第45話-目標の価値観-
「おつかれー!!」
今日の練習も終了。
柊君もまだ、ほんの少しぎこちないけどみんなに慣れてきたようだ。
「信士、俊哉、帰ろーぜー」
いつものように、浩太が言う。
「「うん」」
柊君の家は方向は同じだが学校からとても近く、一緒に帰ると言ってもすぐに「じゃあね」と言う距離にある。
この日も柊君とはすぐに別れ、結局、浩太とふたりでの帰り。
「そういや、明日駅伝のメンバー発表だな」
「あぁ…そういやそうだったね」
「信士は誰が補欠になると思う?」
誰が、か…。
おそらく、前に浩太が言っていたように、一年生の竜太、智、栄二の誰かだろう。
この中で言ったら、一番遅いのは…。
「栄二…かな……」
「多分な、オレもそう思う」
「栄二はいいやつなんだけどな~」
「うん…」
信士は帰ると、すぐに家を出ていった。
なんだか、この頃は走っていないと落ち着かなくてしょうがない。
いつもの道を少しスピードを上げて走っていると、
ちょうど栄二に出くわした。
「あ、伊達先輩、ランニングですか?」
「うん、まぁそんなとこ、そっちこそランニングだろ?」
「はい、まぁ…」
栄二は、はにかみながら言う。
「そうだ、先輩、一緒に走ってもいいですか?」
「うん、かまわないよ」
信士は「先輩」と言われるのがなんだか、歯がゆかったが、ちょっと嬉しかったりもしながら走っている。
「ふぅ~終わりー」
信士が足を止めると、栄二も同じ様に足を止め、電柱に寄りかかりながら息を切らしている。
息を整えていると、栄二がいきなり話しかけてきた。
「先輩、やっぱりオレ多分、補欠ですよね…」
信士は答えに戸惑ったが正直に、
「……かもしれないね」
そう答えることを選んだ。
「ですよね、すいません変なこと聞いて」
「いいや…」と答えながらも信士の中では心がズキズキと痛んでいる。
「そういや、伊達先輩はどうして急に野球まで辞めて長距離選手になったんですか?」
「あぁ…『ライバル』に勝つためだよ」
「ライバルって…?」
「北星中の水時 走」
「えぇー!あのですか!?」
栄二は随分、びっくりした様子だったが話を続ける。
「先輩は凄いですね…そんな、格上の人にすら挑む勇気があって…」
「オレなんか、外周でもついてくのがやっとで目標なんか低くて、でもそれすら出来なくて…」
栄二は涙目になりながら自分のことを打ち明けている。
「目標なんて、なんだっていいんだよ」
「それを達成するまで何回だって頑張ればいい…」
「明日、なんて言われようと、ぼくらは駅伝部のメンバーだ」
「栄二だけをおいてくようなことは絶対にしないよ」
栄二は、
「はい…」
そう答えながら、大粒の涙をただ、ただ流していた。