第54話-3分の2-
ノエル・アンソニー、
か。
「分かった、秋の新人戦に向けてお互い頑張ろう!」
“うん!!”
「陸上部集合!!」
いつもの、部長に戻った哲の声が響く。
「長距離は外周!」
いつものように走るが、浩太には笑顔がない。
朝の駅伝の報告会でも、「資格がない」って言って発表を避けてたしなぁ。
浩太が前に立ちたくないって言うもんだから、ぼくは記憶喪失で、柊君は来たばかりだから、という理由で結局、哲が結果を報告した。
やっぱり、気にしてるのかな…。
「浩太、伊達、柊、ちょっと来い!」
練習の終わり、3人だけが九条先生に呼ばれた。
「駅伝も終わったばかりだが、後1ヶ月ちょっとで秋の大会だ」
「そこで、種目を考えていかなければならないのだが…」
「1500には2人しか登録する気ない」
2人、だけ……。
「それって……」
「あぁ、1人は別に回ってもらう」
そんな…。
この中から1人が、別になるなんて。
浩太が明らかに動揺した様子で言った。
「1500じゃなくて、800になるってことですよね?」
「あぁ、そうだ。だが、長距離なら、1500で走りたい。そうだろ?」
3人は黙り、おそらく同じことを考えているだろう。
昨日まで、一緒に戦っていた仲間と争うことになるなんて―。
「1ヶ月後、大会の登録期限ギリギリに3人で1500メートル走で競争をして、そこで決める。それでいいな」
よりによって、この2人と…。
3人は全く同じことを考えている。
「それから、信士」
「お前は、記憶をなくす少し前、長距離になりたいと言ったとき、オレとある賭けをした」
賭け…?
信士はもちろん覚えていない。
「オレはあの時、お前に秋の新人戦までに長距離のやつら全員を抜かせ。これを条件にした」
「つまり、お前は1位じゃない限り、短距離に戻ってもらう!」
1位でなければ、短距離…?
そんなバカな。
この勝負、勝たないと全てが無駄になるって言うのか。
……勝たないと。
この瞬間から、3人の間には冷たい何かが入り込むようになった。