エルフ
エルフというのはファンタジーものの鉄板で、人間との深い溝があるのも鉄板ネタですね。
アルジェントヴォルフが住処とする古びた洋館から遠く離れた森の中を淡々と歩く青井一同。
裸だった青井は、魔法『マアースクルプ』と『フラットメイク』の二つを使用して、そこらへんに落ちている葉でトランクスを、土で頑丈そうな鎧を作った。
因みに、鎧は作ったが兜は作っていない。
『マアースクルプ』の効果は、土を自由な硬度、柔軟性、形に操ることができる魔法である。
土があればその効力を遺憾なく発揮し、攻撃や防御に使うことができる万能な魔法である。
しかし、物理攻撃はともかく、魔法による攻撃には、魔力をまとった土と魔法の魔力が相殺し合うのであまり、魔法には滅法弱い魔法である。
『フラットメイク』は『マアースクルプ』と違い用途が狭い。
まぁ、葉っぱで衣服を作ることがだけがこの魔法の特徴だ。
しかも、葉っぱの特性がそのまま生かされているので、異様にスベスベしていて履き心地が悪い。
古代に魔法が普及し始めた頃、まだ服などが高かった時代に人々が清潔そうで綺麗な服を求めた結果この魔法ができたそうだ。
追記によると、この魔法が開発されて一年間ぐらしいしか使われなかったらしい。
青井は、もうひとつ『クリエイティブメイキング』という魔法で服を作ろうとしたのだが、成功しなかった。
どうやら、他の魔法よりもより強く、繊細にイメージをしなくてはならず魔力があるだけでは使えないらしい。
そして、時間軸は現在に戻る。
「青井よ。そのガシャガシャと音が鳴るのはどうにかできんのか?耳が痛くてかなわん」
不満そうに青井の作った土の鎧をつつきながら、そう文句を言うアルジェントヴォルフ。
「これ脱ぐと緑色のパンツ一枚で野生児になるじゃないか。僕はそんなの嫌だぜ?」
青井本人も着心地は最悪だし、動き難いしといろいろ不便なのだが、上下葉っぱのグリーンな衣装を揃えることには抵抗感があるのだ。
(どこの○キリ族だよ)
某ゲームの年を取らない一族を思い出した青井であった。
すると、先頭で青井を率いているエルフの集団から一人だけが後方に下がってくる。
先ほどの気の抜けた声のエルフの女弓兵であった。
「私にもその鎧触らしてくれないかしらぁ?」
「あ、いや、どうぞ。存分に触ってください」
思いっきり、下心が丸出しの声で応答してしまった青井だがそれも致し方がない。
先程は遠く離れていたし、夜で明かりが月明かり以外なかったおかげでよく顔が見えなかったが、エルフの女弓兵は近くで見ると、美女であった。
他のエルフ達と違いストレートな金髪ではなく、少しだけカールが掛かっている。
顔立ちとプロポーションは他のエルフの少女たちより若干幼いが、美女であることには変わりない。
アルジェントヴォルフは『可愛い』のだが、このエルフの女弓兵は『美しい』である。
「‥‥‥鼻の下が伸びておるぞ」
アルジェントヴォルフがじと目で注意してくる。
それは青井自身も自覚しているのだが、如何せん生前は見たこともない美女があろうことか近くにいるのだ。
(鼻の下ぐらい伸ばさせてくれよ)
そんな風に思っている青井をアルジェントヴォルフは蔑んだ目で見るが、そんなことも気にしないでエルフの女弓兵は鎧にをベタベタと触っていた。
「凄いわねぇ。私も『マアースクルプ』使うけど、こんな硬質な土にはならないわぁ。あなたって記憶喪失前は物凄い魔法使いだったんじゃないの?」
「そ、そうですか?」
褒められて更に鼻の下が伸び、語尾が変に上がる青井。
傍から見れば気持ち悪い。
「そうよぉ。この魔術って魔力が多ければ多いほど柔軟性はますけど、硬度は魔力が多くても中々上がらないのよねぇ。高度は魔力の純度が重要だから、あなたって人間のように見えるけど、素敵な魂を持っているのねぇ」
そう言ってから、手をひらひらとさせて先頭のエルフたちの集団に帰っていく女弓兵。
「やっぱエルフって美人だなぁ」
先頭集団へと帰っていく女弓兵を見つめながら呟く。
すっかりと、見蕩れてしまい名前を尋ねるのを忘れたと落ち込む青井。
本気でショックを受けたらしく、がっくりとうなだれながら歩く。
「‥‥‥其方、エルフという種族はそういう視線に敏感だぞ?」
「は、はぁ!?そういう視線ってどういう視線だし!?」
すると、思いっきり慄く青井。
「‥‥‥もしかして、其方。気付いていないと思っていたのか!?はぁ、じゃあ、言葉にして言ってやろう。下心ある視線には敏感だぞ。因みに、エルフではなくとも其方の下心はわかるがな」
「‥‥‥そんなに見え見えだったか?」
アルジェントヴォルフに青井が問い掛ける。
「そうだな。白い雪原に真っ赤な血が飛び散っているぐらい見え見えだったな」
「そうか。そんなに明らかだったか‥‥‥」
そして、やはりがくりとうなだれる青井。
下心は隠れているつもりだし、表情には出さない自信があったのだ。
しかし、最近は指摘されている頻度が多いように青井は感じる。
「雑談はもうそろそろ止めてくれ。もうそろそろ我が里に到着する」
誰かは認識できなかったが、エルフの男が言っていることは判別できた。
すると、高さ10mぐらいの木々が複雑に絡まり合い外壁と化している。
真正面には見上げるほどの大きな木製の門がある。
門の脇には約四名の槍を携えた兵士が待機しており、また遠くから見渡し迎撃できるように展望台がありそこには弓兵が監視している。
「お帰りなさいませ!!隊長殿!!」
すると、門の脇に控えていた四名の兵士の内一人が、一番先頭を率いていたリーダーらしき男に話を掛ける。
(へぇー、やっぱ隊長格だったんだ)
そんな暢気に構えていると矢が飛んできた。
「うわぁ!?」
今回は足をずらすことによって交わすことができた。
地面の土に矢が突き刺さり、暫くの静寂が訪れる。
あともう少しで眉間に当たるところであった。
安堵しきった青井だが、視界の済の展望台を見てみると次の矢を携えた弓兵が視界に映る。
四人の門兵達も槍を構える。
思わず青井は戦闘体制に入ろうとする。
「止めろぉ!!」
エルフの隊長が弓を構えている弓兵に静止の声を呼び掛ける。
「隊長!!なんでここに人間と狼がいるんですか!?」
驚くように兵士は隊長の男性に声をかけた。
そこには、圧倒的な不安が見え隠れしている。
「彼は人間ではない。それは我が保証しよう。そして、狼はまぁ、人間の付き添いだ。安全は我が保証しよう」
「‥‥‥わかりました」
渋々と納得したかのように、頷く門番の兵士。
そこには、少々不満の色がにじみ出ている。
それくらいに人間とエルフ、いや、亜人の溝の深さは深いのだ。
そして、こちらに来た隊長は深く頭を下げる。
「すまない。部下が無礼をした」
「いえ。いいから頭を上げてください」
正直に言ってしまえば少々驚いた青井である。
が、自分は悪くないのに何故か人に頭を下げられると罪悪感が湧く青井は、頭を上げるように催促をする。
頭を上げた隊長の男は驚いたような顔をして青井を見上げる。
もっと怒鳴られる覚悟だったのが、空振りに終わった。
「アオイ‥‥‥殿でよろしかったかな?」
隊長の男性が青井に名前を確認してくる。
「あ、はい。青井翔です」
「ルイから聞いているよ。君って凄く魔法の技術が高いらしいじゃないか」
「‥‥‥ルイさんですか?」
青井は思考を巡らすが、ルイと名の付く名前は思い浮かばないが、エルフの中の誰かかとは思う。
青井はあの気の抜けるような女弓兵だなと見当がつく。
「あぁ、紹介するのを忘れていたが、君と話していた弓兵だよ」
そう紹介すると青井に向けて手を大きく振っているエルフの女弓兵が1人。
そして、隊長の男がそれに気づくとその女弓兵を指差す。
「あの君に向かって大きく手を振っている彼女だよ」
取り敢えず、自分にむかって手を振っているのに何の反応もないと失礼なので、軽くルイにも手を振る青井。
それで、満足したのかルイはエルフの隊列の中に戻っていく。
「結構なやんちゃものでね。見た目とは正反対だ」
まるで子供でも見ているかのような静かな瞳でルナを見詰める隊長の男。
少々な垂れ目で鼻も日本人の平均に比べれば高いが、エルフの中でだと鼻が低い。
口も小さく、肌も白い。
一見は大人しそうだが、大人しければ青井なんかには話し掛けないだろう。
「そして、私は外部調査隊の隊長だ。名は『アリレム・ヒューゼ』という。気軽にヒューゼとでも呼んでくれ。よろしく頼む」
そう言って手を出すアリレム。
どうやら握手を求めているらしい。
「よろしくお願いします」
そう言って、青井もその手を握り返し、二人は握手した。
「そしてアオイ殿、ようこそ。エルフの里へ」
青井はエルフの里に一歩踏み入れた。
最近は硬派な単行本を読んでおりますが、一向に文章構成力が発達する気配がありません。
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