第二部 第2章
レジスタンスたちの戦法は極めてゲリラ的なものだった。大掛かりなデモ隊などは正気の沙汰ではない。なぜなら政府軍はベーシックを人間扱いせず、躊躇なく処刑したからだ。言論の自由もなく、メディアを通じての啓蒙も許されなかった。また、集団で軍隊を組めばインドラの餌食となる。したがって地下にもぐり明日の見えない戦いに明け暮れていた。そんな彼らを政府はモグラどもとあざけり笑った。
少年は見張り台で双眼鏡を熱心に覗いていた。彼の仕事は敵襲をいち早く知らせることだ。
「お~いナオト、なにか変わった様子はないか?」
下から男が聞く。
「うん、別になにもないよ」
「じゃあここらで飯にしようや。お前のばあちゃんも待ってるぞ」
少年は祖母と二人でこのレジスタンスにいた。両親は思想犯罪者として政府に連行されたきり戻っては来なかった。
(こんな世の中絶対間違ってる。やつら俺達ベーシックを猿扱いしやがって。俺達だって同じ人間なのに)
双眼鏡から目を離し高台を降りようとしたが、遠くで砂埃が上がった気がして構え直す。なにかが向かってくる。おそらく政府の人員輸送車だ。
少年は下の仲間に緊急を伝えるために鐘につながる紐を引っ張った。
「なにか来る!たぶん奴らだ!」
そう叫ぶと高台を飛び降りた。
「ナオト、こっちに早く!」
男が地下の隠し部屋へ入るよう促した。
少年はまっさきに祖母の元に駆け寄った。
「ばあちゃん、奥に行こう!」
部屋の奥には避難するための下水道へ続くドアがあった。大人たちは銃を構え息を潜めている。
老婆は祈りを捧げた。
「ああアリシア様、お助けください・・・」
少年は7年前のことは話に聞いたことしか知らない。なんでもアリシアという人が多くの人々を守るために犠牲になったらしい。でもその人はPSIだったんだろ?なぜそんなことをしたんだろう?そもそも衛星レーザーで人々を殺そうとしたのもPSIの仕業じゃないか。その時いったいなにがあったんだろう。誰に聞いてもすっきりする答えを示してはくれなかった。ただ昔はベーシックがPSIを迫害していたからPSIはそれを根に持っているのだと聞かされていた。そんな中でアリシアと言う人は過去の全てを許して人々を分け隔てなく守ったから両方から神様のように言われてるんだろう。
「くそっ!やつらこっちに近づいてくるぞ!」
大人たちは女子供は奥のドアから逃げるようにと言った。だが自分たちはここを死守すると。
「おじさん無理だよ!PSI兵士には銃も効かないんだ、みんなで逃げよう!」
だが男は聞かなかった。
「俺達はなにも悪いことはしちゃいねえ。なぜ逃げなきゃいかんのだ。この町を捨てるくらいなら死んだ方がましだ」
PSI兵士たち特有の規則正しい足音が近づいてくるのがはっきりと聞こえて来た。
「おまえは早くばあちゃんを連れて逃げろ。もしどうしようもなくなったら下手に抵抗せず降伏しろ、な?」
少年は祖母の為にその場を離れる決意をした。地下道へのドアを開け、隠し部屋を出た。そして祖母の手をギュッと握ると力強く歩き出した。自分は平気であることを伝えるかのように。
女性と子供たちは怯えながら地下道を進んだ。しばらくすると隠し部屋の方から複数の銃声が響いた。それが絶望を意味するものであることは誰もがわかっていた。すすり泣く子供たちの中で少年は歯を食いしばり、先頭を歩いた。
地上へ出るためマンホールの蓋を下から押しのけると光が射し込んできた。
「急いで!順番に!」
人目につかない出口を選んだつもりだった。だが路地裏をしばらく進むと見計らったかのように物陰からPSI兵士たちがぞろぞろと現れた。
「だめだ、みんな逃げろ!」
少年は後続のみんなに叫んだ。女子供たちはパニック状態でもと来た道を戻る。だがそちらには男達を処分したPSI兵士が追いかけて来ていた。
少年はさっきの言葉を思い出していた。おとなしく降伏しろ、という。だが繋いでいた祖母の手が震えているのを感じた時、苛立ち紛れのように覚悟を決めた。
(本当に神様がいるんならなんとかしてみろよ!)
少年は祖母の手を離し、懐からジャックナイフを取り出すと構えた。PSI兵士は敵意のあるものは女子供に関わらず容赦なく撃つように命令されていた。銃口が一斉に少年に向けられる。
「ちくしょう・・・」
少年は自分の無力さに為す術も無くうなだれ、撃たれることを覚悟した。
が、PSI兵士たちは動かなかった。不信に思う少年の目の前のPSI兵士が糸が切れた人形のようにドサっと倒れた。続いて他のPSI兵士たちも次々と倒れていく。
あっけにとられる少年たちの前に突如女が姿を現した。両手には錐のような鋭い針のついたものを持っている。大工が木材などに穴を空けるあれだ。
「もう大丈夫よ。ここいらのは全て始末したから」
後続を気にして後ろを確認するとそちらには若い男が立っていた。
「問題ない」
かつてPSIを迫害するベーシックを狩っていたカリナとハルキが今はベーシックを迫害するPSIを狩っている。時代が変わったということなのか。
二人がPSI兵士たちを屠った錐の先端には府馬博士が開発した特殊な毒が塗布されていた。アマンが持ち帰ったチャムの体液からPSI組織を溶かす毒が検出された。それを元に即効性の麻酔薬と混合させ、瞬時に眠らせると同時に内部から溶かしてしまう。
「付いてきなさい、案内するわ」
「どこに?」
「六道町よ」
「えっ、でもあそこはPSIの町だよ?」
「こんな時にPSIもベーシックもないでしょ?大丈夫、あの町にはそんな差別などないから」
六道町は聞いていたとおり周りから隔絶されているかのように平穏な町だった。驚いたことにナオトたち以外にもすでの何人ものベーシックたちが暮らしていた。そして住民はPSIであるかベーシックであるかなどの区別なく、平等に扱われていた。
最初にここへ来たとき、府馬という老人が話してくれた。なんでもとても偉い人らしかった。
「むかしPSIたちはベーシックたちと少し違うという理由でいじめられていた。ここに住むPSIたちもそうだ。それはとても愚かなことだった。今はPSIがベーシックをいじめている。それもとても愚かなことだ。ここの人々はそのことを身を持って知っているから差別をしないんだよ」
だが両親を奪われたナオトには簡単には納得できなかった。
「でも昔ひどいめにあわされたからその仕返しをしようと考えるやつらもいます」
博士は頷くと穏やかに言った。
「うむ、そういう考え方もあるのは事実だ。だが仕返しの仕返しは仕返しを生むだろう。それがまた次の仕返しを生む。ずっと仕返しの繰り返しだ。君はどっちがいいと考えるかね?大事なのはそこだよ」
しばらくすると学校に通うようになった。学校でも同様にPSIであるかどうかの区別はなかった。かと言って、PSIがその能力を自粛するようなこともなく、大いに振るうことを認められていた。
「PSI能力はひとつの個性なんだよ。例えば勉強がとても良く出来る子やスポーツが非常に得意な子がいたとする。その子たちに他と合わせるようにわざとバカの振りをしなさいとか運動が苦手な振りをしなさいなどと言うかね?言わないだろ?力を使うことは卑怯なことでもなんでもないんだよ。でも勉強やスポーツが人並み以上にできるからと言って出来ない子より偉いわけでもないよね?尊いのはできるできないではなく一生懸命努力することなんだ。そのことを知ることが重要なんだ。そしてまさにそれを学ぶのがこの学校の目的なんだよ」
しばらくするとナオトにも分かってきたことがあった。PSIだからといってなんでも優れているわけじゃないんだと。勉強が苦手な子もいれば運動が苦手な子もいた。自分は自分の個性を磨けばいいんだと思えるようになっていった。そう思えるようになってから自然とPSIのなかにも友達が増えていき、こだわりも消えていった。
そんななか、気になる子がいた。そのマユという少女は自分よりふたつほど年下だったが、とても大人びて見えた。他の子のようにはしゃいだところを見たことが無い。そもそもあまり笑顔を見たこともない。常に誰とでも少し距離を置いているかのようだった。
マユは勉強も運動もなにをやらせてもトップクラスで、容姿も含めて弱点のない子に見えた。だから最初、きっと他の子を馬鹿にしてお高くとまってるんだろうなどと思っていた。そう思っていたのは自分だけではなかったようで、彼女を毛嫌いする者までいた。
そんな時、食堂で賑やかにテーブルを囲むナオトたちや他のグループから離れ、ひとりで昼食をとる彼女を見かけた。その表情は少し寂しそうに見えた。
ナオトはそれがとても気になってしまい、思い切って近づくと声をかけてみた。
「良かったら君も一緒に食べようよ」
彼女は驚いたようにナオトの顔を見上げたが、
「いえ、あたし、もう済んだから」と言うとそそくさと席を立ち食堂を出て行ってしまった。
それを見ていた女子が聞えよがしに嫌味を言った。
「どうせあたしらとじゃ美味しくないんでしょうよ」
マユは帰る時もひとりぼっちだった。そんな彼女を帰り道で偶然見かけた。折悪く、彼女は性質の悪そうな連中に絡まれているところだった。
「いま俺達を見てすげえ嫌そうな顔したろ?」
「ああ、ゴミでも見るかのような目付きだったぜ」
マユは無言で通りすぎようとしたが通せん坊されていた。
「普段から人を馬鹿にしたようなところが気に入らなかったんだよな」
「何様のつもりだ?」
ナオトは考えるより先に飛び出していた。
「やめろよ、言いがかりは」
マユはここでも驚いたような表情を浮かべた。
悪童たちは不意の闖入者に気分を害した。
「なんだおまえ、ベーシックのくせに出しゃばんな」
「PSIだろうがベーシックだろうが関係ないだろ。女いじめるのは格好悪い」
「はあ?ヒーロー気取りか、バカなやつ」
少年は道端のいくつもの石ころを念動力で浮き上がらせた。
「勝てもしないくせにいきがるなよ、恥ずかしいヤツ。おまえにこんなことができるか?」
他の少年たちはただニヤニヤ笑って見ている。
「できない。だけどできるから偉いわけじゃない」
マユはナオトのシャツをひっぱると懇願するように言った。
「ねえ、あなたは関係ないんだから行ってちょうだい。あたしに関わらないで」
「関係あろうがなかろうがこういうのは嫌いだ」
少年はしびれを切らすと石つぶてを投げつけた。
だがその石はナオトではなく仲間の少年たちに降り注いだ。
「いてっ!なにすんだ馬鹿野郎!」
石をぶつけた少年はなにごとが起こったのか理解できずにまごつく。そんなつもりではなかったのに。それどころかさらに思ってもいない台詞が口をついて飛び出した。
「まえからお前たちが気に入らなかったんだよ」
少年たちは仲間割れを始め、その隙にマユはナオトの腕を引っ張ってその場から抜け出した。
しばらく走って少年たちから遠く離れると息を切らしながらマユが言った。
「あなたってなんてむちゃなの!?余計なことしないで!」
それを聞いてナオトも言い返す。
「余計なことってなんだよ!それが助けてもらったやつの言うことかよ!」
「助けてなんて言った覚えはないわ!」
「そんなんだから友達できないんだろ!」
マユの顔が曇った。ナオトは言い過ぎたと後悔した。
「ごめん・・・」
ナオトのしょぼくれた様子を見てマユは笑顔を作ってとりなした。
「バカね、謝らなくてもいいのよ、本当のことなんだから」
そしてマユは今まで誰にも打ち明けたことのない話をした。
彼女は物心ついたときから人の考えていることが自然と読み取れた。幼い頃はそれがあたり前のことだと思っていたし、幸いなことに彼女の周りの人々は裏表の無い者ばかりで矛盾も感じずにいられた。
ところが大きくなるにつれ、人には表と裏があることを知るにつけ、その能力がうとましく感じられるようになっていった。さらに彼女にはそこから派生した別の力が芽生えていた。
ことの発端はある願いだった。
「あたしのパパはほとんど留守で時々しか会えないの。なぜかと言うと、政府に楯突いてる人だから。それでこの町の監視員に見つからないように外を自由に歩き回ることもできなかったわ。
それである日、町で監視員を見かけた時に心のなかでさっさと詰所に帰りなさいって命令したの。そうしたら本当に駆け足で帰っていったわ。試しに他の監視員にも命令したら皆従ったの。それであたしには人を想いのままに操る力があることがわかったの」
「さっきのやつらがおかしくなったのもそのせいか。他人の考えが読める上に操れるなんてすごい力だ」
ナオトは皮肉ではなく本心でそう言ったのだがマユは力なく首を振った。
「こんな力無いほうがましよ。このせいで誰とも会いたくなくなった。裏の心なんて見たくない。傷つくくらいなら知らないほうがいい。それにあたしが気に入らないと思ったら好き勝手に操れるんだと知った人たちは怖がって心を閉ざすようになったわ。それでだんだんあたしの方から人を遠ざけるようになったの」
ナオトには他の者にはない力を持つということがどういうことなのかよくわからないが、そのことが逆に重荷になることもあるのだとわかった。
「君のお父さんというのはもしかするとボクたちを助けてくれた?」
「ううん、違うわ。でもその人達はずっと昔からの仲間だって」
「ふ~ん・・・」
話しながら歩いていると、二人はいつのまにかマユの家の近くまで来ていた。
ナオトは言った。
「うまく言えないけどさ、府馬博士が力を使うのは悪いことじゃないって言ってた。その力で人のためになにが出来るか考えて努力することが大事だって」
後半部分は自分独自の解釈だった。
マユは少し黙っていたが、打ち明けるように言った。
「あたし、あやまらないといけないことがあるの。最初に食堂で声をかけてきた時にあなたの心を覗いちゃったの。どうせなにか企んでるんじゃないかって。あたしに近づく人はみんなそうだったから。さっきの人たちもそう。でもあなたは違ったわ。それでとても驚いたの。それでなんだか自分が恥ずかしくなってしまったの。あたし、やっぱりみんなが言うようにちょっと思い上がってたかも」
角を曲がったとき、マユは家の前の人影に気づいた。
「あっ、パパだ!帰ってたんだ」
そして別れ際にナオトに言った。
「ありがとう、じゃあまた学校で」
父に駆け寄る姿は普通の7歳の少女に戻っていた。シシオは娘を満面の笑顔で抱きしめた。
馬頭収容所は都心を離れた沿岸部に位置していた。普段は誰も近づかないような僻地である。
そこへ囚人を乗せたと思われる護送車が向かっている。護送車は検問で停まると通行証を見せ、中へと進んだ。
護送車から二人の囚人が降りるとそれを全身タイプのアーマーを装備した二名のPSI兵士が前後に挟むように並ぶ。
護送車の助手席から上官が降り、入り口の憲兵に敬礼して言う。
「囚人2名、収監する」
憲兵は階級章を見て緊張しつつ敬礼を返した。上官は先導して中へと入って行く。その行き先が通常とは違うことを気づくものは不思議といない。
ボサボサの髪を伸ばした囚人がささやく。
「どうどうとしてればバレないもんだな」
口ひげの囚人がそれをとがめる。
「余計なことは言うな」
階上へ上がり目的の部屋の前で立ち止まる。上官は周りを警戒すると部屋のドアを開いた。
そこはモニター室だった。モニターに向かっていた二人の看守がなにごとかと振り向くより早く、PSI兵士は彼らを即効性のガスで眠らせた。
囚人は彼らの制服を剥ぎ取るとそれに着替えた。
「アマン、ヒゲが残ってるぞ」
「おおっと、これはまずいな」
「よくそんな変装でごまかせたな」
「おまえのかつらよりましだろう。それ、後ろ前逆じゃないのか?」
マルタが思わず脱いだかつらを確かめる。
「・・・本当だ」
上官を演じていたキリオが言う。
「そんなことより手はず通り頼むぞ。管制塔はここだ。今管制官は3人のようだ」
PSI兵士役のハルキとカリナも重いアーマーを脱ぐ。モニターをチェックしていたキリオがゾウを見つけた。
「奥の独房か。ここを最終的な集合場所とするから覚えておいてくれ。おそらくことが始まれば外への道は閉ざされてしまうだろう。そうなれば俺達の命運を握るのはゾウしだいだ」
マルタがモニターを覗いて言う。
「おいおい、やばそうなのがごまんといるぞ。こいつら開放しちゃっていいのかね?」
「おぬしのアイデアだぞ?混乱に乗ずるという」
聞いていたカリナが針を付き出して見せる。
「なんとなればあたしが始末するよ」
「頼りになります姉御」
「ちゃかさないでさっさと始めて」
マルタ、アマン組は管制塔へ向かった。
他のものはモニター室で二人の行動をチェックする。
二人は管制室に侵入すると看守たちを手際よくガスで眠らせた。
「それでどこをどう操作したらいいんだ?」とアマン。
「う~む、そこまでは考えてなかった」
「だと思ったぜ」
「やっぱりこれかな」
マルタは電撃を機会にぶちまけた。計器類がショートし、ブレーカーが落ちるようにシュンと消えてしまう。
と、館内全域で警告音とともに緊急の赤いランプが光りながら回転を始めた。
『緊急警報です。PSIシールドが解除されました』
モニターには慌ただしく動きまわる看守たちの動きが見て取れた。やがて囚人たちが暴走を始めた。
キリオたちは合流地点でもあるゾウの独房へ向かった。囚人の中には強力なPSI能力で鉄格子や壁の破壊を試みる者もいて看守たちは混乱していた。威嚇射撃なのか各所で銃声も響いている。
「独房棟には凶悪な犯罪者や異常者も収容されている。気をつけろ」
独房のあるフロアまでたどり着くと異様な雰囲気に飲み込まれそうになった。鉄のドアをドシンドシンと叩く者、狂ったように叫び続ける者、強烈なオーラを撒き散らす者、ドアの小窓からギラギラした目をのぞかせる者等々。
「すでに抜けだしたやつもいそうだな」
「だが看守が見当たらないのはどういうことだ?全員逃げ出したわけでもないだろうが」
そう言ったハルキの眼前になにかがゴトッと落ちてきた。それは不幸な看守の生首だった。一同は咄嗟に距離を取り天井を見上げる。そこには蜘蛛とカマキリをかけ合わせたような姿に変化したPSIが張り付き看守の体をむさぼっていた。
「マリア」
振り返るとアマンとマルタが追いついて来ていた。アマンは天井の怪物を見上げて言った。
「過去に何十人も食い殺した化物だ。とっくに死刑になったと思ってたんだがな。なにかに利用する気で生かしていたのか」
マリアと呼ばれた怪物は天井をカサコソと這いずり回り次の獲物を探している。
「あれはもう理性を失ってるな。死なせてやったほうがいいだろう」
ハルキはアマンに怪物の動きを止めるよう合図した。アマンが氷の棺でマリアを閉じ込めると彼女は天井から落下した。
ハルキは氷の上から衝撃波を打ち込んだ。衝撃波は氷には傷つけずマリヤを内部から破壊した。マリアは死ぬと本来の穏やかなやさしい表情の女性に戻った。
「他の妙な奴らが目覚める前に急ごう」
ゾウの独房は近い。だがフロアがビリビリと振動してうまく歩けない。なにかが地響きを立てて歩きまわっているようだ。
「助けて・・・くれ・・・」
見るとフロアを埋め尽くすほどの大男が両手で看守を握りつぶそうとしていた。看守は助ける間もなく事切れてしまった。
「おいおい全部処刑するはめになるんじゃなかろうな」とマルタ。
「わざわざ関わる必要もないだろう、行くぞ」キリオは無視を決め込む。だが大男はこちらに気づくと咆哮した。その声は突風のような圧力で彼らをゆさぶった。
さらに逆方向からはあらたに看守達もこちらに向かって来るのが見えた。
「ここは俺達が食い止めておくからゾウのところへ行ってくれ。すぐ追いつくから」
ハルキに言われ、キリオはゾウのもとへ急いだ。
シールドが切れた時、ゾウはまるでなにごともなかったかのように独房の中で瞑想をしていた。だが何者かが近づいてくる気配は感じていた。その気配が近づくに連れ、なにやら懐かしい感覚を覚え、まさかという思いでドアの方を見ていた。
やがて足音はドアの前で止まった。ガシャッとドアの小窓が開くと目が合った。仲間・・・ではなかった。だがその男は自分の名前を呼んだ。
「ゾウ、迎えに来たぞ。出てきてくれ」
『・・・ダレ?』
「シールドが切れてるのはわかってるだろ?今のうちに逃げるぞ」
ゾウはドアに歩み寄るとすり抜けて通路に出た。自分の意志で部屋から出るのはここへ来てから初めてのことだった。
キリオはゾウの変わった容姿については聞いていたため驚くことはなかった。ただ思った以上に小柄に感じた。
『スベテボクヲタスケルタメニヤッタノ?』
「そうだ、それとアリシアを助けるためだ」
『アリシアヲ?ソンナコトガデキルノ?』
「ああ、できる。だがそれにはお前の力が必要なんだ」
向こうで銃声と叫び声が飛び交うのが聞こえる。
「俺は司馬キリオ、PSIではないが仲間だと思ってくれ。お前の仲間たちも来ている。すぐにここへ来るはずだ」
しばらくするとその仲間たちが駆け寄ってくるのが見えた。彼らは慌ただしく再会を喜んだ。
「ゾウ、遅くなって済まなかった。でも君のことを忘れたことはなかった。信じてくれ」
『ワカッテイルヨ、ハルキ。キミタチモタイヘンダッタノハシッテルヨ』
「大男と看守たちがやりあってる隙に抜けてきたんだ。今のうちに出よう」
大男が断末魔の叫び声を上げて地響きを立てて倒れる。決着がついたようだ。
「外にシシオたちが車で待機している。ここだ」
ハルキがゾウに触れてイメージを送る。
『ワカッタ、ミンナボクニツカマッテ』
そうして一同は収容所の外へテレポートした。
マチヤは軟禁状態にあったが、いち早く状況の変化を察知していた。しかし増田には心を読む力があるため気取られぬよう無関心を装っていた。
7年前のあの日、アリシアが次元の向こうへと消えた後、相馬たちによる暫定政権が発足した。そしてPSIによる支配を現実のものとした。
増田は六道町に出向くと事件の重要参考人として府馬博士を召喚し、マチヤやゾウを拘束した。事件とは衛星レーザーによる大規模な殺害についてであった。
審議の結果博士は解放されたがゾウは収容所に収監され、マチヤは政府のプロパガンダに協力するよう強要された。その際、シシオたち六道町のメンバーは処刑されたと説明を受けた。
だがマチヤは直感でそれが事実ではないことを感じ取っていた。彼らは生きている、と。ただそのことは増田には知られない方が好都合だろうと思い、努めて考えないようにしていた。
そして今、新たな希望の光を感じ取ったのだ。
(間違いないわ、この感覚・・・みんなを感じる。そしてゾウも!)
増田は常日頃マチヤの動向に気を配ってはいたが、心の中を覗いてもさしたる情報は得られないでいた。だがこの日、彼女の表情に微妙な喜びによる高揚感が浮かんでいるのを見逃さなかった。それがどこからくるものなのか気になった。
そんな時、馬頭収容所に不審者が侵入し、その不審者たちとともにゾウが消えたという一報が飛び込んできた。
(これか?このことを彼女は知っていたのか?だが誰の仕業だ?六道町にまだ仲間の残党がいたのか?)
増田はマチヤを問い詰めた。
「君はこのことを知っていたね?」
「やっぱりそうだったのね」
「やっぱり?しらばっくれないでほしいね」
「別にしらばっくれてなんかいないわ。わたしはただそんな感じがしただけ。長いこと誰にも会ってないんだから知るはずもないでしょう」
増田がマチヤの心を覗いても本当にそれ以上のことは見えてこなかった。
(この計画に彼女自身は絡んでいない)
増田は直接収容所に出向き状況を確認した。だが不審者たちの情報は不確かなものばかりであった。モニター室は機能しておらず映像も残っていない。ゾウたちの足取りもようとして知れなかった。
(仲間だから助けた、ただそれだけなのか?ではなぜ今まで動かなかったのだ?)
増田にはなにか不穏な動きの前触れのように感じられた。そしてその足ですぐさま六道町へ入った。
現場の指揮官の報告ではなにも変わったところはなかった。自身で巡回したところで変化は感じられない。マインドコントロールの能力を最大限に発揮したが得られる情報はなにもなかった。結局監視員に引き続き監視を強化し、詳細な報告を入れるよう通達する以外になかった。
(やつらはここにはいない。どこかに潜伏しなにかを企てている。それはなんだ?)
増田が庁舎に戻ると部屋には相馬が待ち受けていた。増田は相馬が苦手だった。なぜなら相馬は増田の上位能力者だったからだ。PSIにはいろいろなタイプの能力者がいるが、同タイプの場合弱者は強者には決して勝てないのだ。人の心が読める増田も相馬にかかればガラス張りになってしまう。心を読まれることがどれほど気持ちの悪いことであるか、その能力をもっている増田だからこそ余計にわかるのだった。
「収容所の一件は耳に入っていると思うが、君の考えを聞かせてもらおうか」
相馬は窓のほうを向いている。にも関わらず増田は心の中まで見通されているような居心地の悪さを感じていた。
「やつの力を利用してレジスタンスを扇動するのではないかと考えられます」
「そうではなく」
相馬はやや苛立ったような語調で言う。
「六道町のグループには動きはないのかね?」
「はっ、わたくしの所にはなんら異常を示す報告は入っておりません。今後も重点的に監視を強化するよう指示してきたところです」
相馬はその言葉を聞いているのかいないのか、振り向いて言う。
「実は先日例の地下実験室に賊が入った形跡があってね。だが警備のものがそれを見過ごしていたためわたしのところへの連絡がなされなかった。その者の心をスキャニングしなければ気づかぬままで済ますところだった。おうおうにしてこのようなことからほころびが生まれるものだよ。もちろん彼には厳重に指導しておいたがね。
あの脳みそにそれほど大きな力が残っているとは考えにくいが念のため注意しておく必要はあるだろう。あそこは須磨に見張らせることにしたから君は六道町の方をしっかり頼むよ」
増田は相馬が出て行ったあとも得体のしれぬ不安に体が震えていた。なにかしくじってはいないか?
(須磨が動くとなると俺もうかうかしていられない。あの男はなにか落ち度があれば俺でさえ『壊す』だろう)
マユはナオトに会って以降、少しずつ考え方を変えて行ったが、すぐにはみんなと打ち解けることはできなかった。それでも不自然に人を避けることはせず、とびかう思考を受け流すことを覚えるようになっていった。良いことも、悪いことも。
シシオは久しぶりに会う娘の様子に良い兆候を感じていた。マユはもともとは快活な子だったが、能力が目覚めるに連れ塞ぎこむことが多くなっているのを心配していたのだ。
「ごちそうさま!」
マユは食事を済ますと自分の食器を片付けにキッチンに向かった。
「マユのやつ、なにかいいことでもあったのかい?」
シシオはサラスに訊いてみた。
「どうでしょうねえ、そう言えばなんだかボーイフレンドができたみたいよ」
シシオはスープをすするスプーンを取り落としそうになった。
「まだ早いだろう?」
「なにを言ってるの、もう大げさねえ。だいたいあなたはあの子を特別扱いしすぎよ」
「いやしかし・・・うむ、それは良いことなんだろうな。あの子は普通であることが難しいからな」
「天才、ねえ。持たない苦しみより持つ苦しみのほうが大きいのかしら。あたしたちもそうだったかしらねえ」
「あの頃とは時代が変わったけどね。ただ彼女の力は俺たちにとっても重要なものだ。俺が時々とはいえこうして帰ってきて平然としていられるのもあの子の力のおかげだからな」
「そうね、監視員たちは今日もありもしなかったことを記録し、あったことを無かった事として報告してるわ。あの子は将来どこまで力を伸ばすのかしら。そしてその力をどう使うのかしら」
「それはあの子自身で見つけるしかないさ」
シシオは席を立った。
「いくのね?」
「ああ」
サラスは少しためらったが聞いた。
「あの子も連れてくの?本当に挨拶だけで済むのかしら・・・」
「・・・あの子も知っておいたほうがいい。今までのことも、これからのことも。あの子はわれわれの重要なキーとなりうるんだ。大丈夫、俺が付いてるから」
府馬博士の研究所の地下でかつての仲間たちが一同に会していた。ゾウは博士やみんなとの久しぶりの対面に感激した。ただアリシアはともかく、マチヤがいないことをとても気にかけていた。
シシオがそれを察して言った。
「彼女を連れ戻すことはさして難しいことではないだろう。ただ彼女は今増田アキラの監視下にある。今は我々の動きを察知されたくないんだ。なに、心配要らない、もうすぐ会えるさ」
その代わりに新しいメンバーが加わっていた。唯一のベーシックであるキリオとこの場に似つかわしくない少女が。
「もう聞いてるかと思うが彼は司馬キリオ、アリシアの昔の記憶に関わる者だ。カルラが言うにはアリシアを眠りから呼び覚ますことができる唯一の者らしい。彼を君の力でアリシアの眠る場所まで届けてやってほしい」
二人はあらためて会釈した。
「そしてこの子が、俺とサラスの愛娘のマユだ。どうだ、俺に似てるだろう?」
「はじめまして」
マユはペコリとおじぎした。
「お母さんに似てべっぴんさんだな」とアマン。
「うむ、お父さんと違って品があるな」とマルタも続く。
「あのなあ」
マユは笑顔を作りながらも、そのなごやかな雰囲気もどこか作られたものであることを敏感に感じ取っていた。
それから彼らは7年前のことを話して聞かせた。マユは父からおおよそのことは聞いていたが、むしろなぜそのことを今自分に話すのか不思議に思っていた。
その気持を察して疑問に父が答えてくれた。
「お前はまだ子供だがその力はおまえが思っている以上に強大だ。そろそろその力をどう使うべきかを学ばなければならない。神にも悪魔にもなれるとしたらどちらを選ぶのか。それを決めるのはパパやママではなくお前自身なんだよ」
須磨のもとにはゾウの脱獄に加え気になる報告が届いていた。レジスタンス討伐の命を受けたはずの司馬少尉が任務中に所在不明となっているというのだ。この時まだ須磨にはキリオとアリシアを結ぶ線は浮かんではいなかったが、収容所での侵入者の目撃情報からなにか絡んでいるのではないかと言う疑念が生じていた。そして相馬が気にかけるカルラの存在。
須磨はこの夜、一人で地下実験室のカルラに会っていた。実は彼はあの日以来たびたびここを訪れていた。短い時間ではあったが、言葉も交わしてきた。
(なぜ俺はここに来るとやすらぎを覚えるのか。彼女はたんなる脳髄に過ぎない。もはや人間でもなければ生物と呼ぶことさえ難しい。それなのになぜか彼女との時間を楽しんでいる自分がいる。
確かに『人格』はある。『個性』と言うべきか。もしかすると人体は所詮魂の入れ物に過ぎないのかも知れない。心・・・か。俺は彼女の心を求めているのか?)
『今日はどうしたのですか?』
「寝付けないものでね。子守唄を聞かせてもらおうと思ってね」
『あなたは意外と嘘が下手な人なのですね』
決して打ち解けているわけではない。いわゆる言葉のキャッチボールなどというようなものではない。いつも断片的だ。
(心を通わせる?まるでお伽話だ)
須磨は自分を笑う。
「ここに誰かが来たようだな。わたし以外にも物好きがいるらしい」
『さてなんのことでしょうか』
「嘘が下手なのはお互い様だな」
そんな軽口もなぜか悪くないと感じている自分にあらためて驚かされる。
「あいつら、生きているのだろ?君の妹も」
『そう思うのならなぜ自分で確かめないのですか?』
「それはわたしの仕事ではない」
『仕事・・・あなたはなんの為に働いているのですか?今の世の中があなたの望んだ世界なのですか?』
(それが時々分からなくなるからここに来ている)
「いちいち理由が必要なのかね?理由がなければ生きていてはいけないのかね?犬や猫が生きることに理由を求めるかね?人間だって同じだ。違うと考えるのは思い上がりだ」
『ではなぜ迷うのです?犬や猫ならば迷いはしないでしょう。あなたは自分にまで下手な嘘をつくのですね』
(・・・・・・)
須磨にはひとつの考えがあった。今日ここへ来たのもその為だった。須磨は操作パネルに近づくと操作盤のキーボードを指でなぞった。
(彼女は危険だ。この先さらに脅威となるだろう。彼女に対する想いは俺の弱さに他ならない。断ち切らねばならないものだ)
須磨はカルラを見た。彼女はなにも言わない。
(抵抗しようともしないのはなぜだ。分かっているのだろう?これから俺がしようとしていることが。まさか俺にはできまいと思っているのか?俺がそんなことはしないと?)
須磨は少しの間目を閉じていたが、目を開くとパネルを操作した。だがそれは生命維持装置の停止ではなく、もとの維持モードに戻しただけだった。
そしてカルラがふたたび眠りにつくのを待って去り際に小声で言った。
「おやすみ、カルラ」
名前を呼ぶのは彼女が眠っている時だけだった。あとには空虚な想いが残された。
(心・・・とはなんだ?いずれにせよ自分には必要のないものだ)
実験室を出た彼はいつもの顔に戻っていた。
マチヤは夢を見た。子供の頃の夢だ。彼女の両親はとても躾に厳しかった。それをうとましく思い、よくいなくなればいいのにと願ったりもした。でもあの日、繋いでいた手を離したときから永遠に会えなくなってしまった。なぜもっとしっかり握っていなかったのか。
そんなことがフラッシュバックのようにめまぐるしく駆けまわる。
(もう一人はいや!)
そこで目が覚めた。ハッとして、誰かが見ているわけでもないのに急いで涙を拭う。予感だ。
明かりの消えた虚空を見つめていると。ぼうっと人影が浮かび上がった。それは次第に見覚えのある形を見せ始めた。
マチヤは思わず飛びついていた。
「ゾウ!来てくれたのね!」
ゾウはこういう熱烈な歓迎には慣れていなかったため、おもわず口ごもった。
『ゲ、ゲンキソウデヨカッタ』
「あたしは元気よ。あなたは、ちょっと痩せたかしら」
『オソクナッテスマナイ。カナラズムカエニクルカラ、モウスコシシンボウシテマッテイテ』
「大丈夫、平気だから」
『ナガクハイラレナインダ。デモマタスグクルカラ』
「うん、待ってる」
『ソレトボクガキタコトハナイショダヨ』
「わかってるわ」
『ジャアマタネ・・・』
そう言うとゾウはまた暗闇にスッと消えて行った。
マチヤはゾウが去った後、今のが夢ではなかったかと疑ったが、抱きしめた時の感触は本物だったと自分を安心させた。
ゾウは研究室の地下に戻っていた。そして今の行動は少し軽はずみだったかも知れないと思った。彼女を苦しめることにならなければよいが・・・。
キリオはすでに準備ができていた。異次元がどういう世界なのか見当もつかないが、アリシアが生きているとすればこの世界と似た環境にあると思われる。ただ特殊な環境にも耐えられるように特殊部隊のアーマースーツを博士が改良したものを装備していた。
「俺はいつでもいいぞ。いやむしろ早いほうがいい」
『モウスコシ、イマカルラガケッカイヲスリヌケルチャンネルヲサガシテイル』
地下研究所のある首相官邸にはテレポートによる侵入をふせぐ結界が張られてあった。だがカルラがその脆弱な部分を突いて侵入を手引きしてくれるというのだ。うまくいけば前回のような力技に頼らず楽に侵入できるはずだ。
ゾウ自身、異次元世界に踏み込むのは初めての経験だった。カルラの導きがなければ想像さえできなかったろう。もし行けたとしても迷い込んだが最後、還って来れないはずだ。
ほどなくカルラからの合図が届いた。ゾウも特殊なスーツに身を包みキリオと共にカルラのいる地下研究所に飛んだ。
ゾウがここへ来るのはあの日以来だった。まるで昨日のことのようになにも変わっていなかった。
キリオがパネルのキーボードを操作するとカルラがゆっくりと目覚めた。
『ふたりとも良く来てくれました、待っていましたよ。すでに準備は整っていますね?急がせるようですが、須磨という男が貴方達の行動を不審に思い、警戒しています。あの男には十分注意してください。
ゾウ、これからあなたへアリシアのいる座標を送ります。イメージしてください』
キリオにはなんのことかはわからなかったが、カルラとゾウの間では通じているようだった。
『ワカッタ、イケルトオモウ』
『多少の誤差はあるでしょうから、迷子にならぬようわたしの声にしたがって進んでください』
キリオにはひとつ気になることがあった。
「あなたの活動可能時間は短く、限られていると聞いたが大丈夫なのか?」
『あなたがたが帰ってくるまでは必ずもたせますので心配しないでください』
ゾウにも別の気がかりなことがあった。それを察したのかカルラは言った。
『ゾウ、自分を信じて。あなたはもう昔のあなたではありません。わたしの導きに従ってイメージするのです。ためらいや迷いは捨てるのです』
ゾウの頭には自分の未熟さから乳母を失ったときのことが残っていた。確かにあの頃はなにもわからずに闇雲に力を使っていた。明確なビジョンを持てばできるはず。そのビジョンはカルラが見せてくれる。
ゾウはひとつ深く息を吐くと、まだ見ぬ世界へと飛んだ。