第82話-信士という名前-
“お前は成宮さんに逆らった”
“お前は、Crowの元幹部なんだからな!!”
怖い。嫌だ。ぼくは悪人だ。ぼくは今まで、みんなを裏切ってきたんだ。
ベットの端、信士は小さくなり、うずくまっていた。
もう、誰も近寄らないで欲しい。誰もぼくに関わらないで。ぼくは悪い人間。
「信士君、入るぞ」
ドアの向こう側から鈴木先生の声が聞こえた。この声に信士はいつもびくりとしてしまう。
返事をする前にドアが開く。ドアが開くとそこには最も会いたくない人達がいた。
「来ないで!!」
立ち止まる、浩太と詩織。しかし、すぐに病室に足を踏み入れてきた。
「大丈夫…大丈夫だよ。信士」
詩織はなだめるように言う。そのまま近づいてくる2人に。
「近づいちゃ駄目なんだ!!」
信士は近くにあった、枕を2人に投げつける。枕は2人のすぐ足下に強く投げつけられた。
「来るな!!ぼくは悪人なんだ。みんなと一緒にいちゃいけない人間なんだよ!!」
泣きながら激しく2人が近づくことを避ける。
そんな信士に詩織は突然走って駆け寄り、荒れる信士の肩を優しく抱きしめた。
「大丈夫って言ってんでしょ!信士はそんな人じゃない。大丈夫。私が保証する!!」
「でも…記憶の中でぼくは、逆らったって…」
その瞬間、
「鈴木先生!Crowが嘘を認めたそうです!!」
病室に息を切らして駆け込んできた、警官は喜びの声を上げた。
「伊達さんが、成宮に吐かせたって…」
その声に詩織は、
「信士!やっぱり、信士は悪人なんかじゃなかったんだよ!!」
「ぼくは…うぅっ!!」
“お前は成宮さんに逆らった”
また…記憶が…。
“お前、今までのこと見てただろ”
“…おい、選択肢を与えてやる。死にたくなければ、これからは俺達の奴隷となって働き続けろ”
『いやだ!!』
“ほう…”
“お前は成宮さんに逆らった。死ね”
そうか…ぼくは…。
「信士!大丈夫?」
ぼくは、間違ってなかったんだ。
「ありがとう…」
そのまま、信士は気を失ってしまったのだった…。
ガラッ
ドアの開く音。足跡が近づいてくる。目が霞んでよく見えない。誰だろう。
「信士。よく頑張ったな。今まで、助けてやれなくて悪かった」
この声。なんだろう。どこかで聞いたことあるような…。
「ひとつだけお前に教えておきたいことがあるんだ」
「信士っていう名前の『信』って字。これにはいろんな意味があるんだ」
「人を信じられるように。人に信じてもらえるように。そして、最後に…自分を信じることができるように」
「大丈夫。お前は正しい。だから、これからは自分のことを信じて自信をもって生きろ」
「じゃあな…」
父さん…。顔は見えなかったけど、確かに父さんだ。
足音が遠くなってく…。でも、眠いよ…。
大晦日の夜。年が明ける。そして、この年明けが新たな始まりだった―。