第68話-Eagle-
「久し振りだな、お前が集会に来るのは3ヶ月振りぐらいじゃないか?」
ここはどこかの倉庫。
薄暗く、誰も近づかないところだ。
「そうですね」
「早速だが、今回お前を呼んだのは他でもない…」
「ついに、殺る時が来たんですね?」
「あぁ、冬休みだ。それまでに例の物も輸入出来るはずだ。今まで観察ご苦労だった、Eagle…」
「いえ…あんだけ近くにいれば、嫌でも様子が分かりますから。それにしても…学生だけってのは不便ですよね。休みの日しか動けやしない」
Eagleと呼ばれた、少年は軽い笑みを浮かべながら言う。
「お前は俺を馬鹿にしているのか?大人達は信用できない!…何度も言っていることだろ?」
あー、そうだった。まぁ、どっちでもいいさ。
少年はとりあえず「はい」と答える。
まぁ、あんたのやることは面白かったからな、“成宮”さん…。
「全員、集まったか?じゃあ、今回の冬休みに実行する暗殺についての説明をする」
「そもそも、暗殺はもっと早くに行いたかったが、手違いにより夏休みのうちに例の物が届かなかったからだ」
「獲物は運良く、記憶を失っている。警察に守られる前に何としても捕らえるいいな?」
その場にいる全員が頷き、ぞろぞろと出ていく。
その中の1人。いや、鷹谷中の生徒手帳をバッグに持つその少年には、暗殺よりもさらに、その先がすでに見えている。
Eagle…この少年がこれからなにをするかも、この少年が今、笑みを浮かべていることにも、誰も気づいてはいないのだった。
今、季節は12月。秋に行われた県大会は結局、鷹谷中から出たメンバー全員が地方大会へは進めなかった。
そして、この寒さが厳しくなってくる季節、練習メニューは体力的な練習が多い。
しかし、この冬でタイムを伸ばすと張り切る信士はこつこつと練習をこなしていく。
退院してから、2ヶ月。体にはなんの支障もない。
しかし、気になるのは『成宮』という人物。その人物に逆らった?なにをしたというんだろう。
でも、それよりも練習。信士にとって今、それ以上、大事なことはない。
「信士、とばしすぎだ!」
外周の途中、浩太が信士に言う。この外周も夏休みから成長した分、今では15周は走るようになっていた。
「いいんだよ。これぐらいキツくしないと体力は上がらない…」
そんな、ハードな練習をそれからはずっと繰り返してさらに半月。
ついに、運命の冬休みが近づいてくる…。
そんなことも知らず、信士はただ、陸上のことを考えている。
それだけだと思っていたから。これからはただ、中総体にだけすべてをかけようと決めていたから。
そう、この冬休みがおそらく人生でもっとも過酷なときになるなんて、思ってもみなかったから…。