第58話-速攻-
「位置について、よーい…」
パンッ
九条先生の手を叩く音と同時に3人は一斉にスタートした。
秋の新人戦、1500メートルの選手枠を賭けた闘い。
3人共、この闘いにだけは負けるわけにはいかない。
と、いきなり浩太がスピードを出し2人の前に出た。
これでいい…
これでいいんだ。
スピードを上げながら、1人黙々と走り続けた練習を思い出す。
…………………………………………………………………………………………………………「はぁ…はぁ…」
浩太はいつもどおりの道を走っていた。
しかし、駅伝での失敗を踏まえ、体力を残しながらの走り。
ゴールの公園までの最後の直線。
浩太はスピードを上げようとした。が、しかし
あれ?
スピードが上がらない。
体力は確かに残っている。なのに、足が思うように進まない。
結局、そのままゴール。
なぜ、スピードが上がらなかったのか、考えてみる。
なんでだ。
オレの勘違い?
いや、違う。スピードが上がらなかったのは確かだ。
じゃあ、なんで…。
最初からスピードを出して走っていても、体力を残そうとして走ってもダメなんじゃどうしようもないだろ。
そもそも、体力なんて残そうとして走ったことないしな。
信士と柊はどうなんだろう?
いつもなら、普通に聞けるはずなのに。
ん?待てよ。じゃあ、それって、体力残そうとして、走ったことないからなんじゃ。
そうか、慣れないんだ。
と言っても、あと5日。時間は無いしな。
ならやっぱり、自分の走りをするしかねぇや。
前半で決めて、後半を逃げ切る。
それで、走る。いや、それしかない!
1500メートルは学校のトラックを7周半。
いきなり、勝負に出た浩太は2周目にして、2人に差をつけることに成功している。
もっとだ。もっと差、つけないと。
スピードを全開にして、走りつづけた、浩太は遂に4周目も過ぎた辺りで少し、スピードが落ちてきた。
しかし、2人との差は半周近く。
いける。
浩太は逃げ切りの体制に入った。
始まっちゃった…。
3人がスタートラインに入るのを不思議そうに見ている、陸上部員達に紛れて詩織は複雑な心境でその姿を見守っていた。
その3人の走りも4周目を半分以上を過ぎたあたり。
「すげーな、浩太」
「駅伝では、失敗したとか噂あったけど嘘じゃない?」
なんて声があちこちから聞こえてくる。
確かにぱっと見れば浩太の圧勝に見えるかもしれない。でも…
その時、
後ろを走っていた、柊が凄いスピードで追い上げ始めていた。
確かにぱっと見れば浩太の圧勝に見えるかもしれない。でも…
その時、
後ろを走っていた、柊が凄いスピードで追い上げ始めていた。