第47話-可能性-
駅伝で一位?
そんなのは無理だろう。他の中学校には、三年生がいるんだし…。
スタート地点に向かいながら、柊は思う。
でも、何故かもう、緊張がない。
さっきまで、自分でも分かるぐらいにガチガチだったくせに。
…きっと、何かがあるんだ。あの場所には。
「一区、スタートついて」
無理だって分かってたって、目指したくなる。
パァンッ
スタートの合図と共に50人ほどの中学生達が一斉にスタートする。
だから、繋ぐ。
僕の全力を使い果たして、信士君に繋ぐんだ。
毎日、見に来ていたみんなと一緒に走れる最高の、ずっと立ちたかった場所なんだから―。
「二区、集合!!」
やっときた。
ずっと、動いていた信士には待ち時間は普通より長く感じた。
さすが、二区だけあってみんな三年生と思われる人達ばかりだ。
でも、その中にはやはり、
「水時」
人混みの中に見つけた、ライバルの名を呼んでみる。
しかし、水時は聞こえているのか聞こえていないのか、反応がない。
信士が不思議に思っていると、
「伊達君」
振り返るとそこには、沢村先生がいた。
「こ、こんにちは」
「今、水時に話しかけても無駄だぞ」
「?」
「あいつは試合前、いつもああやって集中力を高めるんだ」
「まぁ、今日は去年の事があるからさらにだかな…」
去年の事…。
例の水時の負けられない理由。
「そういえば、前に父について聞いていましたよね?」
「伊達正信…これが、父の名前だそうです」
沢村先生は少し間を置いた後、答えた。
「昔、わしは高校の教師をしていてな」
「その時、見た長距離選手の中でもずば抜けて速い選手がいた」
「でも、その選手はある日、急に刑事になると言って陸上を辞めた…」
「今は伝説と言われている選手だ」
信士は驚いた。
まさか、父さんも同じ陸上をしていたんだ…。
「一位、北星!!」
もう、一位の選手が来たようだ。
と、信士が道路を見た瞬間、とんでもない光景が飛び込んできた。
柊君…。
なんと、柊は一位の北星中の選手に続く集団の中にいる。
ざっと見ると7番目辺りだろうか。
信士は堪えきれなくなり、道路に出て叫んだ。
「柊、ラストスパート!!」
勢いの余り、呼び捨てで呼んでしまったが、今はそんなことどうでもいい。
「頑張れ!!」
笑ってる…。
柊は柔らかい笑顔で最後のスパートをかけている。
「頼んだ…」
「うん!」
この時、6位。
柊はとんでもない大仕事をやってのけた。
柊の思いを受け取り、信士は哲の待つ、三区へ走り出したのだった。