第8話-約束-
「‥走‥‥‥勝つ‥‥‥絶対‥‥‥」
「‥‥勝つ‥ん‥だ‥‥オレは‥‥‥」
頭を抱えたまま、何かにうなだれている信士。
目の前で起きている事に、詩織はどうすればいいのか分からなくなってしまった。
「‥‥し、信士?」
「ピピピピピッ!」
と、九条先生がインターホンを急いで押し、
ようやく、鈴木先生が来た。
「‥‥うぅ‥‥‥勝つ‥‥‥勝つ‥‥」
まだ、うなだれている様子の信士。
「すみませんが一旦病室を出てもらっていいですか?」
鈴木先生と一緒に来た、別の先生に言われ、病室を出た。
「オレ、お前らと同じ中学校行けないんだ」
走は小学校が終わりに近づく頃、突然信士と私に言った。
「何言ってんだよ、お前、受験でもしたっけ?」
信士が普通のふりをして言う。
「オレんち、学区が違うんだ」
「だから、隣町の北星中学校…」
「お前らと同じ、鷹谷中には行けない」
「‥‥‥」
私も信士も黙った。
走が「嘘だよ」と言うのを待って。
「そうゆうことだから」
歩いていく走。
私達は何の言葉もかけることも出来ず、ただ走の背中を見送るしかなかった…。
そのまま迎えてしまった卒業式の日、気まずい帰り道の中、信士は言った。
「お前、陸上部に入るんだろ?」
「あ、あぁ」
「オレも陸上やるから!だから…だから、そん時はライバルとして…」
「また、会おうよ!!」
少し、驚いた様子の走は目に涙を溜めて、
「あぁ、約束な!」
そんな事があって3人は陸上部に入った。
二年生になった中総体、その日見た水時 走の姿は…、
男子1500メートル、二年生にして市の大会で一位を取っているとんでもない走りだった。
詩織は先生に送られる車の中で、思った。
まさか―
まさか、信士は走に勝つために長距離になったんじゃ
信士は「勝つ」と言っていた。
間違いない、信士は本気だったんだ。
「‥‥‥」
複雑な思いを抱え、詩織は薄く涙が零れた。