第6話-伊達信士-
すぐに、白衣の男は入ってきた。
「もう一度聞くが、本当に何も分からないんだね?」
「はい…」
「君は3日前、どんぐり沼と呼ばれる沼で溺れているところを助けられたんだ」
「それで、この病院に運ばれてきた」
(溺れていた?なんで?)
「そういや君は名前も覚えていないんだったね」
「君は『伊達信士』13歳の中学二年生」
「ここまで何か覚えていることは?」
首を横に振る。
「はっきりした理由は分からないが、君はおそらく記憶喪失だ」
(記憶…喪失‥‥?)
「あ、あの、さっきの人達は?」
「君のお母さんとクラスメイトの詩織ちゃんだよ」
「そうですか…」
「まっとりあえず今日はこれぐらいにして、悪いけど明日からもっと詳しい検査をさせてもらうよ」
「今日は、あと寝た方がいいな」
「あ!そうだ言い忘れてたけどぼくは担当の鈴木」
「じゃあよろしく」
そう言い残し、鈴木先生は病室を出て行った。
病室が静かになる。
(伊達…信士…僕は一体何者なんだろう?)
(何故、沼に?)
何も思い出せないまま考えていると、自然とまぶたが閉じ、
眠りについた。
次の日からは鈴木先生の言う通り、いろんな検査をされ、
MRIや何を覚えていて、何を思い出せないのかもさんざんなぐらいに質問攻めにあった。
物の名前や使い方などは覚えていたが、自分や人のことについては何にも分からなかった。
「う~ん、覚えていないのは、過去の自分に関係がある事だけ、か」
「まぁ地道に思い出すしかないな」
「これからはなるべく多く、過去の君に関係のある人にあってもらう」
「その時に何か思い出せればいいんだけど」
「オレに、関係のある人…ですか?」
「うん、君は学校では陸上部、他には野球をしていたらしいから」
「これからはそうゆう人達に来てもらう」
(人に…会うのか…)
「その人達は…どんな顔をしますかね…」
あの、涙を流す少女の顔が浮かぶ。
「…簡単には、受け止められないかもしれないね‥‥」
「でも、早く記憶を取り戻さないと」
「自分のためにも、その人達のためにも…」