第78話-過去と現在-
「鈴木先生!どうゆうことなんですか!?信士は大丈夫だって…」
連絡を聞き、病院に駆けつけた信士の母、久美子。
「言いにくいことなんですが…信士君は…、記憶を失う前、Crowの仲間だったんだと言われて……、そのショックから精神が不安定になってしまっているんです」
「そんな…信士がCrowの仲間だったなんて、そんなはずありません!!」
「…分かっています。しかし、警察が取り調べをしているんですが、嘘を認めなくて…。嘘だと解れば治まると思うんですが…」
「そんな…」
せっかく…せっかく、Crowが捕まって、お父さんが帰ってきて、また、3人で暮らせると思ったのに…。
「病室に入れさせて下さい!!」
「今、入っても無駄です!!」
止める鈴木をはねのけ、無理やり病室に入り込む。そこには、ベッドの端に体育座りでうずくまっている信士の姿があった。
「信士…」
近づこうとする久美子。しかし、信士は怯えた目を久美子に向け、
「来ないで…来ないで!!」
鈴木先生のときと同じように、人が近づくことを避けている。
「大丈夫…大丈夫だから信士…」
「来ないで!ぼくは、Crowの仲間だったんだ!ぼくは…悪人なんだ…うぅぅ…うぁぁぁ!」
涙を流し暴れ出した信士。急変した信士の姿に同様を隠せない久美子。
「信士君!!」
暴れる信士を抑える鈴木先生の姿をただ、見ているしかないのだった。
「はぁ…はぁ…、やっと着いた…」
「ねぇ…浩太、信士からきたメール、もう一度、見せてくれる?」
自転車を飛ばして信士のいる病院まできた、浩太。その途中、詩織の家にも行き、詩織も一緒にきていた。
ケータイを覗き込み、メールを真剣な眼差しで何度も読む詩織。
「お前…、何回そのメール見てんだよ?そのメール、送ろうか?」
もう、これが4回目。いい加減、浩太にとっても、いちいち同じメールを開くのもめんどくさくなってくる。
「あ。いや、いいの。ただね…記憶を失う前の信士もこんなふうに苦しんでいたこともあったのかなって…」
うつむき加減に言う。
「お前さ、いつまでも記憶を失う前の信士のことばっか気にしてねぇで今の信士のことも考えろよ。……っつってもキツいのは分かるよ。丁度、記憶を失う前の日だったもんな…」
「…分かってるよ。分かってるけど、私は待ってるの。記憶を取り戻して、あの事を思い出してくれるのを…」
病院を見ながら、詩織は答える。
だから…だから、今までも陰で信士を助けてきたんだろ。
夏休み明けのクラスメイトの接し方だって、秋の大会の前のとき、俊哉に頼んで負けてもらったことだって…。
そんぐらい、オレにだって分かってんだよ―。
「行くぞ。こんなメール信士が送ってくるなんてよっぽどだ」
「…うん」