第70話-銃声の後-
なんだ…なんだよこれ…。
信士の左肩からは血が滲み出してきている。
隠れたまま、どれくらいたっただろう。全員、さっきの銃声でなにもできない状態だった。
そんな中、やっと我に帰り、信士の左肩から大量に血が出ていることに気づいた浩太がやっと声を発する。
「誰か、救急車呼んで!!」
「呼ぶって言ったってなんて言えばいいんだよ…撃たれたってか?そんなの信じてもらえんのかよ…」
誰かがそう言う。確かに中学生が銃で撃たれたなんて信じてもらえないかもしれない。
でも、今はそれどころじゃない。
「いいから!!」
浩太が苛立った声を出す。
「私、かける!!」
この声は詩織。確か、詩織は鈴木先生の電話番号を知っていたはず。
それなら、分かってくれるだろう。そう、信士は思った。
それから、5分後。救急車とパトカーが一緒に来た。
信士は救急車に急いで運ばれ、それ以外は警察にかくまわれる。
警察は周辺を隈無く捜したらしいが怪しい人物は見つからなかったらしい。
病室。左肩には包帯が巻かれている。
幸い、銃弾は本当にかすっただけだったらしく、軽傷ですんだ。
でも、問題は…。
「君はついに、奴らに気づかれた。それは、間違い事だ。分かるね?」
病室に取り調べに来た永井さん。そして、母さんも病室にいる。
「はい…」
Crowにぼくの居場所が気づかれた。それは、公園にいたときから分かってたことだ。
「君も嫌だとは思うが、やはりこうなってしまった以上、君を引き取らせてもらうしかない」
「理解してくれないか?」
「ぼくは…」
確かに警察の人にかくまってもらうべきなのは分かっている。
でも、ここで諦めたくない…。
これから中総体で水時と戦って、それ以外にもノエルとも柊君とも…。
それも全部、終わってしまうかもしれない…。
嫌だ…。
「ぼくは…」
嫌です。いつだったか、断ったようにそう言おうと思った。
でも、その時、母さんの悲しそうな顔が目に入ってきて、信士はそれをためらう。
『もし、命が狙われるようなことになったら、今度は永井さんに従って』
これも、いつだったか母さんとの約束。
信士はそのことを思い出し、俯いてしまう。
俯いたままの信士に、母さんは声をかける。
「信士、約束覚えてる?もう、止めて。これ以上は危ないの。だから…」
「だから…これ以上は危ない目に遭わないで…」
泣いてる…。
ぼくの為に泣いてるんだ。
もう、誰にも迷惑をかけたくない。そう思っていたのに、現にみんなを危険な目にあわせてしまっている…。
「…分かりました。お願いします」
もう、中総体までに戻れないかもしれない。それを考えると、涙が出そうになったが、信士はこう言うしかなかった。