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プロローグ

初連載作品ですので文章力は低いです。のんびり更新していこうと思します。

※登場人物の一部は自サイトに登場するキャラクターをアレンジして使用しています。

 吾輩は転生者である。名前はまだない―――・・・・嘘です、あります。

 サミュエル・ロジスティスが今の俺の名前である。

 平成の日本で死んだ(たぶん)俺は気がついたら赤ん坊になっていた。

 幼少時の黒歴史は省略させてもらおう。

 薬屋の息子として生まれ、学校にて親のあとを継げる程度の技能を身に付けた。

 そして田舎に隠居した両親に代わり店を切り盛りする現在。

 生まれて二十数年、そろそろ嫁さんほしいと思いながら日々を送っている。


 転生して一番驚いたことといえば、ここが異世界であるということ。

 騎士とか魔法使いがいて、人間と魔族の対立があるファンタジックな世界であるということだ。

 もちろん俺は人間である。

 よくある転生小説では貴族やら王族やらに生まれるとか、チート能力とかで領地改革したり技術革命を起こしたり、歴史の表舞台に引きずり出されるというパターンが多いが、幸か不幸か平凡な人生を送っている。

 突出した才能もなければ暗い過去もなく、ましてや特別な血筋とやらでもなく。

 5年前魔族と開戦したときには、有事に備えていつでも逃げられるように夜逃げセットを作り、戦火がうちまで来ないよう祈った。

 3年前勇者が選出され仲間たちと旅立ったときにも『頼むぞ』と見送った。


 まさに一般人生そのものである。








◇◇◇◇







 王国歴298年



 その日、アルヴィース王国は歓喜に包まれていた。


 神に選ばれし勇者とその一行がついに魔王を倒したのだから、お祭り騒ぎにもなるだろう。

 ここアルヴィースの首都シュライズでは街のあちこちで号外!との叫び声と共にかわら版が配られている。

 俺は買い出しの帰りで、押し付けられたそれをとっくりとながめる。

 文章をいちいち読む気など起きないが、写真だけは見ておこうと思ったのだ。

 勇者は意外と地味だ。神官のおっさん・・・こいつは隣国ロクサの出身だったか。魔導士は見たことある顔だ。というかうちの国の出身だ。

 俺が一番注目するのは魔法騎士。淡い金髪で同じ色の長いまつげが縁取る紺碧の瞳、顔立ちは彫りが深く丹精で。一言で言うならものすごい美形である。

 背もすらりと高く、背筋のピンと伸びた引き締まった体躯・・・・・つまりは典型的な騎士様の理想形で、女ウケしそうな容貌だ。


 まあ容姿が一番派手なことも理由の一つだが、何よりこいつは―――・・・


 店舗も兼ねる自宅に帰り着いた俺は買い物袋を左腕で慎重に抱え込み、右手で裏口のドアを開いた。

 蝶番が軋む音を聞きながら自宅に入ると、ソレは目に飛び込んできた。


 淡い金髪を振り乱し、猿轡をはめられ、亀甲縛りされて天井から吊るされる20代前半と思しき男。


 涙のたまった碧眼と俺の視線がぶつかる。

 俺は買い物袋に突っ込んだ新聞をちらりと見る。どう見ても、今をときめく勇者さま御一行の魔法剣士さまと同じ顔。というか本人である。

 なぜ件の魔法騎士さまが俺の自宅で吊るされているのか・・・。断っておくが、これをやったのは俺じゃない。


「あ、おかえりサミュエル」


 輝くような笑顔で俺を出迎えるのは、ふわふわとした銀髪と銀色の瞳の、天使のような容貌の女性。ちなみに俺の家族ではないし、家に招いてもいない。

 位置づけで言うなら友人―――というか元同級生の腐れ縁だが。魔法騎士を縛り上げた張本人はこいつだ。


「あのさ、リアン」

「なにサミュエル?」


 挨拶をすっ飛ばして、俺は己の疑問を口にした。


「勇者一行は今日は王宮で凱旋式の準備してるはずじゃないのか?」

「そうだね」


 にっこりと肯定されても困る。王宮にいるはずの騎士様はここにいて、同じく準備に忙しいはずのイシュルフィード伯爵家の跡取りもここにいる。発狂しそうだ。

 天使のような笑顔で、伯爵家嫡子なリアン・アリステア・イシュルフィードはのたまった。


「私とシスそっくりの魔法人形置いてきたから問題ないよ」

「ありまくりだと思う」

「ちゃんと簡単な受け答えはできるよ」

「そういう問題じゃない」


 猿轡をはめられた魔法騎士さまことアレクシス・ギル・アルスタットが涙を浮かべながら同意の視線を向けてくる。ちなみに愛称はシス。

 誰もが彼のこの姿を見たら驚くだろう。魔王のどんな強力無比な魔術にも恐ることなく立ち向かっていったという勇猛な騎士さまが、こんな古ぼけた家で亀甲縛りされているとは。

 しかも、これが珍しくもない日常の光景だとは夢にも思うまい。


「リアン、仕事は?」

「うん、新しい術式思いついてさ、早速試してみようと思って。シスで」


 リアンは国の魔法研究機関に務める若き才媛だ。新しい術式の開発を専門としている。勇者一行の魔導士も、旅立つ前にリアンのところで新型攻撃魔法をいくつもストックしていたはずだ。

 だがリアンが開発した術式のほとんどは、とある尊い犠牲の上に成り立っているのだ。そう、アレクシスという実験台の上に。

 学生時代からリアンの趣味は呪文開発で、同級生あったアレクシスは何故か彼女に気に入られ、新魔法の餌食になっていた。

 それはもう、思い出すだけで涙が出てきそうなほど哀れなものであった。

 そして彼女が引き起こす魔術実験で学院にもたらした被害は数知れず。着いた異名はイカレ魔術屋である。


 恋の魔法をかけられ(女子生徒に頼まれたらしい)、むさ苦しい野郎どもに愛していると追い掛け回されていた。

 美肌になる魔法と称する術をかけられたら、なぜか両性具有になった。

 ニワトリに変えられたあげく家畜小屋の本物と混ざってしまい、どれがアレクシスかわからなくなって何もしらない料理人にソテーにされかけた。


 思い出すだにしょっぱい思い出の数々。

 そんな過去を持ちながら英雄になった友人を俺は尊敬する。


 だがしかし。



「今日の新作魔法、魔獣調教用魔術『君の瞳にロック・オン』だ」



 アレクシスは英雄になってもリアンの実験台という役回りからは逃げられないらしい。

 アレクシスの猿轡越しのくぐもった悲鳴を聞きながら、俺はキッチンに向かった。

 きっと今日の実験も長いだろう。リアンは夕食もうちで相伴になるつもりに違いない。さて何を作ろうか。

 いやその前にお茶か。


「大丈夫だよー痛くないよー。力を抜いてー」

「○▲×■〜〜〜〜ッ!!!」


 扉越しに断続的に聞こえる魔法の発動音と悲鳴。

 他者が聞けば何事かと血相を変えるであろうこのBGMを聞いていると逆に平和だなと落ち着いてしまう自分。

 そうなってしまう程度の年月、この風景は俺の日常で有り続けている。

 ヤカンをコンロにかけ炎の精霊石で火をおこしながら、俺はつらつらと学生時代を思い出す。



 出会ったときアレクシスは、お世辞にも善良な人間とは言い難かった。

 適度な物欲と少し過剰な出世欲を持つ、成り上がり貴族出身の少々傲慢なところがある人間であった。

 それが今では優秀だがリアンに日々弄ばれるただのヘタレ騎士。

 学院に在籍した6年間でこうなった。

 たった6年、されど6年。

 思春期の情操教育によって人間ここまで変わるのか・・・・・と思い知らされた。


「リアン、お茶はハーブのにする?それとも紅ち・・・・・」


 ―――茶にする?と聞こうとした俺は思わず口をつぐむ。

 亀甲縛りで吊るされたアレクシスの尻から、黒いフサフサした尻尾が生えていたからだ。


「・・・・・リアン、魔獣調教用魔術とか言ってなかった?シスを調教するどころか魔獣化してるよ」

「・・・・・あれ、おかしいな。やり直しだね」


 悪びれずのたまうリアン。

 助けてっ!とアレクシスが視線で訴えてくるが知らないフリをする。

 俺は我が身が可愛い。


「サミュエル、ハーブのお茶でお願いね」

「・・・・・了解」




 負けるな親友。

 どんな長い夜でも必ず朝が来る。



 俺はありきたりな励ましのフレーズを心の中で友人に贈った。







 この物語は転生者による魔王討伐の英雄譚でも王宮での権謀術数話でもチート能力による無双話でもない。

 後に英雄となった少年と、少年を実験台にしては新魔術を開発して稀代の天才と呼ばれるまでになった少女の巻き起こす騒動の記録である。


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