第67話-宣戦布告-
「…うん…誰も気づいてないみたいだったけど…」
「あぁ、あの足捌きは普通のやつには見えないだろうな。それに、あいつわざと見にくいように体を外側に出しただろ」
そんな中でかけられたことに気づいたのか…。さすが、水時だな。
それにしても…。
そんな、能力を持っているのなら、あんなことする必要ないだろうに。
「…それで決勝は、柊君は?」
「ノエルに負けたよ…結構差、ついてた。それに、4分40秒…春のオレと全く同じタイムを楽々走りやがった」
「多分、あれはオレへの宣戦布告だと思う」
「宣戦布告って、なにかあったってこと?」
「まぁな…」
ノエルは水時にも近づいてきた…。あれだけ、酷く「バカ」呼ばわりしておいて…。
ノエル…。危険すぎるライバル…。いや、危険すぎる敵だ。
「それで、お前言わなくていいのかよ?」
「…なにを?」
「なにをって足、かけられたことに決まってんだろ」
確かにちゃんと確かめてもらえば、ノエルの反則行為を証明出来るかもしれない。でも、そうじゃなく実力で。来年…中総体だ。そこで、実力で証明してみせる。
今度こそ、日本人の力を見せつけてやるんだ。
でも、今の力じゃ勝てっこない。だからこそ。
「水時だって、膝に痛みあるのを黙って、走ってたじゃないか」
「?」
「実力で証明してみせるよ。来年の中総体、絶対に勝ってみせる。ノエルにも…水時にも!」
水時は軽く笑みを浮かべ、
「それだけ、聞ければ充分だ」
「?」
「ノエルはオレが潰す。もちろん、お前にも負けない」
「あばよ。次に会うのは、中総体。そのフィールドの上だ」
そう言って、水時は病室を出た。
負けられない。中総体までここからが本当の勝負だ。
それから、詩織に聞いた話では、新人戦の結果は全体では4位。
個人では、哲が400メートルで2位。詩織は100メートル5位。柊が1500で2位。
そして、浩太が800メートルで1位と浩太が800にどれだけ向いているかが良く分かった。
この他に3人、入賞し、このメンバーは県大会へと出れるようだ。
仲間が活躍したことは信士にとってとても嬉しいこと。
でも、やっぱり、自分も県大会に出たかった思いは強い。
しかし、1番の目標は水時に勝つことだと思い直した。
退院は2日後。鈴木先生にやはりいろいろな質問をされたが、信士は「なにを思い出したか忘れました」とだけ言い、鈴木先生は困った顔をしていたが、なんとか退院にこぎつけた。
退院した信士はひたすらに走り込み、自分の力を上げていく。
そして、季節は冬へと近づいていく―。