第49話-懸ける思い-
立ち上がれないでいる水時。
と、すぐに北星中の生徒達が集まり、水時を運んでいく。
一体、何があったのか…。
信士にはわけもわからず、立ち尽くしていた。
まったく…。
とんでもないところに来てしまったな。
スピード勝負の三区を走る哲は必死の走りを続けていた。
あいつ、自分のやったこと分かってんのかよ。
二区から三区へ渡るその時。
信士が哲へたすきを渡したときの順位は2位。
信士はあの二区の中で、それだけの力を出し切ったんだ。
正解だったかもな。
この場所に来て。
あの日、信士と声がかぶってしまったあの時。
あの時、哲は「長距離をさせて下さい」と言おうとした。
でも、やっぱり俺には無理だな。
ここで戦い続けることは俺にはできない。
だからこそ、このあいつらとの最後の走りに全力を尽くす。
最後まで。
他の選手もスピードを上げて走っている。
俺で順位は下げられない。
いや、少しでも北星中に近づく。
哲はギリギリまでスピードを上げた。
「ぐ、ぐぅぅ…」
北星中のテント。
仲間達に運ばれ、水時は膝の痛みにもがきながら痛みを堪えている。
「いつからだ?」
「えぇ?」
「いつから、痛みを堪えてたと聞いているんだ。今に始まったことじゃないんだろ?」
さすがだな…。
「合宿が、終わったあたりからです…」
「病院には行ったのか?」
沢村先生はため息をつきながら言う。
「…行かなくても分かります」
そう言って、履いていたジャージのズボンの裾を膝の上まで上げた。
「……オスグッドか」
水時の膝からは異常な程に骨が飛び出している。
そもそも、競技場や校庭を走るのとは違い、道路のような堅い道を走るのは膝に相当、負担がかかる。
水時はこの駅伝の為に痛みに耐え、走り続けていたのだ。
「まぁ…終わるまで、もってくれて良かったですよ…」
「バカが…」
「もう、誰もお前に文句なんか言えんよ」
「お前は走りきったんだ、後はしばらく安静にしろ」
「はい…」
「区間1位」
「え?」
「お前は区間1位だ」
水時はやっと、少しだけ安堵の顔を浮かべた。
しかし、言うべきか。
まさか、あの小僧が区間2位までくい込んでくるとは。
いずれ分かることとはいえ…。
「信士は…」
「伊達は、どうだったんですか?」
「!」
面白いかもしれない。
天才ランナーと伊達の子供。この2人の決着を観てみたい。
沢村はそんなことを思いながらも、水時に話し始めた。