第9話-理由-
(水時 走…)
僕はどうして、そいつに勝ちたいと思ったんだろう?
水時=勝ちたい
という気持ちしか、僕には思い出せなかった。
勝ちたい?
なにでだ?どうして?
そういや、詩織は幼なじみって言ってたっけ。
水時とは何者なんだ?
「そろそろ落ち着いた?」
と、鈴木先生が入ってきた。
「はい…なんかすいませんでした」
「や、気にしなくていいよ、こうやって一つずつ記憶を取り戻していく事が大事なんだから」
「ところでなんの記憶を思い出したの?」
「えぇっと詩織が水時 走ていう名前を言った瞬間、頭ん中に何かが飛び込んできたような感じになって…」
「なるほど…あの反応からだと、よっぽど大事な記憶だったんだと思うんだ」
「その、水時 走っていう子は君にとってよほど重要な人物なんじゃないかな?」
「あの…もう一度、詩織に会って話を聞いていいですか?」
「あぁいいよ、本人ももう少し話す事があったみたいだしね」
「あ!あと君が行っていた、野球チームの人にも来てもらうから」
「じゃあ、明日な」
「ガラッ!!」
「信士!!」
背の小さめな少年が飛び込んできた。
「ちょっと!コータ!!」
と、慌てて詩織も病室に入ってきた。
「信士、この人新垣浩太っていうの」
「やっぱ覚えてない?」
「おい!信士、オレだぜ!!覚えてるよな!?」
「…悪い、覚えてない‥‥」
「‥なっ‥‥」
「コータはね、陸上部で長距離をしてて、信士とはいつも一緒にいたんだよ」
(長距離‥‥‥!?)
「なぁ?水時の事もっと教えてもらえる?」
「水時ってあの、今回の中総体で一位だった奴!?」
浩太が驚いたように言う。
「中総体で一位?」
「あぁ、そうだよ水時 走は市の大会で1500メートルにでて、一位だったんだ」
「1500メートル‥‥!?」
あっ―
そうか、そうだったんだ…
「だから、僕は長距離になるって言ったんだね?」
浩太ははぁ?という顔をしている。
が、詩織には意味が通じたらしく、
黙って頷いた。