第73話-償い-
「説得できなかっただと!?」
「はい…」
警察署に戻った永井。もう、時間は12時を過ぎている。こちらでは、作成の準備が着々と進んでいるようだ。
「いいか、今日だ!今日中に説得してこい!!」
「はい…」
説得か…。そんなこと言っても、自分の子を危険にあわせたくない親の考えも当たり前だし、伊達君もおとりになんかなりたくないに決まってる。
なんて、言えばいいんだよ…。
あの人がいれば…。伊達さんがいれば信士君になんて言ってあげられるんだろう。
温かいコーヒーを持ち、永井は綺麗に映る月を睨んだ。
ぼくは、なにをやっているんだ。
見つかればこうなってしまうことぐらい分かってたはずなのに…。
ついに、みんなにとんでもない迷惑をかけてしまった。
バカだ。ぼくは本当に大バカ者だ。
この日の夜、信士はなかなか眠りにつくことができなかった。
次の日の朝。
「…おはようございます」
神妙な顔つきをした永井さんが深々と礼をし、病室に入ってきた。
しかし、それを遮るように母さんは、
「信士をおとりにはさせません。帰って下さい」
冷たい口調で言う。
「………」
黙り、立ちすくんでしまっている永井さん。Crowが指定してきた日は明日。このまま帰れば永井さんもただでは済まないのだろう。
「さぁ、帰って!」
永井さんを廊下へ押し出そうとする母さん。
ぼくは、このまま逃げるのか…?
迷惑のかけっぱなしでこのまま。
「待って!」
気づいたら叫んでいた。そんなに離れてはいないのに…多分、散々迷ったせいだろう。
「永井さん、Crowが捕まればみんなのもとに戻れますか…?」
「あ、あぁ…多分、リーダー格を捕まえればグループとしては潰れるだろう」
「“成宮”…これが、おそらくリーダー格の名前です…」
「成宮…?なぜそれを?」
「多分、記憶です…。今まで黙っててすみませんでした」
今まで言わなかったのは、自信がなかったから。…じゃない、それを打ち明ける勇気すら無かったから。
「ぼく、やります。早くCrowを捕まえて、みんなのもとに戻って、そして…謝るんです」
驚いた表情の母さん。
「なにを言ってるの?」と、心配そうに言ってくるがもう、変えられない。
今までにかけてきた迷惑を、ぼくは、命を賭けて償う。
「ほ、本当かい…?」
目にはうっすらと涙を浮かべ「絶対に君を守る」と、誓ってくれている。
絶対に生きて帰る。早く戻らなきゃいけない場所があるんだ。
生きて帰って、償わなきゃいけないことが沢山あるんだ。
だから、行かなきゃ…。