第53話-ノエル・アンソニー-
「ニ区、区間2位、伊達信士」
台の上に登る信士。
1位で台に登るはずの水時の姿がない。
やはり、何かあったのか…。
信士は表彰式の間、ずっと浮かない顔をしていた。
「あっ、信士君」
駅伝からの帰り、話しかけてきたのは東條。
「東條君、水時は!?」
とっさに声が出る。
「そのことと…もう一つ話しておきたいことがあるんだ…」
そう言い、東條君は電話番号とメールアドレスが書かれた、紙を渡してきた。
「これ、オレのケータイの番号とメアド。家に帰ったら電話して」
信士は状況が読めず、
「…わ、分かったよ」
そう答える。
「じゃあ、後で」
そう言って東條は走っていく。
信士は、わけもわからずその場に立ち尽くしていた。
プルルルル…プルル…
“はい、もしもし?”
東條君の声が聞こえる、一応かけ間違えてなかったようだ。
「もしもし、東條君?信士です」
“あぁ!信士君、待ってたよ!”
元気よく、東條は言う。
“本題に入るけど、まず、走はオスグットだった…”
オスグット……。
膝を抱えていたのはその痛みだったのか。
水時は今回の駅伝に全てを賭けてたんだ。
“それでさ…秋の新人戦、走はどうやら絶望的らしいんだ……”
「えっ……?」
水時が秋の大会に出れない…。
信士にとって、それを理解するのには時間がかかった。
「そ、そんなに、ひどいんだ…」
“うん…随分、無理して走ってたみたいだからね…”
「………」
“それでさ、もうひとつ話があるんだ”
“夏休み明けから、ノエル・アンソニーっていうやつが、同じ市内の広山中に来たらしい”
“で、これが凄い長距離ランナーらしいんだ”
「でも、そんな人、駅伝にいた?」
確か、見た範囲では外国人はいなかったはず。
“どうやら、まだ体が出来上がってないとか言って、今回はどこかで見学していたらしいよ”
体が出来上がってない?みんな中学生なんだから当たり前のことじゃないか。
“でも、まぁいずれにせよノエルは秋の新人戦には出るはず”
“そこで、走抜きでも、日本人の走りを見せてやろう!”