。


だから、『青井翔』と名乗っている男性が本当のことを言っているというのは分かったのだ。


「どうも信じてくれない人が‥‥‥いや、神が多数を占めているみたいだな。まぁ、それでいいさ」


そうして、自分の腰辺りに手を翳す青井翔と名乗る男。


しかし、次の瞬間に質素な木の作りの椅子が現れる。


いや、現れたというよりも『創造』されたという方が正しい。


そのことに驚きを禁じ得ない神々。


一番驚いているのは知恵の神であるヴァイスジェスであった。目を名一杯に見開いて信じられないようなものを見るような目で『青井翔』を名乗る男を見た。


『創造』という行為は神にしかできない所業だ。似たようなもので『錬金術』というものがあるが、『創造』という行為は対価や材料等を必要とせずに魔力を原料として創造したいものを作るという非常に高度なものである。『錬金術』というのは人間が試行錯誤の末に作り出した『創造』の劣化版であり、作り出すものが非常に限定的であり、それを製作するにそのせいさくしようとする物の材料を1g違わず全ての材料を用意する必要があり、非常に『創造』とは違い燃費も悪く手間がかかる正に劣化である。


最初、ヴァイスジェスは錬金術を使用したのではないだろうかと考えたが、ここは魂や精神を具現化する空間であり、物理的な物体を持ち込むことが出来ないことを考えるとそれは有り得ないと切り捨てる。


それ以外の考えも思い付くのだが、すぐに矛盾が発生し切り捨てる。結果的に彼が木の簡易な椅子を『創造』したことを認めるしかなかった。


「お主は一体何者なのだ‥‥‥?」


苦虫を潰したような顔で尋ねるヴァイスジェス。


「だから青井翔だと言っているだろうに‥‥‥。神様だったら心を見透かすことが出来る神様とかいるはずでは無いのか?」


そう少しダルそうにしながら体を前に傾けて最初のように質問を返す。


「‥‥‥彼は本当のことを言っている。私が保証しよう」


そう言ったのは白い女神は言った。


「おぉ、ありがとうな。お嬢ちゃんの姿をしている神様の名前は何て言うんだい?」


自分に聞かれたのか分からなかった白い女神は辺りを一巡してから自分に問い掛けたのに気が付いたかのように自分を指す。その行動に自称『青井翔』は満足げな笑顔で返す。


しかし、白い女神は名前を言いにくい理由があった。別に困るほどの理由では無いので話そうか話さないか考えていると横槍が入る。


ジェンヘイトだ。


「そこの神は、9柱で最も中途半端な『名無し』ですわ。『名無し』の癖になんで9柱なのやら」


ジェンヘイトは皮肉を込めて言う。


これだから言いたくはなかったのだ。


改めて彼女はそう思う。彼女は初めて『存在』していた時からそこにいた最古の神のうちの1人である。しかし、その時に周りの神と違う点が1つあった。


周りの皆は名があったのに白い女神だけ名が無かったのだ。


故に周りからは、やれ欠陥品やら、やれ名無しやら、と言われてきた。9柱の会議に普段でないのもこれが原因である。


既に、彼女自身は『神』からそういう風に揶揄されるのは仕方が無いと割り切っているのだが、『人間』がその事実を知り、自分のことを周りの神々と同じように見られてしまったらどうしようという迷いだった。


しかし、『青井』の反応は予想外であった。


「へぇ、『ナナシ』ちゃんというのか」


予想外の反応と言うか勘違いをしたのである。

その予想外な反応に神々の面々は固まっているが、そんなことも気にせずマイペースに話す自称『青井翔』。


「いやー、神様の名前って小さい母音が多いと思っていたけど『ナナシ』かー。いや別にかわいい名前だと思うよ。かわいい名前にその人形みたいなかわいい容姿にとても似合っていると思うね。いやー、そう考えると『ナナシ』っていう名前も感慨深く思えてしまうよね」


止まらずに喋る弾丸トークに多少押されてしまう神々であったが、白い女神はたまったものではない。勘違いされた名前を連呼されながら可愛い可愛いと誉め殺されているのだから当然だ。


「い、いや、ちょっと待ってく」


「大丈夫だ」


「いや私が大丈夫じゃないんだけど‥‥‥」


「大丈夫だ。私は結構楽しい」


「楽しんでるの!? ‥‥‥もしかして、あなた本当はわかっているんじゃないの?」


訝しむ様に聞く白い女神。


「何のことかな~。可愛い可愛い『ナナシ』ちゃん?」


その問いを可愛いという言葉を連呼することによって話題を逸らす『青井』。


「はぅ‥‥‥。そんなことを言うなよぉ。恥ずかしいじゃないか」


頭を抱えながらパイプ椅子に頭を押し付けて非常に恥ずかしそうにしている。そんな様子を淡々と口の端を上げながら楽しそうに見ている。


そんな状況について行けない他の神々は呆然としていたのだが、比較的冷静な知恵の神のヴァイスジェスが最初に正気を取り戻した。


「お主たち、落ち着きなさい。そちらの殿方も白い女神を愚弄することはお止めなさい。仮にも神なのだからね」


そう言って場の状況を収めようとするヴァイスジェス。


「うむ、それもそうかもしれないな。自重しよう」


そう言って静かに足を組んで堂々と居座る自称『青井』。そこには反省という反の文字すら見当たらない。だが、ヴァイスジェスはこの男のペースに呑まれたことを把握し、こんな調子で話が続くということに頭を煽る。


「それで、私がここに来た意味は、そこの頭を椅子に埋めている白いのにお礼を言いに来たということと、忠告をしに来た」


白いのにお礼に来た、という言葉に反応し、白い女神は顔を上げて自称『青井』を見る。


「私にお礼を言いに来た?」


「あぁ、あなたなんだろ? もう一人の私をライアール?だっけか、に転生させたのって」


「う、うん。そうだよ。私が担当したけど‥‥‥」


そう白い女神が言うと、自称『青井』は頭を下げた。


「ありがとう。あなたが変な細工をしないおかげで『彼』は本来は味わうこともできなかった人生を謳歌しているよ。本当にありがとう」


いきなり頭を下げてお礼を言う自称『青井』に思わず驚く白い女神。いきなり自分をからかっていた人からお礼を言われて混乱しているというのもあるが、なんてマイペースな人なんだ、という驚きもあった。。


「い、いや。神様として、そして世界の均衡を保つために当然のことしたまでだよ。それに本当は生きられた世界だったのに、なんでか知らないけど生きられなくなっちゃったんだよ?だったら、誰にも左右されない新しい人生を送らせてあげたいじゃない?」


頭を上げてほしく謙虚に主張する白い女神だが、一向に頭を上げる気配は無かった。


「いや、そうはいかないよ。私は彼の人生を体験しているからこそ分かるんだ。あの頃の私は自殺してもおかしくないぐらいに精神を追い込まれていた。世界のためだと言ってもそれぐらいは言わせてくれ」


「分かったから。どういたしまして。これでいいかい?頭上げてよ」


どういたしまして、という言葉に満足したのだろうか自称『青井』は頭を上げる。


そして、改めて雰囲気が変わった。まるで不思議な得たいの知れない不思議な感じからキリッとした芯のある逞しい雰囲気になったのだ。それは神と対峙しても違和感が無いぐらいに尊大な雰囲気を持っている。まるで、存在そのものが入れ替わったかのように錯覚してしまいそうになるが神である彼らはそうでないことを分かっている。


そして、重々しく口を開けた。


「私はあなたたちに忠告したいことがある。もう1人の私であるライアールに転生した青井翔は怖れるべき存在だ。彼に何かしたならばかならず報いを受けることになるだろう。なんたって、彼はきっと私以上に強いだろうからな」


彼の言葉に思わず耳を疑った。


彼は暗に9柱に対して脅威になる存在と言っているのだ。それは、各それぞれの世界で信仰されている神に言い放つのとは分けが違う。なんたって世界を創造している神々に向けて言っているのだ。その神々の脅威になるということはすなわち、世界の1つや2つぐらいどうでも出来る能力ほどの恐ろしい能力を持っていることになる。


だが、当然納得しない神が出る。


「‥‥‥ハッ。神でもない貴様が神が怖れる存在だと言うのか」


そう言ったのはアメレィストゥであった。彼の顔には既に自称『青井』が敵と認識していることは確かだ。


アメレィストゥは9柱の中で一番プライドが高く短気である。故に彼が示す神が恐れる存在という言葉に苛立ちを示したのだ。9柱の反応は様々であり、動揺が隠せないという感情で一致していたのだが、彼だけは『青井』に警戒心を抱き続け、ずっと黙ったまま疑い続けていた。


「試したことは無いが理論上だと強い。謙遜する言い方が見つからないが、否定するものでもない」


だが、『青井』が言ったとおりに強いことをはっきりと『武神』の前で主張する『青井』。そのことが癪に障ったアメレィストゥはこういった。


「『創造』することができるだけであろう。それだけで強いと騙るなど失笑ものである。神の似たようなものではあるかもしれないが、万全とは程遠い。万全というならば少なくとも武を司るこの俺を倒してから言った方がいいのではないのか?この全ての世界の『武』を司るこの『武神』アメレィストゥになァ!!」


そう言いながらアメレィストゥは槍を構える。しかし、そこには先程の白い女神を襲った怒り狂った雰囲気は無く、試練を与える神の目であり、この戦いで『青井』が強いことを望むような好奇心溢れた瞳。まるで、子供のようであった。


その様子に溜め息を付きながらも『いつの間にか』手に持っていた刀を下段に構える。どうやらアメレィストゥを認めさせるようだ。


「全く、『武神』というからには好戦的であると思ったが、ここまでバトルジャンキーだとは思わなかったよ」


「何を言っている」


「いやいや、だけどどこまで私の強さが通用するのかが試せるのかと思ってね」


「随分と余裕ではないか。中々に外見に反して骨のあるやつ¥だな」


「それは褒めているのか?」


「まぁな!!」


そう言った瞬間にお互いに駆け出した。そして、10m離れていた両者が一秒も経たずに激突し、刀とアブソートスィータの柄がぶつかり甲高い音が鳴り響く。そして、そのまましばらく鍔迫り合いになる。


神々の面々が緊張した面持ちで見守っている。彼らは最初、間違いなくアメレィストゥが勝つと思っていたが、先ほどの動きを見て少しだけその確信が揺らいだ。それぐらいに、彼らの動きは逸脱であった。隙が一切無く、硬直している状態ですら『接戦』と表現できるほどのそれに思わず確信が揺らいだのだ。


そして、その硬直状態を先に破ったのは意外にも『青井』だった。


『青井』はアブソートスィータの柄を弾き飛ばし、あろうことかアメレィストゥの足を思いっきり踏みつける。もし、アメレィストゥが足に何かしら足を覆うものがあったならば少しの痛みではひるみもしないアメレィストゥだったが、、生憎このときのアメレィストゥの足は素足で『青井』は厚底の革靴を履いていたのだった。素足を厚底の革靴で踏まれたことによって思わず痛みに意識を一瞬だけ奪われてしまうアメレィストゥ。その一瞬を利用して、足を踏みつけた足を踏みつけたまま更に踏み込み、アメレィストゥの腹に膝蹴りを入れる。


「――ウグッ!!」

だがしかし、『青井』は今の一発はそこまで効いていないことに気付き思わず顔を顰める。


アメレィストゥは膝蹴りと同時に後ろに重心を移し、ある程度の衝撃緩和に成功しそのまま一気に20mぐらい飛び退いた。だが、目の前の老人に一撃入れられたという事実に対してアメレィストゥは驚いていた。


アメレィストゥがこの状況に困惑している一方で『青井』の方は飄々とした態度で刀を振り回していた。だが、1本だけしかなかった刀は2本に増えており、それを両方の手でくるくると回して遊んでいる。


「見くびってもらっては困る。こういう事態が起こる可能性を考えて、いろいろとシュミュレーションをこなしてきたんだ。だから、手加減無用だぞ? 」


そういって不適に微笑む『青井』。その姿を見て、アメレィストゥは自分が改めて手を抜くという『武人』らしからぬ行動をしてしまったと自分を恥じた。


目の前の人物が老人の姿をしていたから、手を抜いても勝てると思っていたのだろうか。

それとも、自分の力に慢心していたのだろうか。

様々な考えが思い浮かんでは消えていくが、自分が無意識に手を抜いたせいで攻撃が入ってしまったことには変わりはしない。なんとも愚かなことをしたのだろうと、アメレィストゥは思い気を引き締める。


「あぁ、たしかに――そなたは強いな。俺に一発蹴りをかますぐらいには強いことを認めてやろう」


そう言いながら背を反り返し威圧感を放ちながら両足で立つ。


その姿に思わず感嘆の声を上げる一同。『青井』もその姿に一瞬だけ驚く。


アメレィストゥの姿血肉沸き踊る戦士の姿であった。


神とかそんなものではない。


武人として心から自分と同じ領域を渡り合える好敵手が出てきたことに感動している『戦士』の姿だ。


「――久しぶりにアメレィストゥのあんな姿見たわ」


そう言ったのは美の神であるジェンヘイトであり、彼女の顔は久々に見た彼の『戦士』としての姿を惚れ惚れとして見ている。


アメレィストゥはここ数千年間、闘っていなかった。それは、宗教が安定しはじめ神々の戦争がなくなってきたのもある。だが、闘いそのものがなくなったわけではなく、彼に勝負を申し込む神は多くいる。それはそれぞれの世界で『武』を司っている神々であるが、その神々はアメレィストゥからしたら――『武』を極めきったと認識していた彼からしたらなんとも弱く歯ごたえのない挑戦者だった。


故に、彼は欲求不満だったのだ。


弱いものを蹴散らすような緊張感の無い戦いよりも、好敵手と命を削る素晴らしい戦いをしたいという『闘争欲』に飢えていたのだ。それに対してここ数年間苛立ちを常に感じ、短気になっていた。


そして、目の前には油断していたとは言え武神であるアメレィストゥに一発入れたイレギュラーがいる。だからだろう、『武』の神であるアメレィストゥは非常に興奮している。それはもう、体から蒸気が上がり満面の笑みで睨み殺すように『青井』を睨んでいるぐらいに興奮している。


そして、アメレィストゥは槍を『青井』に向け豪快に楽しそうに笑いながら


「ここで勝負を終わらせるつもりは毛頭無いのだよ。血肉沸き踊る殺し合いをしようではないか!!『青井』!!」


そう言い放った直後、目にも留まらぬ速さで走り出た


「さぁて、久々に老体に鞭を打ちますか!!」


『青井』も自分に渇を入れて走り出す。


その瞬間。


戦いの火蓋は切られた。


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