第72話-オトリ-
水時は復活した…。なのに、ぼくは…。
きっと、このことがノエルに伝わればノエルも3000でと言うだろう。
ぶつけようのない歯がゆさ。諦めきれない。いや、諦めたくない思いが信士の歯がゆさを大きくした。
その頃。
「どうするんだ…」
この日、起きた一つの事件に警察署では臨時会議が行われていた。
中学生を刃物で切りつけ、脅した高校生。
普通に聞けば一見警察署で臨時会議が開かれるほどの事件ではない。
しかし、問題は襲われた中学生が鷹谷中の生徒だったこと。それと、脅しの内容である。
襲われた被害者は2人。2人はその時、鷹谷中のジャージを着ており、学校へ部活動をしに行く途中だったらしい。
そこへ突然現れた高校生ぐらいの若い男3人組はいきなり、刃物を2人に突きつけ『左肩』を切りつけてきた。
そして、その後こう言ったという。
『警察に“伊達信士”を差し出せ。12月30日2時広山東公園と言え』と。
「30日って言ったら明後日だぞ。この時、少年を連れて行かなければまた、被害者が出る」
「一応…学校側は冬休み中の部活動を中止するそうですが…」
「これをチャンスと捉えるべきじゃないのか」
唐突に言い出した人物がいた。警察署所長である。
「この日で奴らを一気に捕まえる。おとりは二の次だ」
会議に参加していた者全員がこの人物に恐怖を覚えた。しかし、誰一人反論はできず、会議は終わった。
夜、薄暗い光のもと小説を読んでいた信士のもとへ強張った顔をした永井さんが来た。
「どうしたんですか?」
珍しくなかなか話し出さない永井さんに信士には嫌な予感が漂う。
「伊達君、お母さんも…落ち着いて聞いてくれますか…」
今、来たばかりの母さんも頷く。
「実は………」
話を聞いた信士は言葉を失った。鷹谷中の生徒がCrowと思われる男達に襲われたこと。
冬休み中の部活動が中止になってしまったこと。
そして、伊達信士を差し出せとCrowが脅してきたこと。
ぼ…ぼくのせいだ。
ぼくが、早いうちから警察に引き取られてれば…。こんなことには…。
「それで…君がおとりになり、僕達、警察がCrowを捕まえる。これが、警察側の計画なんだ」
「今日は、その同意を伊達君とお母さんに頂きたくて来たんです…」
「ダメに決まっているでしょう!!」
母さんがすぐさま答える。
「それで、うちの子になにかあったらどうするんですか!!」
「…帰って下さい!うちの子をおとりなんかに使わせたくありません!!」
興奮した様子の母さんに永井さんは、
「…分かりました。また、明日来ます…」
そう言い残し、病室を出て行ってしまった。