第66話-目覚め-
「信士、記憶は!?」
「え…?あ、あぁ大丈夫だけど…」
記憶がまた無くなったんじゃないかと思われたのかと思った信士はとっさに答える。
「そうじゃなくて、何か思い出した?ってこと!!」
「えっと……」
言えない。駄目だCrowのことだけは誰にも言えっこない。
言ってしまったら、ぼくだけの問題じゃなくなってしまう。これ以上、迷惑をかけるわけにはいかないんだ。
「いや…なんにも…」
だから、こう答える。
「そっか…」
成宮…。あれが、本当に記憶だったのだとすれば、あの「逆らった」というのは…?
「ところでさ…なんで詩織はここに?新人戦は?」
「新人戦はもう終わったよ。信士は丸1日寝てたの」
丸1日…?そんなに寝てたんだ…。足をひっかっけられて転けただけで…。やっぱりあれは…。
「それにしても、転けちゃうなんて運悪かったよね」
運が悪かった…?あれは、仕掛けられたことだろ?もしかして、あのことに誰も気づいていないのか…。
「あっ、ちょっと待ってて、鈴木先生呼んでくるから」
詩織の背中を見ながら、いろいろなことが頭をよぎる。
ノエルのこと。みんなの大会の結果のこと。そして、あの記憶のこと。
「…はい、………えっ!?は、はい…お願いします」
詩織はケータイを切り、再び信士の方を向き、
「鈴木先生すぐに来るって。それから…水時が来てるって……」
「水時が!?…ってそういやなんで鈴木先生のケータイ番号知ってんの?」
「あぁ、メル友だから。やたら、病院来ることが多かったからね」
「………」
それから、3分後。水時は松葉杖をつきながら、鈴木先生の後ろを歩いてきた。
「気分はどうだい?」
最初に口を開いたのは、鈴木先生。
「普通です」
「そうか…もう、入院する事はないとは思っていなかったが、まさか転んでとはな…」
そう言いながらも、鈴木先生は記憶喪失が関係していることに気づいているようだ。
と、なると詩織ももしかしたら、気づいているのかもしれないと思ったが、「打ち所が悪かったのかな?」という詩織の言葉でその考えはふりほどかれた。
「まぁ、詳しい話はあとで聞くとして、気分も良さそうだしせっかく、水時君が来てるんだ水時君と話でもするといい」
そう言い、鈴木先生は病室を出ていく。
「じゃあ、私も売店でなんか買ってくるね」
詩織も空気を読んでか、病室を出ていく。
詩織が病室を出た後、少し間をおいて、信士が先に喋りだした。
「一体、何の用で来たんだよ?」
「……お前、足、かけられただろ」