第48話-ニ区の意地-
苦しい…つらい…。
でも、足は進む。
今、何番目ぐらいだろう。
自分の走りに必死すぎて、他が見えなくなってたからわかんないや。
柊は必死にこの集団についてきている。
そんな、柊の目にゴールラインが見えた。
そして、そこには、
………信士君。
「柊、ラストスパート!!」
あっ…今、初めて呼び捨てで呼んでくれた。
「頑張れ!!」
分かってるよ…。
今、繋ぐから。待ってて。
ここが、僕の居場所なんだ。
ずっと、ここにいたい!
「頼んだ…」
「うん!」
柊は自分の居場所を見つけ、体力を使い切り、地面に倒れ込んだ。
絶対に勝つ!
信士は柊から受け取った、たすきを肩に掛け、集団の中を走っている。
五、六区の一年生には負担をかけられない。
前半で前に出るんだ。
二区の山場である坂に差し掛かったところで信士はスピードを上げた。
エースが集まる二区だけあって、なかなか差は開かせてもらえないが、信士は集団の一番前へ。
坂の後半には、2、3人が集団から離されていっている。
前に…前に…。
前に出ようと、何度も試みるが、なかなか出してもらえない。
そんなとき、ふと沢村先生の話が浮かんだ。
…父さんもこうやって、苦しい走りを走り切ったのかな。
伝説、かぁ。
凄いな、辞めても尚語り継がれているんだ。
ぼくも、造りたいな。
きっと、水時に勝ってぼくもいつか…。
…いつか?
いつかっていつだよ?
今すぐにでも掴みにいくもんだろ!?
一位。
一位を掴むんだ。
ぼく達はこの大会で伝説を造る。
信士はさらにスピードを上げた。
近くの選手達が慌てたようについてくる。
もう、集団は半分ぐらいしかいない。
坂を登り終え、後は平坦な道が長々と続く。
ついて来れた、全員がこの道を最後の力を振り絞り走っている。
負けたくない。
ぼく達はみんなで一位をとるんだ。
信士の視界の中に哲が見えた。
ラストスパート。
もう、水時はとっくに着いたのだろう。
「哲…」
「任せろ」
頼もしい部長の背中を見送り、信士が脇の沿道を見た瞬間、
「え…?」
そこには顔をしかめ、膝を押さえて倒れている水時の姿があった。