第59話-攻める-
はぁ…はぁ…
浩太、凄いな…。もう、あんな遠くに。
4周目を走り終えたところの信士は柊と並び走っていた。
でも、浩太がいつまでも体力が保つとは思えない。
ここは、耐えるべき。
しかし、半分を過ぎた辺り、柊は急に
「…耐えてばかりじゃ勝てない。攻めなきゃ勝てないんだよ」
そう信士に言い残し、スピードを上げ、信士から離れていった。
『攻めなきゃ』か。
あのびくびくしていた、柊にそんなことを言われるとは。
でも、そのとおりだ。
柊があんなに『攻めて』走ってる。ぼくは、もっと攻めて走らなきゃ勝てない―。
出遅れた伊達。差は2人と随分離れてしまった。残りは2周。
2位じゃ駄目なんだ。1位。ここで勝てないようじゃ、水時に勝つなんて絶対無理だ。
どんな結果になっても仲間。誓ったんだ。
勝つ。勝ちたい!
あ…
この感じ。そうだ…合宿のときと同じ感覚。
信士は離されてしまった差を取り戻すべく、スピードを加速。
残り1周。前方で柊が浩太をついに抜かしたのが見える。
追いつけるか―。
浩太まであと少し。
限界まで、限界までスピードを上げろ―。
浩太を抜かし、あと半周。柊までもあと少し。
信士は全力疾走。ゴールまであと少し。
あと少しなのに…
白線で引かれたゴールライン。
そこで立ち止まっている柊の姿が見えた。
間に、合わなかった…。
信士は落胆を隠せない様子でゴール。
信士の中でいろんなことが崩れていく。
水時とのこと
ノエル・アンソニーと東條君とのこと
悔しくて…情けなくて…涙も出なくて…。
そんな中、九条先生の声が聞こえる。
何か言っているのは分かるが、何を言っているかは分からない。
それほど、信士はどん底にいる。
「ぉぃ…ぉぃ…信…」
「おい!信士!!」
信士はうつろな目をしたまま振り向いた。
「お前は1位だ。このまま長距離を続けていい」
え…………
なにを言っているんだ。
さっき、柊が先にゴールして…。
「柊は2位だ。まぁ、どうゆうつもりか知らないが」
信士は、はっとして柊の方を向いた。
まさか……




