第71話-誤算-
観念した様子の信士に一安心の永井。
母さんはやはり、ほっとはしているようだが、信士のことを思ってか、俯いたまま「ごめんね…ごめんね…」と繰り返している。
母さんはなんにも悪くないのに、悪いのはCrowなのに…。
「じゃあ、今日から君は警察でかくまわせてもらうよ。と言っても肩の傷が治るまでは病院に居てもらう」
永井さんは警察らしい言葉を続ける。
「それから…この病室は一般の人の出入りを禁止させてもらう」
一般の人の出入りを禁止って…みんなとは完全に会えないってことか…。
「君は命を狙われている身なんだ。分かってくれ。そのかわりとは言ってはなんだけどケータイは使っていいから」
「はい…」
ケータイで連絡をとれる分だけましに思えたが、会えないっていつまでなのか分からないまま。
「それにしても、誤算だった…」
永井さんの呟きに信士は不思議な感じを覚えた。
「誤算ってなにがです…?」
「Crowが銃を手に入れていたことだ」
「前にCrowは学生だと言っただろう。今まで、実は殺人も銃を輸入する力もなかったはずだからな…」
やはりな…。急に銃なんか手に入れたところで、人を狙って撃てる奴なんかいない。
かと言って、スナイパーを雇う金もないからな。こうなるのは、目に見えていた。
射殺に失敗した次の日、すぐさまCrowで集合がかけられる。
いつもの倉庫に向かう、『Eagle』。
全部、予想通りだった。後はことを進めるだけだ。
「昨日、殺し損なったことについてだが。おそらくもう警察にかくまわれてるはずだ」
「そこで、次の策だが………」
ブウゥゥブウゥゥ
ケータイの音だ。病室での生活も3日目。
みんなとは、それなりに連絡もとれていたが、みんな信士になにかあることに気づき、少し気まずい連絡ばかりとっている。
名前を見ると、
『東條くん』
どうやら、メールのようだ。東條君からの連絡は久しぶり。なんだろうとメールの内容を見てみる。
『実は昨日、ついに水時が練習に復帰したんだ。まだ、本調子には程遠いけどね。
それから、水時は今年の中総体。3000メートルに挑戦するらしい。
じゃあ、中総体でまた会おう』
水時は復活したんだ。なのにぼくは…。
悔しさからケータイを強く握り締めながら、メールの内容を何度も見る。
信士にとって、この『3000メートル』という文字はとてつもなく遠く感じられた。