第55話-戦いの終わり、そして始まり-
「ねぇ、柊君って駅伝のとき凄かったんでしょ!?」
クラスメイトの女子達が昼休み、柊の周りに集まる。
「い、いや…そんなことないょ…」
顔を真っ赤にして、答えている柊。
「柊君、顔真っ赤ぁ~!かわいい~」
はやしたてる女子達。
柊君は顔を真っ赤にしたまま俯いている。
そんな光景とは裏腹にそれを悔しさに満ちた顔で浩太は柊を見つめていた。
駅伝。
あの時の失敗。
浩太は多分これからずっと抱えていくんだろう。
水時みたいに。
でも、あれは浩太だけのせいじゃない。
何度そう言っても浩太の心の中には悔しさは在り続ける。
たった一度の失敗なのに。
「そうだ、圭太」
「ん、なに?」
「今日さ、一緒に帰らない?」
「いいけど…お前、いつも浩太と帰ってたじゃん」
そう、いつもは一緒に帰っていたのだが。
昨日のあのことがあってから、いや、駅伝が終わってから浩太が浩太じゃなくなってしまった。
「そうなんだけどさ…」
「ふーん…」
その後、なにかを感じ取ったのか、圭太はそれについてなにも聞いてこなかった。
面白い…。
俺は今回の駅伝、目標を20位以内と言った。
そして、あいつらは13位と目標を大幅に超えて見せた。
なのにも関わらず、あいつらは誰一人喜ばず、ただ悔しそうにしていたんだ。
毎回毎回なにかあるたびにあいつらはなにかをやらかしてくれる。
でも、今回はどうなるかな?
俺が出した無茶苦茶な難題。
これを乗り越えたやつにだけ勝利は見える。
あとは、誰が落ちるのか。
俺はあとそれを見届けるだけだ。
九条は1日の仕事の資料を片付け、陸上部員の待つ校庭へ出ていったのだった。
「おう、終わった~?」
帰ろうとしたところに、圭太がいた。
どうやら、待っていてくれていたようだ。
「ごめん、遅くなった」
「いいや、別にいいよ」
圭太は不思議な人だ。
野球部である圭太にぼくがシニアを辞めたという知らせが入った時でさえ、「生きていただけで良かった」と言って勧誘はしないでくれていた。
普通なら、活躍していた選手を欲しいと思うはずなのに…。
本当に圭太は友情を大切にする人だと思う。
でも、こんなことを思うのは失礼なのかもしれないけど、
やっぱり…
帰り道は浩太と歩きたい。