第50話-優しい言葉-
あと、もう少しだ。
息を切らしながら走る、哲。
限界が近づき、スピードが落ちそうになる。
順位を守っていた、2位も後ろからくる選手達に抜かされそうだ。
俺はここまでだな…。
哲に四区、浩太が見えてきた。
きっと、今日までのこの期間はこれからに生かされる。
無駄じゃなかったはずだ。
「お疲れさん!」
「頼む…」
抜かされる寸前でたすきを浩太に渡し、哲は長距離として最後の走りを終えたのだった。
負けたくねぇ!!
周りの奴ら全員、蹴散らしてやる。
浩太は哲にたすきを渡されると同時に猛烈なスピードを出して走り出していた。
柊も信士も哲も、みんな頑張ってここまで繋いでくれたんだ。
絶対1位をとる。
1年生の竜太と智には、少しの差じゃあキツすぎる。
オレで勝負なんだ。
オレが北星中抜かさなきゃ。
オレが…オレが…
その頃
「栄二」
選手達の為の冷たいスポーツドリンクやタオルを用意していた栄二は、同じ1年生の竜太と智に呼ばれ振り向いた。
「どうした?てゆーか、そろそろ集められんじゃないのか?」
「あ、あぁ…そうなんだけどさ…」
「栄二…オレら頑張るからさ、お前の分まで…」
2人は少し恥ずかしそうに俯く。
「!」
「なに、クサいこと言ってんだよ…」
栄二は溢れ出しそうな涙を堪え、それを隠すためにクーラーボックスを整理するフリをして、2人に背中を向ける。
「だよな…なに言ってんだろ」
「まったくだよ…」
やばい。
涙、出そうだ。
「ほら、そろそろ行かないと遅れるぞ」
「あぁ…そうだな、じゃあ行くよ…」
歩き出す2人。
栄二はなんとか出せた声で、
「頑張れ…」
そう、2人に言った。
聞こえなかったのか返事は無かったが、振り返ってみると、2人の背中が遠くに小さく見える。
みんなと一緒に走りたかったな…。
閉じ込めていたはずの思いが溢れ出す。
あいつらと一緒に…。
『栄二だけをおいてくようなことは絶対にしないよ』
あの日の信士の言葉が心に響く。
「くぅぅ…」
涙がただ、ただ流れ出し、仲間の優しい言葉が心に入ってくる。
良かったんだ…。
これで、良かったんだ。
この場所でみんなを見届ける。
それが、オレの仕事なんだ。
栄二は涙を拭い、荷物を持って仲間の集まる、ゴールへと走り出した。